sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

熟年ブロガー哀歌(5)・・・R2.4.8①

                その5

 

 その後、指定された実験を見事成功させ、ホワイトホールからの帰還で若返って無事帰還した大林盛夫は、約束通りに地球に返された。

「嗚呼、漸く帰って来ることが出来たなあ・・・。今日は一体何年の何月何日だろう?」

 地元の乗換駅である生駒駅でスポーツ新聞を買うと、2010年10月16日とある。

「そうかぁ~。5年も家を空けていたのかぁ!? 未だ家はあるかなあ? それに、侑子の奴、一体どうしているのだろう?」

 一緒にいるときは殆んど空気のような存在になっていて、心配することなどなかったが、流石に5年も家を留守にすると、気が引ける。

 取り敢えず、生駒駅から家に電話を入れてみた。

📞「はい。大林です」

📞「もしもし、俺やぁ~」

📞「えっ!? もしかしてあなたぁ~?」
📞「そうやぁ~。侑子、お前、元気でやっていたかぁ!? 長い間、家を空けててご免。どうしても帰れない事情があったんやぁ~。そのわけは追い追い話すけど、これから帰ってもええかぁ~?」
📞「何を言うの!? あなたの家じゃありませんかぁ~。直ぐに帰って来てぇ!」

 既に声が濡れている。

 侑子には未だそんな可愛いところも残っていたんだ・・・。

 大林は胸を撫で下ろし、ウルウルしながら自宅へと繋がる生駒線への階段を下りた。

 幸い、家はそのままの状態であったし、妻の侑子も、多少は老けたものの変わらない様子であった。そして侑子は、大林をちょっと長い出張から帰った程度の表情で迎えようとしていた。

「お帰りなさい。疲れたでしょう?」

 しかし、その試みは全く上手く行かなかった。それには大林が若返り過ぎていたのである。欲張った大林は20代に見えるほど若返っていた。

「どうなさったんですかぁ~、その姿!?」

 目を見張っている侑子の顔が可笑しい。大林は得意であった。

「ハハハ。若くなっただろう? 事情はゆっくり話すが、宇宙まで旅をして来て、30歳ほど若くなって来たんだぁ~」

「そ、そうですかぁ・・・。何にしてもよかったですね!? これであなたの夢を追い掛けられるかも知れない・・・」

 俄かには信じがたい話であったが、事実を目の前にしたら信じるしかない。

 しかし、侑子は嬉しくなかった。自分はそれなりの年になっているし、見違えるように若返った大林に何れ飽きられるかも知れない。それに、内面的に落ち着きつつある自分に比べて大林は前以上に軽佻浮薄になっている気がする。

《大体何なのよぉ~? 勝手に長い間家を空けて、自分だけが若返って帰って来るなんてぇ・・・。ずるいわぁ~!?》

 落ち着いて来ると、怒りがふつふつと湧き始めた。

 

 そんな隙間風が吹き始めた或る日のこと、大林が仕事を早めに終えて帰って来ると、家は更に寒い状態になっていた。

 人気がなく、歯抜けのように色んな物がなくなっている。

 注意して見ると、それはどれも侑子が持って来た物か、結婚してから侑子が気に入って買った物であった。

 そして卓袱台の上には何やら走り書きしてある白い紙が一片、微風に揺れていた。

 大林は手に取り、目を走らせた。


大林盛夫様

 長い間お世話になりました。
 あなたが留守の間、私は一日千秋の思いで待っておりました。そして、5年もの時を経てあなたから帰って来たと連絡を受けたとき、本当に嬉しかった。
 でも、あなたを目の前にしたとき、外見だけではなく、何かが変わったことを感じました。今まで2人で積み上げて来たものが音を立てて崩れて行ったような気がしました。
 残りの時間をあなたとはやって行けない気がします。あなたにはまだまだ時間が残されていそうですが、私にとっては努力するには短いので、これからは心置きなくお互いの夢を追い掛けましょう。
 探しても無駄ですから探さないでください。それではさようなら。
                                  坂本侑子

 

《一体どう言うことなんだぁ、これはぁ~?》

 これまでの態度や手紙から一瞬にして全て分かったが、俄かには受け入れ難かった。

 大林は通りに出て、辺りを見回した。

 勿論、抜けの多い大林を長年上手くコントロールして来た周到な侑子が、既に近くに居るはずもない。事実は事実として受け入れるしかなかった。

 それでも暫らくは落ち込んでいたが、日が落ち始めた頃、大林は漸く諦めて、独りの生活を始める覚悟を決めた。

《あ~あっ、でも俺の人生、これから一体どうなってしまうんだろうなあ?》

 勤めていた会社は勿論首になっていたから、今はフリーター生活であった。

《俺は今年でもう58歳のはずだけど、実際には28歳ぐらいの身体だから、世間ではニートとでも思われるのかなあ? フフッ。なんて、呑気なことを言っている場合ではないなあ。さて、どうしたものか? 今までの体験を小説にでも書いてみるかぁ~》

 そう呟く大林の顔を、生駒の向こうから夕日が哀しげに染めていた。

 

        独りだけ勝手な旅で若返り

        戻って来れば逃げられるかも

ロボットだって生きている!?・・・R2.4.7②

 22世紀も半ばを過ぎた頃、人間は純粋な科学だけでは理解出来ない存在を切実に認識するようになり、心霊科学の領域が益々注目されるようになっていた。そして、人は死ぬ瞬間に見聞きしたものに生まれ変わる、それは一定の知能を持った存在でなければ受け止め切れない等の知見が、ポピュラーなものになっていた。

 その頃のこと、ある男(AOとでもしておこう)が事切れる瞬間、そばに居たのは金蝿とロボットだけであった。周りに居た人たちは生物にしか転生出来ないと思い込んでいたので、蝿になったと勘違いし、AOが亡くなってから、その金蝿(KBとでもしておこう)を大事にするようになった。

 もしかしてAOが転生したそのKBを不注意に死なせてしまうと、KBの目は一体何処を向いているか分からないから、とんでもないものに転生するかも知れない、それでは亡くなったAOが可哀想だ、と思ったのである。

 しかしAOの魂は、極めて精巧に作られたロボットを生物と認め、そこに乗り移ったのであった。

 ロボットを出来る限り人間に近付けようと努力して来た長い年月は決して無駄ではなかったのである。確かに、人間の力で全てが出来たわけではない。入れ物としての身体、特に脳を物理的には殆んど近付けることが出来ても、魂だけはどうしても作ることが出来なかった。しかし、殆んど人間と言っていい入れ物を作ることが出来たからこそ、魂を入れることが出来たのである。それで満足すべきであろう。

 ただ、そこに気付くには未だ暫らく掛かる。この時点では未だ皆KBにAOの魂が乗り移ったものと思い込んでいたのである。

 KBは好き勝手に飛び回る。美味しそうなものを見付けると、素早く近寄って来る。
たまたまKBが、AOが生前に好んでいた妙齢の美女(MBとでもしておこう)に選んだかのように止まった。

 そんなところを見て、皆大喜びする。それが亡くなる前のAOの習性にそっくりなように思われたのである。

 しかし或るとき、MBがロボットのちょっとした異変に気付いた。前からロボットにしては気が利くと思い、重宝していたのであるが、プログラムしていないはずのことまでやってくれるのである。

 たとえば、風呂上りなどに、「喉が渇いたわ」と言ったときに冷たいお茶を出してくれるのはいい。「ジュースかアイスでも出しましょうか?」と訊くのもいいだろう。しかし、エアコンが効き過ぎて少し寒く感じられ始めた頃に緩くしてくれたり、羽織るものを出してくれたり、気が利き過ぎている。

 それに、MBの肌が露出しているとき、心なしか恥ずかしそうにしている気配を感じる。

《このロボット、何だか生きているみたいだわ!?》

 それからと言うもの、MBはロボットに話し掛けるようになった。以前から、ロボットに話し掛けておけば趣味、傾向等を覚えてくれ、以後どんどん好みにあった働きをしてくれるようになる、と聞いていたので、違和感を持ちながらもそうして来たのであるが、この頃ではその違和感が全く無くなった。親身に聞いてくれているような気がして来たのである。

 それからと言うもの、MBはロボットを益々手放せなくなり、外に連れ出すことも多くなった。

 そうするとロボットはキョロキョロし始めた。それに、友だちでMBよりもっと清潔感を感じる美女(SBとでもしておこう)が来ると、其方に親切にしたりする。

《やっぱりロボットには心なんてない方がいいわ!? 浮気な男なんて、もうこりごりよ!》

 MBは昔の苦い恋を思い出し、ロボットの脳に当たるCPUを入れ替えることにした。

《その前にCPUの記憶を消して貰わなければいけない。そうしないと、秘密にしておきたいことまで知られてしまうまで・・・》

 CPUの洗浄も無事に終わり、新しいCPUと取り替えることが出来た。そして、新たにプログラムを読み込ませてロボットは元に戻った。

 さて、それではAOの魂は何処に行ったのか!?

