sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

台風一過(エピソード22)・・・R2.2.13①

             エピソード22

 

 夏休み明けのある日、定期テスト前でもないのに、藤沢浩太が自室で珍しく机に向かっている。中学生の時に躓いた英語に不安があるらしい。

 2年生では文系、理系、就職等の、将来を見据えたコースに分かれるそうで、その話がそろそろ始まっていると言う。本人なりに思うところがあるのだろうか?

 父親の慎二と母親の晶子は、ようやく奈良県でも底辺の県立西王寺高校に入れた浩太にとって、所詮国公立は無理だろうから、行かせるとなると私学。そんなお金を果たして出せるのかどうか? 迷うところがあり、何も見えない今から、浩太の言葉に一喜一憂していた。

 一時はどうなることかと、生きる力の弱さをあんなに心配させた浩太が、高校に入れたことで満足するだけではなく、少なくとも大学と言われるところを目指そうと口にし出したことがちょっと嬉しい。経済的な負担は重くても、学資保険や、それでも足りなければ奨学金を借りてでも何とかしてやらなければ、と慎二と晶子は2人して気を引き締める。

 しかし浩太は、進学したいと言ったその舌の根も乾かない内から、

「やっぱり無理やわぁ~。これ以上勉強なんか続けられへん。4年も行ってもしたいことなんかないし・・・」

 そんな風に言われると、寂しいような、ホッとするような。気が抜けてしまう。

 親友の尾沢俊介の方は迷いなく進学と決めているそうだ。学業成績は浩太より悪いぐらい。家庭が、と言うか父親の良治が相変わらず落ち着かず、それも理由にしてほとんど勉強していないと言うのに、である。経済力があり、少子化の今、何とかする気とお金さえあれば何とでもなるのだろうか?

 しかし、家族とは愛憎悲喜交々、良くも悪しきも色んなことを共にし、好き嫌い色んな感情を交し合ってこそ落ち着きを見せて来るもの。それは疑似家族的な学級、クラブ、会社のチーム等でも見られがちなことである。よくもめるのは、ある意味、より深く付き合える前段階と見ればいいのかも知れない。その証拠に、俊介は決して良治が嫌いではなく、むしろ浩太と慎二の関係より深く、強く結びついているかのように見える。

 考えてみれば良治にも気の毒な面があり、妻の芙美子を愛し過ぎるが故に、強く拘束した。時には気持ちを抑え切れないまま、暴力となってしまい、それが子どもたちにまで及んだ。

 愛想尽かしと恐れから、本当は子らには見えない、もっと深い理由もあったのかも知れないが、芙美子が若い男と一緒に逃げてしまった後、良治は毎晩、浴びるように酒を飲み、暴れた。

 子どもらは母親のように逃げるわけには行かないから、生きる為には、上手く空気を読み、媚びるようになる。それが俊介を逸早く大人に見せているようである。

 ただ、所詮それは歪な生命力を培ったに過ぎず、潜在能力を引き出し、この厳しくも温かい人生を活き活きと生きる力を結実させることにはむしろマイナスとなっている。
それでも良治が決定的に駄目オヤジではなかったから、子どもらは何度かの怪我はあり、子ども家庭センターや、ときには警察の世話になりながらも、それ以上家庭が壊れることもなく、末っ子の俊介が何とか高校生になった。兄の壮介は大学に入り、既に家を出て下宿に入っているし、姉の桃子は短大を出てすぐに家を出ている。

 元々情が濃過ぎる面を持っていたから、優しいときは徹底的に優しく、気前が好いそうだ。何時会っても俊介は、浩太からすれば考えられないほどお金を持ち、散財した。

 子どもは幾ら親を嫌っているように見えても、どこかで強く結び付いているし、親の否定したいところほど似て来るものらしい。俊介の頑張り切れないのに迷うことなく上を見るところ、気まぐれな優しさからよく彼女を替えるところ等に出ていた。

 浩太のことに話を戻す。

 慎二には良治ほど激しいところが見えず、休みの日は自室に籠って独りで機嫌好く遊んでいたから、子どもにあまり手がかからなくなった今、晶子は気楽そうに、やれコーラスの練習だ、やれ買い物だ、と言って出歩いていた。

 慎二が暇さえあれば、韓国ドラマを観ているか、怪しげな話を書いては職場の先輩でメル友の秋山本純とやりとりして、あまり晶子の相手をしないのがどうかと、浩太は批判的に見ていたときもあるが、反抗期を終えたこの頃では、夫婦と言っても他人同士だし、まあこんなものか、とも思っている。今、何人か惹かれる女(ひと)が出て来て、慎二や晶子のようにそれぞれ好きなことを楽しみつつ、同じ屋根の下で緩やかに寄り添っているのも悪くないか? と思えて来た。

 そんなある日、慎二が浩太にプリントアウトした文書を見せながら、おずおずと言う。

「今朝の新聞に光速を超える速さを持った粒子のこと、出て来たやろぉ? あれから思い付いてショートショート、書いてみたんやぁ。ほれ、読んでみぃひんかぁ~?」

 浩太にすれば理科は大の苦手で、SF小説にもほとんど興味がなかったが、そこはもう高校生。

「そうやなあ。読んでみよかぁ~」

 気軽に受け取って、あまり長くもないので、そのまま読み始めた。

 

      金の玉、銀の玉

 欧州の研究機関によると、光を超える速さを持つ粒子の存在がほぼ確実になった。これが事実だとすれば、四次元世界を超える異次元の存在、負の質量、時間の逆行等、これまで想像力豊かな先進的科学者かSF作家の頭の中にしかなかった不思議世界が誰にとっても当たり前の世界となるのかも知れない。たとえばタイムマシンも夢ではなくなる!?

