sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その10)・・・R3.12.10①

             その10

 

 令和2年3月17日、火曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップが組み込まれた職員証をスリットした後、息を荒くしながら3階まで階段を上がり、割り当てられた執務室に入る。

 息が切れるのであれば素直にエレベーターを使えば好いのに、それはしたくない。若い女性もいる職場では多少なりとも若さが残っているところを見せたい中年オヤジの拘りであった。

 それはまあともかく、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端に何本かひびが入った液晶画面を一心不乱に見詰めては何やらぶつぶつ独り言ちながら、頻りにメモをしていた。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 何時もの形式的な挨拶を交わした後、世界では益々新型コロナウイルス感染症の騒ぎが大きくなっていること、ファンドさんの最大の関心事である株価にも大きな変動が起こっていること等、一頻り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安SIMを挿したスマホまで用意しておく。

 その後は暫らく考え、それからおもむろにメインで使っているスマホを取り出して、通勤電車の中でメモしておいたものを見ながら「神の手」に起こして行く。

 ファンドさんの気持ちは既に投資情報に移っており、またiPhoneの液晶画面を見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモをし始めていた。

 

          朝のひと時雑詠

 我が家では子ども等がそれぞれなりに独立し掛けている。

 大学を出て、アルバイトをしながら色々資格を取り、続けられそうな仕事を探している子どももいる。

 一番上の子のことであり、仕事を探す過程で近い将来に実家を離れて自分の住みたいところも出来れば探そうとしている。

 そんな思いが結構強いようだ。

 高校生の頃から旅行が好きで、独りで彼方此方に出掛けていたが、その過程で落ち着けそうな場所を探していたと言う。

 ただ直ぐには難しいから、暫らくの間は家に幾らか入れながら同居し、独立を目指すつもりであるとも言う。

 新型コロナウイルス騒ぎの所為で再就職するのもままならない状態になって来たから、確かにそれが好いのかも知れない。

 私の場合も遠隔地に一度就職し、6年半ほどして大阪に戻って来た時、次の就職の準備をする為に暫らくは両親と一緒に暮らした。

 勿論、一度目の就職時から経済的には独立している。

 当時はそれが普通であった。

 普通に就職すれば、それが十分に可能であった。

 だから、元々そんなことにはあんまり頓着しない私でも、親の経済状況を考えれば、面倒を看て貰う考えは全く沸いて来なかった。

 かと言っても、仕事を通して自己実現しようとか、仕事には達成感、承認意欲等を満たす効用があるとか、そんなことを考えたり、意識を持ったりしたわけでもない。

 仕事に関してははっきり言って具体的なイメージがなく、強い興味が湧かなかった。

 それが初めての就職に関しての選択をいい加減にし、変化が苦手な私にすればちょっと不思議なほどあっさりと辞めることに至ったように思われる。

 その点だけを取れば、子ども等の方が余程考えているようだ。

 昔も今も私にとっての興味は仕事に向いておらず、自分らしく生きることである。

 その自分らしさ、本当の自分を見付けること。

 そしてその自分を自分なりの言葉で表現すること。

 そんな夢みたいなこと、いわばバブルのようなものを追って生きて来たのかも知れない。

 不安や不満が少なく、のんびりと人間観察をし、時には人生とは何ぞやとか考えながら、機嫌好く過ごせればそれで十分だったのであろう。

 ただ、我が国がまだそんな暢気なことを言っていられるほど成熟していなかったようで、最近とみに社会全体の不安、緊張感、不安等が増して来たように思われる。

 子ども等がこの不安定な社会で生きて行く上で、何らかの支えになりながら、自分なりの考えを形成して行く参考にでもなれればと、この頃はそんなことも思い始めた。

 それはまあ私の考えで、子ども等は別の見本、いわゆる理想の親や教師を求めるのかも知れない。

 それで好い。

 私が全てなどと言う思い上がった気持ちは毛頭無い。

 参考のひとつ、選択肢のひとつであれば十分なのである。

 私には私自身の目標がまだまだあり、実はそれを追い駆ける方により強い興味を持っている。

 それがまた子ども等にプラスに働くことを少しは期待して・・・。

 

        子ども等の見本の一つ其れが親

 

        言葉より生き方を観る子どもかな

 

        言葉より生き方真似る子どもかな

 

 ところで、最低賃金が1時間当たり1000円を超えているところは東京都ぐらい?

