sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

小説

オネスト・ジョン(5)・・・R3.1.4①

第2章 その1 藤沢慎二が曙養護学校に来て先ず驚いたことは、朝の雑巾掛けである。 幅2間ぐらいある広い廊下に2、3人の生徒が横一列に並んでお尻を高く突き出し、担任の教員の掛け声と共に一斉に、勢いよく拭き始める。それが彼方此方のクラスで行われて…

オネスト・ジョン(4)・・・R3.1.2②

第1章 その2 最寄りの東曙駅を出て、曙養護学校の近くまでやって来た時、藤沢慎二はどうも話が違うような気がし始めた。 『あの時、校長が、養護学校の内で希望は何処かと言うので、知的障がいだけは検討が付かないから無理やと思う、そやからそれ以外にし…

オネスト・ジョン(3)・・・R3.1.2①

第1章 その1 藤沢慎二が曙養護学校に異動して来ることになったのは、本人の発言からも想像されるように、本当に適当な理由からであった。 来る前の年の秋、そろそろ異動希望を出す時期のことである。まだ前任校の秋川高校から山鉾高校に来て2年目の慎二は…

オネスト・ジョン(2)・・・R3.1.1②

序章(その2) 保護者懇談会が何とか終わったその日の放課後、2人切りになった教室で相担(同じクラスの担任)の若杉美也子が何やら怒っている。 藤沢慎二は時間も経っていることだし、まさか自分に対してまだ怒っているとは夢にも思わなかった。 「若杉先…

オネスト・ジョン(1)・・・R3.1.1①

オネスト・ジョン 相模宗太郎 親愛なる母にこの話を捧ぐ 正直者には福来る 昔からそう言うでしょう お母さん なのにどうして僕には まだ福が来ないの こんなに正直に生きて来たのに 僕がこんなにも寂しいのは どうしてなのか さっぱり分からない 教えてお母…

学君の恋(3)・・・R2.11.13③

その3 廊下で美樹ちゃんと話を弾ませた後、1階にある売店で幼児用漫画雑誌、お菓子、飲み物、レトルト食品等を両手いっぱいに買い込んだ広瀬学君が病室に戻って来ると、訪問担当の藤沢慎二先生が、何時も以上に上気した顔で学君の母親の朋美さんと恥ずかし…

学君の恋(2)・・・R2.11.12①

その2 松村美樹ちゃんは広瀬学君が廊下で近寄って来た時、その様子から、何だか普通の子ではないなあ、とは思っていましたが、少しも抵抗は覚えず、むしろ落ち着くものを感じていました。 小学校の6年間、そして中学校の2年半の間、いわゆる普通の子らの…

学君の恋・・・R2.11.5③

その1 あんなに厳しかった残暑も漸く収まったかと思う間もなく、朝夕めっきり冷え込むようになり、街路樹も少しずつ色付き始めました。 やがてその葉を1枚、また1枚と落とし、歩道を埋め尽くす日も近いことでしょう。 秋は広瀬学君の退屈な病院生活に寂し…

或る秋の日の独り言? ・・・R2.11.5①

もう30年以上も前の或る秋の日の午後、藤沢慎二は南向きの部屋の大きな窓から沈み行く夕日を眺め、感傷を楽しんでいた。 『嗚呼秋やなあ。俺はまだ独り・・・。何や寂しいもんやなあ。フフッ』 声には出していないはずであったが、気持ちが感じられたのか? …

海王星からの使者!? ・・・R2.10.31①

その1 今から暫らく先のこと、望遠鏡の技術が大分進み、50億kmぐらい向こうのものであれば、人間の顔ぐらいの大きさのものでもはっきりと、手に取れそうなほどに見えるようになっていました。 太陽から海王星までの距離が45億kmぐらいで、地球と太…

秋の風・・・R2.10.14②

一和古読、勿論筆名である。人は元々孤独なものである、と強がりではなく、半ば以上本気で信じている。そう思いたがっていた。 古読老人はそんな風に気取ったまま年を重ね、家族にまで愛想を尽かされるのが怖くて、自分から逃げた。 『考えてみれば気ままな…

生まれ変われるものなら・・・R2.10.13②

一部の動物に付いて、産まれて最初に目にしたものを親だと思い込み、その後を付いて行くと言うことはよく耳にすることである。 それとよく似たこととして、死ぬ間際に見たり、聞いたりしたことがその後の人生?(いや、霊性か?)に関係することも、知ってい…

ニートパソコン・・・R2.10.13①

斎藤良治はこの頃突然のように暇な時間が出来、また文学付いている所為か? 年甲斐もなく素敵な出会い、すなわち恋に憧れ、甘い物語ばかり書いていた。また何かの参考にでもしようと思って韓国ドラマのラブコメばかり視ていた。 しかし、現実は中々厳しく、…

トンネルを抜けて(18)・・・R2.8.28①

終章 結婚式、披露宴、新婚旅行等のキャンセルは大体上手く行ったが、家の方はもう頭金を払い込み、棟上も終わっていたのでどうにもならなかった。 権利に煩い安永真衣子は、藤沢慎二ひとりだけに負わせるのは悪いと思ったのか? 弁護士に相談することを進め…

トンネルを抜けて(17)・・・R2.8.27①

第6章 その3 2日後に2学期の始業式を控えて、藤沢慎二は強い焦りと緊張を覚えながら近所の本屋を覘いていた。飛び切りの不精者にしては珍しく、何か直ぐに使えそうな教材はないか? と探しに来たのである。 自分が小学校の低学年だった頃のことを何とか…