 実はこのとき、ロボットのCPUの電源が完全に切られた瞬間があったのである。その瞬間、そばに居た知的生物はMBだけであった。

 そう、AOはずっと憧れていたMBと一体になったのである。

 それからと言うもの、MBは自分が常に誰かに見られているように思い、恥ずかしくて仕方がなくなった。

 

        魂が記憶に残るものに乗り
        身体を借りて生き延びるかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これは15年以上前に、当時の同僚に見せようと思って書いたものを見直し、加筆訂正した。

 

 今もそうであるが、原子、分子から有機物、アミノ酸、細胞へと組み上がって行く偶然? が信じられず、細胞が集まり、高等な生物になって行く過程で魂が生まれる? 過程がもっと信じられない。

 

 ついつい魂と身体は別物ではないか!? と言う発想が生まれて来る。

 

 そして偶然ではなく必然ではないか!? と言う考えも。

 

 神様、超自然等、どう呼ぶにせよ、そんな存在からある考えのもとに生み出されたのが魂で、その入れ物が身体と考えたくなるのである。

 

 まあ、人間とはそんな風に何にでも自分達好みの意味を持たせたくなるもののようだなあ。フフッ。

 

 なんてことを書いていたらこの前同僚の秋山本純がこんなことを言っていたのを思い出した。

 

「藤沢君、そもそもウイルスなんて何の為に出来たんやろなあ?」

 

 問いかけられたら何か答えなければ、とつい思ってしまう小心者の私は、暫らく考えて自信無げに、

 

「何の為って・・・。そ、そりゃ、増え過ぎて調子に乗り過ぎた人間を試す為とちゃいますかぁ~」

 

「藤沢君、えらい哲学的やなあ。フフッ」

 

「いやぁ~、そんなでも・・・」

 

 ともかく、普通生き物には分類されず、忌み嫌われる存在であるウイルスとは一体何なのか!?

 

 どんな意味を持つのか!?

 

 まだまだ分からないことだらけである。

 

        ウイルスに生まれた意味を問うたとて

        黙って風に乗って来るかも

熟年ブロガー哀歌(4)・・・R2.4.7①

               その4

 

 その後、地球ではモニター希望者がどんどん増えて来て、地球人に化けた宇宙人たちが選別する為に地球に向かった。そして、健康状態に問題のない熟年男女たちが眠らされ、陸続と宇宙ステーションに送り込まれた。

 集められた地球人たちには、単なる研究材料として呼んだわけではなく、色んな宇宙実験に自主的に参加出来、それぞれにおいて参考データを取らせて貰う予定であることが説明された。

 たとえば、超光速宇宙船タキオン号に乗ることによって時間の遅れの検証、ブラックホール近辺に航行することによる物理的変化の検証等である。

 モニターが一定数集まり、誘い出す役目を終えた大林盛夫もタキオン号の試乗実験、実際には人体実験に使われることになった。

 元々小心な大林は、勝手に連れて来られるのならともかく、説明をよく聴いていると、簡単に納得するわけには行かない。また大林好みの可愛くて若いお姉さんに化けている浅田のりに、

「でも、私はブログを書くぐらいしか出来ないよぉ~!?」

「大丈夫よぉ。あなたはここでしているのと同じように、タキオン号の中から定期的に様子を知らせてくれればいいのぉ! 操縦はロボットがしてくれるし、分析は私たちがするから心配いらないわぁ~」

 今回は他の地球人もいる手前、のりは少し鼻に掛かった可愛い声を実際に出して、説得に掛かる。

 その見た目と声に大林はこれまでより強気になり、

「でも、一体どこに、何を確かめに行くんだぁ!? 本当に安全ならば自分たちで行けばいいじゃないかぁ~!」

「もっともな疑問ねえ。確かにそうだけど、あなたたちもきっと知りたいはずのことを調べに行くのよぉ。たとえば、タキオン号を超光速で飛ばすと本当に時間を遅らせることが出来るのかぁ!? これは私たちなら既に日々経験しているから分かっていることだけど、あなたたち地球人には中々経験出来ないでしょう? それだけではなく、ブラックホールに近寄るにつれて、本当に時計の進みが止まったようになるのかぁ!? ブラックホールからの想像出来ないほど莫大な重力に耐えて吸い込まれ、入ってしまったとき、突き抜けて別の宇宙におけるホワイトホールから出ることが出来るのかぁ!? 推測ではそれは時間が反対に進む宇宙と思われるが、本当にそうなのかぁ!? 更に、若返り作用を有効利用出来るかぁ!? そんなことを本当に知りたくない? 私たちが持っている優秀な科学技術を提供するのだから、あなたたちが体力ぐらい提供してくれてもいいと思うわぁ~。ねえ、そうは思わない?」

 あにはからんや、一般向けの科学雑誌でしか読んだことがないようなことを立て板に水のようにのりに捲くし立てられて、大林は、そんなことが本当に分かるのならば実験飛行してみるのもあながち悪くないような気がして来た。

「う~ん、確かにぃ・・・。でも、それが何で私なんだぁ~!? これだけモニターを集めれば、もっと勇気があって、相応しい奴がきっと他にいるだろう?」

「いいえ、適度な臆病さも持っているあなただからこそいいのよぉ。それに、これも何かの縁ねぇ。あなたが送ってくれるレポートなら、きっと信用出来ると思うのぉ・・・」

 そう言われると弱い。のりは地球人の中年オヤジのツボを抑えているようだ。

「分かったぁ。のりがそこまで言うのなら取り敢えずやってみるよぉ。でも、眠っている間にやったことがある超光速飛行はともかく、ブラックホール近辺、ホワイトホールを突き抜けての飛行なんて本当に可能なのかなあ!? 全くの理論だけなら危険過ぎるような気がするなあ・・・」

「全く例がないわけではないのぉ。そこまで実験したのではないんだけど・・・」

 そう言いながらのりはパソコンを操作し、2枚の写真を見せた。

「ほら、この2人をよく見てぇ!」

「うん? 何だかよく似ているなあ。親子かぁ~?」

「ウフッ。前は私たちのことがみんな同じように見えると言っていたけど、区別がつくようになったのねぇ。この2人、似ていて当たり前よぉ。同じ人物だものぉ・・・。それも、旅行前と旅行後だから、撮った時期はあなたたち地球人の時間で1か月ほどしか離れていないのぉ。不思議でしょう?」

「道理で・・・」

「どっちが前だ、ってぇ? 不思議なことだけど、この老けている方が前なのぉ! それで飛行データを解析してみると、どうやらブラックホールに飛び込み、突き抜けたらしくて、向こう側のホワイトホールから抜け出し、縮む宇宙を体験して来たのではないかと推測しているのぉ。今まで此方の現象として時間が縮むことまでは日常的に経験し、有効利用することが出来るようになっているけどぉ、時間の逆行までコントロール出来るなんて、ねえ面白いと思わない?」