 そう思って調べてみると、令和元年度に東京都が1013円、神奈川県が1011円となっていた。

 JETRO(日本貿易振興機構)の資料では、大雑把に言って、米国、カナダ、フランス、ドイツではその1.3倍、オーストラリアでは1.15倍であったが、他の資料によると、オーストラリアでは数年前に時間給1500円で、米国もそこに近付けており、地域によってはもう追い越している、なんて聴いたこともある。

 要するに我が国は最早経済的先進国の中でも高い方ではなく、余裕が無くなりつつある、というところか!?

 それに、正規雇用、継続的雇用等が減って来ているから、最低賃金で甘んじて暮らす層が増えているように思われる。

 当然のように、仕事の選択肢は狭くならざるを得ず、そこから仕事の効用である達成感、承認意欲を満たし、社会的貢献、社会参加に充足感を得て、将来の夢を追うなんてことも叶え難くなっている!?

 まだスタートラインにも立っていない子ども等には、就職のことだけでも難しい問題が山積みのようである。

 それでもまあ、私に比べて子ども等は社会参加にそれなりの意欲を持っているように思われる。

 そこもホッとさせられるところだ。

 なんて、暢気なことを書いていると、思い切り親バカをしている気がして来たなあ。フフッ。

 

        時間金余裕少なく夢萎み

 

        時間金余裕少なく唯生きて

 

        先ず壁を破った先に夢を見て

 

 また話が変わるが、米国の証券市場に大きな動きがある。

 それも、マイナスの向きに…。

 当然日本にはその影響が大きく出ることが予想されるから、今、緊張状態にある人が増えている。

 そして一部の人はその緊張感を喜びに変えている!?

 悪くはない。

 何事にも表と裏がある。

 ピンチをチャンスと捉え、飛躍出来れば幸いである。

 その過程でプラスのエネルギーが社会にも好影響を与えるようであれば、それはもっと望ましい。

 

        マイナスをプラスに変える若さかな

 

        ピンチをもチャンスに変える若さかな

 

 その際に大事なことは、今流行りの転売ヤーとかのように短絡的にではなく、視野を広く持つことである。

 他人の迷惑を考えず、目の前の利益に飛び付くのはお洒落ではない。

 魂の貧しい人の営みであり、更に魂を汚してしまう。 

 勿論、彼らとて自分なりの理屈を見付けて正当化し、自分のプライドを守りはするであろう。

 そうしなければ生きて行き難いから。

 彼らも何時かはその醜さ、恥ずかしさに気付くことを願って、今はそっと見ておくしかない。

 おっと、これは性善説に過ぎ、如何にも我が国によくある事なかれ主義の大人的な考え方かも知れない。

 近代的な民主主義社会、自由経済社会では、米国のようにもう少し現実的に、攻撃的防備が必要な気もして来る。

 まだまだこの世は弱肉強食の社会だから。

 焼肉定食を思い切り食べたければ、弱肉強食の社会を生き抜かなければね。フフッ。

 

        守るには時に攻撃要るのかも

 

        防ぐには時に攻撃要るのかも

 

 なんてことを書いていても、ちっとも気持ち好くはない。

 まさに必要悪と言うやつである。

 現実的な政治にはそれを粛々と進める力も必要だ、と言うことであろう。

 

        現実の政治考え隙間風

 

 あ~あっ、折角春らしくなって来たことを喜んでいたのに、また冬に戻っちまったい。フフッ。

 

 その辺りまで書いて慎二が「神の手」の液晶画面を観ながらしみじみとしていると、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 慎二は、ちょっとは自信が出て来て、メルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問いかける。

