sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

小説

台風一過(エピソード16)・・・R4.5.3③

エピソード16 山を見上げると、白い綿帽子のような雲が見える。雲の懸かっている辺りまで山を登れば、それは霧になるだろう。空高く上がって山を見下ろせば、それは祭りの日に子どもの手から滑り落ちた綿菓子? それとも、また雲と呼ぶだけのことか? いず…

台風一過(エピソード15)・・・R4.4.28③

エピソード15 人生において努力することなんて大した意味はない。何をしても、何もしなくても、どうせ死ぬのだから・・・。 半ば本気でそう思っている女子、柿本芳江が藤沢浩太のクラスにいた。 思春期にはありがちなことで、本当はそう思いたくないが、結果…

台風一過(エピソード14)・・・R4.4.21①

エピソード14 この頃、藤沢浩太の夢の中に、キューピッドが弓に矢を番え、中々放てないパターンが加わった。 弓矢は大昔から多くの文明の中で用いられ、単に武器と言うだけではなく、心を操るアイテムとしても発達して来た。たとえば西欧における愛のキュ…

台風一過(エピソード13)・・・R4.4.20②

エピソード13 藤沢浩太は全くと言ってよいほど本を読まない方であったが、引き籠り出して暫らくし、退屈してNHKの大河ドラマや韓国時代劇に興味を持ち出してからは、原作本や関連する時代の歴史書だけは読むようになった。 偏りはあったにせよ、やがて…

台風一過(エピソード12)・・・R4.4.18③

エピソード12 藤沢浩太にとって西木優真は勉強を教わることだけではなく、人生の目的・目標を考える等、人生の正の面においても大恩人であり、雲の上の人であったが、スポーツでは長距離において接点(※1)があった。 ただ浩太は、得意な長距離においても…

台風一過(エピソード11)・・・R4.4.13④

エピソード11 思春期を前にした男の子は一般的に、本当の父親に飽き足りないとき、外に理想の父親を求めるものだと言う。 そして現実の父親であるが、家庭においては気を緩め、テレビに齧り付いていたり、ゲームや酒で憂さを晴らしていたりして、まあ、あ…

台風一過(エピソード10)・・・R4.4.6②

エピソード10 初めてのときほどではないが、西木優真の家は何時見ても豪壮さに感心させられた。庶民の藤沢浩太が知らない、中堅にせよ、地道な企業の創業者を祖父に持つだけのことはある。 その祖父、久作は既に現役を引退して久しく、隣に更に一回り大き…

台風一過(エピソード9)・・・R4.4.5②

エピソード9 先ず自分が韓国ドラマにはまり、やがて息子の浩太に強い影響を与えた頃の藤沢慎二は、父親としては頼りない面が多々あったにせよ、浩太にとっては想像を絶する大きな存在であった。 苛めが原因で引きこもる前、勉強がぼちぼち分かり難くなって…

台風一過(エピソード8)・・・R4.3.31①

エピソード8 小学5年生の秋、クラスメイトからの苛めの真っただ中にあった或る日、藤沢浩太は朝、学校を出ようとすると、こみ上げて来るものがあり、トイレに駆け込んだ。 体中出てしまいそうな程の不安に襲われ、しばらくはトイレから出られなかった。 こ…

台風一過(エピソード7)・・・R4.3.30③

エピソード7 「うわぁー!」 ぐっすり寝ているように見えた藤沢浩太はいきなり叫び、汗びっしょりになって飛び起きた。以前に比べると大分減ったが、それでも月に何回かはある。決まって嫌な思いが残り、起きてもしばらくは頭がはっきりしない。 「健太の奴…

台風一過(エピソード6)・・・R4.3.28②

エピソード6 ここまでだけを読むと、奈良県立西王寺高等学校の弓道部の部員には女子なんかいないように思われるかも知れないが、そんなことはない。むしろ女子の方が多いぐらいであった。 これは何も西王寺高校に限ったことではなく、奈良県内の高等学校全…

台風一過(エピソード5)・・・R4.3.27③

エピソード5 安曇昌江は自分の心の動きが見えず、少なからず戸惑っていた。 と言うか、本当は見えているのだが、昌江の常識と度量では受け入れ難いことなので、どうしたものか、身動きが取れずにいたのである。 「彼とは年が違う・・・」 「と言っても9つ。今…

台風一過(エピソード4)・・・R4.3.24①

エピソード4 9年前、安曇昌江が奈良県立飛鳥京高等学校に入学した頃、当時飛鳥京高校に勤務していた左近寺周平は40代半ばの男盛り、苦み走った男振りで、弓道の方でもまだまだ現役であったから、はっきり言って、初心(うぶ)で生真面目な昌江はただの新…

台風一過(エピソード3)・・・R4.3.23②

エピソード3 「ふっ・・・」 ピシュッー 放たれた矢が決まったように的の中心に向かって飛んで行く。 無限にも思える緊張の瞬間。全身の筋肉が隈なく張りつめ、かえって自然に感じられる。憧れの弓道部顧問、安曇昌江とこの時空を共有しているだけで、たとえそ…

台風一過(エピソード2)・・・R4.3.22②

エピソード2 奈良県立西王寺高校における弓道部顧問としての安曇昌江は一介の若手教師に過ぎなかったが、実は現在、弓道において輝かしい経歴および地位の持ち主でもあった。 大学時代、近畿の学生弓道界ではかなり好いところまで行き、今では全日本でもト…

