sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

青春を懐かしむ人たち(8)・・・R2.4.21①

            第7章

 

        秋の夕握る手と手が汗ばんで
        フォークダンスに燃やす青春

 

        伏せた目に焼けた太腿飛び込んで
        一体何処を見ればいいのか

 

 文化祭の終わりには恒例のキャンプファイヤーが行なわれる。

 と言っても未だ十分に明るく、その中で行なわれるフォークダンス北河内高校の大多数の純情な青年男女にとって大きな楽しみであった。川端浩二とて例外ではないが、人一倍感じ易い彼にとって、ともすれば喜びが大き過ぎ、苦痛になる瞬間があった。

 そして、その時は意外に早くやって来たようである。数人後に大野恵子を認めた川端は、既に足がもつれ始めていた。

「うっ、痛いっ!」

「あっ、ごめん、ごめん!」

 恵子が次に来ることで浩二の緊張は極限に達していた。それで、目の前に居る里村理恵の足を思わず踏ん付けてしまったのである。

 それでもいざその場に立つと、覚悟が決まるのか? かえって落ち着くもので、そ
のときの浩二も例外ではなかった。恵子が目の前にやって来ると思いの外流れに沿って手を取り、軽く会釈してまさにダンスに入ろうとしていた。

 だが、そこで恵子がはにかみながら微笑んだのがいけなかった。ただそれだけのことで浩二は極度の恥ずかしさを覚えてしまい、目の感度が一気に増した。

 そのとき伏せがちな目の前にあったのは恵子の胸であった。白い半袖のトレーニングシャツに包まれた胸は思いの外ふくよかで、慎二の目の前は太陽を直接見たように眩んでしまった。

 じっと見てはいけないと思い、慎二は更に視線を落とした。

 しかし、そこにあったのは恵子の太腿であった。普段はソフトボールの膝上まであるハーフパンツのユニフォーム姿で走り回り、真っ黒に日焼けしている所為か? そのときショートパンツから出ていた伸びやかな太腿は真っ白い部分が膝上15cmぐらいはあり、それが妙にエロチックであった。

《あっ、あかん、あかん! 俺は一体何処を見てるんやぁ! でも、どこを見ても落ち着かへん。嗚呼、俺は一体どこを見たらええんやぁ~!?》

 時間にすれば僅かの間のことであった。しかし浩二にとっては無限に思える、胸苦しい時間であった。そして、過ぎてから何時までも惜しまれる時間でもあった。

 

「ふぅ~ん、中々いやらしい話やなあ、これぇ!? フフッ。ちょっとオヤジ臭いんとちゅうかぁ~!? フフフッ」

「そんな風に言うたら身も蓋もないがなぁ~。今は確かに中年オヤジやし、そのオヤジが昔のことを懐かしく思い出しながら書いているんやから、多少はオヤジ臭いかも知れんけど、その昔の純情な青年の心の中もほんまにそんな感じやってんてぇ~。久保先輩にはもう分からへん世界かなあ・・・」

「ハハハ。薄汚れた俺にでも十分に分かるでぇ~。ほんで、そのオヤジ臭さを出すには、当時の藤沢君はあまりに気弱過ぎたわけやぁ!? そやから、純情を装ったわけやろぉ? 中々。やるやん」

「そんな言い方、ないと思うわぁ~。心の中にほんのちょっとの性的な関心を持っただけでも恥じていたからこそ、目のやり場がなくなったわけやぁ~。その純情さが分からんかなあ? ほんまもんのオヤジはこれやからあかんわぁ~」

「ハハハ.ごめん、ごめん。冗談やてぇ。ハハハハハ」
「久保先輩、きついわぁ~。時々そんな風にきついこと言うといては、後から冗談やと言うて逃げるやろぉ!? ほんま、オヤジはずっこいわぁ~」

「ううっ!」

「そうやろぉ!? とうにお見通しやでぇ~」

「まあそれはともかく、あの頃のフォークダンスって、本当によかったなあ。あそこまで行かんでも、俺にも確かにときめきはあったわぁ・・・」

「そうやろぉ!? 世代から言うてもきっとそのはずやぁ! 先輩、素直やないからいかんわぁ~」

「ハハハ。この年になってあんまり素直過ぎる方が可笑しいやろぉ~!?」

「そうかなあ? 別にええと思うけどなあ・・・」

「そりゃ自然とそうやったらそれでええけど、色んなことを経験して陰が出来てこそ大人と言うもんやろぉ? 陰があるのが普通やろなあ」

「ふぅ~ん」

「だからこそ素直で居られた頃が貴重やし、懐かしいわけやぁ~。昔は誰にでもその貴重な時間がたっぷりとあったわけやろなあ・・・」

「おっ、先輩。遠い目しているなあ。もしかしたら誰かさんとのことを思い出してるんとちゃうかぁ~!? フフフッ」

「なっ、何言うんやぁ! それに今の隠微な笑い。藤沢君、あんたこそごっついオヤジ臭いでぇ~」

「うっ!」

 

        オヤジ等が昔思って懐かしみ
        温い時間が過ぎて行くかも