「メルカリさん、どう、これぇ? 来る時にスマホにメモしておいたものを元に書いてみたもんで、まあまあ上手く書けたとは思うんやけどなあ…」

「そうですかぁ~!? 毎朝、よう精が出ますねえ・・・」

 半分呆れ、半分感心しながら、

「どれどれ、ふむふむ、・・・」

 気の好いメルカリさんはさっと目を走らせながらちょっと深い目になって、

「ブログさん、今日は朝からまた深いですねえ・・・。僕なんかその日その日が楽しかったらそれでええ方やからなあ・・・」

 と何時になく持ち上げるので、慎二は満更でも無さそうな顔になる。

「まあ自分の子どものことやからなあ・・・。それにメルカリさんはまだまだ若くて元気やし、今が充実しているから、そんなには疑問を感じないんやろなあ・・・。そう言うたらメルカリさんのところかて子どもさん、結構いてたやろ~!?」

 そう聞くとメルカリさんは優しい目になりながら、

「ええまあ、3人いてます。でも、うちはまだ小さいから、まだまだこれからが大変ですわぁ~。充実しているかどうかはまだ分かりませんけど、少なくとも今は疑問になんか思てる暇がない!?」

「そうやろ~!? 俺かてメルカリさんぐらいの時はそうやったんやでえ・・・」

 そう言いながら慎二はちょっと遠い目になる。

 この辺りであんまりしみじみしていても仕事をする気が萎えそうに思ったか、メルカリさんは話題を替える。

「それはそうと、今、日本の最低賃金は世界的に観たら、そんなに安くなってるんですかあ!? 欧米と比べてえらい差を付けられてしまったもんですねえ・・・」

 働き盛りのメルカリさんとしてはそこも気になるところらしい。

 再雇用で給料を半分に減らされ、大好きなネットショッピングをあまり楽しめなくなりつつある慎二としても声を大にして言いたいところであった。

「そうやねん! 分かるやろ~!? この頃生活して行くのに精一杯で、それに相変わらずと言うか、以前よりも余計にと言うか、ともかくしたい仕事なんて中々見つからへんから、子ども等にとっては更に難しい時代になって来たようやなあ・・・」

「ほんまですねえ。フフッ」

 それ以上話していると、この話も重くなりそうなので、メルカリさんは頃合いと見たか? さっと立ち上がり、給湯室までコーヒーを淹れに行った。

 この日は何時もと違い2人の話を割と真剣に聴いていたようで、事務を担当する若い依田絵美里が入れ替わるように近付いて来て、慎二の机の上に熱いお茶を淹れた備前焼のぷっくりした湯飲みをそっと置き、

「私の場合、まだ恵まれてますけど、お2人の話をお聴きしていて、少しは考えなあかんなあ、と思えて来ました。朝からありがとうございます」

 そう言って微笑み、遠ざかって行った。

「いやいや、そんなこと・・・。フフフッ」

 そう言って微笑み返した慎二の頭の中からは既に、まだ「神の手」の液晶画面には確りと残っている御高説などはすっかり振り払われ、さっそうと歩く絵美里のパンツスーツからでもはっきりと分かる美脚のことで一杯になっていた。

 

        ちまちまと頭の中の御高説
        美脚の前に消え去るのかも

 

        偉そうな画面の上の御高説

        美脚を前に儚く消えて

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 今年の夏頃に、アルバイトでAmazonの配送をしている人の時間給が1000円程であることを知った。

 

 これは直接聞いた話である。

 

 また今年の秋頃にインターネットによる検索を楽しんでいる時に、米国のAmazonで配送のアルバイトを時間給2000円程で募集していることを知った。

 

 日米の格差がまた広がっているようである。

 

 と言うことは読売ジャイアンツの絶対エース、菅野智之年棒10億円超の4年契約を新たに結んだ、なんて言われていたが、海を渡って20億円以上貰うのと同じぐらいの同じぐらいの値打ちとなるわけか!?

 

 そりゃ今のメジャーリーグが今の菅野智之にそんな高額のオファーを出さないかも知れない。

 

 マー君こと田中将大に付いても同様で、2人がプロ野球に残ることを選択するのも頷ける話ではあるなあ。フフッ。

 

 こんな風に関係のない人の懐事情に付いて話している分にはお気楽で好いが、自分や身近な人の場合に付いて考え始めると、そうは行かない。

 

 少しでも早く欧米の経済的先進国にまた肩を並べるぐらいの元気が欲しいものである。

 

        失った経済力が少しでも

        戻り出すこと待ち侘びるかも