 大林にはもう何が何だかわけが分からなかった。

 そして暫らく形だけ迷った後、縁と言われたのりの言葉をもう一度信用してみることにした。

「分かったぁ! ともかくやってみるけど、約束して欲しいんだぁ」

「実験が成功したら地球に返して欲しいということぉ?」

 のりに先へ先へと気持ちを読まれてしまうことにもすっかり慣れ、大林は妻の侑子とは遠い昔になくなってしまったその以心伝心の会話を、心地好くも感じるようになっていた。

「そうだぁ!」

「分かったわぁ。安心して、希望通りにしてあげるから・・・」

「でも、しつこいようだけど本当に・・・」

「そんなに遠くまで出掛けて、電波が届くのか、ですってぇ? それも大丈夫、私たちの通信は、本来は声を出さずに、何の変化も見せずにも喋れることから分かるように、音や光とは違う方法で伝わっているのぉ。信号だけなら、あなたたちでは考えられない距離や時間を越えて、瞬時に伝えることが出来るのぉ。そうねえ、この宇宙内ぐらいでなら、端から端まであっと言う間に伝わると思うわぁ~。でも、ブラックホールからホワイトホールへと抜けて、別の宇宙に入ったときには分からない・・・。今までの数少ない例では、多分連絡が途絶えると思うわぁ~。そのときはパソコンに文章として残しておいてねぇ」

「うん、分かったぁ・・・」

 

 不安ながらも大林はのりの言葉を何とか信じようとし、タキオン号に乗って超光速の宇宙旅行に出掛けた。そして、1時間毎に簡単なレポートを送った。

 そして先ず、光速付近での飛行中に送ったレポートに対する返事が来た。

「1時間毎に送ってくれているはずのレポートが此方では1日ずつ開いて着いています。速度からの計算とも合っていますし、今のところ理屈通りのようです。次はブラックホール付近に向かって下さい」

「分かったぁ!」

 

 それから超光速飛行に入り、それでも何年も掛かって指定されたブラックホールの強い影響が感じられる辺りにやって来た。

 と言っても、タキオン号の中では大して時間が経っていないように感じられ、大林は退屈することなく1時間毎にレポートを送っていた。

「さて、これからどうすればいい?」

「もっと近付いてみて下さい」

「分かったぁ!」

 大林は覚悟を決めてブラックホール近辺に向かった。

 流石にタキオン号がぎしぎしと歪むような音を立ててはいるが、何とか持っているようである。宇宙人たちの技術の高さに改めて感心させられる。そんなことも含めて大林はレポートを送り続けた。

 そして、丸1日ブラックホール内で揺られて、脱出したのはどうやら別次元の宇宙に繋がるホワイトホールだったようで、未だ小さく、次から次へと星が出来つつあった。

「聞こえますかぁ~!?」

「・・・・・・・・」

「やっぱり駄目なようだなあ。のりが言っていた通りだ。仕方がない。書いておいて、後で送るかぁ~!?」

 

            宇宙通信

今、私は不思議な世界に来ています。未だ生まれてそう時間が経っていない宇宙のようで、端が割と近くにあるように感じられます。それに、非常に暑く、次から次へと星が生まれているようです。未だ生命反応は感じられません。生命の誕生は未だ先のことのようです。
 全体的に密度が濃く、明るい気がします。注意しないと、色んな物にぶつかりそうですし、また色んなものが飛んで来ます。

 

 それからタキオン号は出て来たホワイトホールに向かって突入し、何とか元のブラックホールから脱出することが出来た。

「フゥーッ」

 そして、突然、連絡が通じ始めた。

「今、溜め息が聞こえましたが、もりお、聞こえますかぁ!? 聞こえていたら応答をお願いしますぅ!」

 大した時間しか経っていなくても、大林は久し振りにのりの声を聞いた気がし、やっと生き返った心地がした。

「嗚呼、聞こえるぅ。ブログ、読んで貰えたかなあ? どうやら、私は違う世界に行っていたようだぁ・・・」

「そのようね。お疲れさま。期待していた以上のデータも取れているわぁ~。これで宇宙の解明が更に進みそうよぉ! タキオン号の点検、補修があるでしょうから、その間に少し休んで、今度はホワイトホールの方に向かってください」

 

 そして暫らく後、整備を終えてまた大林を乗せたタキオン号は何年か掛けて指定されたホワイトホールの近くまでやって来た。

 そこからは怖ろしい勢いで光や物質を噴き出している。しかし、別の宇宙からホワイトホールへの突入を一度経験している大林は躊躇することなく飛び込んだ。

 向こう側のブラックホールから飛び出した宇宙は不思議な感じがした。膨張し始めている宇宙とは違って勢いが感じられないのである。同じように端が見えるほど小さいのに光は薄く、暑くはなさそうだ。それに、星がどんどん死に絶えているように思われる。

 その中でも通信は途絶えてしまったので、パソコンの中にレポートを残しつつ、大林はスピードを緩めて暫らく飛び回った。

 すると、スピードを緩めたタキオン号の中では不思議な現象が起こり始めた。何と、時計が反対に回り始めたのである。

「もしかしてこれが若返りなのかぁ!? のりが言っていたことは本当だったんだなあ・・・」

 

        黒と白逆にしたなら時間まで

        逆さになって若返るかも

草深い宿(チヂモン奇譚)・・・R2.4.6②

 永野伸介は数年前にたまたま訪れた村で行なわれていた盆踊りに飛び入り参加し、和太鼓の腹に染入るような響き、全体に落ち着いた色合いの浴衣、村人たちの厚い人情等にいたく感動してしまった。

 それからと言うもの、伸介は夏を待ち焦がれ、まとまった休みが取れると必ず盆踊りを求めて鄙びた土地を旅していた。

 或る夏のこと、伸介は伊豆半島中部のある村を訪ねていた。

 規模は決して大きくないが、言葉には言い表せない風情がある。

 浴衣に身を包んだ若者達の表情、動きに、都会にはない真摯なものが感じられ、そこに空気のように居るだけで何とも言えないほど幸せな気分になれるのだ。

 それだけのことで、伸介にそれ以上の底意があるわけではない。

 

 本当は盆踊り本来の意味からすれば、多少の含むものがあってもいいのであるが、伸介はその点生真面目で、ふわふわした雰囲気が感じられれば十分であった。

 そして、伸介が年の割に清潔な雰囲気を持っている所為か? どこの盆踊りに参加しても、拒否されることは先ずなく、大概は快く受け入れて貰えた。

 

