sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

対談する人(4)・・・R2.3.31②

               その4

        

(司会者)はいはい、申し訳ありませんでした。それでは次に、「お茶する人」。これに付いては如何ですか? 偶然にしても、「計算する人」から始まりましたので、ちょうどいいから、発表された順に見て行きたいと思います。

(春山)《何か引っ掛かるなあ、この司会者。でもまあええわ。この頃の僕はそんな小さなことには拘らないんだから。抑えて抑えてっと》。そうですねえ。あの後に発表された「空想する人」も含めて、私小説って感じがします。そこがあまり買わないところかな。まあ、面白い部分も少しはあるんですけど・・・。

(司会者)そうですか。私小説的なものはあまりお好きではない?

(春山)ええ。僕はいつも心を大きく遊ばせたいもので、もう少し世界を広げたものが好きですね。それもトリックや空想科学的なアイデアに溢れたものが好い。

(司会者)そうですか。ところで花沢様。貴方は「お茶する人」に書かれたような体験をされたことがあるんですか?

(花沢)いやあ、実際にあったことを下敷きにしたところもありますけど、かなりの部分は架空のことですから、私小説と言って好いのかどうか、迷うところですね。

(司会者)そうですか。それでは、春山様、あまりお好みではないかも知れませんが、お友だちとして、出来ましたらもう少し詳しく、面白かったところ、気になったところなどをお話し頂けませんか?

(春山)面白かったところ、気になったところを詳しくねえ。ちょっと待って下さいよ。う~ん、それぞれの遣り取りはまあまあ面白くはあるんだけど、気になることを見られるように、わざとパソコン画面に残しておく、なんて小技が何か女々し過ぎはしないか? 芸が細か過ぎて独り善がりではないか? と思うんですよ。

(司会者)ほう、鋭いご指摘のようですね。花沢様、この辺りは如何ですか?

(花沢)確かに、普通で考えればそうですね。だから、そんなことをしそうな、小心者だけど見栄っ張りな人物と言うことにしてある。そこを読み取って貰わなければこの話は成り立たない。その人物が好きでないのは分かる。僕も勿論、好きではない。でも、そんな人物がすこしぐらいいてもいいじゃないか!? どうしてその存在まで否定してしまうのか!? 僕にはその狭量さが耐えられない・・・。

(司会者)何もそこまで熱くならなくても。それに、春山様もそんな人はいないんじゃないか? と仰っているだけで、もしいたら、その存在を否定するとまでは仰ってないと思いますけど。そうですよねえ、春山様!?

(春山)うん、まあ・・・。いたら友だちにはなりたくないかも知れないけど、どこか僕の知らないところでいる分には・・・。

(花沢)ほれ見ろ! 何だ彼だ綺麗事を言っても、皆で僕の存在を否定しようとするんだ。いいんだ。どうせ僕なんて・・・。

(司会者)あれっ? さっきはご自分ではないような口振りでしたが、そうするとやっぱり主人公の藤沢慎二のモデルは花沢様だったと言うことで?

(花沢)いやいや。僕は想像力が豊かなもんで、ついつい藤沢慎二に同化しちゃったようだねえ、ハハハハハッ。職場でも時々、春山さんなんかに藤沢君って呼ばれて戸惑うことがあるんですよ。僕も春山さんのこと、秋山さんって呼んじゃおうかな、ハハハハハッ。勿論、僕と藤沢慎二が一緒だなんてことは金輪際ありませんよ。そこのところどうかよろしく、ハハハハハッ。

(春山)何だか怪しいけど、まあいいか・・・。それから、話を蒸し返すようだけど、陰から覗いている、と言うのも心根がいやらしくてムズムズするねえ。

(花沢)そりゃ春山さんは紳士ですから、そんな微妙な男心も分からないかも知れないけど、でもあってもいいじゃないですか!? そんな臆病さも。あの話まではオーバー過ぎるとしても、思わせ振りな、何とか分かって欲しい、でもそれを直接確かめられない、だから陰からでも覗いてみたい、って気持ちが分からないかなあ? それとも僕が、あまりに自分を超えたものにまで共感し過ぎるのかしら? 大体やねえ、アメリカで照れ屋さんがシャイマンなんて呼ばれ、特別扱いされるような風潮がかつてあったようだけど、男だからと言ってマッチョな方向ばかり求められたら息苦しいじゃないですか!? 男、女、その間に変態さんがいるだけなんてデジタル的発想がいけない。それに、既に時代遅れでもある。

(司会者)おやおや。話が大分広がって来ましたねぇ。それに、えらく力も入って来ているようです。これはもう少しお聞きしておきましょうか?

