sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

小説

台風一過(おわりに)・・・R4.7.11①

おわりに 藤沢浩太の通う奈良県立でも困難校と言われがちな西王寺高校では2学期になると行事が目白押しになる。9月の末に先ず体育大会が行われた。 出席率が7割と、あまりよくはないが、この時期既に長欠者もかなり多く、普段の出席率が8割ぐらいになっ…

台風一過(エピソード45)・・・R4.7.10②

エピソード45 ここ数年、暮れが近付くとNHKの大河ドラマが早めに終わり、まるで長編映画のようにお金と手間暇をかけ、持てる技術と力を込めて丹念に作られた超大作ドラマ、「坂の上の雲」(※1)が始まる。近代化が進む我が国の黎明期を活き活きと描く…

台風一過(エピソード44)・・・R4.7.9②

エピソード44 この世には人間にとって何の力を借りようがどうしようもないこと、だから現実的にはどうしようもないことが幾つかある。本当はもっと沢山あるのかも知れないが、認識出来ていないことはないのと同じと考えてよいであろう。 さて、どうしよう…

台風一過(エピソード43)・・・R4.7.8②

エピソード43 子どもは大人の背中を見て育つと昔から言われるように、子どもはそれぞれの地域、家庭等、周りに居る人の影響を受けながら育つ。その結果、多少見る目が不完全であったり、再現性が悪かったりして歪な出力であったとしても、当然、似たような…

台風一過(エピソード42)・・・R4.7.7③

エピソード42 目の前を脚の綺麗なお姉さんが通り過ぎれば、普通の男なら数メートルぐらいは目で追ってしまうものである。 それに伴い、暫らくの間は胸の中がざわざわと波立つ。初めは大きく、やがては小さく、その内にさざ波にはなるが、中々消えないのが…

台風一過(エピソード41)・・・R4.7.4②

エピソード41 奈良県立西王寺高等学校弓道部の顧問を務めて来た安曇昌江が競技生活を充実させる為に、弓道部を初めクラブ活動全般に亘って盛んな中堅進学校の私立法隆寺学園高等学校に移ると言う噂が立ち始めたのは小正月(※1)も明けて、漸く冬休み気分…

台風一過(エピソード40)・・・R4.7.3②

エピソード40 以前にも書いたように、言葉と矢には共通点が多い。たとえば放った言葉と矢は決して戻らないということもそのひとつで、昔から我が国では、沈黙は金という言葉で、無駄口、安易な発言等の愚かさを指摘している。また覆水盆に返らずという言葉…

台風一過(エピソード39)・・・R4.7.2③

エピソード39 藤沢浩太の父親、慎二は元々普通高校の教師であり、教員免許も一旦社会人になってから取得したのもあって高校理科の2級(今はそれを1種と読み替えるようになっている)しか持っていない(※1)。 ちょっとしたきっかけで北河内にある曙養護…

台風一過(エピソード38)・・・R4.6.30①

エピソード38 奈良県立西王寺高等学校の理科教師、沼沢幸作は地学が専門で、暇さえあればのんびりと地質調査を楽しんでいる内に39歳になったが、独身であったばかりではなく、実はまだ童貞であった。生真面目で人馴れしていないので、社会教師の生田省吾…

台風一過(エピソード37)・・・R4.6.29①

エピソード37 里崎真由のところはごく普通のサラリーマン家庭である。もう直ぐ45歳になる父親の明は地方銀行にせよ、ともかく平成大不況(※1)真っ只中の今となっては憧れの銀行マンで、おまけに課長であるから、収入はそこそこ好い方である。 バブルが…

台風一過(エピソード36)・・・R4.6.26④

エピソード36 弓道は近代までは弓術と言われ、歴史を辿れば有史以前まで遡れる。 当然、普段使いの書き言葉がない世界であるから、勿論、言葉での記録は残っているはずもなく、絵や化石、それから攻撃を受けて傷付けられた側の骨に残る痕跡等から推察され…

台風一過(エピソード35)・・・R4.6.23①

エピソード35 藤沢慎二は今、それなりに長くなった教師生活を振り返り、不思議な気持ちになっていた。一昨年より以前はそうでもなかったのだが、昨年辺りからこんなことがよく、とまでは言わないまでも、まあまああった。 何が不思議かと言うと、昨年の時…

台風一過(エピソード34)・・・R4.6.22③

エピソード34 奈良県立西王寺高等学校の社会科教師、生田省吾はこの冬で35歳になる。まだ結婚はしていないが、この頃のご時世からすれば、そんなに遅いわけではない(※1)。 ただ、ひと山越えるだけなのに大阪府に比べてグッと田舎っぽくなる奈良県(こ…

台風一過(エピソード33)・・・R4.6.16①

エピソード33 秋もたけなわの10月初旬、台風12号、15号によって大きな被害を被った十津川(※1)の復旧も一息吐いたある日、藤沢浩太は例の山登りに何人かを誘ってみることにした。独り歩きは相変わらず好きであったが、偶には自然への感動を気の合…

台風一過(エピソード32)・・・R4.6.15①

エピソード32 性のエネルギーの出方に差がある2組の例について、ちょっと熱っぽく語ってしまった。1組は筆者にも通じ、親近感が湧く晩生な例として。そしてもう1組は全く対極にある為、羨望の対象になる早生な例として。 共通しているのは2組とも性的…

