sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

ガラス細工・・・R2.3.24①

 本当の私、運命の愛、究極の純愛、至福の涙と言った甘い幻想に憧れている海野良造は韓流が大好きです。少ない小遣いの中から何とかレンタル料を捻出し、暇があれば韓国ドラマや韓国映画のビデオを楽しんでいます。

冬のソナタ、嗚呼、何と切ない愛なんだろう。ウルウル。夏の香り、嗚呼、何と美しい2人。美しき日々、嗚呼、何と美しい涙。嗚呼、韓国ドラマって本当に面白いなあ。シミジミ》

 何本も掛け持ちで観て、よく混乱しないものです。

 いや、筋など混乱しても構わないのかも知れません。雰囲気に酔っているのでしょう。

 海野良造は流れに乗り遅れ、40歳を前にしていまだに本物の恋を知りません。研究室の教授の温情で何とか大学を出して貰い、世話をして貰った地方の出版社に勤め、日々無難に遣り過ごしている内に、何となく時間が経ってしまったのです。だから、恋だけではなく、仕事の面白さ、自己実現等、人生の醍醐味を知らないと言ってもいいでしょう。

 その所為でしょうか? 何だか物足りなかったのです。中途半端だったのです。
何処かにあるはずの本当の私。頑張り切れなくて、余所見して、ついつい手近なところで妥協した為、自分の限界を見ない儘、此処まで来てしまった。確かに楽だったけど、常に不完全燃焼感が付いて回る。

 若い頃はそれでも、我が国のドラマや映画にだって、心洗われるような純愛が溢れていました。小説やコミックでもそうです。もう現実にはあまり見られなくなり始めていましたが、海野良造はバーチャルな世界に酔い、夢を見ては心を慰めていました。

 でもその内に、我が国では創作の世界が奇異を衒うようになり、現実以上の乱れた世界を描き出し、現実がそれに引き摺られるようになると、もういけません。何も観る気が起こらなくなり、また読む気がしなくなりました。退屈な日々の始まりです。

 それならば、仕事に打ち込むなり、趣味に打ち込むなり、方向転換すればよかったのかも知れませんが、元々無趣味で、仕事も勧められるままに勤め、何とか遣り過ごして来ただけですから、今更熱くはなれません。

 そんなときに出会ったのが、韓国ドラマや韓国映画でした。
 初めは我が国とは異質な熱さ、濃さに戸惑い、画面の上端にマイクが出ていたり、カメラのレンズに反射した車のヘッドライトが入っていたり、遠くに役者を吊り上げるクレーンが見えていたり、等々、大雑把な神経に呆れました。

 しかし、人との関係に対する真摯な態度が見えて来るに連れ、何か我が国が失って来たものを見せられているような懐かしい気持ちになって来たのです。

 でも、海野良造は頭の何処かで分かっていました。

《韓国だって、現実には援助交際や不倫が社会問題となり、離婚率は我が国と変わらないらしい(今では追い抜かし、世界有数となっている!?)。急速な都会化に付いて行けず、戸惑っている人も多いのだろう。だからこそ、古きよき時代を美化したり、懐かしんだりする作品が作られるのだ。でも、そろそろ現実に迎合したり、現実以上に崩れた世界を描いたりした作品も現れ出したから、我が国のような腺病質な作品が中心になるのも時間の問題だろう。ドラマより一歩先を行く映画の世界では既に、夢を借りてしか純愛が表現し難くなって来ているのがその証拠ではないか!?》

 それでも、まだぎりぎりのところで鬩ぎ合っている儚さにも惹かれているのでした。

《当分は韓国ドラマで楽しめそうだけど、目ぼしい作品を見終わってしまったらどうしようかなあ? 台湾ドラマはポップだと言うし、前に見たベトナム辺りのドラマはもっと雰囲気が違う。昔の我が国にあった書生文化や比較的最近まで韓国に残っていた純愛主義、どちらも儒教文化だから、他では中々見られないような気がする・・・。いや、待てよ。イスラムの国では女性が外で顔を見せないところもあるなあ。もしかしたら、そんなところには純愛が残っているのだろうか?》