 さて、伊豆半島中部の村での盆踊りを終え、バス停に向かう途中、雲行きが急激に怪しくなって来た。

《何だか風が温くなって来たし、どうもやばそうやなあ!?》

 そう思う間もなく、ピカッ、ドシャン。

 続いて激しい音を立てて雨が降り出した。

 初めての土地で、伸介はどこに隠れていいか分からず、取り敢えず頭を低くしながら駅への道を急いだ。

 びしょ濡れになり、諦めてスピードを緩めたとき、伸介の頭上に赤い傘が掛かり、耳元で柔らかい声がした。

「もう濡れたでしょうけど、よろしければどうぞ・・・」

「えっ!?」

 そう言った切り、伸介は固まってしまった。

 スラリとした浴衣美人で、少し伏せた目が旅情を誘う。

 黙ったまま暫らく歩いた後、その妙齢の女性は立ち止まり、恥ずかしそうに微笑みながら、

「あのぉ~、ここ、私の家ですから、ちょっとお待ち下さい・・・。父の傘をお貸ししますわぁ」

「いえ、そんな・・・。もう直ぐバス停でしょうし、もう十分濡れていますから大丈夫ですぅ」

「折角ですからお持ち下さい。高いものではありませんから、機会があれば返して下さい。それで十分ですから・・・」

「でも、悪いですぅ」

 そんな遣り取りをしているとき、焦れたのか? 奥の方から低い声がした。

「加奈子かぁ~? そんな大雨の中で話していないで、中に入って貰いなさい!」

「はぁ~い」

 父親の許しを得て、加奈子は柔らかい笑顔になった。

 どうしていいのか分からなくなり掛けていたところを納得の行く判断をして貰って、ほっとしたようである。

 伸介の目を優しく見詰めながら、決然と言う。

「どうぞぉ。狭い家ですけどぉ、雨宿りをして行って下さい!」

「はい。有り難う御座いますぅ」

 何時もなら他人の家へなど上がれない人見知りが強い伸介であったが、その父親と娘の関係が何となく懐かしいものに感じられ、即座に返事していた。

 中に入ると、如何にもと言った日本家屋で、声から推察される通りの渋さを持った父親が座っていた。

「どうも、突然お邪魔してすみません」

「いやいや。困っているときはお互いさまです」

 座ってから改めて、

「永野伸介ですぅ。旅の途中で雨が降り出し、こんな格好で申し訳ありません」

「橘譲治です。これは娘の加奈子です。急に雨が降り出したのですから、濡れて当たり前です。加奈子、タオルを出して差し上げなさい」

「はい」

「それからお茶も・・・」

 遠ざかる加奈子を追い掛けるように付け加えた。

「はい!」

「そんなぁ、雨宿りさせて頂ければ十分ですからぁ、気を使わないで下さい・・・」

 伸介は恐縮しきりであったが、勿論悪い気はしなかった。

 それから取り止めもない話をしている内に雨が小降りになり、やがて止んだ。

 伸介は惜しむ気持ちを隠しながら、その家をあっさりと辞した。
《橘加奈子さんかぁ~。いいよなあ・・・》

 戻ってからも暫らく忘れられず、伸介はお礼にかこつけて手紙を出したくなった。

 しかし、そこが気弱な伸介らしいところで、住所を聞いていない。
《仕方がないなあ・・・》

 悶々としている内に秋になった。

 それでいいのである。そんな風情、余韻を味わう為に毎年、鄙びた土地に盆踊りを求めて行っている。

 だが、このときだけはそれで済まなかった。どうしても加奈子のことが忘れられないのである。

 伸介は毎年秋になると、諦めて見合いをするのであるが、見合い中も加奈子のことが浮かび、ついつい比べてしまう。

《何や、この擦れた目はぁ~!? やっぱり都会に暮らしていると薄汚れてしまうんやなあ・・・》

 伸介は自分のことは棚に置き、会った瞬間から粗探しをしていた。

 そして、今回は珍しく自分から断わりの電話を入れた。

 何時もなら子どもの頃から指導を受け、今は見合いの世話までしてくれる書道塾の山畑先生から女性側の断わりの電話を受け、悔しい思いを我慢しながら聞くのが普通なので、山畑先生もびっくりしていた。

「どうしたのぉ? どうしても嫌なら仕方ないけど、そんなに直ぐに断っていいのかい? 美人だし、スタイルもいいし、キャリアもいい。多少気はきつそうだけど、君にはむしろそれぐらいでちょうどいい。今回は結構厳選した積もりなんだけどなあ・・・。君も今年で38歳だろぉ!? もう年なんだから、あんまり選んでばかりいては結婚出来なくなるぞぉ~」

 結婚に対して尻込みしているように見えるのか? 脅すようなことも言う。

「でも、何時も世話をして貰っていて、こんなことを言うのもなんですけどぉ、僕、この頃結婚に対してもっと自然でいようと思うようになったんですぅ。前より女性と普通に付き合えそうな気もして来てぇ・・・。だから、暫らくは見合いは止めようかなと思っていますぅ。今回お世話いただいた人がどうのと言うのではなく、そう言うことですからぁ、申し訳ないですが、先生の方から断わって頂けないでしょかぁ?」

「それは別に構わないけど、今、特に好きな人が居ないのなら、これを切っ掛けに付き合いを始めてみてもいいじゃないかぁ!?」

 伸介の心の用意が整って来たと見たか? 山畑はしつこく押す。

 それでも伸介が断るのを聞き、山畑は折れた。

 見合い結婚への道を自らの意思で断ち切った伸介は、大きな岐路に立ち、自分で判断出来た喜びに震えていた。そして不安におののいてもいた。

《よし! これからは自分で探すしかない・・・》

 そう決意した伸介の脳裏に浮かんでいたのは勿論、加奈子のことであった。

 早速伸介は一番近そうな休日を探す。

《今度の3連休辺りがよさそうやなあ!? 給料日の後やし、お金の心配もない。

 幸い宿の手配も出来て、伸介はその連休を心待ちにしていた。

 不思議なもので、肩の力が抜けたのか、伸介は職場で前より女性と気軽に話せるようになり、ときには好意を示されるようになった。

 しかし、伸介はどうしても加奈子と比べてしまう。

《どうもちゃうねんなあ。その下種な言葉遣いがあかんねん! 俺には合わへん・・・》

 気弱そうな伸介の目を見れば、そんな不届きなことを考えているなんて誰も想像しないのであるが、気弱であっても決して優しいわけではない。敢えて言えば、他人に優しいわけではなく、自分に優しいだけであった。

 

 そして、首を長くして待っていた3連休が来た。伸介は喜び勇んで予約していた新幹線に飛び乗った。

《さて、伊豆箱根鉄道修善寺まで行って、それからはバスだったなあ!?》

 それから加奈子とのことを思い出しつつ、心を温めている内に、実はあれ以上何もなかったことに気付く。

《困っている旅人への親切。ただそれだけのことなのかなあ? いや、あれはただの親切だけのことではない。見ず知らずの俺を家にまで上げてくれたんやぁ~きっと何か感じるものがあったはずやぁ! いや、彼女の優しさがそう思わせるだけのことなのかなあ? いや、そうやない! やっぱり特別な感情があったからこそ・・・》

 伸介は揺れに揺れていたが、それも楽しいひと時であった。

 そして、伸介は記憶にあったバス停に降り立った。

《ここから暫らく歩いてぇ~、それからあそこの角を曲がってぇ・・・》

 伸介は曖昧な記憶を掘り起こしながら、見慣れた小川、丘陵、店等を頼りに何とか目的の地点に辿り着いた。

 はずであった。

《うん? あれぇ~、ない!? もしかしたら、あれから大分経っているから、記憶違いちゃうかぁ~? いや、こんなに加奈子のことばかり考えていたんやぁ。間違えるわけがない!》

 それでも伸介は何度も確かめ、矢張り間違いではなかったことが分かる。

 それでは何故、ここには何もないのだ。家を取り壊し、更地にしたにしても、こんなに早く草むらになるものであろうか?

