その44
令和2年6月22日、月曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着いて、玄関ホールでタイムカードにスリットした後、そばに置いてあるアルコール消毒液を掌に溢れんばかりにたっぷりと取り、手指を丸めたり、伸ばしたり、擦り合わせたり、爪の間にも染み込ませようと指先を掌でトントンしたりし、ともかく丁寧過ぎるぐらいに念入りに消毒する。
この消毒液は大分前から置いてあり、来客も含めてそこを通る人の皆が日に数回ずつは使う所為か? この頃は何だか減りが早いように思われる。幾ら呑気で不精者の慎二でも一旦使い始めると、そうしないことが結構大きな不安になって来るのであった。慎二はそれぐらい小心者で、同調圧力に弱いタイプでもあった。だからついでに洗面所に寄って、持参した米国製超強力うがい薬で何回もうがいをしておく。
そんな一定の安心感が得られるまでの儀式的なことまで済ませて執務室に入って来たら、これも何時も通り、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、スマホを観てはぶつぶつ言いながらしきりにメモを取っていた。その変わらなさ加減にも結構大きな安心感があった。
「おはよ~う」
「おはようございま~す」
習慣的な朝の挨拶を交わした後、もしかしたら梅雨入りしてから蒸し暑くなって来た影響もあるのか? 梅雨の合間にもしっかりと感じられるほど紫外線が強くなっている効果も大きいのか? 我が国では急速に新型コロナウイルス感染症が収まっていること、また全国的に緊急事態宣言に続いて休業要請、更に都道府県をまたぐ移動の自粛も解除されている所為で早速気の緩みが出始めているのか? 福岡県、大阪府、神奈川県、東京都、埼玉県、千葉県、北海道等と、広範囲に亙ってまだ新たな感染者が中々0人を維持出来ないこと、時には無視出来ない数出ていること、大阪でも難波、梅田、天王寺、京橋等の繁華街で人波は確実に増えて来ていること、通勤電車や駅に学生が見られるようになり、程々に混んでいるときも増えたこと等、ひと通り世間話をし、それから慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そしてそばには、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、テザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。
個人的なことも含めて何処まで書くか何か迷うところでもあったのか? その後は暫らく考え、それからおもむろにメインに使っているスマホを取り出し、通勤電車の中、待ち時間、隙間時間等にメモしておいたものを見直しながら起こして行く。この日はそれ以外にも、前日のことを思い出しながら付け加えておくことにする。
ファンドさんの関心は既に投資関係の記事に移っており、またスマホの液晶画面を見詰めてぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモを取り始めた。
朝のひと時雑詠
昨日は朝から好い天気で、暫らくは梅雨の晴れ間となりそうな予報が出ていた。
少なくとも火曜日辺りまでは青空が広がりそうな感じがしていた。
今週も月~水曜日の3日連続出勤であるから、その点は助かる。
休日の前にちょっとリラックス出来るのと反対で、出勤日が近付くとちょっと緊張が高まっていたが、これはまあ仕方が無い。
退職までのもう暫らくの間はそれを楽しむぐらいが好いのであろう。
楽しむと言えば、昨日の昼前、ネットで注文していたANKERのブルートゥーススピーカー、SoundCore miniが届いた。
安くて軽く、意外に音が好いと評価の高い製品である。
家人がキーボードの練習をするのにヘッドホンをスピーカー代わりに使っていたので、それよりは楽かと思ったのである。
ブルートゥースで使ってみたら、軽めではあるが、低音が感じられ、多少シャリシャリ感があるものの、ちゃんと分る高音まで感じられる。
最大音量はあまり大きくないので、手軽に身近で使うタイプであろうか!?
レビューを読んでみると、ブルートゥースよりはFM放送、マイクロSDカードによるミュージックプレイヤーとしての使い方の方が好い音を聴かせてくれるようだ。
外部機器との有線接続にも期待出来そうである。
付属品は簡単な取扱説明書、アフターケアの案内書、それに充電用のUSBケーブルとあっさりとしたものであるが、この値段では納得が行くものでもあった。
パッケージは青を基調としてお洒落な感じで、これはANKER製品に共通している!?
