sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

対談する人(3)・・・R2.3.31①

               その3

 出版の話を決め、藤沢慎二が気持ち好くなってショッピングセンターの方に向かった頃、麻矢はおもむろに携帯を取り出した。

 

            麻矢より晶子へメール

ねえねえ。お宅のご主人、自費出版をする積もりらしいわよ。出版社の人にうまいこと言われて、ローンを組んでまで出す気らしいけど、大丈夫? 少しは話を聞いてるの?

 

 それを読んだ晶子は暫らく考えた後、静かな表情になって返事のメールを打ち始めた。

 

            晶子より麻矢へメール

ありがとう。初めて聞く話だし、その点に関しては残念です。でも私、それでもいいと思ってるの。彼の長年の夢だし、彼がそうしたいのなら、そして、うちの経済力で何とか出来ることなら、すればいいと思うの。

 

            麻矢より晶子へメール

そう。分かったわ。あなたは本当によく出来た人ねえ。そやけど、それを聞いたら余計に腹が立って来るわ~、お宅のご主人に。あなたに甘えて暢気なことばかりやっているんやから。

 

            晶子より麻矢へメール

フフフッ。ほんとにそうね。そしたら、私がとっちめておくから、私に免じてどうか許してあげて。お願いだから。あの人が、またお宅に暢気そうにお邪魔してもいじめないでね。

 

            麻矢より晶子へメール

はいはい。分かりました。もう何もいいません。ごちそうさま。
それはまあともかく、今度のうちの定休日、木曜日はあなたひとりだけでしょう? いつもの公園よりもう少し遠出してみない? 浩太君の幼稚園は結構遅くまで預かってくれると言ってたわねえ。私たちも、ささやかだけど、偶には気分転換しましょうよ。

 

            晶子より麻矢へメール

分かったわ。ありがとう。浩太が帰って来るのは4時半頃だし、ぜひ行きましょう。楽しみだわ。

 

 どうやら、晶子は異を唱えなかったようで、何とか無事(?)、対談原稿は出来たようである。それを手に、慎二は「みつばち」でもう一度、佐久田に会っていた。


        対談「出演者、人シリーズを大いに語る」

(司会者)花沢様、春山様、今日はお忙しいところ、対談、「出演者、人シリーズを語る」にご出席下さいまして、どうもありがとうございます。私は司会を担当させて頂きます小野美津子と申します。どうかよろしくお願い致します。

 早速ですが花沢様、どんなところから人シリーズを書いてみようと思われたんですか?

(花沢)そうですねえ。私たちって、毎日同じようなことを繰り返しながら何とか生きて行く。そのままでは名もなく朽ちて行くような儚い存在じゃないですか。勿論、自分にとってはそれでも十分生きるに値する人生なんですけど、完全週5日制が多くなった現在、このゆとりを利用してですねぇ、私も含めた、ごく普通の人をもう少しクローズアップしてみたくなったんですよ。こんな私でも、本当は十分に色んなことをしながら、考えながら生きているんだぞ、ということをね。

(春山)要するに暇やったんや。

(司会者)ハハハハハッ、いきなり辛辣ですね。ところで、春山様はこのシリーズ、大体読まれているそうですが、どの作品が気に入られましたか? また、その感想を簡単にお聞かせ願えましたら。

(春山)まあ、どれもチマチマとした世界を書いていて、気宇壮大をモットーとする私としては畑違いなんだけど、強いて言えば、ちょっと引っ掛けられちゃったかな、と言う意味で、「計算する人」だろうなあ。花沢君のことだから、どうせ男同士かなんかだろうなあ、と思っていたら、男同士には違いないんだけど、どっちも自分って言うのには想像も付かなかったよ。

(司会者)そうですね。その辺り、私も中々ユニークだと思いました。それに、携帯のメールをアイテムに取り入れたと言うのもいいですね。この辺りは花沢様、どこから思い付かれましたか?

(花沢)いやぁ、何ね。職場でも電車の中でもどこでも、みんなピコピコやっては思わせ振りな表情でジーッと画面を見詰めているもんだから、ついついそれを利用しちゃったんですよ。結構行けてました? ウフフッ。

(春山)どうせそんなところですよ、この人は・・・。そこらで見たり聞いたりしたことをサッと書いちゃうんだ。それに、自分では携帯なんか持ってないんだから。私のアイデアも知らないうちに幾ら書かれちゃったか分からない。そのくせに私が、これを載せてね、と自信を持って言ったジョークはちっとも載せてくれない。自分で勝手にでっち上げた底の浅い駄洒落を私が言ったことにしては、さぶぅ~、なんて書いちゃうんだから・・・。

(司会者)まあまあ。そうですか。花沢様は携帯を持っていらっしゃらない。まあないことはないですけど、今では少数派に入りますねえ。何か理由でもおありですか?

