sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その7)・・・R3.12.7③

              その7

 

 令和2年3月3日、火曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーに職員証をスリットした後、3階まで息を切らせながら階段を上がり、割り当てられた執務室に入る。

 既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端がひび割れた液晶画面を熱心に見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、何やら頻りにメモを取っていた。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 何時もの朝の挨拶を交わした後、世界では新型コロナウイルス感染症の騒ぎが益々大きくなっていること、ファンドさんの一番の関心事である株価にも大きな変動が起こっていること、身近なところでは昨日から大阪府の公立学校が休校になっていること、怪しげな情報に踊らされてトイレットペーパーの買い占めが起こっていること等、ひと通り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。

 その後は暫らく考え、それからおもむろにメインで使っているスマホを取り出して、通勤電車の中でメモしておいたものを見ながら「神の手」に起こして行く。

 ファンドさんの関心は既に投資情報に移っており、またiPhoneの液晶画面を見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモを取り始めていた。

 

          朝のひと時雑詠

 通勤電車の中は、元々短大、大学等の学生が既に春休みに入っていることも多くなっているところに、今回のコロナ禍による休校措置も増えている所為か、あまり見当たらなくなっているにも拘らず、結構混んでおり、マスクを着けている人が大半であった。

 ところで、昨日はそのマスクだけではなく、我が家ではトイレットペーパーまでもが残り少なくなり、慌てて近所のスーパー、ホームセンター、ドラッグストア等に家族で分かれて買いに出た。

 その際、私だけではなく、別行動した家人と子どもも買えなかったそうで、子どもによると少なくとも10軒は回ったと言う。

 家人によると、精々5軒ちょっとぐらいだと言う。

 一体どっちやねん!?

 ともかく、多くの店を回ったが、何処に行っても買えなかったと言うことである。

 えらいこっちゃ!

 ほんま、えらいこっちゃ!?

 残り半日はどっと疲れが出て、皆でダラダラとして過ごした。

 仕方が無い。

 職場の近くでも探してみるか!?

 そう思って、今日は何時もより1本早い電車に乗った。

 近鉄生駒線ではここ数年の台風、大雨等の影響がまだ残っているのか? 以前より本数が減って、通勤通学時間帯に当たる早朝なのに1本前と言うと、14分も前になる。

 仕方が無い。

 何だかこの頃仕方が無いが増えているような気もするなあ。

 その分、少しは頭を使い、身体を動かそうとするから、まあ好いとするか。フフッ。 

 

        仕方無く心身使い悪く無し

 

        仕方無く心身使いまあ好いか

 

 急に話が変わるが、週明けになって、またゴルフ、テニス等の世界ランキングが更新されている。

 ゴルフに付いては、報道されているところによると、男子の方が試合に出ており、現時点の実力が反映されているように思える。

 女子の方は米国女子ツアーの数試合がアジア開催の予定だったのもあり、国内女子ツアーも含めて目ぼしいところが全て中止になっている。

 当然、これまでの実績のみから再計算されている場合が多くなる?

 その米国女子ツアーがアジアを離れた後も、国内女子ツアーを主戦場とする選手は活躍の場が狭まっているようだ。

 権利的には米国女子ツアーに出られる日本人選手でも、早目に決断して出国しないと受け入れて貰えなくなる可能性も出て来るように言われ始めている。

 悩ましい話である。

 ただ、米国男子ツアーを主戦場とする松山英樹がじわじわとランキングを上げ、また10位台に入って来た。

 彼のように本物の力を付けていれば、こんな特別な状態でも、やきもきする必要はないような気もする。

 たとえ東京オリンピックがこの夏に開けなくなっても、延期された結果、タイミングが合わずに出られなくなっても、それだけのことであろう。

 そこがもう、NHK大河ドラマ、「いだてん」の時代とは違う!?

 オリンピック以外にも、もっと実力が如実に反映され、面白いイベントが増えているような気がするなあ。フフッ。

 

        もう五輪絶対の時過ぎたかも

 

        五輪より燃えるイベント増えたかも

 

 たとえば野球、サッカー、バスケットボール等のリーグ戦における戦力は五輪におけるそれよりも充実している場合が多い!?

 それはまあともかく、結局、職場近くのドラッグストアでもマスクのみならず、トイレットペーパー、ティッシュペーパーも、気になっている物が置かれてあったはずの棚は全てすっからかんであった。

 ご丁寧に、入荷予定は未定、と大きく手書きした紙が彼方此方の棚、壁等にべたべたと貼ってあった。

 その後、ネットを検索してみたら、トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の紙類の在庫はたっぷりあると言うツイッター、記事等が写真を添えて一杯上がっていた。

 でも、事実としては買えないもんねえ。

 東京、大阪のような大都会の、それも人が密集している辺りはもう動いているのかも知れない。

 今日辺りの昼頃からは私が住んでいる奈良県生駒市の近所でも動くのであろうか?

