sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

学君の恋(3)・・・R2.11.13③

              その3

 

 廊下で美樹ちゃんと話を弾ませた後、1階にある売店で幼児用漫画雑誌、お菓子、飲み物、レトルト食品等を両手いっぱいに買い込んだ広瀬学君が病室に戻って来ると、訪問担当の藤沢慎二先生が、何時も以上に上気した顔で学君の母親の朋美さんと恥ずかしそうに話していました。

 何だかよく分からないながらも微妙な雰囲気を感じ、学君は音を立てないように荷物を置き、大人しくベッドに入ることにしました。

 どうやら2人共話に夢中で、学君が返って来たことにも気付かないようです。

「・・・。でも先生も隅に置けないわ! あんな可愛い方とそんなに直ぐにお近付きになるなんて・・・。私はてっきり、先生は若い独身女性がもっと苦手で、話なんかとても出来ないから、仕方が無くその年まで独り身で・・・。あらっ!? そんな失礼なことまで言ってしまってごめんなさい! 先生ったら、またそんなにまともに受け取って、本当に真面目なんだから・・・」

 言っている間に藤沢先生が益々俯いてしまったので、朋美さんはすっかり戸惑ってしまったようです。

「いえ、いいんです。それ、全部本当のことですから・・・」

「あらあら、どうしましょう!?」

 救いを求めて目を泳がせていますと、漸く、既にベッドに戻っていた学君のことに気付きました。

「あら、学!? 学も学で隅に置けないわぁ~。あんな可愛い子と直ぐに仲よくなるんだから・・・。松村美樹ちゃんと言ったかしら、あの子? 藤沢先生から聴いたわよ! ホホホ」

 どうやら朋美さんはさっき学君が美樹ちゃんと話していたことを藤沢先生から聴いていたようです。

「そうです。松村美樹ちゃんと言います。朋美よりずっと、ずっと可愛いのです。僕、美樹ちゃん、守ります。僕、ドラえもん好きだから、強いのです」

「もぉーっ、この子ったら。ホホホ。顔を真っ赤にしちゃって・・・。今の先生と同じですね!? ホホホホ。何時までも子どもだとばかり思っていたら、やっぱり思春期なんですね。ホホホホホ」

 朋美さんはさも可笑しそうに笑って見せながら、実はその大きく見開かれた目が少しも笑っていませんでした。

 どうやら息子の学君が恋に目覚めたらしいことに、母として嬉しいような、女性として妬けるような、ちょっぴり複雑な思いを抱いたようです。

 それに、少し年下で独身の藤沢先生がどうやら恋に落ちたらしいのも気になって仕方がありません。

『野暮ったくてシャイだから、とても持てないだろうけど、自分だけは彼の魅力、優しさに気付き、お姉さんのつもりで気に掛けていたのに、その彼が恋に陥るなんて・・・』

 と変に腹が立って来たのです。

 もしかしたら朋美さんは、何となく寂しかったのかも知れません。

 ご主人が一流企業のいわゆる企業戦士で、一緒に過ごせる時間が極端に少なく、満たされない気持ちを息子の学君に掛けて来ましたが、その学君が重い病気になってしまいました。

 その結果出来た心の隙間を、藤沢先生を気に掛けることで折角埋められたと思い始めた矢先、今度は学君だけではなく、藤沢先生まで奪われそうな不安に襲われてしまった・・・。

 そんなところでしょうか!?