(花沢)うん、いいでしょう。人間は完全な女性と完全な男性の間で、もっとなだらかに、連続的な分布をしていると思うんだ、私は。確かに、身体はくっきりと分かれているのが普通だろう。それも、本当は性器中心的な見方をしているんだけどね。それはまあともかく、心はそんな単純なものじゃないと思うんだよ。オジサンがリカちゃんで遊びたい時だってある。僕がセーラ服を着て何故悪い!? 何でそんなに変態扱いされなくてならないんだ!?

(春山)やっぱりそうなんや!? この人、どうも怪しいなあ、と思てたけど・・・。

(花沢)おいおい。そんなに引くなよ。何度も言うように、別に私が、と言うことじゃない。そんな思いを持った人たちの気持ちに強く共感し、代弁しようとしただけじゃないか!? ハハハハハッ。

(司会者)(ちょっと身を引きながら)何とか話が落ち着きましたようで、次は「空想する人」に行きましょうか? 春山様はどう思われますか? このお話についても、出来ましたらもう少し詳しく・・・。

(春山)《花沢の奴がオタオタし出し、折角面白くなり掛けて来たのに逃げあがって、ほんまにしゃあないなあ、この司会者は》。そうですねえ。ちょっと眉唾のお話ですかねえ。それを除けば、この人がやっぱり独りで居過ぎたために分身や夢に逃げようとする、と言うか、そんな感じがしますねえ。

(司会者)花沢様、この辺りのご指摘、どう思われますか? 貴方もその辺りのことを意識して書かれたのでしょうか?

(花沢)と、当然じゃないですかぁ~、ハハハッ。勿論、気付いた上で書いていますよ。ただ、それだけではなくて、世の中、見えているものは一部で、その裏にとっても不思議な現象が存在する。そのことに対する素直な感動を書いた積もりで、眉唾は酷いなあ。

(司会者)そうですか? 春山様、先ほどのご発言からしますと、貴方は超常現象に関してはお信じにならない方でしょうか?

(春山)そんなことはない! むしろ私はない方が可笑しいと思っている。ただ、花沢君の書いたことぐらい偶然にしても十分有り得ることで、取り立てて騒ぐほどのことじゃない、と言ってるんです。フフフッ。

(花沢)言いましたねぇ! 酷いじゃないですか!? 睡眠を削り、家族サービスや仕事もそこそこにして頑張ったのに・・・。

(春山)それが駄目なんだよ、それが! だから花沢君の書く小説は現実感が希薄で、超常現象が引き立たない。何でも崩す前の元が確りしていなくてはならないんだよ。

(司会者)鋭く責めますねえ。これは面白くなって来たようですよ。続けて続けて。フフフッ。

(花沢)おいおい。どっちの味方なんだよ、君は!? 作者は僕なんだよ。僕の味方をしないでどうするんだ。やい!

(司会者)アハハハハッ。これは失礼しました。でも、突っ込まれた時の花沢様のヨレヨレし出すところが可愛いし、思わぬ話の展開に読者も喜ぶかと思いまして・・・。

(花沢)そう来るかぁ~!? 腹立つやっちゃなあ。

(春山)そうだろう? この司会者、僕たちを揉めさせて楽しんでいるみたいなんだから・・・。

(司会者)そんなぁ。酷いわ!? 私、そんな積もりなんか全然ないのに・・・。こうすれば盛り上がるかと思ったし、お2人もそこをきっと分かって下さるものと思っていましたのに・・・、シクシク。

(花沢)あっ、泣いちゃったよぅ~。春山さん、一体どうする気なんです!?

