sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

懐かしく青い日々(1)・・・R2年1.1②

       青いとき

     誰にでも
     約束された 青いとき
     中に居るなら 見えなくて
     心騒がす 風が吹き
     揺らされるまま 彷徨って
     気が付いたなら 過ぎていた

     中に居るより 外に出て
     漸く気付く 其の価値に
     其れが誰にでもある 青いとき
     
     過ぎ去ってから 懐かしむ
     其れが誰にでもある 青いとき


               序章

 担任の森沢靖男に勧められていた地域トップ校の大阪城北高校に行きたかったわけではない。ただ成績が落ちて行くにつれ難しくなって来ると、ちょっと複雑であった。
 本当は初めから、郊外にあって、もう少しのんびりしているらしい地域2番校の北河内高校でよかったのである。
 いや、むしろその方が好ましいぐらいであった。
 しかし、人間不思議なもので、失いそうになると惜しくなって来るものらしい。昭和46年の2月下旬、藤沢慎二はもやもやした気持ちを抱きながら、父親の健一と一緒に最寄り駅から北河内高校に向かっていた。
 併願していた私学の入試を終え、公立高校の入試まであと3週間ほどであるから、下見に来たのである。
 高校の正門が面した通りをボォーッとしながら歩いていると、横の路地から鼻先にいきなりニューッと出て来たものがある。
 おや、何だろう!?
 目を凝らすと、それは天秤棒にぶら下げられ、ピチャピチャと今にも跳ねそうなほどに満たされた肥えたごであった。
 慎二が住む大阪市内のアパートでもつい数年前までは汲み取り式トイレであったから、そう強い抵抗はなかったが、流石に肥えたごまではテレビか映画でしか見たことがなかった。実社会ではもう一時代前のものと信じて疑わなかったのである。
 学校に着いてからも、壊れそうな木造のクラブハウスに感心し、慎二は北河内高校がすっかり気に入ってしまった。
 偏差値しかはっきりしたものを示されず、それに微妙なプライドが加わって、多少揺れていた気持ちが、はっきりした実物を目にして、しっかり定まったのである。
 やっぱり見に来てよかった・・・。

 

        のんびりと自分に合った高校へ
        何とか進路定まるのかも

 

 合格発表の日、慎二は1人で北河内高校に向かっていた。
 家族で来る受験生も多かったが、慎二は何となく気恥ずかしく、付いて行きたいという母親の祥子を押し止めたのである。
 あっ、あった!
 確かに、慎二の受験番号325番はあった。
 この年は受験生が多く、200人近く落ちるはずであった。
 そうだ! 金森は確か221番と言っていたなあ? よし、序でに見ておいてやろう。
 201番、203番、206番、209番かぁ~。やっぱり大分飛んでいる・・・。
 一息入れて、もう一度合格番号の方に目をやった。
 それは心配と言うより、自分を安全なところに置いて、野次馬のようなものであった。間を置いて、その喜びを少しでも長引かそうとしている。
 210番、213番、・・・・・・、220、223番、・・・
 あっ、ない!
 暫らく隠微な余韻を楽しんでから慎二は、家と学校に報告する為に北河内高校を後にした。
 門を出て100メートルほど歩いたとき、前から慎二がちょっと意識していたクラスメイト、金森順二がやって来た。
 親友と言うほどではない。ライバルでもない。スポーツ万能で結構持てるらしい金森。しかし、成績では慎二と明らかに違うランクにあった。
 そのそ金森が3年生になってからぐっと成績を上げ、かなり下がって来た慎二と同じ高校を受ける程度にまで近付いて来たのである。
 でも、俺はもう一ランク上の大阪城北高校でもいいと言われているし、金森はちょっと無理して北河内高校を受けた。
 最後の砦である成績でまで負けを認めたくない慎二にとっては、そう思おうとすることがせめてもの慰めであった。
 その金森が前から不安そうな顔をしてやって来た・・・。
 慎二は心配そうな顔になって思わず告げていた。
「あっ、金森! なかったでぇ~」
「えっ!?」
「何回も見たけどなぁ~、お前の受験番号、確か221番やったやろ? 残念やけどなかったわぁ」
 これが慎二にとっての中学時代との決別であった。

 

        怪しげな心の所為でお節介
        人の気持ちを踏み躙るかも

 

 後から考えると、他人の合否を本人が見る前に告げるなど、余計なお世話であった。金森は後々までこのときのことをこぼしていたと言う。それを思い出すと慎二は、30年以上経った今でも恥ずかしくなって来る。
 しかし、金森は偶に会っても直接恨み言を言うでもなく、中学時代と同じように、慎二に気安く接してくれる。
 猥雑ではあっても生温い、そんな中学時代を後にし、慎二は少し大人の世界に入って行ったのであった。