sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その14)・・・R3.12.14②

              その14

 

 令和2年4月6日、月曜日の朝、世間が新型コロナウイルスで大騒ぎしている中、藤沢慎二は結構強い緊張を覚えながら何時も通りの通勤電車に乗って、東大阪市にある今の職場、心霊科学研究所東部大阪第2分室へと向かっていた。

 大阪府立の学校は5月6日まで休校になったと友達で大阪府立高校の教師をしている森田春馬から聞いていたが、なるほど学生の影はない。

《と言っても、まだ学生さんは春休みやろうなあ。フフッ。そやから今はあんまり関係無さそうやなあ・・・》

 

 森田とはずっと前から4月5日の日曜日辺りに花見に行こうかと約束していたが、4月2日の木曜日に問い合わせのメールが入った。

 2人だけで車に乗って行くのであればそんなに関係ないような気もするが、花見に行くかどうかは慎二に決めて欲しい、と言うことであった。

《そう言われると迷うところやけど、世間では不要不急の外出を自粛するようにとの要請が浸透し始めている。大阪府では感染者が日に日に増えているしなあ・・・》

 ちょっと考えてから慎二は、今回は見送り、もう少し落ち着いた頃に体力作りも兼ねて歩きに行こうではないか、と返事しておいた。

 

 何時も通り7時50分頃に職場に着いて、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップ入りの職員証をスリットし、息を切らせながら階段を3階まで上がって割り当てられた執務室に入って来ると、何時も通り正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端にひびが何本か入った液晶画面を見詰めては何やら独り言ちながら、頻りにメモを取っていた。その変わらない様子が大きな安心感を与えている。

「おはよ~う」

「おはようございま~す!」

 日常的な朝の挨拶を交わした後、今にも7都道府県に緊急事態宣言が出されようとしていること、通勤電車の混み具合、世界的に株価の大きな変動が起こっていること等、一頻り世間話をし、ファンドさんはiPhoneの液晶画面に視線を戻す。それから、

「ほんま、こんな風に毎日大きく上がったり、下がったりしてたら、怖くて動かれへんなあ・・・」

 などとぶつぶつ独り言ちながら、中断していたメモを再び取り出した。

 慎二はファンドさんの趣味にまで立ち入ることは止め、自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開き、ついでにテザリング用の格安SIMを挿したスマホを取り出した。今日はあまり迷うことなく、上手くブログが書けそうな気がしていたのである。

 続いてメインで使っているスマホを取り出し、通勤電車の中でメモしておいたものを見直しながら起こして行く。

           朝のひと時雑詠

 朝から爽やかな青空が広がっている。
 空気が冷たくて気持ち好い。
 そこまでは好いのであるが、透き通っている分、花粉が多目のようだ。
 外に出ると、何だか鼻がむず痒くなって来た。

 ここで鼻をかんだり、くしゃみや咳でもしようものなら、一斉に注目を浴びてしまう。
 でもまあ、鼻をかむことによって色々と要らないものを外に出していると思うことにしよう。

 なんて、不自由をすることが多いほど哲学的になると言うのは本当だなあ。フフッ。

 と言うか、不自由をすると、自分を納得させる為に哲学が必要になって来ると言うことか?

 何れにしても、少しは考えるようになるから、悪くはない!?

 

        不自由して少しは頭動き出し

 

        不自由して少しは頭働かせ

 

 ところで、この休み中にしたことと言えば、主には創作を幾つかしたことと、パソコンを使い易くしたことか?

 その他には買い物がてらの散歩、読書、韓国ドラマ視聴と、十年一日の如しである。

 それでも週3日の仕事があるから、これからの1年間はまだ退屈せずに済むので好いとしても、完全に退職したその後のことについてはまだ分からない。

 それも先へ先へと考え過ぎない方が好いような気がして来た。

 少しは不自由を感じた方が好いアイデアが出るのかも知れない。

 何事も焦って答えを出そうとしないことだろうなあ。フフッ。

 それはまあともかく、今考えるべきことは今日の仕事についてである。

 特に急ぐわけではないが、今の時期は今シーズンの仕事をし易くするのに頭を使った方が好い。

 私の仕事の場合、経験上そうである。

 後から焦らなくて済むし、更に充実するまで発展させられる。

 その分、仕事が少しは面白くなる!?

 ただ、そうすると欧米的な考え方によると仕事ではなくなり、遊びとなるらしいから、ややこしい。

 遊びにお金を貰うわけには行かないからと、下手をすればサービス残業に繋がり易いような気がするのだ。

 もっともサービスと言うものは、我が国のように組織の側から求められるものではない!?

