sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

交わらない心(3)・・・R元年11.20④

           第1章懐かしい声(その2)

 

 岸川友也は小学校の高学年の頃から付き合いのある悪友である。私が結婚するまでは家族ぐるみでよく付き合ってくれていたが、結婚を機に私が生駒地方に引っ越したことで先ず疎遠になり、数年前に岸川が勤めていた不動産屋を辞め、ドラッグストアを開店したから、全く付き合いがなくなっていた。

 勿論、悪友と言っても、気の弱い小市民である私たちに大したことが出来るわけもない。親や教師等、子どもに向かって真面目さを求める大人たちには決して喜ばれない猥雑な言動を隠れてこそこそ弄する。そんなしょうもないことに喜びを見出すギャングエイジを共にした友達と言う程度の意味である。

 しかし、相変らず口の悪い奴である。

「別に相変わらずやけどなあ。お前こそどうやねん?」

「俺の方はもうあかんわぁ~」

「あかんて、何がやねん?」

「何がって、子ども等も大きなったし、気が抜けてしもて、何もええことなんかあらへん」

「ふぅ~ん」

「ふぅ~んって、冷たいなあ。いっこも電話してけえへんし、お前、ほんまに冷たいわぁ~」

「フフフッ」

「ところで、どやねん? 正月、空いてるかぁ~?」

 私は暇があっても出歩きたい方ではなく、大抵の場合あんまり予定はない。

「三が日はあかんけど、4日からやったら空いてるでぇ~」

「ほな、4日に脇坂や真崎も呼んで、久し振りに飲みに行こうや。家にばっかり籠って内で、偶には出ておいで」

 岸川は大学を出て直ぐに、土建屋を営む父親の縁で地元の中堅不動産屋に勤め、一時は羽振りが好かったが、バブルの崩壊と共にかなり落ち込んだらしい。しかし、その時の貯えを元に数年前、大手ドラッグストアのチェーンに入り、まあまあ上手く行っているとは聞いている。

 脇坂正一は大手電機メーカーの営業部に勤め、人並み優れた容姿と、人当たりおよび反応の好さを武器に、順調に昇進しているらしい。もう何年も前から年収が1千万円を超えていると聞いていた。唯、最近は我が国全体の構造不況の影響で、収入がそんなには増えていないと言う。

 真崎紀夫は大学卒業と同時に公立中学校の教師になったから、受験関係の出版社から転職してある中堅事務所の職員になった私よりは多少収入が好いだろうが、私のところと同じく奥さんは専業主婦と聞くから、そんなに生活レベルは変わらないだろう。

 それにしても、学校を卒業してから友達のことを思い出すのに、職業、収入、生活レベルと言ったことが中心になるのは面白い。

 しかし、一番縁が深い岸川にしても何年振りのことだろう? 私の子ども等がそろそろ手が離れる頃だろうと考えて連絡して来たらしい。

「ちょっと待ってなあ。嫁さんに聞いてみるわぁ~」

 私は受話器を手で覆いながら晶子に承諾を求めたところ、大して不満そうな顔もせず、あっさりと了承した。

「ふぅ~ん。ええよ。久し振りにゆっくりしといでぇ~」

 それだけ子育ての負担が軽くなって来たようである。

 夫婦生活、子育てでは真崎を除き、悪友たちの方が私より大分先を行っている分、私が気付かないことでもよく分かっているようだ。

「ええよ。ほな、4日やなあ!? それで何処に行ったらええんや?」

京阪モールの片町口、知ってるかぁ~?」

「うん、知ってるでぇ」

「あそこに交番があるやろぉ!?」

「・・・・・・。うん、知ってる。あったなあ・・・」

「6時頃にあの前で待っててぇ」

「分かったぁ」

「6時言うても、夕方やでぇ~」

「何ぼ俺でも、そんなことぐらい分かってるがなぁ~。ほな」

「ほな」

 他愛ない会話をしていても、懐かしく、何だか楽しい。