sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

台風一過(エピソード31)・・・R4.6.10①

            エピソード31

 

 前章で、お互いに大事に思い合っている弓道部員の藤沢浩太と弓道部顧問の安曇昌江が食事を共にする以上の関係を決して急ごうとはしない、という風なことを書いたが、取りようによっては純潔を重視する姿勢こそ男女関係の正しい在り様、と強調しているかのごとく思われたかも知れない。

 が、勿論そんなことはない。男女関係の在り様など、100組の男女が居れば100通りあり、これが標準などあってないようなものである。所変われば品変わるで、はっきりしているのは、その時、その場に、またその立場で合うか合わないか、と言うこと。合えば祝福され、応援して貰える場合もあるが、合わなければ顰蹙を買い、酷い場合は強く反対されたり、妨害されたりしがちなだけのことである。ある個人の好きか嫌いかという感情など、正しいか正しくないかということとはほとんど関係がない。少数派を変態と言って白い目で見がちであるが、それとて比較の問題で、厳密に言えば、みんな相対的には変態なのである。その中で、藤沢浩太と安曇昌江の関係は、古き好き時代を懐かしむ風潮がそこかしこに残る我が国の高年齢層には比較的受け入れられ易い(冬ソナを初め、韓国純愛ドラマの受け入れられようを見れば一目瞭然である※1)ということである。

 ただ、人間は客観的に観て脳を発達させ過ぎた所為か? 飽きっぽい。その是非、結果として人間社会の高度な発達が見られること等は置いて、ともかく他の動物に比べても著しく飽きっぽいという事実は否定出来ない。ちょっと淡々とした日常が続くと、安心ではあるが、直ぐに退屈し始め、たまには変態にも触れてみたくなる。これも、どんなに真面目そうに見えても、本質的なところではあまり変わらない。勇気と言うか、好奇心の出方の違いで程度に差が見えるだけの話である。 

 というわけで、長い前置きになったが、今回は性における関係の出方が正反対なほどに違う別のカップルの様子を窺ってみることにしよう。

 これまでの話から既に想像がついているかも知れないが、期待通り(?)、西木優真と桂木彩乃のことである。性的なエネルギーの出方の相性があまりに好かったのか? 2人は出会ったその日から強く惹き付け合い、交際を始めるまでに殆んど時間を要しなかった。

 弓道の試合会場から帰ったその日の夜、優真は彩乃の元に直ぐにメールを送り、彩乃は待っていたかのように返事を送信した。

 その日はその後も何通かのメールを交換し合い、2人ともそれでは飽き足らなかったようで、3時間も電話で話し込み、寝たのはどちらも3時を回っていた。

 それでも週末まではメールか精々電話で我慢していたが、優真の学校が引けた土曜日の午後、矢も盾も堪らず出逢ったところからはもう歯止めが利かなくなった。先ず王寺のとある場所で落ち合い、その瞬間、激しく火花を散らし合った。

 両方とも、頭の中で何かがスパークし、目が眩んだところまでしか覚えていない。気が付いたら、ベッドの中で彩乃は優真の鍛え上げられた逞しい腕を枕に夢身心地になっていた。周りに衣類が散乱しているところも全く気にならなかった。

 その辺り、昨今の韓国ドラマによくあるがちなことも面白い。純愛=純潔では必ずしもなく、純粋に愛し合うことが純愛なのである。当然そこに性交が介在しても少しも変ではない。

 おっと、また熱くなってしまいそうだ。筆者として決して得意ではない、いやむしろ大いに苦手科目であったこの件の分析に付いては暫らく置く。

 ともかく、一瞬、ハッとして、彩乃は優真のことを思い、次に反省が訪れた。

「ごめん・・・。私の方は嬉しかったけど、こんな結果になって、優真君には迷惑だったわね!? ごめんなさい・・・」

「・・・・・」

 優真は返事をせず、ぼぉ~と天井を見ているだけであった。

「ごめんなさい・・・」

 彩乃は関西においては超がつくほどの進学校である私立西大寺学園高校に入ったばかりで優等生の優真の将来を邪魔しているような気がし、謝らずにはいられない。それだけ、より愛していたと言えるのかも知れない。