(春山)ごめんごめん。そんな気はなかったんだよぅ~。でも花沢君、君かて責めてたやないか!? 僕だけのせいにするなんてずるいわぁ~。

(司会者)と言うことで、みんなそれぞれに反省すべき点がある、と纏めておきましょうか? 今日は、お忙しいところどうもありがとうございました。

(花沢・春山)何のこっちゃ。もう君とはやってられんわぁ~。ほな、さいならぁ。


 読み終えたらしい佐久田は暫らく何も言わない。心配になって来た藤沢慎二は、

「ねえ、如何ですか? そんな感じで行けますか?」

 と問わずにはいられなかった。

 それを受けて佐久田はおもむろに言う。

「そうですねえ。いいんじゃないですかぁ!? これで行きますかぁ~? でも、もしかしてこれ、藤沢様が独りで遣り取りして書かれましたぁ~? 何かそんな気がしますねえ。藤沢様のことですから・・・」

「ハハハハッ。やっぱり分かりますぅ!? でも、どんなところでぇ~?」

「そうですねえ。どれも藤沢様が言いそうなことですし、拘りそうなところと言うか、そんな気がするんですよぉ~。それに、他の人を誘ったら出演料とまでは行かなくても、せめて食事ぐらい奢らなくてはいけないでしょう!? もしかしたら藤沢様、その辺り、自分で全てやった方が得だ、と思われたのではないかと・・・」

「フフフフッ。鋭い! そうなんですよ。ちょっと同僚の秋山本純さんや宮前孝子さんに当たってみたんですが、2人で声を揃えて、それやったら帰りに京橋のたこ焼き屋で一杯、なんて言うし、ええい、独りでやっちゃえ! と思いまして・・・。でも、まあまあ好いでしょ!? 何とか纏まってるでしょ? ねっ!?」

 佐久田は、どうせ貴方がお金を出すんだからどうでもいいですよ、と言いたいところをプロらしくグッと我慢して。

「ええ、中々好いですよ。分かりました! それではこれで行かして貰います。校正ゲラが出たら、また連絡しますので・・・」

 と、にこやかに答えた。

 それに意を強くした慎二はおもむろにもう一編の小説を佐久田の前に置く。

「それからね、これも書いてみたんですよ。『観察する人』。何と言うか、中々現実の生活に参加し切れないで夢を見たり、分身に遊ばせたりする人を書いて来たので、そんな風に現実に参加せず、観るばかりの人、と言う意味も込めています。思い切って、この小説を書く際には取材も敢行したんですよ。もっとも、大してお金は掛けていませんが・・・。それはまあともかく、ちょっと見て貰えませんか?」

 

 その後も幾らか遣り取りした結果。「観察する人」も無事受け取って貰え(何度も言うようだが、それなりのお金を払おうとしているのだから当たり前か!?)、幸せ一杯夢一杯と言った顔をした慎二は、家へと続く上り坂の所為もあり、上気した顔のままで帰宅した。

「ただいまぁ~!」

「お帰りぃ~」

「この前に言ってた本の話、詳しく決めて来たでぇ~! 初めに予定していたものよりかなり分厚くなり、造りも立派なものになるはずやぁ~。先に晶子に相談しなかったのは悪かったけど、お金の方は僕が何とか工面するからええやろぉ?」

 晶子は仕方がないなあ、と言う顔をしながらも、

「まあ、麻矢さんから話を聞いたのは格好が悪かったけど、あなたの夢だし、何とかなるのなら別にいいわよ。よかったわねぇ~」

 あんまりあっさり許して貰えたので慎二はかえって恐縮し、

《これからもっと真面目に働かなあかんなあ。よし、もっといいものを書くぞぉ~!〉

と張り切りながら2階の書斎に上がった。

 その背中を見送りながら晶子が、

《いいわ、そんなことぐらい。でも見てらっしゃい。あなたの知らないうちに、居間にグランドピアノが置いてあったりするんだから・・・》

 と胸の中で呟き、ほくそ笑んでいたことは慎二の与り知らないことである。

 朝夕の冷え込みも徐々に本格的になって来て、生駒山は褐色に色付き始め、澄んだ空気の中で今日もくっきりと美しかった。

 

        其々が趣味の世界で機嫌好く

        暮らせたならば其れで好いかも