 千々に心を乱しながら、まだ目の前に残っている韓国ドラマに縋り付く。そんな状況が甚く気に入っているのでした。

 

 ここは地球から遥か彼方を飛行中の宇宙ステーションの操縦室。何だかキノコのような形をした頭でっかちの宇宙人が2人、大型ディスプレー付き操作卓の前で話し合っています。宇宙人A、Bとするのもあり来たりで味気ないから、シイタケ君、マツタケ君とでもしておきましょう。 

「でもさあ、地球人には繊細な奴がまだまだ多いんだなあ。現実を受け入れ難くて、映像を観て、夢と戯れているみたいだぞぉ~。何だかガラス細工のようだ」

 宇宙ステーションに送られて来た映像を観ながら、シイタケ君が言っています。

「僕には分からなくはないなあ。僕も惹かれるところがあるもの・・・」

 マツタケ君はしみじみと言っています。

「おいおい。俺たちには面倒な恋愛なんてないのに、どうしてさ?」

「いやぁ~、何処か懐かしいものがあるのだろうなあ、きっと。観ているだけで何だかむずむずするんだよぉ~」

「駄目だよ、変なことにはまってはぁ~。恋愛に煩わされることがなくなってから俺たちの世界は落ち着いたんだから・・・。」

「そりゃ分かるけどさぁ~、ときどき何だか淋しくもなるんだよねぇ~」

「ほれ、これでも浴びなっ!」

 マツタケ君はシイタケ君から全身に怪しいガスを浴びせられました。

 するとどうでしょう。マツタケ君は今言っていたことを全て忘れてしまったような穏やかな顔になりました。

「次は韓流とやらにはまっている地球人たちだな。エイ!」

 今度は地球に向かって怪しげな宇宙線らしきものを発射しました。

 するとどうでしょう。野山の彼方此方に人の気を惹かずにはおかない魅力的なキノコがニョキ、ニョキと顔を出し始めました。

 それから暫らくしてからのことです。地球でも純愛という言葉が更に昔のものとなり、韓流も以前ほど持て囃されなくなりましたとさ。どんとはれ。

 

        妖しげな茸の精に誘われて
        大人の愛に目覚めるのかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 例によって、これも10年以上前の暇なときに書いたものをざっと見直し、加筆訂正したものである。

 

 韓国ドラマに急激な変化を感じたころで、マジックマッシュルームだったか、怪しげなキノコのこともよく言われていたような気がする。

 

 以前の職場での同僚とメールで小話を遣り取りしていた頃でもあり、その同僚に受けたちょっとSFチックな仕立てともなっている。

 

 韓国ドラマを通しての韓国社会の急激な変化は今も強く感じている。

 

 近頃は、それが離婚率の増大だけではなく、世界有数の少子化の進行にも拍車を掛けているようである。

 

 人口的にもそうであるが、面積的に考えても、我が国よりコンパクトに纏まっている所為もあって、今後どういう変化を見せるのか? ちょっと注目しておくと好いのかも知れない。

 

        韓国に日本の次の一歩観て

        少しはましに変えて行くかも

 

 ただ、政治の後進性はどっこいどっこいの面もありそうで、その欲の底なし沼から如何に抜け出せるか!?

 

 それも今後の大きな問題になるのかも知れない。

 

 性欲だけではなく、其方の欲も、忘れさせるとまでは行かなくても、薄められるような光線が開発されないかと期待したいところであるが、そうなると生きる力も弱くなって、我が国が生き延びて行く為にはかえって好くない気もする。

 

 嗚呼、生きるって難しい!?

 

        生きるには欲ストレスも必要で

        淡白過ぎは滅ぶ元かも