白い人
白は普通、あなたに従いますという意味で結婚や降伏を表わす色として使われる。また新生や再生を表わす色として生や死に関する儀式に用いられる場合も多い。いずれにしても他の色に比べて純粋性を表わしている。
しかし、一方で白は、白濁、白い目などから分かるように、否定的な意味で使われることもままある。透明に比べての濁りを表わしたり、黒に比べての冷たさを表わしたりするわけだ。
つまり白は様々な色との比較によって上に置かれたり、下に置かれたり、結構幅の広い扱われ方をする。それだけ自由度の高い色と言えるのかも知れない。
さて、前置きが長くなった。従ってこの話は、何時も以上に中身が短くなるので、ご容赦願いたい。
昔々あるところに白い人がおったそうな。
或る日のこと、白い人が波静かで綺麗な海の近くの町に住む青い人の近くで暮らしていると、静かで理性的な青い人に似て来たらしい。
また別の日のこと、白い人が煮えたぎっている火の山の近くにある村に住む赤い人の近くで暮らしていると、激しく情熱的な赤い人に似て来たらしい。
それを知った赤い人が強い口調で言う。
「おい。白いの。気にいらねえなぁ~。お前は一体どっちのようになりたいんだい。そろそろはっきり決めなっ!」
青い人も皮肉っぽく言った。
「まあ、どっちかに決めない方が細く長くは生きられるわなぁ~。フフッ」
そう言われると気の弱いところのある白い人は、2人のどちらからも嫌われたくなくて、苦肉の策として言ったそうな。
「それでは1年毎に海辺の町と山麓の村に移り、どちらにも馴染むように致しましょう。そして私が町と村の橋渡し役となりましょうぞぉ!」
こうして白い人は青い人の住む町と赤い人の住む村の仲を取り持つようになったということじゃ。
ところで余談じゃが、どちらから先に住んだか、分かるかの? ほぉ~っ、ほっほっほっほっほっ。
「おいおい。藤沢君、これで終わっちゃうのかい!?」
「そうですが、何か?」
ここは藤沢慎二の職場、心霊科学研究室寝屋川分室の団らん室、或る日の昼休みのことである。慎二が通勤電車の中で書いたショートショートと称する小話を得意気に、同僚の秋山本純に見せていた。
こんな風に大概は2人っきりで占有して小話を見せ合い、仲好く過ごしていた。怪しげな空気が漂うのか? 他の同僚は殆んど入って来ず、遠慮なく占有出来た。
それはまあともかく、秋山本純が何か預けられたようでむずむずするようだ。
「答えが無いじゃないか、答えがぁ~!?」
我慢出来なくなったようである。
「ほんと、先輩は焦りなんだからぁ~。ほら、青に赤を混ぜたらぁ~?」
「そりゃ紫になるから・・・。あっ!?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この話は15年以上前、前に居た職場に通う電車内で書いたものに加筆訂正したものである。
実際に小話好きな同僚と見せ合い、評価し合っていた。
その頃はまだお互いに、もしかしたら心の中に棘を隠し持っていたかも知れない。
もう2人共、時間の流れに従って大分毒気が抜け、また白い人に戻りつつあるような気がするなあ。フフッ。
白故にどんな色にも染まりつつ
時を過ごせばまた白くなり