 若井光子博士はこの理論を応用すれば、ボトックスより効果的な若返り、更にダイエットが出来ることに気付いた。ボトックスならボツリヌス菌の毒素による腫れを肌の張りとして利用しているだけだから、腫れが収まれば元に戻ってしまう。しかし、光速を超える微粒子を体の中にうまく取り込むと、時間を逆行させることにより本質的に若返り、負の質量を持つことにより無理なく減量できるのだ!

 さて、何とか思っていたような若返り減量薬、モドルーノを開発できてご機嫌の若井博士。さあ飲もうかとそのタブレットを口に入れかけたとき、喜びに胸が弾み過ぎたか、思わず手が滑って、

    ポロリ。コロコロ、ポチャン!

 研究所の庭の池の中に落っこちてしまった。

「わっ、わっ! どうしよう!?」

 そこに池の神様が出て来て、

「この金の玉を落っことしたのかな?」

 何だか懐かしい響きだなあ、と思いながらも、若井博士は正直に、

「いいえ、違います」

「それではこの銀の玉か?」

「いいえ、違います」

「それではこの銅の玉か?」

「いいえ、違います」

 でも、何だかおかしい?

 先ず神様の髭がなくなり、次は髭や髪の毛の色が黒くなった。

 その次は、引き締まって艶が出て来たなあと思っていたら、最後に出て来たときは何と、神様は赤ちゃんになり、木の玉につかまってプカプカ。機嫌好く遊んでいたそうな。どんとはれ。

 

 多少まとまりが出て来たとは言え、相変わらずしょぼい話で、浩太としては笑うしかなかった。

 その気弱な笑いを慎二は高評価と受け取り、機嫌よく自室に戻って行った。

 憎めない親父ぶりである。ぬるま湯のようでもあり、これが浩太の成長を遅くしていたのかも知れないが、のんびり屋の浩太としては、俊介のことを思い浮かべ、むしろ有り難く思い始めていた。それだけ大人への距離が短くなっていたと言うことである。

 

        進学をするかどうかと思い出す

        子の成長が嬉しいのかも

今週の男子ゴルフツアーがかなり楽しみ⁉・・・R2.2.12②

 昼から天気が下っており、夜から明朝に掛けては傘マークが出ている。

 

 今週の後半はどうやら雨模様である。

 

 その分、気温は下がらず、20℃近くまで行くそうな。

 

 零下になったり、急に暖かくなったり、何だか体調が狂うなあ。

 

 と言ってもそれは奈良北部の話で、米国ではどうだか分からない。

 

 ともかく、明日からまた男女の気になるゴルフツアーが開催される。

 

 その男子の方であるが、明日23時45分頃から時差-17時間の米国、カルフォルニア州にある「リビエラCC(7322ヤード、パー71)」において米国男子ツアー、「ジェネシス招待」が4日間の日程で開催される予定である。

 

 リビエラと言うのは何でもイタリア語で海岸、湖岸、川岸等を意味するそうで、イタリアの地中海に面したフランス辺りまでの海岸を指してもいるそうな。

 

 景勝の地、避寒の地だと言う。

 

 私達世代の耳に馴染んでいるのは、森進一の流行歌、「冬のリビエラ」の所為か!?

 

 それはまあともかく、この大会、「ジェネシス・オープン」と書いている記事もあるが、今シーズンから招待にレベルアップしたそうで、優勝すると3年シードが貰えると言う。

 

 日本人選手としては世界ランク23位の松山英樹が出る予定である。

 

 その他にも猛者が一杯出る予定で、世界ランクの高い選手を挙げておくと、5位以内では1位に上がったローリー・マキロイ(北アイルランド)、2位に下がったブルックス・ケプカ(米国)、3位のジョン・ラーム(スペイン)、4位のジャスティン・トーマス(米国)、5位のダスティン・ジョンソン(米国)と5人全員入っている。

 

        マキロイや久々の首位維持期待

 

        マキロイや首位返り咲き維持期待

 

        首位奪い返すか期待ケプカかな

 

        爆発の力を期待ラームかな

 

 珍しくソニー・オープンでは予選落ちしているが、それ以外では1位、3位と相変わらず春先は調子が好さそうだ。

 

        トーマスや力を魅せてよく稼ぎ

 

 サウジアラビアで開催された欧州男子ツアーに出たり、彼方此方でしっかり稼いでいる!?

 

        ジョンソンや欧と米にてよく稼ぎ

 

 世界ランク6~10位では6位のパトリック・カントレー(米国)、8位のタイガー・ウッズ(米国)、9位のザンダー・シャウフェレ(米国)、10位のジャスティン・ローズ(イングランド)と4人入っている。

 

 何でもこの大会にはタイガー・ウッズ基金が入っており、今回からランクだけではなく、賞金も上がるそうなそうな。

 

        ホストでも奮闘期待ウッズかな

 

 世界ランク11~15位では12位のトニー・フィナウ(米国)、13位のパトリック・リード(米国)、14位のアダム・スコット(オーストラリア)と3人入っている。

 

 これだけ高いランクを維持していながら中々勝てない、心優しいフィナウ。今回こそ優勝を期待したいところである。

 

        今度こそ優勝期待フィナウかな

 

 と言うときに限って、ちょい悪? パトリック・リードみたいな選手が勝負強さを発揮するんだよなあ。

 

 だから面白い!?

