sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その23)・・・R3.12.19③

            その23

 

 令和2年5月12日、火曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップ入りの職員証をスリットした後、そばに置いてあるアルコール消毒液で手指を丁寧に消毒する。

 これは大分前から置いてあり、来客も含めてそこを通る人の皆が日に数回ずつは使う所為か? この頃は何だか減りが早いように思われる。幾ら呑気で不精者の慎二でも多少は気になって一旦使い始めると、そうしないことが結構大きな不安になって来るのであった。慎二はそれぐらい小心者で、同調圧力に弱いタイプでもあった。だからついでに洗面所に寄って、何度かうがいもしておく。

 そんな一定の安心感が得られるほどの儀式的なことまで済ませて階段を3階まで上がり、割り当てられた執務室に入って来たら、これも何時も通り、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端に何本もひびが入った液晶画面を食い入るように見てはぶつぶつ独り言ちながら頻りにメモを取っていた。その変わらなさ加減にも結構大きな安心感があった。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 日常的な朝の挨拶を交わした後、大阪府に新たな休業要請が出されたことに対する色々な職場の対応、通勤電車の混み具合、ファンドさんの一番の関心事である世界的な株価の変動等、一頻り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。

 人前に出して好い話かどうか何か迷うところでもあったのか? その後は暫らく考え、それからおもむろにメインに使っているスマホを取り出して、通勤電車の中でメモしておいたものを見直しながら起こして行く。

 ファンドさんの関心は既に投資情報に移っており、またiPhoneの液晶画面を見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモを取り始めた。

 

        朝のひと時雑詠

 今日は出勤日なので、朝がちょっと気忙しい。

 今週は仕事の都合もあって出勤日が契約通りの3日になったが、それでも、平日でも休んでいる方が多くなり、それに毎週のように連休があるから、休み明けは出勤に備えて立ち上がるのに結構苦労するようになり始めている。

 出勤日の前日には多少早めに寝床に入ろうと言う意識はあるのだが、まだ休み気分が残っていて、本を読んだり、韓国ドラマを視たりしている内に、ついつい夜更かし気味になってしまう。

 だから、勤務中に眠気がやって来ることもしばしばである。

 もっともそれは年の所為とも言えるのかも知れない。

 同年代の友達は、日々昼食後にどうしても1、2時間は寝てしまうと言う。

 羨ましい職場、羨ましい話である。

 私の場合、自分で言うのも何であるが、飛び切りの小心者なので、条件的には同様のことを出来ても、家以外では精々うとうとするぐらいで、とても寝るまでには行けない。

 第一寝入ってしまうと、たとえ約束の時間までには起きられても、中々頭がはっきりせず、必要な時に動けなくなってしまう。

 なんて、今朝は情けない話から入ってしまった。

 もっとも、この低い位置からであったら上昇気流に乗り易いってところかも知れないなあ。フフッ。

 

        グッと下げ上昇気流期待して

 

        グッと下げ上昇機運期待して

 

 ところで、自粛続きで我慢も限界に来ているのか? 職場、学校、商店等におけて辛抱の足りなさを原因とする事件とか、ネットの記事に対する辛辣なコメントとか、世の中のイライラが増えているようだ。

 それでも我が国全体を観れば、諸外国に比べてよく我慢が続いているようで、今のところ漸く収束を感じさせている。

 出来ればこれが続いて欲しいし、既に言われている第2波、第3波が出来る限り小さなものであることを期待したい。

 そう言えば紫外線が強くなり、また湿っぽい日が増えているが、それも新型コロナウイルスにはきつい環境になっているのだろうか?

 もしそうであれば有り難い話であるが、果たして本当のところはどうなのか!?

 ゴールデンウイークの影響とかも絡まって、今しばらくは見え難い状況が続くが、注視して行きたいところではある。

 

        コロナ等にきつい季節と期待して

 

        コロナ等にきつい暑さと期待して

 

        コロナ等にきつい湿りと期待して

 

 さて、ああだこうだと言っている内に、職場の最寄り駅が近付いて来た。

 そろそろ仕事をする気持ちを作らなければならない

 すっかり休みなれた身にはこれもひとつの我慢であるが、まあ仕方が無い。

 心身のリズムを付けてくれるチャンスとでも受け止めておこう。

 それに、職場でもそろそろ勤務形態を戻して行こうと言う動きが出て来たように思われる。

 そんな中で私の場合、残り10か月の職業人生を何とか無難に乗り切ろうと思えば、少しは頑張らなくっちゃね。フフッ。

 それにしても自分の周りだけでも、70代の歯医者さん、80代の調理人さんと、手に職を持って頑張っている人が何人かいる。

 見ていると、ただただ感心するばかりである。

 そこまで第一線に立っていられることが羨ましくもある。

 まさに天職と言えるのかも知れないなあ。

 

        手に職を持つ格好よさリスペクト 

 