台風一過(エピソード1)・・・R4.3.21②

エピソード1 通り過ぎる気がないのか、至極ゆったりとした台風である。空を見上げても、重苦しそうに垂れ込めるどす黒い雲の塊が、まるで台風であることを忘れたかのように、週末から少しも動こうとはしない。その所為で台風による休校が土日を挟んで続いて…

台風一過(はじめに)・・・R4.3.19②

台風一過 相模宗太郎 はじめに 《嗚呼やっと書けた・・・》 退職を前にした教師、藤沢慎二は或る日のこと、何年かぶりに書き始めた小説を漸く書き終え、ホッとしていた。 と言っても特に変わったテーマの作品ではない。 十年一日の如く、自分をテーマにしたもの…

明けない夜はない?(エピローグ)・・・R4.3.16②

エピローグ 何処にでも春は訪れ、その陽光は優しくもあり、厳しくもある。ここ大阪府の北河内地域にも春は訪れ、努力して来たそれぞれにはそれぞれなりの陽光が降り注いだようである。 青木健吾の場合は、愛知県の教員採用試験に合格し、正規教員、すなわち…

明けない夜はない?(エピソードその21)・・・R4.3.15①

エピソードその21 学区でトップの公立進学校である大阪府立北河内高等学校においては多くを占める大学の一般入試を目指す受験生にとって、勝負の夏の成果が秋に出て、その後はあまり状況が見えない冬を迎える。 学年末試験を兼ねる2学期末の試験(※1)が…

明けない夜はない?(エピソードその20)・・・R4.3.10①

エピソードその20 9月になると受験生にとっての勝負の夏が終わり、大阪府の東部にある北河内も秋へと向かっていた。なだらかで標高300mにも満たない低い山ではあるが、北河内の象徴とも言える御椀山もそろそろ秋めいて来る。その麓にある北河内神社を…

明けない夜はない?(エピソードその19)・・・R4.3.9②

エピソードその19 結構残暑がきつい大阪でも、8月の半ばを過ぎると流石に朝夕幾分過ごし易くなる。 もっともそれはピークに比べればと言うことで、動き回れば昼間はまだ十分に暑かった。 そんな中を青木健吾は、今週は居住地の大阪府、来週は伯母の住む愛…

明けない夜はない?(エピソードその18)・・・R4.3.2②

エピソードその18 青木健吾にとっては子どもの頃から何度も来ていた名古屋市(名古屋市内およびその文化圏)であるが、子どもの頃は大阪市(大阪市内およびその文化圏)に比べると圧倒的に地方であった。 その後、東京の方にも住んだ経験からすると、繁華…

明けない夜はない?(エピソードその17)・・・R4.3.1②

エピソードその17 以前に比べて住宅、商店、町工場等が増えたとは言え、御椀山とそれに連なる低い山並みが近く、まだまだ緑が多い北河内地域では蝉の声が煩いほどになって来た。梅雨時よりは風が乾いて心地好くも感じられる盛夏となり、受験生にとってはい…

明けない夜はない?(エピソードその16)・・・R4.2.26③

エピソードその16 もの皆誘惑され、恋心が揺れに揺れる春が過ぎ、いよいよ将来への目標へとダッシュを掛ける初夏となった。安藤清美、そして清美の献身的な努力もあってすっかり蘇った丸山康介は軌道に乗り始め、今度は康介が清美を引っ張る立場に替わって…

明けない夜はない?(エピソードその15)・・・R4.2.24②

エピソードその15 3月下旬から4月上旬に掛けては、地域でトップの公立進学校である大阪府立北河内高校であっても、2年生の全過程を終えた春休みは本格的な受験準備を始める前の、ほんの僅かの間にせよホッとひと息吐いてリラックス出来る機会となってい…

明けない夜はない?(エピソードその14)・・・R4.2.23③

エピソードその14 昭和62年3月上旬、今から振り返ってみれば長かった昭和も残り2年を切った終盤に入っているが、そんな気配を何となく感じていながらも、普通は日々の時間の流れに追われ、またそれぞれのことで精一杯であるから、まだあんまりはっきり…

明けない夜はない?(エピソードその13)・・・R4.2.21②

エピソードその13 大阪府内の学区が細かく分けられることによって学区でトップの公立進学校となっていた大阪府立北河内高等学校の修学旅行は受験準備期間から逆算される為にどんどん早くなり、昭和61年度は2年生の10月下旬に行われるようになっていた…

明けない夜はない?(エピソードその12)・・・R4.2.20①

エピソードその12 大阪府の東北部にある公立進学校の大阪府立北河内高等学校では10月中旬に2学期の中間テストが行われる。 したがって10月上旬からは習慣的に女子バスケットボール部の練習が停止され、顧問である青木健吾の受け持つ科目、物理では広…

明けない夜はない?(エピソードその11)・・・R4.2.19②

エピソードその11 学区でトップの公立進学校である大阪府立北河内高校では夏休みの直後、9月上旬に2年生、3年生と浪人生を合わせた受験生に分けて校内実力テストが行われた。2年生は英数国の3教科、受験生は英数国理社の5教科で、何れも難関国公立大…

明けない夜はない?(エピソードその10)・・・R4.2.18①

エピソードその10 我が国の教育と言うものが受け持っているものは、ただ一般教科の勉強のみならず、芸術系教科、技術系教科、更に道徳、キャリア、余暇活動、儀式的およびイベント的行事、性に関すること等まで幅広くカーバーしており、嗜み、生き方、考え…