 そこに農夫が通り掛った。

「あのぉ~、ここにあった家、どうなったか分かりませんかぁ?」

 伸介は聞かずにはいられなかった。

「おや、お前さんもかい? これで何人目になるかのう・・・」

 お気の毒に、と言う目をする。

「どう言うことですかぁ?」

「さあ、わしにもさっぱり分からん。狐にでも化かされたのかのう?」

 そう言いながら農夫は立ち去った。

 それからも暫らく、伸介は未練ありげに草むらを眺めていたが、何か分かるわけでもない。仕方がないから溜め息を一つ吐き、それからゆっくりとバス停に向かった。

 その後ろ姿を確かめてから、農夫がゆっくり戻って来た。そして懐から緑の錠剤、チヂモンを取り出し、呑み込んだところ、見る見る小さくなった。

 それからおもむろに、首を傾げながら草むらに入って行った。

 そこには小さな家が数軒、立ち並んでいた。草むらまで入り込めば伸介にも分かったはずであるが、あったはずの位置に家がなく、丈の高い草が茫々と生えていると言うことだけで、そこまで気が回らなかった。そして、よく観れば、農夫の顔にも覚えがあったはずである。

 農夫は一軒の古い日本家屋に入り、声を掛けた。

「加奈子。あの男は行ったよぉ。それにしても、お前、一体何人に声を掛けたんだい? 何だか可哀想な感じがするなあ・・・」

「お父さん。結婚相手はやっぱり大事よぉ! しっかり選ばなければ・・・。それに、あれでいいのよぉ。幾ら勧められたからって、初めての家にあんな風にのこのこ上がり込み、でれでれと鼻の下を伸ばす奴なんて願い下げだわぁ。それに比べてこの人は・・・」

 そう言いながら加奈子は、艶っぽい目で横にいる男を見る。

 その男も満更でもなさそうである。家まで上がるのを断り、軒先を借りて休んでいると、お茶に入っていたらしい怪しげな薬でいきなり小さくされてしまった。そんな風に取り込まれたときは、わけが分からず、何だか不安そうであったが、ここでの生活も悪くないかと思うようになっていた。

 その頃、草むらの中の彼方此方の家では、新しく婿や嫁を迎えて、鄙びた中にも華やいだ笑顔に溢れていた。

 一方、バス停に着いた伸介は、漸く微かにあった違和感の意味に気付いた。

《そうやぁ!? さっき農夫、あのときの加奈子のお父さんに似ていた・・・。でも、なんでやろぉ? もしかしたら、加奈子は遠い昔に亡くなった村の娘で、あの農夫は加奈子のお父さんの末裔やろかぁ~? 加奈子に出会ったのはお盆だし、そんなことがあっても不思議ではない気もするなあ・・・》

 自分なりの決着に満足した伸介は、到着したバスに迷うことなく乗り込んだ。

 

        若さ故其々好きなことを言い

        勝手な恋に酔い痴れるかも

熟年ブロガー哀歌(3)・・・R2.4.6①

               その3

 

 宇宙船の中では、先ほど大林盛夫を連れ込んだのり(勿論、宇宙人であるから、*#$&※???♭&%・・・・・等、わけが分からないながら立派な名前が付いているものと思われるが、便宜上以下でも地球で使っていた名前である浅田のりを用いることにする)が、きのこのような姿に変わっていた。そしてのりに、

「おい、のり。今度は大分掛かったなあ。えらい手間を掛けたけど、この冴えないオヤジがそんなに価値のある奴なのかぁ~?」

 と別のきのこのような姿をした宇宙人が話し掛けた。

「分からないけど、若い子よりは味があるんじゃないかと思ったの。それに、熟年と言われる年になっても、他愛無い夢を追い掛けて、大人になり切れていないところが面白いと思わない? 地球人を研究する材料としては悪くない気がするわぁ~。ところで、はるの方はどうなのぉ?」

 はると呼ばれた宇宙人は頭を反らせながら自慢げに、「俺かぁ~? ほら、のりがオヤジ1人に掛かっている間に10人のオバちゃんを集めて来たよぉ~」

「凄い!」

「ハハハ。この頃はオヤジよりオバちゃんの方が凄いからなあ。流行りの韓流スターとマツケンに似せて迫ったら直ぐに付いて来たよぉ~。ハハハハハ」

 何もない大きな部屋で目を覚ました大林は、頭がはっきりして来るに連れ、目の前にきのこのような形をした生物がフラフラ、クネクネ動いているし、自分のように寝かされている熟年男女が何人もいることに気付いた。

 そのとき、小さな目を一杯に開いて驚きを禁じえない大林の頭の中に、直接話し掛ける声があった。

「どうやら気が付いたようねえ!?」

 誰も喋っていないようなのに、きのこ状の生物の方から聞こえて来るような気がする。

《ひょっとして、この怪しげな生物があの可愛いかったのりなのかぁ!?》

《そうよぉ~。私がのりよぉ! 可愛くなくてご免なさい・・・》

「えっ、私が心の中で思ったことまで聞こえているのかぁ!?」

《そう。だから、別に声に出さなくてもいいのよぉ》

「でも、我々人間、いや地球人は声に出してこそ言った気がするんだぁ!」

《だったらオジサンは声に出せばいいわぁ~」

「でも、声に出さなくても、思ったことが分かってしまうんだ・・・」

《そうよ。今、私のことを怖がっているでしょう?》
「いや、そんなことないよ・・・」

《ウフッ。嘘を吐いても駄目よぉ。でも、怖がらないでも大丈夫。直ぐ慣れるわよぉ。それに慣れると、その方が話が早いし、ずっと楽よぉ》

「そうかなあ? それでは喧嘩になってしまうよぉ~。我々は声に出してこそ言った気がするし、責任を感じる。逆に心で思っているだけのことは他の人には分からないから自由を保たれる。それに、相手が何を思っているか想像する楽しみがあるんだぁ~」

《確かに、そんな面もあるかも知れない・・・。まあ、あなたたちの色んな面を知りたいから、ここに来て貰ったのよぉ~》

「そんなこと、勝手にされても困るよぉ! それに、ここは一体何処なんだぁ!?

《まあまあ、そんなに怒らないでぇ。それに、怖がらなくてもいいわぁ~。用事が済んだら無事に地球に帰してあげるからぁ・・・」

「えっ!? そしたらここは地球ではないのかぁ?」

《そうよ。ここは宇宙ステーションの中。そうね。あなたたちが今度見付けたと言って騒いでいる第10惑星の衛星があるでしょう? ここがそうよ。勿論、作り物だけど、あなたたちの科学の程度ではそこまでは分からないようね》

「でも、一体何の為にぃ?」

《それはさっきも言ったように、私たちはあなたたち地球人のことをもっともっと知りたいのぉ。でも若い子らでは、前に一度研究しようとしてみたんだけどぉ、軽くて、浅くて、ちっとも面白くない・・・。だから今回は熟年と言われるあなたたちに来て貰ったのよぉ》

「それで、一体何をすればいいんだぁ!? 話をするだけでいいのかぁ~?」

《いえ、それだけではなく、実験に参加して貰おうとも考えているのぉ。ところで、あなたの得意なことはどんなことかしらぁ?》

 聞かれて大林ははたと困った。

《これまで俺は一体何をして来たのだろう!? 流されるままに大学を出て、しがないサラリーマンをし、結婚して子育てをした。でも、ただ日々を生きて来ただけのような気がする。この頃漸く書くことに興味を持ち出したぐらいか・・・》

「そうだなあ。ブログなら少し出来るけどぉ・・・」

《そうねぇ。平々凡々と暮らして来たあなただけどぉ、最近漸く書くことに目覚めたのねぇ? メールでもそんな感じがしたわぁ~」

「そうかぁ~。思ったことは直ぐに伝わってしまうんだったなあ!?」

《そうよぉ! さっきも言ったでしょ? それであなたにして貰うことだけど、そうね、あなたにはこの宇宙ステーションでの生活を発信して、もう少し地球の方々に来て貰えるように誘う役目をして頂きましょう》

「そ、そんな酷いことは出来ないよぉ!」

《酷いことじゃないわぁ~。今度はあなたを連れて来たようなことはしない。ここの好さを知らせて、自分から来て貰おうと思っているのぉ~。だから、あなたは何も嘘を書く必要はない。ここでの生活、見えるもの等をそのまま発信すればいいのぉ》

「ふぅ~ん。それでいいのか。それなら出来るかも知れないなあ・・・」

 

 その日、落ち着いてから、大林は早速宇宙からのブログを発信し始めた

 

            宇宙通信

皆さん、こんにちは。私は大林盛夫、53歳。地球にいたらただの中年オヤジですが、ひょんなことから、今、宇宙ステーションの中にいます。
場所は冥王星より未だ大分外にある惑星の直ぐ近くで、今、地球では第10惑星に衛星を発見か!? と騒がれているのがこの宇宙ステーションです。
未だわけが分かりませんが、奇妙な体験ですので、これから皆さんに向かって時々発信したいと思っています。
たとえば、ここから見える第10惑星の大きさ、美しさなんて地球からは想像が付かないでしょう? それに太陽の何と小さなこと・・・。