トンネルを抜けて(16)・・・R2.8.24②

第6章 その2 藤沢慎二は、山鉾高校の先輩、仲人を頼んだ黒田清吾の家で何を話したか、何を聞かれたか、殆んど覚えていない。電車の中で婚約者の安永真衣子に責められたことが頭を占め、ただ約束の時間を何とか遣り過ごしただけであった。 「色々あって疲れ…

トンネルを抜けて(15)・・・R2.8.23①

第6章 その1 教師と言う稼業は貧乏性なもので、8月も半ばを過ぎるとそろそろ2学期の授業、行事等のことが気になり出し、ジッとしていても中々落ち着けなくなるものである。 しかしこの年の藤沢慎二には、それだけではなく、もうひとつ気の重いことがあっ…

トンネルを抜けて(14)・・・R2.8.22①

第5章 その6 《この人、私を見てこんなに戸惑っている・・・。あの人がこんな風に戸惑ってくれたのは一体何時までぐらいだったかしら・・・》 広瀬学の母親、朋美は自分を近くに感じてあまりにオロオロする藤沢慎二のことが可笑しく、また懐かしいような気分にな…

トンネルを抜けて(13)・・・R2.8.20①

第5章 その5 次の日の朝、広瀬学の母親である朋美はJR大阪駅中央コンコースの噴水前で藤沢慎二を待っていた。 昨夜、武生駅より電話を貰ってから連絡網のプリントを取り出し、先ず担任の1人、もし一緒に行くことになったら一番抵抗がなさそうなベテラン…

トンネルを抜けて(12)・・・R2.8.19①

第5章 その3 「それで僕、何処から来たんやぁ~? 言えるかぁ~?」 「・・・・・・」 武生の駅舎に導いた後、山根明人が優しく聞いてみても、自閉傾向が強い広瀬学は固まってしまって何も言わない。いや、何も言えない(※1)。 「どうしたんや。おっちゃ…

トンネルを抜けて(11)・・・R2.8.18①

第5章 その1 夏休みになると毎日のように、広瀬学は朝起きて直ぐ自転車にまたがり、彼方此方のガソリンスタンドを見て回り出した。 次々と入って来る車、ホースによってエネルギーを注入され、また元気になって出て行く車、その流れ、関わる人のきびきびと…

トンネルを抜けて(10)・・・R2.8.17②

第4章 その3 少なくとも、結婚を前にした不安に揺れる安永真衣子を優しく包むだけの度量は、藤沢慎二にはなかったようである。 それどころか、ことが難しくなり、そんな時に限って慎二が頼りにならないと感じるのか? 感情的になって乱れ出す真衣子のこと…

トンネルを抜けて(9)・・・R2.8.17①

第4章 その2 結婚式、披露宴の打ち合わせと言うのも、藤沢慎二のような不粋でおまけに不器用な男にとっては中々大変なものである(※1)。 先ず親族、友だち、同僚、上司等、誰を何人ずつ呼ぶか? これを決めるだけでもすんなりとは行かない。そんなものは…

トンネルを抜けて(8)・・・R2.8.16①

第4章 その1 6月も中旬を過ぎたある日曜日、漸く結婚した後に住む為の家を決め、藤沢慎二と安永真衣子は仲介した不動産業者の事務所まで契約に出掛けた。 色々と案内され、大分迷わされた末に、結局、真衣子が最初に新聞広告によって紹介した、斜面下にこ…

トンネルを抜けて(7)・・・R2.8.15②

第3章 その5 「ただ今より学年会(※1)を行ないます。先ずは学級報告から行きましょうか!? それから参観の方で何かありましたら、それもお願いします。それでは1組からお願いします」 学年主任の秋山本純が口火を切った。 1、2組の報告が簡単に終わ…

至福のお庭!?・・・R2.8.15①

今週のお題「怖い話」 花にも心があり、好意を示せば好意を返してくれると言います。少なくとも晶子さんはそう信じていました。 「薔薇さん、薔薇さん、ご機嫌いかが? 今日も綺麗に咲いてね!」 毎朝、前日から何か変化が無いか? 愛情を込めて見詰めながら…

トンネルを抜けて(6)・・・R2.8.14①

第3章 その4 5月の授業参観日でのこと、上条達也の授業への参加し方が少し問題になった。 と言っても、参観を想定して準備していた科目ではなく、その直ぐ後の時間の家庭科でのことであった。 その日の課題は細長い布に教師が手を添えながら一緒にアイロ…

トンネルを抜けて(5)・・・R2.8.13①

第3章 その1 《響子はついこの前結婚したところで、心身共に十分に満たされているはずやのに、何で未だ俺のことをそんなにもの欲しそうな目で見詰めて来るんやろう!? 結婚した時はほんまに残念やったけど、これで漸く響子のあの濡れて大きな目に悩まされ…

トンネルを抜けて(4)・・・R2.8.12①

第2章 その3 次の日曜日、藤沢慎二は婚約者の安永真衣子と一緒に彼女の住む町、生駒方面の一戸建て住宅を見て回ることにした。 前の週、真衣子に見せて貰った新聞広告でマークしていた物件を含めて幾つかの新築および中古の土地付き一戸建て住宅を地元の不…

トンネルを抜けて(3)・・・R2.8.11①

第2章 その1 4月も半ばを過ぎたある日曜日、藤沢慎二は安永真衣子を再び神戸に誘ってみることにした。 真衣子との間は一時暗礁に乗り上げた形であったが、その原因のひとつであった赤坂響子改め本山響子が結婚してしまったので、慎二はもう一度本腰を入れ…