sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

其々の老後に何拓く⁉・・・R2.3.20②

 暫らく前、まだ定年退職していない頃のこと、藤沢慎二は以前に居た職場で親しく付き合っていた同僚達からの誘いを受けて、京橋(大阪の)にあるイタリアンパブに出掛けて行った。

 慎二は飲めない口なので、イタリアンとか上に付いているのがちょっと嬉しかった。料理に期待していたのである。

 同僚の何人かは既に定年に達して一旦退職し、再雇用で働き続けていた。

 その中の一人、松木義信は週に3日働き、後の4日はのんびりと趣味を楽しみながら過ごしていると言う。今の慎二と同じ立場であった。

 違うのは松木が慎二より2つ上で、年度で締める職場であるから、その頃は退職前に既に年金を貰っていたと言うことである。週3日勤務にして年金をあまりカットされない方が得をした気分になれる。実際には1年当たりに50万円ぐらい減っていたが、その分を時間的な余裕が補って余りあるように思えたのであろう。

 もう直ぐ定年であった慎二は、定年後1年半ぐらい経たなければ年金が貰えず、その50万円を気持ちで補えるほどの経済的な余裕も無い計算であったから、その頃はあまり考えていなかった。

 実際にその時になってみると、手取りを考えればもう少し差が小さくなることと、自由になる時間が増える魅力の大きさから、結局週3日勤務を選んでいる。そして今、更に年金がこの夏から完全に貰えるようになるので、もう1年で仕事から完全に手を退こうと考えている。それぐらい慎二の人生にとっては時間の自由が大きなウエイトを占めていた。

 でもまあ、それはまた後の話。イタリアンパブに舞台を戻そう。

 そこでの話題にもやはり気になるお金のことが出た。

 林田健斗は結婚した増岡久美、だからもう林田健斗か? ともかく夫婦で来ていた。2人共集まった皆と気の合う仲間であったから、揃って来る方が自然であった。その久美が言う。

「付き合いのある銀行の勧めでブラジルのレアルを買ったんやけど、いっこも儲からんかったわぁ~」

 久美の実家はちょっとした旧家で、経済的に余裕があり、健斗の稼ぎを全て生活費に回しても、十分に自由になる収入があった。そして健斗は、食べられさえすれば後は書斎にこもって本を読んでいるか、時折散歩に出掛ければ済む方だったので、久美は多少もの足りなくもあるが、慣れればそれも悪くない気もしていた。気兼ねせずに投資を楽しめ、上手く行けば老後にもっと余裕を持てる。2人でクルーズ旅行三昧とか・・・。遅い結婚になった2人に子どもはおらず、慎二とそんなには違わない健斗も数年後に定年を迎える。

「ふぅ~ん、それでまだ持ってんるん?」

 大して興味無さそうな風をしながら、松木は耳をピクピクさせていた。

 実はお金のことに興味津々で、独身時代の久美にはもっと興味津々であった。松木より大分若く、楚々として、アイドル好きの慎二から観てもまだ十分に魅力的な伴侶を持っていたが、それはまた別の話。松木は何時でも目の前の女性に対してすこぶる真摯であった。

 話を戻そう。

「いえ、もう売ったわぁ~。今度はインドか? ベトナムか? 幾つか勧められてんねんけど、何を買おうかな? と思って・・・」

 久美の言葉に、さもありなんと鼻を蠢かせながら松木がおもむろに口を開く。

「ハハハ、それもまた銀行からの話かいなあ。そんなんあかん、あかん。銀行員が儲かる話なんか持って来るかいなあ。本当に儲かるんやったら、他人に教えんと、自分で儲けるってぇ~。それに、手数料をがっぽり取られるんやろぉ~!?」

「そうやなあ・・・」

 久美はちょっと考える風であった。

 すると、それまで黙って聴いていた秋山本純がおもむろに口を開く。

「そりゃ大事なお金のことを他人に任せたらあかん・・・」

 秋山本純は松木より2つ上であるから、給料、退職金がまだ多く、年金も早めから確り出る年代である。それでも秋山は働かざるもの食うべからずとマジに思っているところがあった。だからまだ週に5日、定年前と変わらない職業生活を送っていた。でも、どうやらそれだけではないらしい。

「僕はこの頃、フリーマーケットのサイト(※)で、これまでに買い集めた楽器、オーディオ、焼き物なんかも売っているよぉどうやら~」

(※リオオリンピックがあったのは2106年、その前からメルカリは動き出している)

「へぇ~」

 松木の耳がまたピクピクし出した。

「それで、儲かるんですか、それぇ~?」

「と言っても、月に2、3万円、よくて5万円ぐらいだけどね。小遣い程度にはなる・・・」

 秋山は結構得意そうであった。

 今度は聴いていた山口修三が口を開く。

「秋山さ~ん、まさか危ないものは売ってないでしょうねぇ? フフッ」

「失礼な奴やなあ、相変わらず君はぁ~!?」

 と言いながらも秋山の目は笑っており、話に乗って来てくれたことが嬉しそうであった。

「あっ、すみません! それはまあ冗談ですが、やっぱり老後は貯金が一番ちゃいますかぁ~。ええ年して投資もなんやし、素人が物を売り買いするのも危ない気がするから・・・。その点、銀行に預かって貰い、後は地道に働く。これが一番やねえ~」

「ほんま、夢の欠片もない奴やなあ・・・」

 気の置けない旧友達のそんな与太話を聴きながら慎二は、夢は人に預けるまんやない、自分で作るもんや、と思い、早速頭の中に何人かの仲間を呼び出していた。

 

        其々に老後生活考えて
        其々の道切り拓くかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 この話は今書いたものである。

 

 このような話が実際に出た集まりがあったのは確か、リオオリンピックの前の年で、ブラジルの経済が上を向いて来た頃であったか?

 

 今も同じような話が続いている。

 

 ネットに投資を進める記事が出ていたので、ちょっと懐かしく思い出した。

 

 私が若い頃も20代で始めた定額預金の利率が年に8%を超え、10年の満期を迎えた時に元金300万円が600万に増えていた。

 

 今住んでいる家の頭金になり、独身時代に結構使っていたのに助かった覚えがある。

 

 実際には今、同じような家が6割とかで売っているのを観ると、微妙な気はする。

 

 その分、収入も減っているから、何が得なのか? 損なのか? よく考えてみなければ分からない。

 

 そしてよく考えるよりも、その精力を仕事に使おうとするのが我々古き良き時代の日本人なんだろうなあ。フフッ。

 

 それが本当に好いとは限らない。

 

 経済的にずっと下降線上にあり、それを如実に感じている若者達は、もう少し身を入れて将来を考えているように思われる。

 

 また、動いているようである。

 

 失敗もあるだろうが、その方が納得の行く人生を送れるかも知れない。

 

 我が子等を観ていても、ふと思うことである。

 

        其々が自分の道を切り拓き

        少しは気持ち前を向くかも