sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その40)・・・R4.1.3①

            その40

 

 令和2年6月16日、火曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップ入りの職員証をスリットした後、直ぐそばに置いてあるアルコール消毒液を掌に溢れんばかりにたっぷりと取り、その中で手指を丸めたり、伸ばしたり、擦り合わせたり、爪の中まで染み込ませようと指先を掌でトントンしたりしながらしつこいほど念入りに消毒する。

 この消毒液は大分前から置いてあり、来客も含めてそこを通る人の皆が日に数回ずつは使う所為か? この頃は何だかやけに減りが早いように思われる。幾ら呑気で不精者の慎二でも気になって一旦使い始めると、そうしないことが結構大きな不安になって来るのであった。慎二はそれぐらい小心者で、同調圧力に弱いタイプでもあった。だからついでに洗面所に寄って、持参したうがい薬で何回もうがいをしておく。

 そんな一定の安心感が得られる程の儀式的なことまで済ませ、ふぅーふぅー言いながら階段を3階まで上がり、割り当てられた執務室に入って来たら、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端に何本もひびが入った液晶画面を食い入るように見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、頻りにメモを取っていた。これもまた安心感が得られる見慣れた光景であった。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 ごく習慣的な朝の挨拶を交わした後、我が国では多くの場所で新型コロナウイルスの新規感染者数が大体低レベルに収まっていること、それでも全国的に緊急事態宣言に続いて休業要請も解除されている所為で早速気の緩みの影響が出始めたのか? 福岡県、東京都、神奈川県、北海道等と、広範囲に亙ってまだ感染者が中々0にならず、東京の夜の町の例のように時には結構増えたりしているところもあること、大阪でも難波、天王寺、京橋、梅田等の繁華街で人波が確実に増えており、新規感染者数の秘かな増加が心配されること、通勤電車や駅に学生が見られるようになり、程々に混んでいるときも増えていること、ファンドさんの一番の関心事である株価に相変わらず世界的に大きな変動が起こっていること等、一頻り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。

 他人に見て貰うことを前提にすると、何処まで書いても好いのかと何か迷うところでもあったのか? その後は暫らく考え、それからおもむろにメインに使っているスマホを取り出して、家を出る前に簡単にメモしておいたものを見直しながら起こして行く。

 ファンドさんの関心は既に投資関係の情報に移っており、またiPhoneの液晶画面を食い入るように見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモを取り始めた。

 

         朝のひと時雑詠

 今日は今週2日目の出勤日である。

 昨日は久し振りに殆んど隙間なく働いた所為か? ちょっと疲れが残っている。

 その分、朝方まで起きることはなかったから、それは3年ぐらい前、週に5日間フルタイムで働いていた時のような感じを思い出させた。

 今日もまたオンライン研修に関しての打ち合わせの為に役所への出張とかも入り、まあまあ忙しそうであるが、ここらで少しペースを落としながら動いた方が好さそうに思われる。

 まあ今日の仕事は他人の手伝いが主であるから、如何に自分を抑えるかと言うことも大事になって来る。

 経験からついついもの申したくなりがちであるが、それが何時も好いとは限らない。

 それに、年を食うと自分で思っている以上にしつこくなりがちなものである。

 気付いたことがあれば先ず黙って動き、それから後に繋がるように軽く伝えておく。

 それぐらいの気持ちでちょうど好いような気がする。

 昔から、アドバイスは頼まれるまでしない方が好い、と言われて来たが、まさにそんな感じだなあ。フフッ。

 

        経験がついアドバイスくどくして

 

        経験がついつい口を開かせて

 

        経験がつい口数を多くして

 

 それはまあともかく、昨日は帰ってからブログを更新したり、書き物を楽しんだりしていたので、少しも韓国ドラマを視られなかった。

 寝る前に漸く読み掛けのまま置いていた本を読み進めたが、疲れていた所為で意識が飛び、中々進まない。

 今日はヤフーの無料動画、「GAYO!」で気になっている韓国ドラマが更新されているので、少しは楽しみたいところである。

 それに書き物も楽しみたい、と言えば、欲張り過ぎか!?

 忙しく働いている日は多少の我慢も必要であろう。

 仕事に関しても、今も色々なアイデアが浮かんで来ては、直ぐに忘れている。

 その内の記憶に留められるぐらいのことに取り組めば好いのかも知れない。

 何事も無理は禁物だなあ。フフッ。

 

        忘れ去る程度のことは其れで好し

 

        残ること其れを温め具体化し

 

 そう言えば父親の世代のことを少しでも記憶に残っている内に書いておこうかと思っている(※1)が、それについても中々進まない。

 日々の生活、およびそれが行われた場所に付いて今一イメージが湧いて来ないのである。

 もう少し色々なことに触れながら、イメージが膨らむのを待った方が好いのかも知れない。

 そんな風に、公私共に少し湧いて来ては動き出し、イメージが浮かばなくなって止まる日々が続いている。

 今は雌伏の時(※2)なんだろうなあ。フフッ。

 それはそうと、今日はまたスーツを着て行く必要がありそうだ。

 昨日と同様に暑くなると言われているから、サウナにでも入る気分になって来た。

 

