sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

懐かしく青い日々(5)・・・R2年1.5①

             第1章 その4

 

 合宿が終わってから8月後半までは練習がなく、いよいよ本格的な夏休みに入った。
 と言っても、無趣味で、活動的でもない藤沢慎二には殆んどすることがなく、ただだらだらと寝てばかりいた。
 そんなある日、幼馴染の岸川友也から誘いの電話があった。

 

        夏休み明るいデート致しましょ
        二人っ切りは未だ早いかも        

 

「もしもし。岸川やけど、どうや、元気かぁ~?」
「嗚呼、岸川。うん、何とかやってるわぁ~」
「どや、今度の日曜日、空いてないかぁ~?」
「俺は8月の後半までやったら何時でも空いてるでぇ~」
「いや、俺はバイトやってるからそう暇ではないんやけど、今度の日曜日、女の子も呼んで、遊園地でも行こかなあと思って・・・。空いてるんやったら、出ておいでえやぁ」
「そうやなあ。別に行ってもええけど・・・」
 慎二はデートどころかグループ交際もしたことがない。中学1年生になって暫らくしてからしては女子を強く意識するようになり、2学期が終わる頃には視線を合わせることすら出来なくなってしまったのである。だから、女子も交えて遊びに行くと聞いて舞い上がってしまったのであるが、余計に関心のない振りをする。
 岸川はそんなことぐらい重々承知であったが、話を合わせようとする。
「まあまあ。勉強ばっかりしてんと、たまには息抜きもせなぁ」
「分かった。ほな、行ってみよかっ」
 慎二はあくまでも、岸川が誘ったからそれに付き合うだけなのだと言う姿勢を崩さなかった。

 週が変わって日曜日、慎二は待ち合わせの約束をした阪急梅田駅前の大型書店、紀伊國屋の前に向かった。
 岸川からの電話によると、岸川以外に女の子が2人来るらしい。一体誰だろう?
慎二は期待に胸を膨らませていた。
 その頃住んでいた都島区からの市バスは阪急の東梅田側に着き、目的地には阪急百貨店1階のエントランスホールを通り抜けるか、地下街を歩けば好い。地下街はよく分からないので、慎二は阪急百貨店を抜けることにした。
 慎二の住む都島区の下町には見られないほど大きなビルなので、思っていた以上に遠い。かなり歩き、別のビルに入って動く歩道に乗り、更に歩いて、漸く見えて来た。
 あれはどうやら、岸川のガールフレンドらしい秋元玲子と玲子の友だちの佐々木奈々枝だなあ?
 慎二は以前にももっと大勢で遊びに行ったことがあり、そのときから奈々枝の女性らしい丸み、さばさばした性格に少なからず惹かれるものを感じていたから、早くもぎこちなくなり始めていた。
「おい、遅いわぁ~!」
 慎二を見付けた岸川が大きな声を出す。
「ご免、ご免。バスが遅れたんや。お前ら、大丈夫やったんか?」
「俺らは先に来て、お茶してたんやぁ」
 岸川はちょっと得意そうである。
 慎二と岸川の一通りの遣り取りを微笑みながら聞いていた玲子は、一段落すると落ち着いた目を慎二に向けてぺこりと頭を下げながら、
「こんにちはぁ」
 続いて、少し後ろに控えていた奈々枝も言う。
「こんにちは。久し振り」
 どうやら奈々枝は、慎二同様、岸川と玲子のカップルの緩衝材であることを心得ているらしい。意味ありげな笑みを浮かべている。
 もっとも、慎二はそんな風に気が回る方ではなかったから、ただただ舞い上がっていた。
「こ、こんにちはぁ・・・」
「ハハハ。何を緊張してるんやぁ!? もしかしたら変なこと考えてないかぁ~?」
「な、何言うんやぁ!」
「ハハハハハ。まあええわ。今日は宝塚に行くでぇ~。ほな、行こかぁ~」
 岸川は慎二の慌て振りを面白がりながら先導する。
 それでも動き始めると何とかなるものである。電車に乗る頃にはそれなりに思い出話が弾み出した。
 十三を過ぎた頃に岸川が慎二に問う。
「それでどうやねん。高校では何番ぐらいになったんやぁ?」
「いや、250番ぐらいやから、大したことないよ」
 慎二は正直である。
 それでも岸川は一応気を使う。
「250番言うても、北河内高校やから、国公立には行けるんやろぉ~?」
「そんなことないよ。やっぱり100番台でないとしんどいやろなあ」
「ふぅ~ん、藤沢でもそうなんか・・・。そうすると、やっぱり山田は凄いなあ」
 山田高志は同じ中学で常にトップクラスに位置し、大阪城北高校に余裕で進んだ秀才である。
 と言っても、決してがり勉ではなく、効率よく勉強出来るタイプで、1、2年の間は慎二や岸川らとの遊びにもよく付き合っていた。試験前にわざとのようにボウリング場やゲームセンター、それに当時は10日毎にあった夜店まで付き合って、常に学年で5番以内に入っていた。それが3年生になり、本格的に勉強し始めると常にトップに君臨して地位を脅かす者が全くいなくなった。
「山田なんか30番になったと言うてたでぇ~」
 凸凹の多い不器用な慎二はタイプが全く違うし、山田は皆が認める秀才であるので、殊更に山田を意識しているわけではない。
 それでも、ことある毎に山田を引き合いに出し、自分を引き下げられると、幾ら慎二が競争を好まないタイプとは言え、好い気はしなかった。
 他人の褌で相撲を取るなよなっ!
 心の中ではそう思っても、口では全然違うことを言っていた。
「ほな、山田は京奈大学を確実に狙える範囲にあるわけやなあ。あいつは何処に行っても凄いなあ」
 好い気はしなくても、ついつい話だけは合わせてしまう。
 それで満足したのか岸川は玲子や奈々枝に学校のことを聞き始めたので、慎二は車窓からの移り行く景色を楽しむことにした。

