sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その17)・・・R3.12.16②

              その17

 

 4月上旬の或る日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップ入りの職員証をスリットした後、息を切らせて階段を3階まで上がり、割り当てられている執務室に入る。

 既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端に何本かひびの入った液晶画面を何やら熱心に見詰めてはぶつぶつ呟きながら、頻りにメモを取っていた。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 ごく習慣的な朝の挨拶を交わした後、慎二は新型コロナウイルス感染症が彼方此方でオーバーシュート(過剰変動)を起こしていること、世間一般に益々仕事が回らなくなっていること、ファンドさんの一番の関心事である株価が世界的に大きく変動していること等、一頻り世間話をした後、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。

 その後は暫らく考え、それからおもむろにメインで使っているスマホを取り出して、通勤電車の中でメモしておいたものを見ながら「神の手」に起こして行く。

 ファンドさんの気持ちは既に投資情報の方に移っており、またiPhoneの液晶画面を見詰めてはぶつぶつ独り言ち、熱心にメモを取り始めていた。

 

            朝のひと時雑詠

 そろそろマスクが店頭に並び始めたと聞くが、並んでも直ぐに売り切れてしまうとも聞く。

 都会では何でもドラッグストアだけではなく、食料品店、衣料品店等、色々な店の店頭に並べられていたりもするそうな。

 職場近くのドラッグストアでも7時開店と同時に並べられ、同僚が7時9分頃に行ったら、既に売り切れていたとか。

 普通に働いていれば、中々買えるものではない。

 それでも、ただ不安であるからだけではなく、エチケットとしてもマスクをしないわけには行かない。

 通勤電車の中では、たとえウイルス自体までは防ぐ効果が薄いと言われていても、緊張や埃っぽさ等で咳、咳払いが出る時もあり、その時の為にはあった方が自分自身を落ち着かせることが出来、実際には適度な湿り気を保てるから、咳、咳払い等が出ること自体も防いでくれる。

 職場でも大勢が集まる場では欠かせない。

 私の場合は手持ちの不織布製使い捨てマスクを洗って何度か使っているが、それでも限度があり、そろそろ底を突きそうになって来た。

 そこで必要になって来る自衛手段がマスクの手作りである。

 我が家ではそろそろ家人が言い始めている。

 職場では既に手作りマスクをしている同僚が増えて来ている。

 そうなると面白いことに、色々な生地を使う所為で、当然色々な柄のマスクが観られるようになった。

 いかついタイプ、渋いタイプの中年オヤジが可愛い柄のマスクをしていたり、清楚で可愛い感じの妙齢の女性が黒や迷彩柄のマスクをしていたり。

 何だか今までは隠れていた心模様が見えるようだなあ。フフッ。

 

        手作りのマスクが見せる心根か

 

        心根や手作りマスク透けて見せ

 

        手作りのマスク心の中を見せ

 

 ネットでニュースを検索していると、新型コロナウイルスに関しては相変わらず怖く、不安を煽る記事が多いように思われるが、一方で日本の科学技術に希望を持てそうな記事も見かけるようになった。

 

 たとえば以前から出ていた薬ではあるが、インフルエンザ用に開発されたアビガン、ドクター中松の開発したマスク、「スーパーMEN」の他にも、昨日はウイルスを防ぐのに効果がある銅繊維のシート、今日は検査時間を縮められる検査キットに関する記事が気に留まった。

 

 こんなことから安心感と共に、我が国に対する誇りを取り戻せそうであるし、ウイルス禍を収める為の時間を稼ぐ意味も見出せる!?

 

 まだまだ闇は深く、出口が中々見えず、模索状態であるが、希望を失わず、今出来ることをしながら、ゆっくりと待つことにしたい。

 

 そう言う意味でも私は、今までして来なかった手洗い、うがいをするようになった。

 

 また、通勤用のマスクを直ぐには捨てず、帰ったら即座に洗うようになった。

 

 面倒臭がりの私にすれば、毎日感心なことだなあ。フフッ。

 

        コロナ禍やずぼら者にも意識させ

 

        コロナ禍やずぼら者にも働かせ

 

 ここまでで置き、自分なりには上手く書けたと思い、しみじみとしていたら、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 慎二はちょっと迷い、井口の方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問い掛ける。

「メルカリさん、どう? まあまあ上手く書けたと思うんやけどなあ・・・」

 それだけのことで小心者の慎二は、緊張で頬を紅潮させ、耳たぶをひくひくさせている。

 さっと目を走らせてメルカリさんは、にまぁ~っとほくそ笑み、

「この迷彩柄のマスクうんぬんは、もしかしたら事務担当の依田絵美里さんのことですかぁ~? フフッ。ブログさんも中々隅に置けないですねぇ~。フフフッ」

「な、何を言うんやぁ~!? 別に変な下心があるわけではなく・・・」

「何も下心があるなんて言ってませんやん! フフッ。でも、わざわざブログに書き留めておきたくなるほど気になる存在ではあるわけでしょう~!? フフフッ」

 今日のメルカリさんは何時もの人の好さとは違い、ちょっと人が悪い!?