 

 その後も大林は日に1回(勿論、地球における1日に1回ということ)、宇宙通信を発信した。地球にいるときと違って珍しいことばかりだから、書き出すと、幾らでも書きたいことが湧いて来るので、少しも困らなかった。

 そして宇宙人たちは大林が好印象を持つように、ブログ発信すること以外には特に仕事を課さず、大きな窓の付いた広い書斎を与えて最新の機器を使わせる、毎食ご馳走を出す、のりがまた地球で見た若くて可愛い娘の姿に変わり、話し相手になる等、思い付く限りの優遇をした。

 単純なもので、大林の書くブログは次第に好意的なものに変わって行く。

 

            宇宙通信

今日も第10惑星に映える朝日が美しい窓辺でこれを書いています。さて、私の生まれ故郷である日本がある地球の北半球ではそろそろ冬が近いのでしょうか? ここではそんな季節感がないのが残念です。
何しろ、太陽の引力によって他の惑星と同じように運動する第10惑星が太陽を1周するのに掛かる時間は地球で言う600年! 地球の人間からすれば殆んど同じ位置にいるようなものです。その第10惑星の周りを回ることによる変化はありますが、それは1日の変化のようなものです。だから、季節の変化というようなものはここにいれば殆んど感じることが出来ないのです。
でも、地球では考えられない最新の設備が整ったここでの生活は非常に快適です。いや、この心地好さは言葉では表わせません。
当たり前ですね。地球には例がないから、例えようがないのです。言葉にしても空滑りするだけでしょう。
ところで、さっき第10惑星の公転が600年も掛かるから、我々地球人には季節の変化を感じることが出来ないと書きましたが、実は最近いい話を聞きました。
これまでに何回か、ここにいる宇宙人たちの文明が我々と比べ物にならないほど高度に発達していると書いて来たように、宇宙飛行に関する技術にも目を見張るものがあります。私がここにいて、こんなブログを発信しているのもその証拠の一つですね。その恩恵を今地球上でこれを読んでいる皆さんにも分けてあげようという話が出ています。どうやら、地球人の何人かに宇宙飛行のモニターになって貰おうということらしいのです。もし興味があるようでしたら連絡をください。

 

 反響は想像以上に大きかった。

 直ぐにでもモニターになりたいという者。どんな飛行をするのか? 安全性はどうか? 等、もう少し具体的なデータを知らせて欲しいという者。実際に何処かに行った写真やビデオを見せて欲しいという者。等々。

 その声を受けて大林はまた書いた。

 

            宇宙通信

思いの外の反響にびっくりしています。

安全性について心配しているあなた、私がここにいるのがその証拠、と言っても未だ不安なようですから、写真とビデオを添付しておきましたのでご覧下さい(写真、ビデオは略)。
それから、地球からここまで乗って来た宇宙船はあっと言う間に着いたようですが、事情があって気を失っていた私には分かりません。聞いてみると光を超える速さも可能だとのことです。だから、普通の速さなら300年以上掛かる距離でも大して時間を掛けずに旅することが出来るから地球人でも観測可能なのです。
また、宇宙船の中の時間は、相対性理論を習ったことがある人ならご存知のように、非常に短くすることも可能です。それも合わせて、外の時間で長い間掛けて起こっている変化を短時間の間に観測することが出来るのです。
さあ、あなたも勇気を持ってモニター隊に参加してみませんか!?

 

        怪しげな誘いに乗れば一瞬で

        宇宙の果てに飛び立てるかも 

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これを書いたのは15年以上前であるから、2005以前で、その頃は冥王星が第9惑星であった。

 

 因みに、冥王星の公転周期は約248年で、冥王星と同じぐらいの大きさで第10惑星か!? と言われていたエリスの公転周期は約558年だそうな。

 

 太陽系自体はまだまだ遠くまで広がっており、半径1.5光年なんてデータもあった。

熟年ブロガー哀歌(2)・・・R2.4.5③

               その2

 

《あ~あっ、何かブログに書きたくなるような話の種はないかなあ!? 行き帰りに見聞きすることなんてたかが知れているし、職場なんてもっと狭い世界だもんなあ・・・》

 書けそうなことが中々浮かばず、困り果てた大林は帰り道でまたスポーツ新聞を買い、ざっと目を走らせた。

《うん、何々。私は若い男の子なんて頼りなくて嫌! 話していても少しも面白くありません。人生経験豊かなオジサン、私とメール交換しませんか? 夢見る乙女より。ってかぁ~!? 確かに、話して味があるのは俺たち熟年だけど、本当かなあ、これ? この前はまんまと騙されて、思い切りいい加減な『熟年ブロガー養成講座』なんか売り付けられちゃったし・・・。でもまあ、もしかしたらこれで話の種が出来るかも知れない。よし、騙されたと思って、もう一度チャレンジしてみるかぁ~!?》

 夕食後暫らくして書斎に入った大林盛夫は携帯電話機を取り出し、早速書いてあるアドレスにメールを送ってみることにした。

 

件名 はじめまして

はじめまして。恥ずかしながら、お言葉に甘えてメールをさせて貰います。私は今年で53歳になったオジサンです。名前は大林盛夫と言い、地元の中小企業で長いことしがないサラリーマンをやっています。趣味は下手な歌を詠んだり、日記を付けたりすることで、たまには小説も書きます。それと、韓国ドラマが大好きで、ときどきウルウルしながら見ています。よかったら君のことを紹介して下さい。


 手紙を書くことに慣れて来た大森は、何だか短いような気もしたが、メールは短めにした方がいい、とテレビでお笑いさんが言っていたことを思い出し、適当なところで抑えた。

「まあ、返事が来るとしても、直ぐには来ないやろぉ~!?」

 期待も抑えながら、待つとはなしに待っていると、30分ほどしたとき、携帯電話機がブルブルと震え出した。

「あっ、本当だったんだ・・・。意外と早いなあ。フフフッ」

 

件名 こちらこそ、はじめまして

早速メールありがとう。私は23歳で、名前は浅田のりと言います。のりと呼んで下さい。地元の中小企業でOLをしています。オジサンとよく似た地味な日常かも知れませんね。趣味は陶芸とお茶です。渋いでしょ!? 韓国ドラマ、私も好きですよ。オジサンのこと、もりおと呼んでいいですか? よかったらまたメール下さい。

 

《23歳かぁ~! 娘の香音より若いなあ。中々好さそうな子じゃないかぁ~!? でも、もりおにのりかぁ~。何だか照れ臭いなあ・・・。フフッ~》

 同じようなことを返して来ただけなのに、相手が若い女の子だと思うと、直ぐに好意的に見ようとしてしまう。要するに疑うことを恥ずかしく思っている、昔気質の単純な中年オヤジであった。

 気を好くした大林は、のりのことをもっと知りたくなり、またメールを発信した。


件名 ありがとう、のり

のりちゃん、若いのに私のようなオジサンのメールの相手をしてくれて、どうもありがとう。OLさんでしたか。私と同じようなものですね? 何だか緊張しますが、親近感も湧いて来ました。と言っても、それは私だけのことかなあ?
ところで、どちらの方にお住まいですか。私は大阪府大東市というところに住んでいます。ゴチャゴチャした町ですが、近くに山があって、悪くないところですよ。


件名 ありがとう、もりお

こちらこそありがとうございます。初めから言っているように、私は若い子と話しても少しも面白くないから、経験豊かなオジサンとメールを交換したかったのです。
それから、同じようだなんて畏れ多い。大先輩として、また相談に乗って下さいね。
ところで、大東市って野崎観音があるところですよね? 私は愛知県に住んでいますが、大学のときに偶然、その辺りの出身の友達がいて、遊びに行ったことがあります。私の住んでいるところは愛知県の安城市で、普段は田んぼの広がる、静かでのんびりとしたところです。普段はと言うのは、先日まで愛知万博が開かれていたからで、そのときは流石に彼方此方大賑わいでした。

 

《う~ん、ほんと、好さそうな子だなあ・・・》

 結晶作用もあり、益々そのように思えて来たが、それ以上送ってしつこがられるのを怖れ、大林は逸る気持ちを抑えた。

《うん! 適当なところで満足しておかなければ・・・》

 そして大林は心地好い眠りに就いた。

 

 翌日も夕食後、書斎から発信した。


件名 朝夕涼しくなりましたね

朝夕めっきり涼しくなり、段々秋めいて来ましたね? 今年は殊の外残暑が厳しかったのですが、10月半ばともなると、流石に過ごし易くなって来ました。
ところで、大盛況の内に愛知万博が終わり3週間、其方の様子はどうですか?