 それとも明朝辺りからか?

 ともかく在庫はある、ということを今は信じておこう。

 

        ペーパーの入荷を待ってむずむずし

 

        紙類の入荷を待ってむずむずし

 

 その辺りまで書いて慎二が「神の手」の液晶画面をぼんやりと目で追いながらしみじみとしていると、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 慎二は、ちょっとは自信を持ちながらメルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問い掛ける。

「メルカリさん、どう、これぇ~? 来る時に通勤電車の中でスマホにメモしておいたものを元に書いてみたんやけどぉ・・・」

「そうですかぁ~!? 毎朝、よう精が出ますねえ・・・」

 半分呆れ、半分感心しながら、

「どれどれ、ふむふむ、・・・」

 気の好いメルカリさんはさっと目を走らせて、

「ほんまやわぁ~! 不織布の使い捨てマスクは仕方が無いにしても、トイレットペーパー、ティッシュペーパーの類が無いのは困りますねえ!?」

 メルカリさんのところも子どもが多い所為か? 心底困ったような顔をしている。

 共感されて気が楽になったのか? それともメルカリさんの困った顔を観ている内に面白くなって来たのか? 慎二はほくそ笑みながら、

「そりゃメルカリさん、マスクは一杯持っている、と前に言うてたもんなあ。フフッ。そやから、メルカリでマスクを高く売って、そのお金でトイレットペーパーをメルカリかどこかで買うたらよろしいやん!? 何やったら物々交換とかぁ~」

 それを聴いてメルカリさんの目がキラリと光る。

「ほんまですねえ!? 流石ブログさん、ええこと言いますねえ。物々交換やったら転売したことにならへんし、少しは気が軽くなりますしねえ。それで必要なもんも手に入るわけしぃ・・・。なんて、そんなことしませんてぇ~。フフッ」

 そう言いながら、メルカリさんは微苦笑を浮かべて軽やかに立ち上がり、給湯室までコーヒーを淹れに行った。

「おい、おい、・・・」

 と言いながらメルカリさんを目で追う慎二は、暫らくの間ちょっと羨ましそうな表情を浮かべていた。

 2人の話を聞くともなしに聞いていたのか? 事務を担当している若い依田絵美里が近寄って来て慎二の机の上にそっと熱いお茶を淹れた備前焼のぷっくりした湯飲みを置き、その日は何気なく慎二のそばにトイレットペーパーが8巻き入った袋も置いた。

「電車やったら荷物になるかも知れませんけど、よろしかったらどうぞ。朝、近所のドラッグストアで余分に買っておきましたので・・・」

 慎二はパッと目を輝かせ、確りと手を添えて、

「えっ、まだ売ってたん!?」

「あっ、はいっ!」

「でも、荷物になるのは別にええねんけど、依田さんに貰うのは何や悪いわぁ~」

 そう言いながらトイレットペーパーの袋を自分のところまで更に引き寄せ、すっかり貰う気でいる。

《只で上げるなんてちっとも言っていないのに! ベテランのくせに、ほんまにケチなんだから・・・》

 なんて思ったかどうかは分からないが、絵美里は微笑みながら、

「いえ、何時も世話になっていますから、これぐらいのこと・・・。遠慮なくどうぞ!」

 そう言って、静かに離れた。

 それだけのことで慎二はすっかり元気を取り戻し、何だか今日の仕事がえらく捗りそうな気がして来た。

 

        同僚の人情感じ元気出て

        辛い仕事も捗るのかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 コロナ禍で困ったのがこの買い占め、転売である。

 

 それもここで例に出したトイレットペーパーが実際には不織布マスクと関係なかったにも拘らず、である。

 

 不織布マスクを紙製品と勘違いしたのか、インターネット、テレビ等の買い占め、品薄情報の所為なのか、何れにしても気に留まって私が動き出した頃には既に何処にも見当たらなくなっていた。

 

 そして、多少は落ち着き、我が家の手に入ったのはもう手元に無くなる寸前のことであった。

 

 嗚呼、危なかった・・・。フゥー。ホッ。

 

 この後も懲りずに、消毒液、イソジン等が買い占められ、転売されていたから、この年は人間の愚かさを何度も何度も見せ付けられた年となったようである。

 

        品薄とニュース流れて買い占めが

        更に加速し高値転売