 

        ちょい悪のメンタル強さリードかな

 

 そして世界ランク16~20位では18位のブライソン・デシャンボー(米国)、19位のマーク・リーシュマン(オーストラリア)、20位のマット・クーチャー(米国)が入っている。

 

 ここにはまた大きそうな選手が集まっているものである。

 

 中でも物理大好きのブライソン・デシャンボー、理論に則って鍛え上げたのであろうか!?

 

 状態の厚みがかなり増しているように見える。

 

        デシャンボー上げた筋力生かせるか

 

 ともかく、国内女子ツアー期待のルーキー、プラチナの安田祐香もリスペクトする米国男子ツアーには多彩な猛者が集まっている!?

 

 楽しみに待ちたい。

台風一過(エピソード21)・・・R2.2.12①

              エピソード21

 

 地元の南生中学校に上がってすぐに藤沢浩太は、親友の尾沢俊介の誘いで大して考えもせずにサッカー部に入った。小学校5年生の後半、引きこもったことがきっかけになって浩太は小太りで鈍重そうになり、6年生の間に背はかなり伸びたが、家の中で自己流のブートキャンプを張ったぐらいでは体形が改善されず、更に鈍重そうになった。思春期に入り、流石に自分でも何とかしなければ、という思いが強くなっていたのかも知れない。要するに、機は熟したと言うだろうか? 浩太にしては珍しく、あっけないほど決断が早かった。

 俊介は、名は体を表すということを具現するかのように小学校の頃から俊敏なところがあった。それに複雑な家庭ながら、経済的にはゆとりがあったので、奈良県北部地域の名門少年サッカークラブに所属し、少林寺拳法の道場にも通っていた。それが、地元の南生中学校のサッカー部がそれなりに熱心で強かったのと、サッカーへの情熱が以前ほどではなくなったのとで、中学校では学校のクラブでサッカーを楽しむことにしたようである。

 南生中学校サッカー部は顧問の山路輝彦のサッカー部と言ってもいいほどであった。始業前、放課後、休日と、授業以外のほとんどの時間を練習と試合に充て、山路はそのほとんどで行動を共にした。長期休暇中には合宿を行い、奈良県南部まで遠征した。ブログを立ち上げ、毎日のように更新し、練習日程を知らせるだけではなく、自分の熱い思いを部員達に伝えようとした。他にも顧問が居なかったわけではないが、山路がどうしても抜けられない会議、冠婚葬祭等の時に申し訳程度に来る補欠的な役目を担うだけであった。

 浩太は山路の熱血指導に引っ張られ、またそれを受け入れる素地も出来ていたので、どんどん走り込み、見る見る痩せて行った。4月だけで体重が10kg落ち、夏休みまでには更に10kg落ちた。元々不器用なところがあったからサッカーについてはそんなに期待されなかったが、長距離ではどんどん記録を伸ばし、2年生の夏休みには親友の優等生、西木優真に迫る勢いであった。

 優真の家庭は、俊介の家庭に落日の閉塞感が漂っていたのに対し、ゆとりと明るさに包まれていた。地域の少年野球クラブに属し、南生中学校では学校の野球部に所属した。優真は、持ち前の他を圧する集中力に、筋力、持久力を加え、南生中学校に上がった時点で既に、長距離走では向かうところ敵なしであった。

 2年の秋、学校の周りをアップダウンの激しい地形を利用した5000m走でのこと、浩太と優真は最後まで競り合い、とうとう浩太が抜き切るかと期待すると腰砕け。あっさりと優真に譲ってしまった。そんな柔弱さはあるが、もしゴールと制限時間がなければ何時までも走り続け、きっと優真の方が先に崩れてて、何れ浩太が抜くであろうと思わせる、底力が感じられるようになっていた。

 応援に来ていた母親の晶子が後から、

「あれ、もうちょっと頑張ってたら、勝ててたやん。何で頑張れへんの? そこがあんたのあかんとこやなあ~。まあ、ええとこでもあるけどな・・・」

 と言って、ちょっと悔しそうであった。

 しばらくして浩太はボソッと、

「そやけど、優真の顔を見たら、余裕がなくなってたもん・・・」

 欲がなく、あれだけ苛めに苦しんだのに少しも歪んでいない浩太を、晶子は誇らしく思った。そう思うことで自分を納得させた。

 それはまあともかく、欲のなさも手伝ってか? 学業成績の方は全く振るわず、下位10分の1辺りで上下していた。平均には程遠く、2年生の時点で既に、行く高校はない、とまで言われていた。

 内申書に関係するのが2年生の後半からで、その頃、周りは既に塾に行き始め、行っていない方が数えるほどであった。学校の方でも塾での勉強を見込んで授業が進められていた。

 父親の慎二は、自分が塾に行くことなく、幼稚園以外大学まで公立で通したので、それが普通と言う認識から抜け切れなかった。そこに、高度経済成長期以後のゆとり教育の流れを都合よく取り込み、のんびりさせておく方が後々を考えると好いと信じ切っているところがあった。それに自分の趣味のオーディオ、パソコン等の電子機器にお金を使いたかったから、本人から強く望まない限り、塾に行かせる気は毛頭なさそうであった。

 元々普通教科に苦手意識のある晶子には、慎二の意見を覆すほどの強い意志はなかったから、浩太は放っておかれたままであった。

 それよりも浩太は、2年生になる頃から、もしかしたら知的なところで微妙なラインにいるのかも知れない、と疑われた。事実、2年生の秋頃になると、同レベルにいる生徒の何人かは判定を兼ねて市の教育センターに連れていかれたと言う。そしてその内の半数はK式等の発達検査を受け、そのまた半数は一部の教科を特別支援学級で勉強することになったそうだ。