 宝塚ファミリーパークはほどよく刺激的で、お付き合いにせよ、初めてのデートには持って来いの場所であった。
 慎二が家族と行く場合は枚方パークが多く、ちょっと足を延ばす場合は甲子園の阪神パーク近鉄のあやめ池遊園地だったので、宝塚には全く記憶がなかった。それも刺激になったようである。
 フワフワした時間があっと言う間に過ぎ、昼食の後、ボートに乗ることにした。
「ほな、俺は秋元さんと乗るわぁ~。藤沢は佐々木さんと乗ったらええやん」
 そう言って岸川がさっさとボートに乗り、玲子がそれに従う。
 奈々枝と乗りたかったくせに、はっきりそう決められてしまうと、慎二は躊躇してしまう。
「ウフッ。そしたら私たちも乗りましょかぁ!?」
 待っていても誘ってくれそうにないから、諦めて奈々枝の方から誘った。
「う、うん・・・」
 それでも、嬉しさを素直に出すのもはしたない気がして、慎二は仕方なく従うように後からゆっくりと乗り込む。
「漕いでくれるぅ?」
 2人っ切りになると奈々枝は甘えるように言う。
 慎二はボートなど漕いだことがなかったが、ここで断るわけには行かず、オールを握る。
 どうすればいいのだろう?
 キョロキョロ周りを見ている慎二を、奈々枝は黙って微笑みながら見ていた。

 

        ゆらゆらと池のボートは揺れながら
        心の揺れを表わすように

 

 あっと言う間であった。乗り込んだときは、どんな風に漕げばいいのか? 何を話せばいいのか? 分からないことばかりで心は池の水面のように揺れていたが、案ずるより生むが易しで、水面を渡る心地好い風に吹かれている内に、予定の30分になってしまった。
「早いなあ。もう時間や・・・。もう1回乗るかぁ~!?」
 現金なものである。今度は慎二の方から誘う。
「ええ・・・。でも、岸川君と秋元さんが待っているから、他のにしましょう」
 奈々枝は降りる切っ掛けが出来、ほっとした様子である。

 それからも暫らくはそんな緊張感があったが、1日一緒に居ると、流石に自分が主役ではないのが分かって来るから、慎二にしてはリラックス出来たのであろう。お陰でそれなりに楽しく過ごすことが出来たので、そろそろ別れの挨拶をしなければならない頃には時間が惜しいぐらいであった。

 バスから降り、さよならを言おうとして玲子の方を見ると、玲子は岸川とじっと見つめ合ったまま、慎二の方を見ようともしない。
 奈々枝も同じように岸川と玲子のことばかり気にしている。
 やっぱり・・・。
 慎二はちょっと複雑な気持ちを抱きながら家に向かった。