 本人のポジティブな考え方としてであろう。

 仕事から卒業した後、出来ればそんな時間を持ちたいものであるが、具体的には上にも書いたように、その時が来てからか、近付いてから考えることにしたい。

 なんて書いていたら、隣に座った人が咳き込み、しかもマスクをしていなかった。

 

       マスクレス咳き込みマンに緊張し

 

 そこまで書いて、慎二がまあまあ納得の行く顔をしながらしみじみとしていると、井口清隆、すなわちメルカリさんが入って来た。

「おはようございま~す」

「おはよう~」

「おはようございま~す」

 ひと通り日常的な朝の挨拶を交わした後、メルカリさんが「神の手」の液晶画面を覗き込みながらニヤリとし、

「ブログさん、相変わらず朝から快調ですねぇ~!?」

「いや、まあ・・・」

 慎二は見て貰いたい気もあるが、まだ恥ずかしさの方が大きいときもある。特に書くことに集中していた直後はまだ神経が研ぎ澄まされ、感覚が鋭くなっている。

「それはまあええねんけど、メルカリさん、何か掘り出しもんでもあったんかぁ~?」

 話を逸らすと、メルカリさんが嬉しそうにスマホの画面を見せる。

「ブログさん、これ、どうですぅ~? Windows7のパソコンなんですけど、Microsoftのoffice2010が入ってて、しかもPowerPointまで使えて、何と3000円! これやったら、買うてもええと思いませんかぁ~!?」

 パソコンにはあまり詳しくない慎二であるが、訊ねられた限りは先輩としてちょっと好い恰好をしたくなり、世間でよく言われていることを思い出しながら並べ立てる。

「でもWindows7のままやとセキュリティが危ないらしいし、それに使っているCPUが何か分からへん。それに、記憶装置はまあHDDやろなあ。多分CPUが古いねんやろから、SSDやないと遅いんちゃうかなあ・・・」

 それでも慎二より更にパソコンに疎いメルカリさんには十分凄く思えたようで、

「ブログさ~ん、毎日自分でも使ってはるだけに、流石やわぁ~! よう知ってはりますねえ・・・」

 心底感心した目をしてくれる。

 慎二はちょっと得意になり、今日の仕事は上手く行きそうな気がして来た。

 すると2人の話が聞こえていたようで、ファンドさんがおもむろに口を開き、教えてくれる。

Windows10にアップグレードしたらよろしいやん。今でも無料で出来るらしいですよぅ~」

 ファンドさんは大学でもパソコンを駆使していたようで、結構詳しく、この職場でも中心になって選定、設定、保守等を担当していた。

 聴いていたメリカリさんの眼鏡の奥で、つぶらな瞳がきらりと輝いた。

「ほんまですかぁ~!? ほな、これ買っておこうかなあ・・・」

 それでも少し迷いながらメルカリさんがスマホ片手に執務室を出て行った。

 もう少し迷ってから注文を入れたいようだ。この迷っている時がメルカリさんにとっての至福の時らしい。

 

 その日の帰りのこと、何とか仕事を終えた慎二は最寄り駅への道をぶらぶら歩きながら兄の浩一やファンドさんのことを思い出していた。

 2人共話しぶりでは結構持てるようだ。以前の話では、職場で出会う機会が無くても、食べに行ったり、飲みに行ったりすれば相手ぐらい見付かるだろうと言うのである。

 人見知りが強く、結構嫉妬深い慎二からすれば、俄かには信じられない話であり、また信じたくない話でもあった。

《俺も若い頃、見た目は今のファンドさんとあんまり変わらんかったし、今も兄貴とそんなには変わらへん!? はずやけどなあ・・・。そやのに、兄貴なんかいまだに常に彼女がおりそうなことを言うてるしぃ・・・》

 ちょっと羨ましくなり、遠い目をしていると、

「さようなら。お疲れ様で~す!」

 と言いながら、事務を担当している若い依田絵美里が軽やかに追い抜かして行く。

「お疲れ様ぁ・・・」

 ぼそぼそと返した慎二は、自然と目がその美脚に惹き付けられて頭の中がモヤモヤし始め、続いて目に霞が掛かったようになって、絵美里が実は自分を秘かに思っているような話が頭の片隅に浮かび始めた。
《あっ、あかん、あかん! こんな風に俺は直ぐ見た目に惹き付けられ、空想の世界に遊び出すから、現実の世界では持てへんのやろなあ・・・》

 見上げた東大阪の西の方に広がる空は割と澄んでおり、夕焼けがやけに眩しかった。

 

        成就した恋が少なくつい今も

        気持ちが揺れるオヤジなのかも

 

        現実の恋より夢の恋浮かべ

        それで時間が過ぎて行くかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 大阪府立の学校は新型コロナウイルス感染症の所為で、確か3月の下旬から5月一杯休みになったような記憶がある。

 

 その間でも大人は中々在宅勤務が認められず、緊張しながらでも公共交通機関によって通勤しなければならない人が多かった。

 

 奈良の場合はそれでもまだ自動車通勤が認められ易かったかも知れないが、大阪は狭いし、公共交通機関が発達していることもあるのだろう。

 

 頭では分かっていても、電車やバスに乗り、不特定多数の人に囲まれていれば、緊張することには変わりがない。

 

 しかも、まだまだ新規感染者が多い今年3月までの1年間、現実の私は電車による通勤を飛び飛びにせよ週に3日もし続けた。

 

 今振り返っても、大変な1年であったようだ。

 

 それもう懐かしい日々となりつつある。

 

        通勤の緊張感に耐えながら

        過ぎ去った日々懐かしいかも