sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

精霊たちの宴・・・R2.3.17④

「お~い、もう直ぐ地上だぞぉ~!」

 細かい雨粒に乗ってゆっくり降りて来たちょっと焦りの精霊が叫んでいる。

 名前はない。精霊同士のコミュニケーションや区別にそんな面倒なものは要らないからである。肉体のような邪魔者の壁は持たないし、その壁を通して繋がる為の言葉のようなものも当然必要がない。

 だから勿論、上で叫んだと言ったのは言葉のあやである。実際にはそういう意思を発したわけで、それは我々人類の感覚で言えば、発した瞬間に伝わっている。

 それから名前はないので、便宜上、上で叫んだ精霊を1号としておく。次に何らかの意思を発した精霊を2号、その次は精霊3号、・・・、とでもすれば、我々にも分かり易くなるだろう。

 嗚呼、面倒だ。音声を発したり、接触感覚、可視光等によって伝達したり、そんな物理的ローテクにしか確信を持てない我々人類、それも主流派を占める健常者の成人を納得させる説明をしようとすれば、なんと手間の掛かることか!?

 愚痴は止めよう。ここまで紙幅を費やして、話はまだ雨粒に乗って精霊が降りて来たところまで言えただけである。

 さて、ではどうしてそんなに速くもない雨粒に乗って精霊たちが天から降りて来るのか? 瞬時に意思を伝達出来るのならば、瞬時に降りて来て、何処にでも好きなところに行けば好いではないか!? どうしてそうはしないのだろう? 考えてみれば不思議に思えるかも知れない。

 実は我々人類がもっと少なかった頃、精霊たちは宇宙線、雷等に乗って瞬時に到達し、人類を含めて色々な生きとし生けるものに降臨し、宿っていたのである。それで特に問題はなかった。

 しかし、劇的な医学の発達、栄養状態の改善等、色々な要素が重なって、結果的に激増する人類。それでは拙くなって来たのである。環境を破壊するだけではなく、多くの仲間を短時間の内に死に追いやる悪魔の所業、すなわち禁止薬物、生物兵器核兵器等を開発する輩も続出するようになり、天の神様も考えさせられた。

「これではいけないなあ。これでは折角我々に似せて作り、愛をコンセプトにした営みを展開させて、共に幸せな気持ちに浸ろうとしたのに、何と苛々させることか!? 好いものを与えてやっても、これでは全く無駄だし、なまじ似ているだけに余計に腹が立つ・・・」

 なんて言ったかどうかは流石に分からないが、大いに反省し、念には念を入れて、上空から地上への落下物に乗るという超ローテクを採用したのである。精霊たちにとっては止まっているようにも思える雨粒に乗せて地上に降ろすことで、賢い選択をした後に宿り、愛に満ちた新たな生命を生み出そうというわけである。

「ほんとうだぁ。もうすぐ地上だねぇ~!? 何だかわくわくして来たわぁ~」

 精霊2号である。のんびりしていて、可愛い奴だ。

「さて、どうしよう? のんびりやって来たはいいが、一体誰に憑依すれば好いのやら。嗚呼、困ったものだ・・・」

 精霊3号である。不安症の精霊もいるようだなあ。フフッ。

 でも、精霊1号は動じない。

「フフッ。幾ら考えても無駄さ。乗り移ったら一瞬で放たれ、その精が無事選んで貰えるのかどうかは分からない・・・。外れたら、その先はまた天に召されてもう一度降りて来るところから始まるのか? それとも運好く(?)誰か別の精にでも宿れるのか? それは全く決まっていないから、結果的には無駄に選ばれていた昔とほとんど変わらないというわけさぁ。フフフッ」

「へぇ~っ・・・」

 精霊2号、3号、・・・、たちは口をあんぐり開けて(口があればの話である)、ただただ感心していた。

 その夜(とは限らないか? フフッ)、彼方此方で精霊たちの乗り移った精が放たれ、しばらく後には新たな生命が誕生したということである。どうか上手い選択がなされていますように・・・。

 

「父ちゃん。今日はちょっとエッチやなあ!? ファンタジーと言うより、おっちゃんの与太話やでぇ~、こんなん・・・」

「きつ、きつ、きつ~い」

「また古典的なギャグ言うてぇ~」

 病欠中で暇に任せてファンタジー付いている藤沢慎二と、その妻、晶子である。多少元気が出て来たのか? 慎二には珍しく、今回はちょっと大人っぽい(何処が?)、ファンタジーを書けた気がし、独り悦に入っていたのに、晶子は相変わらずきつい。

 しかし、言葉ほどきついわけではなく、照れ隠しであることは分かっている。ただでさえ慎二が書くものを読むは愛すべき伴侶の裸の精神を覗くようで気恥ずかしいのに、今回のようにちょっとエッチな雰囲気が漂っていると、それと慎二が長く休んでいるからずっと一緒に過ごしている所為もあって、真面目腐った顔で黙って読んでなんか居られないのである。

 慎二としては、きつく言われても満足であった。晶子から発散される羞恥の気にくすぐられ、久し振りに精霊たちを放ってみたくなった。

 

        暇過ぎて時に怪しいファンタジー

        書いては独り悦に入るかも