 

 今度は30分経っても、1時間経っても返信がやって来ない。

《一体どうしたんんやろやぉ~!? やっぱり、しつこいから嫌われたのかなあ?》

 心配で仕方なくなった大林は10分毎に、暫らく経つと5分毎に携帯電話機の着信ランプを確かめる。

 それでも着信が無く、諦めて寝床に就いたとき、携帯電話機が漸くブルブル震え出した。

《あっ、やっと来た!?》

 大林は取るものも取り敢えず、携帯電話機を手にした。

 妻の侑子とは寝室を別にしているから、そんな醜態を見られる怖れはない。


件名 朝夕涼しくなりました。

返事が遅くなってすみません。それに、夜遅くすみません。
此方も朝夕大分涼しくなりました。愛知万博が終わり、祭りの後の静けさといった感じです。この抜けたような感じ、私は嫌いではありません。ただの静けさではなくて、どこか充実感があり、自信も窺えるから、むしろ好きかも知れません。

 

《う~ん、若いのに似合わず、中々ものの見方が深いなあ・・・》

 待たされた分、返事を貰ったのが余計に嬉しく、大林は折り返し直ぐに発信せずにはいられなかった。

 

件名 行ってみたいな

そんなに充実したところなら、もう一度愛知県に行ってみたくなりました。愛知万博には、行くには行ったのですが、大勢の人に圧倒されて、殆んど見ることが出来ませんでした。だから、今度はのんびりと観光してみたいですね。大変厚かましいお願いですが、時間を取れる時で結構ですので、案内して頂けないでしょうか?

 

 発信してから大林は、普段からは考えられない自分の大胆さに驚いていた。そして、そんなエネルギーを与えてくれたメールというアイテム、それにのりに、改めて惹かれるものを感じていた。

《でも、いきなり迫られて、彼女、怒り出さないかなあ? これでは頭に血が上った若いお兄ちゃんとちっとも変わらないかも知れないなあ。フフッ》

 のりに強く惹かれるものを感じるからこそ大林はついつい卑下してしまう。


件名 ぜひ来てください!

どうぞどうぞ。OLと言っても派遣なので都合は幾らでも付けられます。遠慮なく来てください。決まったら日程をお知らせください。

 

《来たぁ~!》

 返事は驚くほど直ぐに来た。大林はもう天にも昇る気持ちであった。

 それから暫らく寝られず、翌朝は起き辛かったが、気持ちの高揚はそ職場に着いてからも続いていた。そして、その日大林は上司にどんな無茶を言われても、会議でどんなに責め立てられてもにこにことしていたので、周りの皆から気持ち悪がられていた。

 

 それからも毎日何度となくメールの遣り取りを楽しみ、週末の連休、幸い、愛知県で適当な展示商談会があったので、会社と妻の侑子にはその為に行くと偽り、喜び勇んで出発した。

 と言ってもけちな大林のこと、勿論新幹線ではなく近鉄電車の方を選んだ。

 どうやら今回の場合、それが幸いしたらしい。のんびりとした景色の中でゆったりとした時間を持て、逸る気持ちを宥めてくれたのだ。

《そうやなあ!? いい年をしてあんまりギラギラした目をしていたら嫌われるしなあ・・・。あくまで愛知県を観光する為に来たんやぁ。そこにたまたまのりがいた。そうやぁ。それだけのことなんやぁ~ぁ》

 そう自分自身に思い込ませようとする大林の目は既にキラキラと輝いていた。

 この辺りが熟年の特権で、気持ちは十分にギラギラしていても、目までギラギラ輝かせるほどのエネルギーは既にないから、少しは落ち着いてキラキラぐらいに見えるのである。むしろ華やぎと映っていた。

 それはまあともかく、胸の高鳴りを何とか抑えて待ち合わせの場所に行ってみると、既にそれらしい女性がいた。

《ええと、年は23歳で、確か三省堂の手提げ袋とブルーの日傘を持っているんだったな・・・。あっ、あの人だ! 可愛い!! 本当だったんだぁ~!? もしかしたら怖いお兄さんとかオカマと言うこともあり得ると心配になったこともあったけど、嘘じゃなかったんだぁ・・・》

 落ち合った後暫らく名古屋城テレビ塔、名古屋港水俗館、名古屋ドーム等、名古屋市内の有名なところを案内され、夢見心地になっている大林にのりが優しく声を掛けた。

「お疲れになったでしょう?」

 大林としてはここで素直に答えるわけには行かない。熟年としての矜持が許さなかった。

「いえ、そんなことは・・・」

 しかし、身体は至極正直である。何でもない出っ張りに思わず蹴躓き、よろよろとしてしまった。

 それでも大林は精一杯の虚勢を張り、磊落振って、

「ハハハ。いや、恥ずかしいところを見られてしまったなあ。いい格好をするものではないですね!? やっぱり疲れていたようだ。ハハハハハ」

 のりは軽やかに受け止め、気を利かせる。

「ウフッ。私の前で無理しなくてもいいですよ。それじゃあ、少し休憩しましょう。ちょうど私もコーヒーでも飲みたかったところだし・・・」

 流し目で誘って返事を待たずに、のりは足早にスタスタ歩き出した。

《おっ、一体何処に連れて行ってくれるのかな!? どうやら恥ずかしいらしいなあ》

 大林はあらぬ期待をし、必死になって付いて行くと、そこは区画整理され、歯抜けのようになった街で、ポツンポツンと数軒ある中の一軒、地味な平屋に案内された。

「ふぅ~、ふぅ~、のりちゃん、若いだけあって流石に足が速いなあ・・・。ここはのりちゃんの家、じゃないなあ!? のりちゃん、安城市に住んでいると言っていたから・・・。こんなところで喫茶店??」

「ウフッ。心配しなくてもいいですよ。ここはのんびりと夢を見られるところですから・・・。そんなに怖がらないで、さあどうぞぉ!」

 そう言われて、それにここまで来て入らなければ男が廃る。

 なんて大林は小心者に似合わぬ覚悟を決めて入り、静かにドアを閉めた。

 その途端にプシューと言う音がしたかと思う間もなく、大林は気を失った。そして、期待通りに(?)、天まで昇ってしまったのであった。

 と言っても別に死んだわけではない。地味な建物はカモフラージュのようで、どうやらそれは宇宙船の入り口へと繋がっていたようだ・・・。 

 

        怪しげな誘いに乗って来てみれば

        不思議な世界繋がるのかも

人は見かけが9割!?(1)・・・R2.4.5②

               その1

 

 藤沢慎二は今年65歳になる。もうすっかりオジンである。自分でも日々それを感じている。

 ある冬の朝、急いで急坂を駆け上がろうとして、ビクン!

 それだけで脹脛の筋肉が悲鳴を上げ、切れ掛かったことがある。

 それがもう2年前のことになるか?

