sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

生まれ変われるものなら・・・R2.10.13②

 一部の動物に付いて、産まれて最初に目にしたものを親だと思い込み、その後を付いて行くと言うことはよく耳にすることである。

 それとよく似たこととして、死ぬ間際に見たり、聞いたりしたことがその後の人生?(いや、霊性か?)に関係することも、知っている人にはよく知られていることらしい。

 

        死ぬ間際目にしたことが焼き付いて

        次の命に宿るものかも

 

 海野万太はそんな魂の乗り移りに付いて強い興味を持っていて、死病に取り付かれ、余命が半年と宣告されたとき、妻の華麗を伴って、沖縄県久米島に移り住んだ。

 テレビで視た、人気(ひとけ)の少なそうで綺麗な海が甚く気に入ったのである。それに、小さな頃から名前として馴染んで来た万太からの連想でマンタにも憧れていた。

 学校を出てそれなりの職業に就き、ある程度満足出来るだけの収入も得た。中国人にせよ、主な取引先のある中国で若くて綺麗な妻も得た。振り返ってみれば、我が人生に大した不満はないのであるが、今一自由は無かったような気もする。

 いや、別に誰かから制限を受けていたわけではない。自由を謳歌する勇気が出なかったのである。だから、次はせめて母なる海の懐に抱かれて、マンタのように悠然と泳ぎ回ってみたかった。

『それには何時も観ている海遊館の水槽では困るんやぁ~。狭苦しいし、ジンベイザメマンボウなど、気の合わない奴らが一杯いるから・・・』

 勿論、勝手な思い込みかも知れないが、万太は思い入れたっぷりにじっくりと観た感じから、きっとそうだと信じているのである。

 そう言うわけで、万太は華麗と共に終(ついえ)の住処を久米島に求めてやって来た。

 

 時間の流れるのは早いものである。華麗と一緒に綺麗な海を眺め、美味しいものを食べて、好い空気を吸っている内に、半年があっと言う間に過ぎた。

 そしていよいよ駄目かと思われたとき、万太は華麗に、途切れ途切れの弱々しい声で、

「た、頼む。わしを約束していた場所に連れて行っておくれ! お、お迎えが、とうとうやって来たようや・・・」

 その声を聴き、華麗はおろおろしながらも、わざわざ遠く中国まで自分を迎えに来てくれた最愛の夫である万太の最後の頼みであるから、とばかりに気力を振り絞ってモーターボートを手配した。そして予め考えてあった約束のポイントまで行ってもらうことにした。

 

        約束の碧(みどり)の海に戯れる

        マンタと共に泳ぎたいかも

 

 約束の海は穏やかであった。若い頃から日中を行き来して忙しかった万太の生活からは考えられないぐらい静かで充実していた。

『二十歳そこそこのときに中国から連れて来た華麗も、若い若いと思っている内にもう50になる。この先日本で暮らして行くのは大変やろうから、何処へ行っても好い、と言ってある。財産もそれなりには遺してある。もう思い残すことはない。それに、あんまり華麗の心配ばかりしていると、華麗に乗り移ってしまうから、それでは重過ぎて可哀想や・・・』

 最期にまでそんな寒い駄洒落を考えてしまう自分が哀しく、頭を強く振り払ったら、急激に意識がぼやけて来た。

「い、ま、や! ・・・」

 気持ちの強さはともかく、弱々しい万太の声を漸く聴き取った華麗は、ちょうど辺りに数匹のマンタが泳いで来たことを知り、その内の何れかに乗り移れば好いかと素早く決断した。そして自分達が万太の目に入らないようにと思い、案内人兼操縦士の鮫田心に目配せし、ボートの反対側に寄った。

 それがいけなかったようである。ボートは思っていたよりも小さく、軽かった所為で、大きく傾(かし)いでしまったのだ。そして万太の視線も大きく逸れて、そこでこと切れた・・・。

 

 それから暫らくして、華麗は海岸の方から夜毎、海亀が哀し気に咆哮する声が聞こえて来るような気がしてならない。

『嗚呼、今日も産卵にやって来たのね。でも、もしかしたらボートが大きく傾いだあのとき、あの人の視線の先には海亀がいたのかも知れない・・・』

 そう思うと、中々久米島を離れられなかった。

 

 その頃、海遊館の何階分もを貫いた巨大な水槽の中では、お互いに仲の悪かったはずのジンベイザメがマンタやマンボウ、それに海亀達に目配せし、見物客が何処からでも見えるようにと、彼方此方に分かれて悠然と泳ぎ始めた。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これもさっきアップした「ニートパソコン」と同じ頃、つまり15年ぐらい前に書いた与太話である。

 その頃どうも霊、脳、AI、ロボット等のことが頭に浮かんで来て、創作にもそれを取り入れたくなっていたようである。