台風一過(エピソード31)・・・R4.6.10①

エピソード31 前章で、お互いに大事に思い合っている弓道部員の藤沢浩太と弓道部顧問の安曇昌江が食事を共にする以上の関係を決して急ごうとはしない、という風なことを書いたが、取りようによっては純潔を重視する姿勢こそ男女関係の正しい在り様、と強調…

台風一過(エピソード30)・・・R4.6.9①

エピソード30 弓道は元々武術の中のひとつである。その戦う、或いは闘う為の方法・技術、および道具である弓矢に、所作、精神、空気と言ったものが加わり、更にそれらが渾然一体となって長い年月の間に昇華した結果、弓道となった。 生物は生きる為に闘っ…

台風一過(エピソード29)・・・R4.6.2①

エピソード29 秋の馬見丘陵公園(※1)、竹取公園(※2)の辺りは風が甘やかで、気候、気温ともに申し分なく、奈良方面だけではなく、大阪方面からも多くの家族連れが訪れる。ほど近くに日帰りの温泉施設、虹の湯もあり、観光地と言えなくもない。 しかし…

台風一過(エピソード28)・・・R4.5.26④

エピソード28 「ふっ・・・」 ピシューッ 「ふぅー」 矢は真ん中からかなり逸れていた。 「また駄目だわ・・・」 安曇昌江は自分一人が駄目になったようで、落ち着かなかった。 「ふっ・・・」 ピシューッ 「ふぅー、また駄目・・・」 かれこれもう2時間ぐらいは繰り…

台風一過(エピソード27)・・・R4.5.25②

エピソード27 夏が去り一つ飛ばしで秋が来る 諦め切れぬ心のままに 藤沢慎二はそろそろ表舞台から退き、息子の浩太が主人公になろうとしているのに、いまだ諦め切れぬ心を抱えたまま、人生の旅路で彷徨っていた。 こんな風に切り出せば臭い言葉の羅列にな…

台風一過(エピソード26)・・・R4.5.20①

エピソード26 生駒山のてっ辺から宙(そら)に向かって矢を放てば、何処までも飛んで行きそうな気がする。大阪方面に放てば、あの霞んだ南の高層ビル街(※1)も飛び越えて、大阪湾まで届くのだろうか? 奈良方面ならどうなんだろう? 三笠山(※2)のてっ…

台風一過(エピソード25)・・・R4.5.19①

エピソード25 「母ちゃん、お握り2つほど作ってぇ~。それに水筒にお茶入れといてなぁ~」 藤沢浩太はテレビのBS放送で910に合わせ、ウェザーニュースで生駒地方の今日の天気が晴れたり曇ったりであることを確認して、予定していた通り、生駒山を超…

台風一過(エピソード24)・・・R4.5.18③

エピソード24 尾沢俊介は時々父親の良治のことが分からなくなる。と言うか、原因はずっと前に若い男と手に手を取って逃げた母親の芙美子にあると思っているが、なぜそれが今でも変わらぬ強さで迫って来るのか? それが理解出来ないし、理解したくもなかっ…

台風一過(エピソード23)・・・R4.5.12①

エピソード23 朝夕漸く涼しくなって秋の気配が感じられるようになった或る日曜日のこと、藤沢浩太は奈良公園をふらふら歩いていた。南生駒にある自宅から矢田丘陵を横断して奈良盆地に入る国道308号線(旧暗がり街道)を通れば、30分ほどで大和郡山ま…

台風一過(エピソード22)・・・R4.5.11①

エピソード22 夏休み明けの或る日のこと、定期テスト前でもないのに、藤沢浩太が自室で珍しく机に向かって座っている。どうやら中学生の時に躓いた英語に不安があるらしい。 2年生では文系・理系進学、就職等の、将来を見据えたコースに分かれるそうで、…

台風一過(エピソード21)・・・R4.5.10③

エピソード21 地元の南生中学校に上がってすぐに藤沢浩太は、親友の尾沢俊介の誘いで、大して考えもせずにサッカー部に入った。 小学校5年生の後半、引きこもったことがきっかけとなって、浩太は小太りで鈍重そうになり、6年生の間に背はかなり伸びたが…

台風一過(エピソード20)・・・R4.5.9②

エピソード20 以前に父親の藤沢慎二が書いたショート、ショート、「金の顔、銀の顔」を読み、慎二のことを少し見直し始めていた浩太は、その後もあの怪しげな話を時々思い出していた。その影響もあってか、「金の矢、銀の矢」みたいな夢を見たぐらいである…

台風一過(エピソード19)・・・R4.5.8①

エピソード19 桂木彩乃と西木優真の出会いは、大和郡山城内にある弓道場で行われた夏季弓道大会であった。 優真は浩太の影響を受けて武道に興味を持ち始め、高校受験の時よりもきつくなりそうな受験勉強を乗り切るべく、集中力強化の意味もあって私立西大…

台風一過(エピソード18)・・・R4.5.5①

エピソード18 人生には異性から、とは限らないが、ともかく持てる時期が誰にでも3回は来るらしい。今はそれを洒落て、「モテキ」と呼んでいる。 「ふぅ~ん、モテキと言うのかぁ~? 俺のモテキは何時来るのかなあ!? ひょっとしたら、もう終わっていた…

台風一過(エピソード17)・・・R4.5.4④

エピソード17 「これで台風二過か・・・。それにしても、今年はよく来るなあ~」 藤沢浩太は遠くで雲が切れ、青みさえ見えて来た空を、ちょっと恨めし気に見上げた。 そのとき、Karaの新曲、STEPに設定しておいたメールの着信音が鳴り出した。 ♪♪♪♪♪…