 ある夏の朝、約束の時間が迫り、エアコンも入れないままに大急ぎでブログを書いていると、頭の中、そして目の前の景色が急に回り出して、止まらなくなった。

 それが昨年のことであった。

 そんなことがあってからは、公私関係なく急ぐことは止め、信号が点滅し出しても走らず、次の青を待つようになった。

 それでもまだ時折目が回ることがある。

 最近になっていよいよスローな生き方をするようになった。

 ただでさえ短くなった残り時間が更に少なくなった気分である。

 それでも慎二の子の内、1人はまだ学校に通っているので、少なくともあと1年は働く気でいる。

 今務めているのは以前と変わらず、公的機関である心霊科学研究所であり、新たに設けられた東部大阪第2分室に配属されている。それらしい名称であるが、窓際族が増えたこの機関の収容所のようなものであった。東大阪市にある高層マンションの1戸を借り切って研究員と称する職員が3人、それとコピー、掃除、事務作業等、何でもしてくれる雑用係の事務員、依田絵美里の4人所帯であった。

 研究員は慎二の他に、30代の正木省吾、40代の井口清隆がいた。

 正木は慎二と同じ国立浪花大学の工学部オーラ応用工学科を出ており、殆んど給料と変わらないぐらい投資で稼いでいるので、皆からはファンドさんと呼ばれていた。

 井口は地方の公立大学の文学部を出ており、心霊科学研究所では殆んど評価されない学科だったので、出身学科の話題に触れることはなかった。それでも研究所に入ることが出来たのは、学生時代から趣味で取り組んでいるネットでの発信に先進性が感じられたからであった。今は小遣い稼ぎにネットを生かしてメルカリで盛んに売り買いしていたので、皆からはメルカリさんと呼ばれていた。

 因みに慎二は自宅でも職場でも暇さえあれば日記風のブログを書いて発信し、日々機嫌よく過ごしていたので、皆からはブログさんと呼ばれていた。

 慎二には2つ違いの兄、浩一がいた。勉強はあまり出来なかったが、要領がよく、持てた。伝統のある中堅の公立高校、大阪府立守口工業高校を出て直ぐに近くにある大企業、杉上電器産業に入った。定年まで勤め上げ、幸い子どもが皆独立していたので、そのまま退職し、寝屋川市にある小振りな3階建て住宅に住んでいる。退職してからは年金生活であるが、多彩な趣味を楽しみ、退屈することが無い。現在独身ではあるが、寂しい思いは全くしていないようであった。

 

 少し前、2月中旬の或る日のこと、慎二は浩一を訪ねて寝屋川市まで来ていた。浩一が退職してからは1か月に1度ぐらいの割合で会いに来て、昼食を共にするようにしている。もう慎二のことを半分ぐらい忘れたような母親の祥子が近くの特養に入っており、その面会も兼ねている。

 祥子は相変わらず慎二を思い出すのに少し掛かるようであった。

 目を凝らしながら怪訝な顔をして、

「あれっ、誰っ!? 浩一かぁ~?」

 ちょっと戸惑った慎二は、祥子に自分から思い出して貰いたくて、

「違うでぇ~」
 その後暫らく黙り、直ぐに名前を出さないでいると、

「誰っ!? 誰やいなぁ~? もしかして俊太かぁ~?」

 甥の名前を言うので、焦れて来た慎二は声を大きくして殊更にゆっくり、

「慎二やでぇ~。し、ん、じ・・・」

 何とか聞こえたのか? 祥子はちょっと安心した顔になり、横にいる浩一と比べて笑いながら、

「何や、慎二かいなぁ~。浩一の方が若く見えるなあ・・・」

 祥子は、子どもの頃から浩一の方が好みで、実際に浩一は年齢より大分若く見えた。慎二にすれば余計なお世話だと思っているが、それだけ自分が頑張っている証拠だとも思っていた。ただ2人の年齢逆転現象は若い頃からずっとそうで、慎二は以前勤めていた受験関係の出版社、若草教育出版でも、入社して直ぐ女子社員達に35歳に見えると言われていた。

 それはまあともかく、一通り確認が終わって安心した後、祥子は家族、親戚の年、住所等を言って行き、記憶を確かめている。

 そんな遣り取りを30分ほどした後、慎二は浩一と2人、京阪の寝屋川市駅に向かった。駅の近くにある飲食店でゆっくり昼食を共にし、ぼちぼちとお互いの近況を確かめ合う為であった。

 この日は久し振りにお好み焼き屋を選び、慎二は豚玉のモダンとドリンクバー、それにデザートに抹茶パフェも頼んだ。普段の昼食、特に勤務日はそんなに食べる方でもないが、ゆっくり出来る時はあれもこれもと頼みたくなる。

 浩一は野菜炒めと生ビールであった。飲む方が好きなのと、あまり動かなくなっているので、食べる量は自然と減っていた。慎二が注文するものを観て何時も感心するように言う。

「ほんま、よう食べるなあ。ほんま、やっぱり働いてたら違うなあ・・・」

「まあなあ・・・。ところで兄貴はどう? 相変わらず煙草は吸うてるんかぁ~?」

 慎二が心配するように聴くと、

「いや、止めてるでぇ~。もう2週間になるかなあ。コロナにも悪い言うしなあ・・・」

 そう言って浩一はちょっと寂しそうな顔をする。

 そんな遣り取りを一通りした後、珍しく政治の話になった。

「どう? この頃吉村府知事の評判はぁ~?」

 慎二は生活費に関わる為に多少は気になる存在であった。

「ええでぇ~。若いのにようやってると思うわぁ~」

 浩一にしては珍しく褒める。

 以前、選挙を機に全国的な人気者になり始めた小泉進次郎の話が出たとき、浩一は迷うことなく、

「あれはあかん! 一見弁舌滑らかで爽やかそうな印象やけど、恰好ばっかりやぁ~。中身が何もあらへん・・・」

 けちょんけちょんであった。

 それを聴いていた慎二は、そこまでとは思わず、

《まあまあ見映えが好いし、当意即妙の弁舌が爽やかであるから、庶民に受けるだろうなあ》

 とは思っていた。大体において慎二は、見映え、押し出しと言ったものに弱く、いわゆるイケメンには直ぐに惹かれる傾向がある。

 それはまあともかく、暫らく経ち、国政の重要な役目について露出度が一気に高まった小泉進次郎の評判は必ずしも芳しくなく、浩一が言っていたほどではなくとも、それに近いようなことも言われ始めた。

 そんなこともあり、慎二は浩一の人を見る目を多少見直していた。

 そして今回は自分の印象と一致していることに慎二はちょっと安心するような、嬉しいような気がしていた。

 

 それから1か月半。新型コロナウイルス騒ぎは益々大きくなっている。そして国政、地方自治に限らず、益々代表者が前に出るようになり、顔が見えるようになって来た

 当然のように若くて見栄えが好く、分かり易い発言をする大阪府の吉村知事は人気を上げている。

 慎二は毎晩、韓国ドラマを観た後、ネット、テレビで首相、各都道府県知事の記者会見等をチェックするのが日課となっていた。

 

        人は先ず見た目に惹かれ其の次に

        視線言い方気になるのかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これは午前中に買い物がてらの散歩をしている途中で浮かんで来たことをもとに、少し膨らませてみたものである。

 

 今の私に関係することを、勿論そのままではないが、かなりちりばめてある。

 

 これ以上膨らむかどうかは分からない。

 

 ともかく始めてみた感じだなあ。フフッ。

 

 小泉進次郎氏に吉村洋文大阪府知事のことについては庶民の印象で、本当かどうかは分からない。

 

 ただ、今は愛情、友情等、庶民同士の関係だけではなく、政治家の傾向、能力等についても炙り出される有事であるようだ。

 

 そんなことにも注目して行きたい。

 

 ただ、何時の場合も大事なことは、本物よりも、本物らしきものに人は惹かれる傾向にある、と言うことである。

 

        人はつい本物らしきもの選び

        本物逃しがちになるかも