sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

青春を懐かしむ人たち(9)・・・R2.4.22①

            第8章

 

        回された文に躍るは何の詩か
        秘密の臭い眩しいのかも        

 

 地学の時間、川端浩二は何時もと違う雰囲気を感じて顔を上げた。柔道部での活動が結構応え、授業中は寝ていることが多い。その浩二が思わず起きてしまうほどの空気を感じたのである。それだけの違和感があった。

《おや、何やろぉ!?》

 手渡された紙片を開いてみると、何やら詩らしきものが書いてある。

 

    今、眠れる君へ

  眠れる君は今目覚め、希望の道へと足を踏み出す。

  希望のみちは未だ暗く、細い。

  しかも、険しい道だけど、勇気を持とう。

  君が歩めば、私も歩む。

  さあ、手を取り合って、

  希望の道へと歩み出そうではないか。

        眠れる君を何時も見つめている私より

 

 当時、未だ文学趣味に目覚めていなかった浩二にはこれが何を意味するものかさっぱり分からず、でも雰囲気だけはただならぬものを感じ、思わず隣の席の沢田美咲に回してしまった。

「もぉーっ、違うでしょ~!?」

 大野恵子から浩二に回す協力者の一人だったらしい美咲は、じれったくて
ならない様子であった。

 しかし美咲はそれ以上何も言わず、紙片を畳んでスカートのポケットにそっと仕舞った。

 浩二は暫らく胸の高まりが収まらなかったが、気にしていない風を装い、また寝入ったように振る舞った。

 

        靴箱に怪しい文を見付けたら
        其の日一日舞い上がるかも

 

 それから数日後、クラブ活動を終えて帰ろうとした浩二が下足室で靴箱を開けると、横開きの小振りな封書が入っている。

 前のことがあるから、浩二は既に緊張の面持ちになって手に取り、おもむろに中の便箋を取り出した。

 

 親愛なる眠れる君へ

  お誕生日おめでとう。そして、この日をあなたとともに祝える幸せをありがとう。

  どうかいつまでも、今のままの素敵なあなたでいてくださいね。

                       眠れる君を陰から見守る私より

 

 帰りの電車の中で浩二は独り悩んでいた。

《昨日も今日も、そして明日も俺の誕生日なんかやないのに、何かの間違いかなあ、これはぁ~!? でも、2回も俺のところに回って来るんやから、やっぱり俺に宛てたもんやろなあ。嗚呼、これから俺は一体どうしたらええんやろぉ~? 付き合うとしても、何をしたらええのかなあ? そんな経験はないから、どうしたらええのかいっこも分からへん。それに、これは一体誰やろぉ~? やっぱり大野恵子かなあ? でも、本当に俺に宛てた手紙やろかぁ~? 隣の奴と間違ったんと違うんかなあ・・・》

 独りで悶々としていたら、

「おい、川端。えらい静かやなあ。何かあったんかぁ~?」

 隣に座った富田修平が気遣う。

「いや、別にぃ・・・。ちょっと疲れただけやぁ~」

浩二としては、幾ら気安いクラブの仲間であっても、簡単には言ってしまいたくなかった。

「そうかぁ~。ほなええねんけどなあ・・・」

 富田も疲れていたのか? それ以上は聞かず、黙って目を閉じた。

 

「おっ、純情な藤沢青年、いやあくまでもお話のことやから川端青年も、とうとう大野恵子ちゃんとどうにかなるのかなあ!? フフッ」

「久保先輩! そんないやらしい顔せんといと欲しいわぁ~」

「まあまあ。散々待たせたんから、少しぐらいサービスしときぃ~やぁ」

「現実はそんな風に上手いこと行かへんもんなんやぁ~」

「それは分かってるけど、これは曲がりなりにも小説やねんから、ちょっとぐらいサービスしてもええやろぉ~?」

「何を言うてるんやぁ!? これは曲がりなりにもぉ・・・、まあ悔しいけどそう言うとくわぁ~。ともかく曲がりなりにも純文学なんやから、そんなせこいサービスはせえへんのやぁ~!」

「何が純文学やぁ。フフッ。日記か私小説か知らんけど、思い切り湿っぽく自分のことを書いたら純文学になるんとちゃうでぇ~。もっと遊んでこそ文学やと思うわぁ~」

「おっ、久保先輩も中々言うやん。確かに、先輩は夢のある話を書いてるもんなあ」

「あれぇ、今の目付き、ちょっと馬鹿にしてない? 自分がちょっとばかり長い話を書いているもんやさかい、俺の書くショートショートを馬鹿にしてるやろぉ~?」

「そんなことないってぇ~! 先輩の愛が地球を救う話や、宇宙に飛び出したら人間の小ささに気付いて、地表に下りたら自分もその仲間やさかい、仲良くせなあかんと思う話は夢があるしぃ、SF仕立てで面白いから、何時も感心してるねんでぇ~。あんなん、俺にはとても書かれへんわぁ~」

「そうかなあ?」

「あれっ!? 急に鼻が高くなってるでぇ~」

「あっ、やっぱり馬鹿にしてるぅ~!?」

「ハハハ。そんなことないってぇ! その素直さが先輩の好さやがなぁ。それこそいい青春時代を送れた証拠やろなあ・・・」

「上げたり下げたり、何や怪しいなあ!?」

「いや、それこそ色んな面があってこそ大人、と言うかぁ? 人間やろなあ。陰もあるけど、素直な面もある。陰はむしろ素直な面があるからこそ必要なもんやろなあ・・・」

「また深そうなことを言い出したなあ。何で素直な面があったら陰が必要なんやぁ?」

「素直な面はなあ、壊れ物なんやぁ。だから大事に守らなあかん。その為には陰が必要なんやぁ~」

「ふぅ~ん。中々ええこと言うやん。伊達に小説書いてないなあ」

「今度は先輩が持ち上げてるなぁ~?」

「いや、素直にそう思てるでぇ~」

「ほんまかなあ?」

「ほんまやてぇ」

「まあええけど・・・。ほんでなあ、壊れ物である素直な面を育てるにはゆったりとした時間が必要なんやぁ~」

「ハハハ。やっぱりそこに行くかぁ~!?」

「そうやぁ! 大事なことは何回でも言うでぇ~」 

 

        青春の心は何処か壊れ物
        育てる為にゆとり要るかも