 浩太は自分が知的に境界線より下に入るとは思わなかったが、慎二や晶子は、もしそうであってもおかしくないような気になっていた。

 ただ、普段話している様子や、成績が時々少しの梃入れでそれなりに上がるところを見ると、そうでもない気もする。

 刺激を与え、反応を見ては安心しかけ、ある程度以上は上がらず、また下降し始めることから、慎二は相談に行くかどうか、1年ぐらい迷い、結局、2年生の冬になってからようやく生駒市の教育センターの門を潜った。

 センターには慎二と浩太で訪れ、それぞれに相談員が付いた。

 慎二に付いた相談員はこれまでの多くの経験から判断して、がさがさと落ち着きのない浩太を観て直ぐに、明らかに問題があるように思えたようだ。直ぐにでも判定を受けるべきだと判断した。

 一方、浩太に付いた相談員はもう少し落ち着いた人で、じっくりと話を聴き、それが好く作用したようである。終わってから浩太が安心した顔になってトイレに行った隙に、慎二にそっと顔を寄せ、深くて真摯な目で、

「お父さん。必要ありませんよ」

 と声を落としながらも、はっきりと言った。

 それが好かったのか? 悪かったのか? 浩太は落ち着きを取り戻し、3年生に上がるまで3回通い、多少成績の上昇が見られたが、夏までにはその神通力も消えていた。

 夏休みに入って、とうとう慎二も心を決め、浩太を奈良県で少しは名の通った蛍光義塾に入れたが、後の展開は既に述べた通りである。一進一退を繰り返し、ぎりぎりの時点で何とか持ち直して、公立の底辺校、奈良県立西王寺高校に入れた。

 集中的に塾代に使ったのが70万円ほど。慎二は今でも時々、思い出しては、

≪ほんま、惜しかったなあ~。あれだけあればもっとええAV機器やパソコンが買えた。それにアイドルのCDや、韓国ドラマのDVDも変えたのに・・・≫

 と本気で惜しがっている。

 それを聞いて晶子は、ただ笑っているだけであった。

 しかし今、晶子がネットや近所のホームセンター、ショッピングセンター等で買い物三昧しているのを見ても、慎二とそう変わらない思いであるようにも見える。

 

        優しさとゆとりが矛を鈍らせて

        攻撃の手を緩めるのかも

スキージャンプW杯女子個人第13戦、キアラ・ヘルツルおめでとう!・・・R2.2.11②

 2月7日(金)~2月9日(日)の日程で、時差-8時間のオーストリアにあるヒンチェンバッハのジャンプ台(HS90m)においてスキージャンプ女子のワールドカップが開催され、個人第12、13戦、およびそれぞれの予選が行われた。

 

 一昨夜遅く、第13戦が行われた。

 

 NHKBS1で生放送を観ていると、第13戦でもジャンプ台以外に雪が無く、その雪質が悪くなさそうなので、整備等も含めてスタッフの努力には感心させられる。

 

 そんな中、第12戦に3連勝で今シーズン5勝目を上げた、すっかり新女王のオーストリアのエース、キアラ・ヘルツルは好調を保ち、地元オーストリアのファンの大声援を受けて、またまた予選首位の勢いのままに女王、マーレン・ルンビ(ノルウェー)さえ圧倒し、見事優勝した。

 

 と言うか、マーレン・ルンビは意識が強過ぎたのか? 踏み切りに遅れが見られ、5位に沈んだ。

 

 今の勢いは完全に新女王、キアラ・ヘルツルに移ったようである。

 

 これでキアラ・ヘルツルは4連勝となり、今シーズン6勝目、通算6勝目ともなった。

 

        ヘルツルやルンビを軽く凌駕して

 

        ヘルツルや好調維持し勝ち続け

 

        ヘルツルや疑いもなく女王に

 

        ルンビでも意識し過ぎは失速し

 

 ちょっと気に留まったのがイタリアのエースになりつつあるララ・マルジナー(19歳)で、ゴーグルを外した顔はまだ若く、と言うよりも幼く、何だかアイドル系であるが、見事3位に入り、嬉しい初表彰台となった。

 

        マルジナー表彰台に立って魅せ

 

 スノージャパンのエース、高梨沙羅は残念ながら今回も4位に止まった。

 

 安定しており、本人の表情を観ても、悪くはないのであるが、上位の選手に勢いがあるようだ。

 

 100回目の表彰台に付いては何時かは来るであろうから、まあ気長に待つことにしよう。

 

        高梨や らしいジャンプで安定し

 

 スノージャパンでは続いて9位に丸山希、17位に伊藤有希、25位に勢藤優花が入り、全員が2本飛べていることにホッとさせられる。

 

 中でも丸山希がこのところ伊藤有希を完全に上回っている感がある。

 

 この後も大いに期待したい。

 

        丸山や伊藤やこの頃凌駕して

 

 個人第13戦の主な選手の成績は以下のようであった。

 

       名前        1本目m   得点   2本目m   得点   総合点

    1位 キアラ・ヘルツル(墺)        87.5    125.0    87.5    126.0    251.0

    2位 エヴァ・ピンケルニヒ(墺)              87.0    121.6    88.5    126.2    247.8

    3位 ララ・マルジナー(伊)                   87.0    119.3    87.0    122.2    241.5

    4位 高梨沙羅         86.0    119.0    87.0    121.1    240.1

    5位 マーレン・ルンビ(ノルウェー)              87.5    122.8    84.0    114.2    237.0 

    8位 ダニエラ・イラシュコシュトルツ(墺)    82.5    108.9    85.0    116.4    225.3

    9位 丸山希                       82.0    107.2    87.0    118.0    225.2

  10位 カタリナ・アルトハウス(独)        82.0    108.4    85.0    116.4    224.8

  11位 マリタ・クラマー(墺)           84.5    109.8    88.5    114.3    224.1

  11位 ユリアネ・ザイファルト(独)         83.0    111.5    84.0    112.6    224.1

  11位 ニカ・クリジュナル(スロベニア)        83.0    110.4    85.0    113.7    224.1

  15位 エマ・クリネツ(スロベニア)        83.5    113.2    82.0    109.4    222.6

  17位 伊藤有希           81.0    105.6    82.5    110.5    216.1

  25位 勢藤優花           80.5    100.9    81.5    107.8    208.7

※11位が3人いるとしている記事とその3人に順位を付けている記事があったので、FISのデータを調べてみると、11人が3人であった。

 