 この日も自分なりにはまあまあ上手く書けたような気がし、慎二がしみじみとしていたら、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 メルカリさんはこの頃この職場でも認められているテレワークをしていることも多く、出勤日が基本的に週3日のところを週2日に減らしていることが増えた慎二とはすれ違っていることも多くなっていたが、この週は仕事の関係で珍しく2日続けて顔を合わせた。

 因みに慎二は、元々面倒臭がりなところに年齢的なものも加わって、ちょっとした手続き、報告と言ったことが面倒なのでテレワークはせず、週1回程度有休を取ることによって何とか出勤日を減らすように心掛けている。

 それでも休業要請の解除が見えて来たこの頃、職場からメールを通じて呼び出しが掛ることも増えて来た。

 それはまあともかく、慎二はちょっと迷ってから、メルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問い掛ける。

「メルカリさん、どう、これぇ? 僕としては今日もまあまあ上手く書けたと思うんやけどなあ・・・」

 それだけのことで小心者の慎二は、緊張で頬を紅潮させ、耳たぶをひくひくさせている。

「ブログさん、ほんま毎朝、よう精が出ますねえ。どれどれ、ふむふむ、・・・」

 また相変わらずの日常が始まっていることに半分呆れ、半分感心しながら、気の好いメルカリさんはさっと目を走らせて、我が意を得たりと言う目をして、

「ほんまですねえ!? 身体がすっかり休みに慣れてしもて、今週は2日続けて早起きするの、結構大変でしたわぁ~」

 そう聴いて慎二は早速突っ込みに掛かる。

「あれぇ~、メルカリさんはテレワークしてるんやから、家でも朝から仕事をしているはずではないのかなあ!?」

「まあ何時もはそうですけど、でもテレワークやったら通勤が無い分、ちょっとはゆっくり出来ますやん。それが今日は朝から来るようにと本部からメールで連絡がありましたから・・・」

 慎二が大体の状況を分かっていながら、多少意地の悪い質問をすることにちょっと不満そうであった。

 因みに大阪府の中部にこの研究室の本部があり、府下に幾つかある分室の業務も取り仕切っている。それだけあってそれぞれが一体どんな仕事をしているのかは謎の部分も大きかったが、公的な機関だけあって、世間を納得させる為の保険的な意味での会議、報告書作り等の仕事もあり、それなりに忙しそうに見えることもあった。

「そうやなあ。俺のとこにもメール、来たわぁ~。一体何をするんやろなあ?」

「まあ分かりませんけど、それなりの給料を貰ってる分だけは働いている振りでもせんとね。フフッ」

「でも、普段メルカリさん等がしているテレワークって言うのは、ネットで見ていてもどうも独りで仕事を続けるのが結構大変そうやから、やっぱり僕はする気がせえへんなあ・・・」

「ハハハ。前にも言うたように、そんなに大層なことなんてないですって! 朝は8時半までに仕事開始のメールを入れたらええだけやから、そんなには早起きせんでもええしぃ、それに夕方の5時過ぎてから今度は仕事終了のメールを入れるだけで、その間は結構自由やしぃ・・・」

 まあ予想通りではある。

 だからと言って慎二は、実際のところそれが悪いとも思っていなかった。マジな話、そんなゆったりとした時間が思わぬアイデアを生み出すこともある。

「でも、やっぱり手続きがそれなりには面倒なんやろぉ~!?」

「そんなことないですよぉ~。ほらっ!」

 と言ってメルカリさんは得意気に報告書まで見せてくれる。

 さっと目を走らせるとそれには、午前中の業務内容は「オーラに対するダークマターの影響を考察」、午後の業務内容は「オーラに対するダークエネルギーの影響を考察」なんて書いてある。それ以外は名前、住所、電話番号ぐらいで、別にテレワークをする理由まで細かく書く必要は無さそうであった。

「えっ、本当にたったこれだけ!?」

「そう! それだけ・・・。今日も用事が終わったら直ぐに帰るつもりですしぃ・・・」

 そう言いながらメルカリさんは軽やかに立ち上がり、給湯室にコーヒーを淹れに行った。

 そこに事務を担当している若い依田絵美里が熱いお茶を淹れた備前焼のぷっくりした湯飲み持って来て、慎二の机にそっと置く。

「・・・・・」

 直ぐには戻らず、黙ったまま立ち止まって、何だか不満そうな顔をしている。

 自分の所為ではないが、慎二はそれだけで次第に落ち着かなくなり、取り敢えず絵美里の状況でも訊いておくことにした。

「ところで、依田さんはどうなん? テレワークせえへんの?」

「ありませんよ、そんなの! 私は自転車で来るだけですし、第一私の仕事は家で出来ませんから・・・」

 それだけ言えば納得出来たのか? さっと立ち去ろうとする絵美里の方を見ると、結構きつい目をしており、慎二は暫らく何も手に付かなくなっていた。

 

        テレワーク出来る仕事は限られて
        出来ない人は不満なのかも

 

        テレワーク出来る仕事は限られて
        出来ない人は不安なのかも