(花沢)いや、幾ら僕だって便利だってのぐらいは分かりますよ。それに、メールだと喋り難いことも書け、押し付けがましさも電話よりはない。しかも手紙よりも気軽に書け、早く送れる。欲しくないこともない。でもね、そこをグッと我慢して、やはり紙に書くことにこだわる。これがいいじゃないですかぁ~。それって男のロマンだとは思いませんか?

(春山)要するに吝嗇(けち)なんだ、この人は・・・。何だ彼だと言ってはいるけど、僕が若い子とメールを遣り取りしたり、ベランダに出て楽しそうに電話しているのを、いっつも物欲しそうに見ているんだから・・・。そのくせ、買えば僕がメールを送ってやるって言ってるのに、頑として持とうとしない。頑固なんだ。もしかしたら、友達がいないのがばれるから嫌なのかな? ハハハッ。

(司会者)ハハハハハッ。結構きついですねぇ。もしかして春山様は、人シリーズでの扱われ方に何かご不満でもお有りなんじゃないですか!? フフフフフッ。

(春山)そうなんですよ! さぶいジョークを言うとか、軽いオジサンみたいに書かれているけど、本当の僕はジョークにだって一家言ある方なんだから、そう軽く扱わないで欲しいんだ。

(司会者)そうですか。話が少し広がって来たようにも思いますが、折角ですから、取り敢えずお聞きしておきましょうか。春山様がジョークに対して拘っていらっしゃることって、一体何でしょうか?

(春山)ほらほら、その中途半端な扱われ方、それがムカつくんだよ! いつでも、ついでだろ!? それか、軽く聞き流されてるんだ。ついまともに聞いちゃった時は、オヤジギャグなんて言われちゃう。大体やねえ、年齢だけでは決めて欲しくないんだよなあ。僕なんか若い頃から洒落を言っていて、それなりの歴史もあれば、深みもある。うん、あるはずだ。それをだなあ、よく噛み締め、味わいもせずに、オヤジギャグの一言で片付けて欲しくないわけや。

(司会者)う~ん、そうですか。同じように見えても心が違うと仰りたいわけですね?

(春山)う~っ、ムズムズするなあ。よく聞けば、同じようにも聞こえないはずなんだがなあ・・・。違うんだ。心が違えば形も、それに品格も違う。どうしてそこが分からないかなあ、も~っ。

(司会者)(ちょっと困った様子で)どうですか? その辺り、花沢様はどう思われますか?

(花沢)そうですね。やっぱり・・・、同じような言い方になるかも知れませんが、一見変わらないように見えても心が違う、ってところでしょうかねえ・・・。愛があると申しましょうか。人の悪口、下ネタ、そんな類が一切ない。手っ取り早く笑いを取ろうと思えば、この二本柱を落とす手はないんですが、春山さんの洒落からは、たとえ即興的に見えても、単なる駄洒落に見えても、そう言ったものが見事なまでに排除されている。これはもう、長年の修練の賜物以外の何物でもないように思いますよ。スリスリ。

(司会者)要するに、金ちゃんファミリーみたいなものですね。

(春山)一見変わらない、にはちょっと不満でも、よく聞けば愛を認めてくれたり、品を認めてくれたり、人が漸くそれならばまあいいかと思い掛けていたのに、要するに、みたいな、はないだろ~!? まあ、でもいいや。花沢君がそんな風に僕のことを見ていてくれたなんて(ウルウルしながら)、僕のさり気ない苦心、情熱を分かってくれて本当に嬉しいよ。

(花沢)いえいえ。(春山の熱い視線にちょっとたじろぎながらも)それに、スピード感が違う。僕なんかのんびり屋なもんだから、僕が言い終わった瞬間に春山さんからはそれを踏まえたジョークが返って来るし、下手すれば言い終わる前にもう返されちゃう。

(司会者)そうですか。それでは若かりし頃の金ちゃんと言うことで、この話は一先ず置きまして・・・。
(春山)おいおい。その、適当に片付けたような言い方は止めてくれよ!