 女子の方は予選で40位までが通過でき、本戦の1本目で30位に入ると2本目も飛ぶことが出来て、得点が付く。

 

 個人ランキングに関係する得点は1位100点、2位80点、3位60点、4位50点、5位45点、・・・、30位1点と配分されて行き、13試合を終えて以下のようになっている。

 

        名 前              得点

   1位 キアラ・ヘルツル(オーヅトリア)  1030

   2位 マーレン・ルンビ(ノルウェー)      940

   3位 エヴァ・ピンケルニヒ(オーストリア)   858

   4位 高梨沙羅               608

   5位 カタリナ・アルトハウス(ドイツ)     503

   6位 ダニエラ・イラシュコ(オーストリア)   428

   7位 マリタ・クラマー(オーストリア)     425

   8位 エマ・クリネツ(スロベニア)       375

   9位 ユリアネ・ザイファルト(ドイツ)     367

  10位 ニカ・クリジュナル(スロベニア)     363

  11位 伊藤有希               330

  13位 丸山希                291

  22位 勢藤優花               128

  33位 岩渕香里                30

  44位 小林諭果                   3

 

 今回は上にも書いた選手、ララ・マルジナー(イタリア)について簡単に書き留めておく。

 姉のマヌエラ・マルジナー(22歳、163㎝、54㎏)の方が先に有名になっているようで、既にワールドカップの表彰台にも上がっている。

 

 ただ平昌オリンピックではララ・マルジナーが15位、マヌエラ・マルジナーが18位であったから、ララ・マルジナーも既にも頭角を現しており、今はイタリアのエースと見られるようになった!?

 

 それはまあともかく、アイドル的にはキアラ・ヘルツルに負けない感じだあるが、表彰台に並んだ感じではキアラ・ヘルツル(153㎝)の頭のてっぺんがララ・マルジナーの口辺りに来ているようにも見える。

 

 マヌエラ・マルジナーの身長も加味すると、ララ・マルジナーは163㎝以上はありそうに思える。

 

 どうやらAKB系ではなく、平均身長が163㎝と言われるSKE系アイドルのようだなあ。フフッ。

 

 なんて、どうでも好い方に脱線してしまった。

 

 要するに、スキージャンパーとしての情報はまだまだ出ていないが、これからが楽しみになりそうな選手である。

 

        マルジナーララがマヌエラ凌駕して

 

        マルジナーララの覚醒楽しみに

 

 なお、次の大会は2週間開いて、時差-8時間のスロベニア、リュブノ(HS94m)において2月21日(金)~23日(日)の日程で開催される予定である。

 

 2月21日(金)は22時頃から予選、22日(土)は19時半頃から団体戦、23日(日)は19時半頃から個人第14戦が予定されている。

 

 のんびり楽しめる時間であるし、NHKBS1の生放送を期待したいところである。

台風一過(エピソード20)・・・R2.2.11①

           エピソード20

 

 以前に父親の藤沢慎二が書いたショート、ショート、「金の顔、銀の顔」を読み、慎二のことを少し見直し始めていた浩太は、その後もあの怪しげな話を時々思い出していた。その影響もあってか、「金の矢、銀の矢」みたいな夢を見たぐらいである。

 何処がそんなに印象に残ったのかとつらつら考えてみるに、どうやら怪しげな展開自体ではなく、自分も幾つもの顔を持ち始めたことに戸惑っていたようである。

 奈良県立西王寺高校弓道部の顧問、安曇昌江。大分年上ではあるが、凛として、おまけに透き通った清潔感がある。普段はゆったりとして、大柄で伸びやかな肢体を持ち、恋に晩生なところが浩太とよく似ており、一緒に居て安心感がある。尊敬が憧れ、更に浩太への思いが伝わるに連れ、恋に変りつつあった。

 弓道部の先輩、桂木彩乃。浩太より少し年上であるが、昌江よりも女の部分を感じさせる。矢張り凛として、伸びやかな肢体と、弾力性と反発力を感じさせる溌剌とした雰囲気を持っている。

 弓道部の同輩、里崎真由。幼く見えるが、弓道では一日の長がある。それを鼻にかけずに丁寧に教えてくれ、メイドのCGを思わせるほど可愛い。マシュマロのようなほんわかとした柔らかさが何とも言えず、一緒に居て心地好い癒し系である。

 私立西大寺学園高校の優等生(はちょっと怪しくなって来た?)、西木優真の妹、絵里華。育ちがよく、優しい。何時行っても嫌がらず、心から迎えて細めに面倒を看てくれる。勉強が全くと言っていいほどダメな浩太や尾沢俊介を蔑むようなところが少しもない。清楚で犯し難い高貴さを持つ、飛び切りの美女になりそうな、整った顔とスタイルを持っている。

