sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

懐かしく青い日々(10)・・・R2年1.10①


              第1章 その9

 

        低いなり安定すれば悪くなし
        今しばらくはのんびりしよう

 

        切っ掛けがあれば少しは反省し
        不器用なりに始めてみよう

 

 結局、藤沢慎二の成績は1年間を通して低空飛行のままであった。あまり変化がないから、日常的に家庭学習しなくても何とかやって行けるという変な自信さえ与えてしまい、机を移動させただけでは習慣を変える切っ掛けにならなかったのである。
 しかしもう直ぐ春休みを迎え、それが終わるといよいよ2年生である。これは大きな切っ掛けになる。それに、そろそろ家庭学習の習慣を付けておかないと、定期試験はともかく、受験においてはかなり遅れを取るだろう。
 よし、取り敢えず参考書を買いに行こう! そして、ノートを作ったり、予習、復習の予定を立てたりしなければ・・・。
 慎二は先ず梅田にある大型書店の旭屋書店まで足を延ばし、参考書を選ぶことにした。静岡で茶道と華道を教えている2人の親戚から1万円ずつ貰っているので、母親の祥子に貰った1万円も入れて、3万円! 潤沢過ぎるほどにある。
 う~んと、化学と物理は数研出版のチャート式が好いだろうなあ!? 数学は科学新興社のモノグラフか、やっぱりチャート式か、どっちにしようかな? 迷うなあ。見易いからモノグラフにするかぁ~!? 世界史は山川出版が好いだろう。国語は何処が好いのかなあ? 英語も分からないなあ。分からないときは取り敢えず有名なのにしておくかぁ!? よし、文英堂のシグマベストにしよう!
 それに問題集も合わせて、全科目に亘り揃えて行き、両手で持ち切れなくなった。
 そんな慎二を横目に見ながら、近くで参考書を選んでいた他校の女子たちが噂を始める。
「ねえねえ。あれ、凄いわねえ!? ウフッ。あんなに買っても全部は使わないと思うわよ。私も高校に入った時に地学や地理まで買って、結局1年間殆んど開かなかったもの」
「そうよねえ。どうせ無駄になるのがオチよ」
 聞こえてはいたし、気になりもしたが、慎二は外野の声を敢えて無視することにした。
 確かに、今までの経験からしても、全部は使わないかも知れない。いや、使わない本の方が多いだろう。
 しかし、下手でも何でも、始めないことには始まらない。足りなくて困るより、多目にあった方が好いだろう。大は小を兼ねると言うではないか!?
 自分にそう言い聞かせながら迷いを振り切り、慎二は選んだ本全てを数回に分け、レジまで持って行った。

 

        現実を知らないままに予定立て
        出来ないことに落ち込むのかも

 

 帰ってから机に向かい、紙を広げて勉強の予定を考える。
 そう言えば、中学校のときの教師が進路指導で、無理、無駄はしないように、なんて言っていたなあ。
 頭に残ってはいても、どうしても多目の予定を立ててしまう。今まで日常的な学習の習慣が付いていないにも拘らず、夕食後に休憩もしないで3時間連続で勉強するなんて、そんな明らかに出来るわけがない予定を立てて、自分が既に一歩前進出来たような気になっているのだから可笑しい。
 当然、こなせるわけがなかった。早速落ち込み、やる気が萎む。
 それでも机に向かう時間が長くなった所為か、母親は少し胸を撫で下ろしていた。

 

        下手にでも動き出したら見えて来て
        見えぬままより少し前進

 

 下手なりに覚悟を決めて動き出すものである。最初の数日間は確かなものが何も見えず、苦しいばかりであった。勢いが萎むと、前より不安になって来るぐらいであった。
しかし、そこを我慢しながら乗り切ると、無理をしていること、無駄にしていることが何となく見えて来て、能率が上がり出したのである。
 壁が見えた! 思っていたより難しくはない。あいつらに出来ることがこの俺に出来ないわけがない。元々俺は中学校で結構出来た方なのだ。事実、担任の森沢は大阪城北高校を受けてもいい、と言っていたではないか!?
 自信さえ芽生え出した。
 そうなればしめたものである。慎二は新学期を迎えるのが待ち遠しくて仕方がなかった。