sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

愛の渡し舟!?・・・R2.3.20③

 愛に悩むことの多い相賀望は、当然愛について考えることが多かった。

 そして元々書くことが好きな望は、自然と愛をテーマにした詩を書くことが多くなった。

 

      愛、其れは命

   人は皆 命の限り生きて行く
   生きていれば きっと誰かを好きになり
   そっと寄り添い 抱き締めて
   愛の交歓 してみたくなる

   其れが自分であるならば 少し淋しい愛となる
   あまりに深く惹かれたら 破滅の道へとまっしぐら
   出来れば外に 目を向けた方がいい

   其れが同性であるならば 普通は友達と呼べばいい
   もっと仲よくなったなら 親友とでも呼ぼうかな
   もっと深く惹かれたら 覚悟を決めて付き合おう

   其れが異性であったなら 普通は恋と呼べばいい
   もっと我慢がしたいなら 友達と呼ぶのもいいだろう
   あまりに無理を重ねれば 少し苦しい愛となる

   其れが大人と子どもなら 普通は綺麗な愛になる
   其処に恋情漂えば 背徳の影ちらついて
   もっと深く惹かれたら 少し危ない愛となる

 

 これは或る日の午後、望が書いた詩であった。

「う~ん、まあまあだなあ」

 少し年上の同僚、久保亮吾が言う。久保も愛が人生のテーマだと考えるところがあるようだが、経験を積んでいる分、望のように甘くは考えておらず、愛には一家言持っているらしい。

「先輩、この詩の一体どこがいけないんですかぁ~?」

 望は不満であった。詩では一日の長があると自負しているだけに、簡単に決め付けて欲しくはなかった。

「観念的だなあ。君がその場におらず、高みの見物をしているようだ。苦しんでいない分、甘過ぎる。だから、迫るものがないんだよなあ、着実に経験を重ねて生きて来た僕には・・・。そんなものに命なんて言ってはいけないよぅ~!」

「ウウッ。きついですねえ、久保さんはぁ~!?」

 しかし、確かにそんな面があるだけに、望には返す言葉がなかった。

「愛とはそんなに観念的なものじゃないんだよぅ~。組んず解れつ、もっとどろどろした関係の中から生まれて来る、確りと地に足が着いたものなんだぁ~。決して綺麗なだけのものじゃないけど、一服の清涼剤と言うか? ポケットの中のカイロと言うか? 砂漠の中のオアシスと言うか? ほっとさせられるものなんだなあ・・・。うん! そんなところがあるからこそ、また元気を出して生きて行こうという気にさせられるんだなあこれがぁ~!」

 久保はここぞと力を入れる。

「さすが先輩、家庭生活の中で長年鍛えられているだけのことはありますねぇ~!?」

 望は半ば感心しながら、半ば皮肉を込めてそう言った。

 皮肉と言うのは、家庭と言うある約束の下に守られた枠組みの中で時々垣間見られる愛にはどうしても手放しで認めたくないものがあるからだ。打算、妥協等、愛に濁りを与える要素で薄め、長引かせた生温い関係の中には、当然のように嘘が満ち満ちている。それを、これこそ大人の愛だ、なんて軽々しく言って欲しくはない・・・。

 それでは本当の愛とは何なのか?

 望の中では未だ混沌とした世界であった。

 

        求めれば霧のごとくにぼやけ出し
        其の本体が見えないのかも

 

「当然だよぅ~。人間関係の中で揉まれてこそ愛が見えて来る」

 どうやら久保には皮肉は通じないようであった。

「ほら、あい、英語のとは日本語に直せばどうなる?」

 望が素直に感心し切っていると思ったのか? 優位に立った久保は試すように聞く。

だから、私、ですかぁ~?」

 何を言い出すのだと不安になって来た望はおずおずと答えた。

「そう。私だ! 人と人の間には深くて黒い河がある。そこに、つまり、わたし、がなければぁ~?」

「あっ、渡れない!」

 久保特有のちょっと凝った駄洒落であった。駄洒落と分かっていても、何処か真理を含んでいるような気もし、望は思わず乗ってしまった。

 

        人と人隔てる川を渡すのは
        愛だと分かり迷わないかも