 クラスメイトの柿本芳江。最初は虚無的な面が彼女を暗くしていたが、元々生へのエネルギーが強く、上手く引き出せずにいたようである。浩太と話すことがきっかけとなって、人生の楽しみを知り、生き生きとした面が前面に出始めた。これまでの殻が取れ、元々の素材の好さが目立ち始めた。AKBと言うより、K-popアイドルにも勝るとも劣らない、伸びやかで明るい美少女に戻りつつある。

(※アイドルについては書いた当時のイメージが強い。たとえばKーpоpアイドルはこの頃、米国の影響を強く受けて、可愛さよりもハードさ、セクシーさを売りにしている方が多いような気もする。なんてどうでもいいか? フフッ)

 気になる女性をちょっと考えて見ただけでも、すぐに5人が浮かんで来た。

 それぞれに温度差があるものの、誰の前に行っても好い顔をしてしまうし、それぞれの気持ちの中に自分が少なからず居ると気付き始めた浩太は、1人に決め兼ねている自分にも気付き始めた。要するに、できれば何人かと並行して付き合うこともありかと期待してしまうのである。

≪でも、やっぱりそれはあかんやろなあ~。フフッ。金の顔、銀の顔みたいに、黙ってたら全部くれました、なんてことにはならんやろし・・・。それに、もしそうなったらそうなったで、困るやろしなあ~。フフッ。好きなときに好きなひとと付き合えるんやったらそれでもええけど、誰かとええところまで行っているときに、他の誰かが急に現れたりして・・・。神様がそんな風に勝手に選ぶんやったら、絶対困るわぁ~≫

 他人が聞いたら噴飯ものの贅沢な悩みに、浩太は頭を痛めていた。

 しかし、そんなことは男なら誰にでもある、ごく普通のことであった。若くて可愛い女の子、綺麗な女性等がそばに居れば、その時その時に本気で真剣な恋をする。浮気でも何でもなくて、本能のなせる業であった。むしろ恋に馬鹿正直、生真面目という表現が合うかも知れない。

 それから、会う人によって違った顔を見せること、これは男に限らず、人間ならば当然のことである。大人に近づいた証拠と言うべきであろう。顔色を見る、人によって態度が変わる等のことは我が国において嫌われがちであるが、これは元々動物として強くない人間には当たり前に見られることだからこそ、行き過ぎに対しての反省の意味も込めて、昔から言われ続けて来たはずである。

≪まあいいかぁ~。なるようにしかならへんかぁ~。あんまり気にせんとこ・・・。気にしたら負けやぁ~≫

 面倒臭がり屋の浩太はある程度以上悩み続けるタイプではなく、また、まだまだ恋愛体質にはなっていなかったようで、現実はほとんど進んでいなかった。そして、彩乃の心は本命に出会った今、既に浩太から離れていたし、他の4人も恋はまだ心の中に描き出された幻想で十分なタイプであったから、余計に今のままで十分であった。

 それに比べて西木優真と彩乃の2人は行き付くところまで行き、浩太は、どうしたものか? と、此方については深刻に悩んでいたし、あまりにも典型的で盲目的な恋の成就に、周りの他人も笑うに笑えなかった。

≪あれはあれで羨ましいけど、優真の才能を考えたら、あのままやったら惜しい気がするなあ~。もし恋を知らなかったら、今言うのはちょっとオーバーかも知れんけど、国や企業を背負う奴になってたかも知れん。いや、模試では奈良県で一桁、全国レベルでも二桁には入ってる言うてたから、オーバーでもない。やっぱり惜しいわぁ~≫

 尾沢俊介も交えて、優真には何回か訥々と説得しようとしたが、優真は困ったような顔をして、ただ笑っていただけであった。

 俊介は勝手な父親に愛想を尽かして他の男性と出て行った母親の影響もあり、幼い時から男女の複雑な機微についてはそれなりの理解、と言うか経験値があったが、それでも目の前の急で激しい展開には面喰うものがあった。

 

        人は皆勝手なことを妄想し

        独り芝居を楽しむのかも

 

(※皆と言うのはオーバーに過ぎるかも知れないが、実際に恋を成就させるタイプ以外はそんな気がする。それに実際に恋をしているタイプでも、それに勝手な愛し方をしている場合が往々にしてあるような気が・・・。なんて恋を不得意科目とする私が言っても説得力が無いなあ。フフッ)

スキージャンプW杯男子個人第19戦、シュテファン・ライエおめでとう!・・・R2.2.10②

 2月7日(金)~9日(日)の日程で、時差-8時間のドイツ、ビリンゲン(HS145m)において予選、個人第19戦、第20戦と行われる予定であった大会の内、予選、第19戦が行われ、第20戦は強風予報の為、早々と中止となった。

 

 日本人選手としては小林陵侑(土屋ホーム)、佐藤幸椰(雪印メグミルク)、小林陵侑の兄の小林潤志郎(雪印メグミルク)、中村直幹(東海大)、佐藤慧一(雪印メグミルク)、竹内拓(飯山市)が出場し、全員予選は通過した。

 

 優勝したのは地元ドイツのシュテファン・ライエで、予選首位と合わせて、ヴィリンゲン5も獲得した。

 

 このところ調子を上げているようで、遂にワールドカップ初優勝を成し遂げた。

 

 スノージャパンのエース、小林陵侑は予選で4位に付けたが、本戦の1本目では風に揺らされて危なかったそうで、14位に沈んでいる。

 

 2本目で何とか9位に食い込んだ。

 

 好いところは魅せるのであるが、レジェンド葛西紀明の記録に並ぶのは中々難しそうである。

 

 2本目に進んだ佐藤幸椰は11位、小林潤志郎は12位に入った。

 

        調子上げ遂に優勝ライエかな

 

        ヴィリンゲン5も獲ったライエかな

 