 しばらくして優真が優しい目になって、

「いや、謝らなくて好い。これがいけないのなら僕も同罪だから、僕も謝らなければならない。でも、僕にとってこんなことは初めてだから戸惑っているだけのことで、悔やんでなんかいない。彩乃とひとつになれたことは僕にとっても凄く嬉しいはずなんだけど、どう言えば好いのか? 言ったら崩れてしまいそうで、それが怖かっただけなんだ・・・」

「有り難う。でも・・・、何かあったら、優真さんにきっと迷惑がかかると思うから、軽率だったわぁ。私の方が年上なのに、本当にごめんなさい・・・」

 口では謝罪を繰り返しながら、優真が決して逃げようとせず、正面から向き合ってくれていることで彩乃はすっかり気が楽になっていた。そして互いにごく自然に名前を呼び合っていることが嬉しく、気恥ずかしかった。

「ハハハ。本当に何かあったかも知れないなあ~。僕たち、何だか凄くあっちの方の相性がよさそうだぞぉ~。実際にさっきの、凄く気持ち好かったし、突き抜けた気がしたから、危ない、危ない。ハハハハハ」

 気を楽にさせようと思ってか、優真らしからぬ下卑た軽口であった。

「いやっ! もぅ~っ・・・」

 彩乃は真っ赤になって、タオルケットで顔まで覆った。

 それがきっかけになってお互い更に打ち解けたようで、その日は朝まで数え切れないほど交わった。彩乃は不安そうなことを言っていても、もし何かあれば自分が何とかしようと思っていたし、優真も決して逃げる気なんかなかった。お互いに言葉として思っているのではなく、魂で一致していた。

 勿論、翌日は両方とも太陽が眩しく、世間自体が眩しかった。当然、それぞれの家では大目玉であったが、お互いにそれなりの理由を付けて何とか誤魔化せた。

 しかし、始まってしまった相性好過ぎる関係が一度だけで終わるわけがない。機会がある毎に、なければ無理にでも作って出逢い、激しくスパークし合ったから、周りに知られるのも直ぐであった。

 それでも彩乃の方はまだ好かった。相手が優真であることを知り、またその家が極めて裕福であることを知ってからは、かえって母親によって後押しされるぐらいであった。

 優真の場合、そうは行かない。幾ら生物学的な相手としては好くても、優真の将来を考えた場合、決して好い相手とは言えない。それが、父親がおらず、母親が日舞の師範という彩乃の家庭環境を知った時、もう何も聞く耳を持たなくなった。携帯は取り上げられ、優真が外に出る時は見張り代わりに若い体育会系の執事が複数で付くようになった(※2)。

 それでも、知恵も体力もある2人が協力すれば出来ないことはない。何回かに一回は見張りをすり抜け、出逢えば、機会が減った分、更に激しくスパークし合った。

 そして、お決まりのことが起こった。秋も深まった頃、想像通り彩乃の妊娠が明らかになり、優真は素直に喜んだが、家の方では何とかするように大騒ぎになり、その内に西大寺学園にも知れ、私学の進学校特有の杓子定規な校則故、退学せざるを得なくなった。

 それでも優真の家は許さず、仕方なく優真は彩乃と共に奈良を離れ、京都市内の片隅に残っていた古アパートの狭くて薄暗い部屋を借りた。

 幸い(?)、彩乃はお腹が目立たない内に奈良県立西王寺高校を卒業出来たから、3月~7月は彩乃が何とかバイトで生活費を稼ぎ出し、その間に優真はインターネットを使ってカジュアルウエアやアクセサリーの販売を手掛けるようになった。元々パソコンを巧みに使えたところに、暇に任せて集中的に取り組んだお蔭で、自在に使えるようになり、そこに裕福な家庭で培われたセンスの好さが受けたようで、赤ちゃんが産まれる頃には一端以上の稼ぎが出るようになっていた。

 人生が生きること、殖やすことだけであれば、それで十分だったのかも知れない。

 事実、彩乃にとって優真との飯事のような新婚生活は何にも代え難かった。

 しかし、先にも書いたように人間は飽きっぽく、平凡な日常が続けば退屈してしまう。駆け落ち同然に家を離れた頃の緊張が去り、商売も軌道に乗って、2人目の子どもが産まれる頃になると、一番エネルギッシュな世代のこと、特に優真が物足りなさを覚えるようになっていた。

 それだけではなく、目が覚めてみると、矢張り不安であった。誰かの助けを借りているわけではなく、自分らの力で生活が成り立っているのであるが、後ろ盾もなく突然のように始まり、何となく続いている。それがそこはかとなく不安であった。

