その-6
令和2年2月28日、金曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、タイムカードにスリットした後、執務室に入る。
既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、スマホを何やら熱心に見詰めていた。
「おはよ~う」
「おはようございま~す」
挨拶を交わした後、世界では新型コロナウイルス感染症の騒ぎが大きくなっていること、株価に大きな変動が起こっていること等、ひと通り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、テザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。
その後は暫らく考え、それからおもむろにメインで使っているスマホを取り出して、メモしておいたものを見ながら「神の手」に起こして行く。
朝のひと時雑詠
ここのところ花粉症が酷くなって来たのもあるし、仕方が無いから残り20枚ほどになった買い置きの不織布マスクをして出た。
これでも結構息苦しい。
元々鼻で息が出来なくなっているからなあ。
ところで、この使い捨てマスクでは新型コロナウイルスまでは防げないそうな。
ちょっと調べてみると、スギ花粉が30μmぐらいで、マスクの穴は3μmぐらいとか。
そりゃ十分に防げるなあ。
それでウイルスは?
なっ、何と0.1μm以下だと言う。
不織布の使い捨てマスクの穴ぐらいスイスイと通れそうだ。
でも、普段見慣れない単位になると、今一実感が薄い。
だから日常よく出て来る単位に当てはめてみることにしよう。
花粉とか細胞の大きさを1辺1kmとすると、1km四方で分かりやすいのが関西では大阪城公園か平城宮跡ぐらいのもの!?
これの10分の1レベルがマスクの穴で1辺100mだから、100m四方だから、例えるならば町中にある学校の運動場ぐらいか?
そしてウィルスは? と考えてみると、長さ的にはその30分の1レベルで3mぐらいのものから、小さな車ぐらい!?
そりゃ幾らでも通れる気がして来た。
それに細胞のどこからでも潜り込める!?
おお、怖い!
こんなことを昨夜考えていた所為もあってか? ちょっと寝付きが悪くなってしまった。
ウイルスを考え過ぎて不眠症
春眠を楽しませないコロナかな
大阪府、大阪市等で新型コロナウイルス対策として公立学校の休校について発表し始めた。
大阪市は大胆にも今日から市立の小中学校全校を休校にするそうな。
我が家では子どもがそれを観て、休みにならないかと期待している。
奈良の私立だし、しかも、もう高校でもないのになあ。フフッ。
そうこうする内に、安倍首相が全国レベルで小中高全ての学校に3月2日から休校とするように要請したとか。
子どもが益々悔しがっていた。
子どもとは、まあそんなものだなあ。フフッ。
ただ、現実問題として日本の経済活動を全て止めるわけにも行かないから、これから細かい手当てが必要になって来る気がする。
既に保育所・学童保育に付いては要請せず、と出ていたが、果たしてそれだけで済むのかどうか?
ネットの記事には早速喧々諤々、色々なコメントが集まっている。
生活の基盤揺るがすコロナかな
その辺りまで書いて慎二が「神の手」の液晶画面を観ながらしみじみしていると、
「おはようございま~す」
「おはようございま~す」
「おはよ~う」
井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。
慎二はちょっとは自信を持ちながらメルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せて問い掛ける。
「どう、これぇ? 来る途中の電車の中でスマホにメモしておいたものを元に書いてみたんやけどぉ・・・」
「そうですかぁ~!? 毎朝、よう精が出ますねえ・・・」
半分呆れ、半分感心しながら、
「どれどれ・・・」
気の好いメルカリさんはさっと目を走らせて、
「ふぅ~ん、そんな大きさの関係なんですかぁ~。ブログさん、理学部出身だけあって流石ですねえ・・・」
ちょっと感心して見せる。
慎二はちょっと照れながら、
「まあ計算するのは好きな方やからなあ。でも、そんなん言うたらメルカリさんかて理系やろぉ~!? ここに居るんやから~」
「ちゃいますよぅ! 僕、文学部の心理学科出身ですけどぉ、まあそんなんどうでもよろしいやん」
メルカリさんはそれ以上大学の時のことは話したくなさそうだったので、慎二は話題を替える。
「ところで、メルカリさんとこ、子どもさん等、まだ小さかったやろぉ~?」
「ええ。上がまだ小学生で、下が今度小学校に上がりますねん」
「大変やなあ。学校休みになったら・・・」
「でも、僕とこは奈良ですからぁ・・・」
と言いながらも、メルカリさんはちょっと困ったような笑顔を浮かべながら立ち上がり、コーヒーを淹れに行った。
《そう言えば俺のとこも奈良やったなあ》
そう思いながらも、ちらっと窓から生駒山の方を見て、慎二はどこかじわじわと迫って来る不安を感じ始めていた。
その時、2人の話を聞くともなしに聞いていた様子の、事務を担当している依田絵美里が慎二の机にそっとお茶を置き、何も言わずに離れる。
ちらっと見た絵美里の表情が心なしか曇っており、慎二の気持ちは更に揺らされていた。
《と言っても、皆で沈んででも仕方が無い!?》
「よしぃ!」
慎二は気持ちを吹っ切って一口お茶を飲み、「神の手」をそっと閉じた。
じわじわとコロナの不安感じつつ
気持ちを決めて仕事するかも