        陵侑やレジェンドまではまだ遠し

 

 個人第19戦の主な選手の結果は以下のようになっている。

 

   名前                     1本目m   得点   2本目m   得点   総合点  

    1位 シュテファン・ライエ(独)        139.5    128.2    144.5    138.2    266.4

    2位 マリウス・リンドヴィック(ノルウェー)       140.0    126.1    143.0    136.3    262.4 

    3位 カミル・ストッフ(ポ-ランド)               139.5    129.0    137.5    125.6    254.6

    4位 シュテファン・クラフト(墺)       135.5    124.3    141.0    129.2    253.5

    5位 カール・ガイガー(独)           138.5    123.4    138.0    128.6    252.0

    6位 ヨハンアンドレ・フォルファン(ノルウェー)    138.0    124.3    137.0    121.7    246.0 

    8位 ペテル・プレヴツ(スロベニア)         134.5    121.4    134.5    120.2    241.6

    9位 小林陵侑                      134.0    116.4    135.0    124.4    240.8

  11位 佐藤幸椰                           131.0    110.4    139.5    127.8    238.2 

  12位 小林潤志郎          132.0    109.4    139.0    124.6    234.0

  15位 ダビッド・クバッキ(ポーランド)   135.0    117.9    129.5    114.2    232.1

  20位 フィリップ・アッシェンヴァルト(墺)    131.0    108.7    136.5    118.3    227.0 

  33位 佐藤慧一                       123.0      96.8                                96.8

  38位 竹内拓                             123.5      90.4                                90.4

  44位 中村直幹                  117.0      81.1                                81.1 

 

 なお、男子の場合は予選で50位までが本番に出られ、本番の2本目に進めればポイントが貰える。

 

 スキージャンプ個人のランキングに関係するポイントは1位100点、2位80点、3位60点、4位50点、5位45点、・・・、30位1点と配分されて行き、19試合を終えて以下のようになっている。

 

        名前         総合得点
   1位 シュテファン・クラフト(墺)     1113

   2位 カール・ガイガー(独)       1045

   3位 ダビッド・クバッキ(ポーランド)    940 

   4位 小林陵侑            936 

   5位 マリウス・リンドヴィック(ノルウェー)     687

   6位 カミル・スットフ(ポーランド)       673 

   7位 シュテファン・ライエ(独)            610

   8位 ペテル・プレヴツ(スロベニア)      539

   9位 ダニエルアンドレ・タンデ(ノルウェー)     516

  10位 佐藤幸椰           487

  11位 ヨハンアンドレ・フォルファン(ノルウェー)     459

  12位 フィリップ・アッシェンヴァルト(墺)    454 

  20位 伊東大貴             253  

  28位 小林潤志郎         120

  30位 佐藤慧一             82   

  35位 中村直幹                39

  43位 竹内拓              27 

  48位 岩佐勇研               14

 

 今回は今シーズン好調を上げて来たドイツの大型ジャンパー、シュテファン・ライエ(28歳、182㎝、65㎏)について少し触れておきたい。

 

 これまで優勝したことが無く、最高で2位であったが、今回、初優勝を成し遂げたのが地元ドイツであることも何かありそうな感じに思える。

 

 おまけに、強風の所為で大会が短縮され、大会全体のチャンピオンであるヴィリンゲン5に輝いたことも。

 

 これからの活躍にも注目したい。

 

 次の大会は2月14日(金)~16日(日)の日程で、時差-8時間のオーストリア、タウプリッツ&パート・ミッテルドルフ(HS235m)において開催され、個人の第20戦、21戦が行われる予定である。

 

 元々は第22戦、23戦として予定されていたから、これで2戦ずれることになる。

 

 それはまあともかく、何れも19時頃から始まる予定で、日曜日はCSのJスポーツで生放送が予定されているようである。

 

 それに、迫力満点のフライング大会であるから、これは楽しみだ!?

 楽しみに待ちたい。

台風一過(エピソード19)・・・R2.2.10①

             エピソード19

 

 桂木彩乃と西木優真の出会いは、大和郡山城内にある弓道場で行われた夏季弓道大会であった。

 優真は浩太の影響を受けて武道に興味を持ち始め、よりきつくなりそうな受験勉強を乗り切るべく、集中力強化の意味もあって私立西大寺学園高校の弓道部に入った。

 西大寺学園高校は流石に全国でも有数の進学校だけあって、元々集中力に秀でた生徒が多い。弓道部の面々も身長はともかく、アスリート的には体格に劣り、筋力に欠ける分を気力と集中力で十二分にカバーしており、奈良県では常にトップクラスの成績を収め、全国的にも度々好い線まで行っていた。

 優真は小学校4年生から地元のクラブで3年間、中学校のクラブで3年間と計6年間、曲がりなりにも野球で鍛えて来た分、筋力は人並みにあり、持久力は人並み外れてあった。そこに元々気力、集中力に秀でていたから、すぐに頭角を現し、夏前には西大寺学園高校弓道部の代表選手のひとりとして選ばれるようになっていた。

 一方、奈良県立西王寺高校の弓道部のレベルは、学力ほど低くはなくても、決して高い方ではない。その中でも浩太のレベルは微妙であった。顧問のひとり、安曇昌江がそばに居るときはフロックと言い切れない実力を維持しているが、彼女が居なくなった途端に乱れ始め、一般的な新入部員の中に埋もれてしまう。