 それに、彩乃は元々学校での勉強が好きな方でもなかったが、優真はそうではない。学び足りない、頑張り切っていないという不満感が何処かに残っていた。

 肌を重ねていても、仕事をしていても、この頃優真は時々上の空になる。

 決して冷たいわけではない。視線を合せると、相変わらず優しく微笑んでくれるし、子育て、家事、何でも嫌がらず、器用に手伝ってくれる。

 しかし、どこか隙間風が吹いているようで、彩乃はそこはかとなく不安であった。

《そう言えば、この頃優真は教科書や参考書を懐かしげに眺めていることがある。このまま私が縛っていていいのだろうか?》

 ともかく高校卒業資格だけでも持っていれば後に繋がるかと思い、彩乃は優真に取り敢えずとっておくように勧めた。

 優真としても異存はない。意地を張るほど余裕のないタイプでもなかった。

 当然のように1回で簡単に取得出来、結果を聞けばほとんど満点で、全国でも飛び抜けて1位であったそうだ。

 それがきっかけになったのか? 優真は暇を見つけて自力で勉強を再開した。

 元々優等生であったから、それぐらいは楽なことであったし、西大寺学園で1年いる間にかなり進んでいたことも助かった。3年間の分を本格的に強化したら、模擬試験での結果も出始め、2人目の子が1歳になった頃に、無事関西ではトップにランクされる国立京奈大学の文学部心理学科に入ることが出来た。

 彩乃との生活を始めてから3年と少し、長かったようで、それは一浪したのと変わらない年で入れたのだから、人生においても大した時間の無駄にはなっていなかった。

 と言うか、人生勉強という意味では、あのまま進学校でぬくぬくしているより余程深く、広く学べたと言えなくもない。第一、飛び切り相性の好い相手と出逢えたのであるから、更に2人も子宝に恵まれ、そこそこ貯金も出来たのであるから、それらのことだけでも十分過ぎるほどであった。

 優真の家の方ではこの後も未だ暫らくの間、2人の関係を受け入れなかったが、流石に当主が弱り始めると、そう強気でもいられなくなった。

 それだけではなく、時々見せられる孫の写真が大きな刺激になった。可愛い盛りを楽しめない自分らの頑なさが何となく馬鹿馬鹿しく、寂しくなって来たのである。

 結局、優真が京奈大に入ったことが大きかったようである。世間並みのコースに漸く戻った気がし、受け入れ易くなったのであろう。経済事情は執事によって逐一報告されていたから承知しており、放っておいても生活に困ることはなかったが、西木家としてどうかと言うと、今、優真達家族が住んでいる家は将来当主になる者の家ではない。それも強い理由になった。夏のとある日、西木家から迎えの車がやって来た。
 ここでも優真は頑なに断るようなことはしない。ごく自然に受け入れた。

 彩乃は優真さえ好ければそれで好い。子どもらを連れて素直に西木家に収まった。

 この後、何事もなかったような時間が数年続く。それはそれで充実しているのであるが、お話としては些か退屈であろうから、優真と彩乃の話は一先ず置く。

 ともかく、性のエネルギーの出方は千差万別であり、何が正解ということはない。それから、人生において何が無駄か? 何が無駄でないか? ということは一概に決められない、ということである。

 

        人生に無駄なことなど何もなく

        無駄と思えば無駄になるかも

 

        人生に無駄なことなど何もなく

        受け入れたなら身になるのかも

 

※1 現実の韓国人は日本人以上に肉食系のようで、大分前に或る日本人作家が、韓国には日本の覘き、お触りのような中途半端な風俗はない、なんて書いていた。ここ10年ぐらいの韓国ドラマを視ていても、愛し合う2人の遣り取りが視ていて恥ずかしく鳴るぐらい激しい。それでも時折殊更に抑えようとしているカップルも出て来るので、精神性が大事にされているのも事実のように思われる。そう言えば私と同年代の韓国人が大分前に出していた本には、韓国人はそんなに簡単に(日本人のようには?)肉体的な交渉をしない、と言うようなことを書いていた。そんな世代向けの演出かも知れないなあ。

※2 この辺りまで書いて来たことは殆んど昨今の、と言ってももう10年ぐらい前の韓国ドラマにヒントを得ている。