ともかく、安い割に持つ喜びを感じさせてくれるから、ここにも感心させられる。
なお、色としてローズゴールドと言うピンク系を選んだので、そこも家人は喜んでいた。
基本となる? 黒よりは100円高く、税込み、送料込みで2499円であったが、今はカード払いにすると5%引きになるから、ちょっと買い易い気がする。
ANKERや値段以上を感じさせ
ANKERやセンスの好さを感じさせ
大分前に韓国製品は進出を試みる国に合わせると聴いた覚えがあるから、もしかしたら結構色々な機能を詰め込んでいるのだろうか!?
そこを我が国の神経の細かさで評価されると、どうしても不満が感じられるような気がする。
値段があまり変わらないことも加わって、この頃リーズナブルなオーディオ関係ではあんまり韓国製品が見られなくなったのではないだろうか?
それはまあともかく、昨日もアマゾンプライムで音楽を楽しみながらこれを書いていた。
一昨日子どもが入ったU-Nextに比べると、音楽にしても、ビデオにしても、楽しめる作品の数が少ないのかも知れないが、私の用途から考えればこれで十分かも知れない。
これも含めて、これからは楽しみ方が増えて来た分、色々選ばなければならないようである。
そうしないと、時間、お金が無駄に消費されることになる?
情報を旨く選んで節約し
情報を旨く選んで幸せに
さて、今日から3日連続の出勤である。
昨日は外に出ず、少し昼寝をした所為か? 寝付きが悪く、夜中に何度も起きた。
嗚呼眠い。
でもまあ何とか起きたから、何とかなるだろう。
週の後半、木、金と休むことが昨年度とは違い、戸惑うことも多くなった。
ぽっかりと大きな穴が開いた気分になる。
連続ドラマの途中を見逃したような感じでもある。
まあ好い。
この仕事の最後の1年、幕引きとしてはそれで好い気もして来た。
職場でもそう考えているようで、昨年度まで色々引き受けていた仕事が今年度、一気に他人の手に渡っている。
少しずつ仕事が減って退職し
少しずつ仕事が減って卒業し
話は変わるが、昨日、プロ野球は6試合行われた。
投手好きの私としては、一番印象に残ったのはオリックスバッファローズの山本由伸(21歳、178cm、80kg)である。
試合の方は楽天ゴールデンイーグルスと対戦して4対0であったが、山本由伸は8回で94球投げ、3安打10三振無失点の快投で勝利をものにしている。
1回から速球は150km/hを超え、最速155km/hぐらい出ていた。
フォークも140km/hを超え、軌道が好い所為か? バッターはつい振ってしまうようであった。
他には広島カープの森下暢仁(22歳、180cm、76kg)、中日ドラゴンズの梅津昊大(23歳、187cm、90kg)の快投が光る。
広島カープは残念ながら後の投手が打たれ、横浜DeNAに1対2で負けている。
森下暢仁は7回で104球投げ、4安打8三振2四球無失点の快投であったが、勝敗は付かなかった。
中日ドラゴンズはヤクルトスワローズと対戦し、3対0で勝っている。
梅津昊大は7回で108球投げ、3安打5三振3四球無失点の快投で勝ちが付いている。
この2人、何れも大卒の2年目で、速球の最速は150km/hを超える本格派であるから、今年に注目したい。
山本や期待通りの仕事魅せ
山本や圧倒的な仕事魅せ
山本や胸を空く球披露して
さて、そろそろ出る準備に掛からなければならない。
出勤する日はどうしても気忙しくなる。
あんまり慌てて動き出すと、私の場合どうしても忘れ物が多くなるから、少しは余裕を持っておく必要がある。
ところで、家を出た時点ではまだ涼しく、過ごし易い。
今日も荷物が多く、早速仕事のことで頭が回り出した。
多少荷物が重くなるのは苦にならないが、どこかで置き忘れはしないかと不安になる。
これはもう小学生の頃からのことで、軽いトラウマのようなものであるから、仕方が無い。