 そして昌江は、自分が選手として東京で行われる全国大会に出場する為に付き添えないから、結局、この大会では浩太の出場を見送られた。

 1年生では唯一、里崎真由だけが選ばれたが、順当な流れであった。

 試合において優真は物怖じせず、本番を迎えても伸び伸びと放ち、ほとんどの矢をほぼ中央に的中させていた。

 彩乃の方は3年までに幾度となく修羅場を潜り、流石に慣れたものである。また西王寺高校では段違いに飛び抜けていたこともあって、優真と競り合っていた。

 真由の方は長い距離であったことも関係し、散々であった。すっかり引き立て役に回り、他の西王寺生なら捨て鉢になっても不思議ではなかったが、浩太等1年生の声援を力に盛り返し、後半は好い線まで行った。短時間で何かを体得した如くであった。

 昼休み、優真が妹の絵里華を連れて、西王寺生の集まりの中に入って来た。親友の浩太に会いに来たのである。

 実はそれだけではなかった。西王寺生には珍しく、彩乃の凛とした様子に強く惹かれるものを感じ、ライバルとして敬意を表しに来たのであった。

 普通ならここで彩乃はメルアドを聞かれる。堂々とかおずおずとかの違いはあっても、決まってそうであった。

 しかし、行儀の好い優真は決してそんなことをしない。気振りもなかった。ただ素直に敬意を表し、表情だけではなく、瞳の奥まで真摯な思いが表れていた。

 これまで浩太に強く惹かれるものを感じ、こまめに面倒を看ていた彩乃であるが、時間が経っても一定の距離以上は近付いて来ない優真に胸の奥がほんのりと温かくなる、懐かしいような魅力を感じ始めていた。

 初めは、連れて来た飛びっきり可愛く、幾つか年下に見える絵里華をてっきり彼女と思っていたから、彩乃も少し距離を置いて優真を見ていたが、その内に、絵里華の浩太に向ける視線が熱いことに気付き、不安を覚えた。そして言葉の端々から優真の妹と分かり、不安を超えた別な喜びがじわじわと感じられ、ほっこりと胸を温かくしていたのである。

 大寺学園に入っているぐらいだから、当然学業成績の方も、奈良県はおろか、全国的に見ても有数なはず。当然のごとくそれが自信となって、全体に伸びやかな余裕は感じられたが、特に尊大な感じはしない。それが証拠に、自分から親友らしい浩太に挨拶に来たではないか!? おまけに、無造作に妹まで連れて。それに、1年生なのに、学業ほどではないにせよ、奈良県でトップクラスの西大寺学園弓道部の代表として参加し、自分と競り合っている。

 そんなことを胸の中で感じ始めていることに気付いた彩乃はもう恋に落ちていることにも思い至り、普段に似合わず、神妙になっていた。

 幾ら幼げでも真由も女の子。西王寺高校の昼食場所一体に漂う微妙な空気に胸を揺らせていた。浩太を巡る強力なライバルが1人減りそうなことを大いに喜び、新たに出現した更に強力そうなライバルに、心を震わせていたのである。

 結局、自然な流れの中で、彩乃と優真はメルアドを交換し合った。先ずマネージャーの袴田利一が今後の交流を期待して交換し合ったので、彩乃は部長として交換し合ったのである。

≪こんなことは初めて・・・。求められても教えないことが普通やったのに、今日は自分から理由を作って交換を申し出た・・・≫

 彩乃にとってそれがちょっと悔しくもあり、まだ女ではなく女の子の部分が十分過ぎるほど残っていたことに戸惑い、それ以上に嬉しかった。

 人間にはやはり動物的なところが多分に残されているようである。それは当然のように本能的な面に強く表れる。睡眠欲しかり、食欲しかり、性欲しかり、である。

 ただ、我が国のように日常は秘すのが当たり前となっている国において性の本質は押し隠されてしまい、教養を身に纏った層ほど完璧近く隠せているかのようにして日常生活に平安を得ている。

 しかし現実は、そんなに甘いものではないことは、ラジオ、新聞、雑誌、テレビ、最近ではインターネットに流れる不届きなニュースを見れば一目瞭然である。老若男女、貧富、学歴、美醜等々の差にほとんど関係なく、とち狂っている。制度上、世界的に見ても平均以上に秘しているはずなのに、我が国ほどの桃色天国は例を見ないぐらいである。

 それほど人間の裏側に隠された世界は奥が深く、幾ら理性を働かせようと思っても、働かせられないときが間違いなくある。その大きな例のひとつが、生物学的に相性の好い男女が出会ったときである。

 たとえば、この面において我が国より正直に生きている欧米ではよくこんな表現を見かける。

 出会った瞬間にもう、この人に抱かれると思った。

 もっと激しい場合は、会った瞬間に抱かれていた。

 洋画でも時々、会った途端に見詰め合い、やがて抱擁から接吻、更にベッドシーンが始まるのを見かけ、我が国の風習に慣れた私なんかは、好い年をしながらも面喰ってしまう。

 そして、優真と彩乃の相性はどうやらそれに近かったようである。我が国の湿潤な気候と教養層の書生気質のお蔭か、欧米的な瞬間着火剤のようにはならなかったが、メルアド交換からデートを始めるまでにはそんなにかからず、その後の展開も、おっとりとしたところのある優真からは考えられないほどに早かった。気が付いた時には一緒に居る方が普通になっていた。当然、身も心も溶け合うまでもほんの僅かであったし、それはむしろ自然な成り行きであった。

 当然、2人とも弓道は疎かになり、引退の時期になっていた彩乃にはほとんど影響がなかったが、優真は周りの期待を大いに裏切ることになった。

 それだけではなく、これまでどんなことがあっても揺るがなかった優真の学力にまで色濃く影を落とし始めた。

 

        一目会い恋の花咲くこともあり

        其れが全てに成り得るのかも