 その辺りまで書いて、自分なりには今日も何とか上手く書けたと思い、慎二がしみじみとしていたら、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 メルカリさんも今日は珍しくスーツを着て、ネクタイを締めていた。

 慎二は上記のように近所のお役所にオンライン研修の打ち合わせをする為に訪問する用事が入っていたが、メルカリさんの場合は近所の学校で行われるオンライン授業に関するアドバイスを求められているようであった。何方もメインの仕事ではないが、周りに一見怪しげに思われがちなこの研究所の存在意義を認めて貰う為にも、普段の地道なお付き合いは意外に大切(※3)である。

 それはまあともかく、慎二はちょっと迷い、メルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問い掛ける。

「メルカリさん、どう、これぇ? 自分なりには今日もまあまあ上手く書けたと思うんやけどなあ・・・」

 それだけのことで小心者の慎二は、緊張が高まって頬を紅潮させ、耳たぶをひくひくさせている。

「ブログさん、相変わらず毎朝、よう精が出ますねえ」

 気の好いメルカリさんはそう言って半分呆れ、半分感心しながら、

「どれどれ、ふむふむ、・・・」

 さっと目を走らせて行き、

「確かに、仕事が本格的に再開されてから、疲れが溜まりますねえ!? 忙しくなって趣味をゆっくり楽しんでいる時間も無い・・・」

 ちょっと不満そうな目をしながら、しみじみ言う。

 聴いていると慎二はおかしくなって来て、

「と言いながらもメルカリさん、今日も色々持ってるやん! ダイソンの扇風機らしきものに、それは一体何!?」

「あっ、これですかぁ~!? 三味線のバチですわぁ~」

 そう言いながらメルカリさんは目を輝かせ、得意そうな顔をする。

「それはまあ見たら分かるけど、何でそんなもん持ってるん?」

「まあこんなんあったって別に宜しいやん! 僕、何となく古いもんに惹かれるんですわぁ~」

「なんて言いながら、また何ぼかの口銭を付けてメルカリで売るんやろぉ~!?」

「そりゃまあそうですけど、それが僕の趣味、楽しみですわぁ~。ブログさんも疲れた、忙しいとか言いながら韓国ドラマ三昧したり、ブログを書いたり、創作したり、色々楽しんではりますやん!?」

「そうやなあ。これがあるから働いてられる(※4)んやろなぁ~」

 そう言いながら慎二の目はちょっと遠くなる。

「そうですね・・・」

 それ以上しみじみしていたら仕事をする気が無くなりそうな気がし始めたのか、メルカリさんはおもむろに立ち上がり、給湯室にコーヒーを淹れに行った。

 そこに事務を担当している若い依田絵美里が熱いお茶を淹れた備前焼のぷっくりした湯飲みを持って来て、慎二の机の上にそっと置き、「神の手」の液晶画面にさっと目を走らせて、

「そうですね。忙しくてもそれぞれこんな風に楽しみがあるから、また仕事を続けられるんでしょうね・・・」

 そう言いながら絵美里の目もちょっと遠くなり、気を取り直して離れて行く。

「・・・・・」

 本当は絵美里の趣味が何なのかと訊いてみたい気もあったが、慎二はもう何も言わず、ちょっと視線を交わしたことで気持ちを分かり合えたように思え、また働く気を貰えたような気になっていた。

 

        其々に趣味を楽しみ気が晴れて 
        仕事する気が出て来るのかも

 

        其々に趣味があるから働けて

        明るい明日迎えるのかも

 

※1 まだ私の中で父は生きているのか、何処まで書いて好いのか迷うところもある。然りとれ、映画で視たり、小説で読んだりしたことそのままでは面白くない。自分が面白くないことは他人が読めば余計に面白くない。そんなこんなでもやもやしている所為か、中々進まないのが正直なところである。

※2 仕事が忙しいと、充実する場合もあるが、趣味の世界、創造力が痩せ細る場合も往々にしてある。この話とは少し離れるが、私の場合、超が付くほど現実的な今の職場で仕事に埋没する内に、以前であれば浮かんで来たようなお話が浮かばなくなった。それもあり、年金が出始める62歳に達してから週3日勤務に切り替えたら、また話が少しずつ書けるようになって来た。この先、仕事を完全にしなくなった時はどうなるのか!? 今から楽しみにしている。

追記 今、仕事を完全にしなくなっているが、今のところ新たな話が浮かんで来ないので、今年はまた新たな話が書き進められればと思っている(2022年1月3日)。

※3 普段全く付き合いがなく、説明も満足にしていないのに、日常とかけ離れた、平均から大分ずれた、俄かには理解し難い世界に対して理解や協力を求めるのは難しい。そう言う認識があれば、面倒がらずに普段から手を抜かずに付き合い、説明しておくことが後の面倒を少しでも緩和することが出来る。

※4 昔から言われるようにハレの日とケ゚の日である。そのメリハリを付けることで辛くて長い労働にも何とか耐えられる。たとえ生活の為だけではなく、楽しみ、生き甲斐を感じ易い仕事であっても、仕事ばかりではやはり疲れ切り、続ける元気が湧いて来なくなる。そう言う意味でも趣味生活、祭り等の遊びは大事である。