置き忘れたら困るのは自分なので、精々気を付けるしかない。
それはまあともかく、最寄り駅で乗り込んだ通勤電車には学生が増え、少し窮屈になりつつある。
こんなときに、大阪府では新型コロナウイルスの感染者が新たに出始めているから、余計に緊張させられる。
幸い、我が家の子どもの熱は下がり始めたようである。
午後になると熱が上がっていたのが漸く治まって来たのか、元気になって来た。
私の方は何時もとそんなに変わらないので、まあ治まったと見て好いのだろう。
乗換駅の生駒で乗り込んだ尼崎行きの普通電車の混み具合は大分ましであったが、駅が混んでおり、滑り込みで漸く乗れた。
困ったものである。
行きも帰りもこんな感じで、のんびり歩いていると、1本乗り遅れることになる。
生駒線の場合15分、20分遅れることになるから、それを避けようと思えば、ついつい急いでしまう。
そんなことも加わって、さっきまで涼しかったのが、ひと息吐いて、気が付けば汗ばんでいる。
急いだら汗ばむほどの陽気かな
乗り換えで汗ばむほどの陽気かな
要するに、まだそこまでは暑くない、ってわけである。
少し落ち着いて来たと思ったら、職場の最寄り駅が近くなって来た。
今度は降りる準備をしなければ。
降り忘れ、忘れ物には注意しなければなあ。フフッ。
その辺りまで書いて、自分なりには今日も上手く書けたと思い、慎二がしみじみとしていたら、
「おはようございま~す」
「おはようございま~す」
「おはよ~う」
井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。
慎二はちょっと迷い、メルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問いかける。
「どう、これぇ? 今日もまあまあ上手く書けたと思うんやけどなあ・・・」
それだけのことで小心者の慎二は、緊張が高まって耳をひくひくさせている。
「ブログさん、相変わらず毎朝、よう精が出ますねえ。どれどれ・・・」
気の好いメルカリさんはそう言って半分呆れ、半分感心しながら、さっと目を走らせて、
「ほんとですねえ。大阪にも新たな感染者が出始めましたねえ!? まあこれは予想されたことですけど、それでもやっぱり緊張しますねえ」
「でも、メルカリさんは未だ車で通勤してるんやろぉ~?」
慎二はちょっと羨ましそうに言う。
メルカリさんは今気付いたように慎二からじわじわ離れながら、
「まあそれはそうですけど、まだ何処に新型コロナウイルスが潜んでいるか分かりませんしぃ・・・」
「おいおい。俺のとこはもう大丈夫やってぇ~!」
「ハハハ。そんなこと分かってますってぇ。冗談冗談。ハハハハハ」
そう言いながらもメルカリさんは頃合いと見たか、サッと立ち上がってコーヒーを淹れに行った。
そこに事務を担当している若い依田絵美里がお茶を持って来て慎二の机の上にそっと置き、「神の手」の液晶が目にさっと目を走らせておもむろに言う。
「プロ野球、やっと始まりましたねえ・・・」
その様子が如何にも感慨深げだったので慎二は、
「へぇ~、依田さん、プロ野球、好きやったん!?」
「変ですかぁ~? 私の友達にも好きな人、結構いますよぉ~」
絵美里はちょっと不満そうに言う。
慎二は慌てて、
「ごめんごめん。ほんで、どこか好きなチームとか、選手とかあるん?」
「ええ! 友達と一緒に時々京セラドームまでオリックスの試合を観をに行くこともあるので、藤沢さんも注目されている山本由伸投手とか・・・」
そう言いながら絵美里は離れて行った。
《その一緒に野球観戦に行く友達って、もしかしたら男友達やろかぁ~!? そりゃそうやろなあ・・・》
余計なことを考えながらも口には出せず、慎二は絵美里の後ろ姿をちょっと羨ましそうにじっと見送っていた。
動き出す社会の中でコロナ禍も
またじわじわと増え出すのかも
マドンナの友を勝手に想像し
勝手に胸を騒がすのかも