「メルカリさん、何や何時もと違うなあ・・・。あっ、もしかしたら家で何かあったんとちゃうかぁ~!? 出る前に嫁さんと喧嘩したとかぁ~?」

「なっ、何を言うんですかぁ~!? 僕、嫁さんと喧嘩なんかしてませんよぅ~! 我が家は至って平和なもんですぅ・・・」

 そう言いながらメルカリさんはちょっと目を泳がせている。

「やっぱり何かあったんやなあ!?」

「そんなんありませんてぇ~! まあ無い、無い言うても、どこの家でも少しぐらいはあるうもんでぇ・・・。えへん! それはまあともかく、昨日言ってたノートパソコン、もう一回検索してみたらもう売れててぇ、間に合わんかったんですわぁ~」

 心底残念そうである。確かメルカリで安く売られていたWindows7とoffice2010が入ったノートパソコンのことであった。

「そやったんかぁ~!? ごめん、ごめん。えへん!」

 慎二はちょっと間を取り、気分を換えて続けた。

「それでやなぁ~、別に依田さんに限らへんけどぉ、意外な取り合わせの気がして、その心の中が気になったわけやぁ~。あくまでも一般論としてやなあ・・・」

「あくまでも一般論ねえ? はいはい。でも、それやったらぁ、直ぐそこにいははるんやしぃ、依田さんに直接訊いてみたらよろしいやん!?」

 またメルカリさんの目が悪戯っぽく光り出す。

「いや、違うってぇ~! あくまでも一般論としてやからぁ・・・」

 そう言いながら慎二はまた目を泳がせ始め、幾分頬を紅潮させて、耳たぶをひくひくさせていた。

 そんな中年オヤジたちの与太話を執務室の端に置いた衝立の向こう、受付、応接コーナーまでお茶を持って来て、聞くともなしに聞いていた絵美里は微笑みながら家での遣り取りを思い出していた。

 

 数日前の夜のこと、弟の悟が迷彩柄のシャツを差し出しながら、

「お姉ちゃん、これぇ・・・」

 悟はいかつくて口数が少なく、一見怖そうに見えるが、実は心根が優しいことを絵美里は知っていた。

「どうしたん? 今から洗って欲しいんかぁ~?」

「いや、違う。この前にお姉ちゃん、今度の職場は変な中年オヤジばっかりやぁ~、言うてたやん!?」

 それを聞いて絵美里は笑いながら、

「ウフフッ。違うってぇ~。変と言うたら何や怖い感じやけどぉ、ちょっとおかしいと言うかぁ、面白い人が集まっているって言うぐらいの意味やったんやけどなあ・・・」

「まあ何方にしても、職場だけやのうてお姉ちゃんやったら彼方此方で一杯声掛けられるやろからぁ、これを使ってマスク作ったらええねん。まあ言うたら、虫よけみたいなもんやなあ・・・」

 悟なりの気遣いであった。

「そんなん買い被りやぁ~。お姉ちゃん、そんなに持てへんてぇ・・・。でも、気ぃ遣うてくれてありがとう!」

 その場では謙遜して見せたが、弟にも可愛いと見えていたことが満更でもなく、絵美里は自然と表情を和ませていた。

 

 そして虫と例えられた中年オヤジに入るのかどうかは分からないが、慎二とメルカリさんの遣り取りがおかしくなって来た絵美里は、小心者の慎二が本当に聞きに来るのかどうか? ちょっと楽しみになって来た。

 

        手作りのマスク其々心根を

        表しながらガードするかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 話の内容はともかく、この時期、意外な色、柄のマスクが増えて来たのは事実である。

 

 いまだに話題に事欠かないアベノマスクが何度か配られた記憶はあるが、使った記憶は一度か二度しかない。

 

 比較的顔の大きな私には洗う前から小さく、着け心地が好くなかったからである。

 

 色々なメーカーがマスク製造に参入し始め、出回りはしたが、それでも転売がまだまだ盛んなのか、中々手に入らず、入っても安くはない。

 

 けちで面倒臭がりの私としては、まだ暫らくは不織布マスクを何度も洗って使う生活が続いていた。

 

        使い捨て不織布マスク洗い過ぎ

        よれよれしても未だ使うかも

 

 それで果たして効果があったのか!?

 

 まあ気持ちだなあ。フフッ。