sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

台風一過(エピソード20)・・・R2.2.11①

           エピソード20

 

 以前に父親の藤沢慎二が書いたショート、ショート、「金の顔、銀の顔」を読み、慎二のことを少し見直し始めていた浩太は、その後もあの怪しげな話を時々思い出していた。その影響もあってか、「金の矢、銀の矢」みたいな夢を見たぐらいである。

 何処がそんなに印象に残ったのかとつらつら考えてみるに、どうやら怪しげな展開自体ではなく、自分も幾つもの顔を持ち始めたことに戸惑っていたようである。

 奈良県立西王寺高校弓道部の顧問、安曇昌江。大分年上ではあるが、凛として、おまけに透き通った清潔感がある。普段はゆったりとして、大柄で伸びやかな肢体を持ち、恋に晩生なところが浩太とよく似ており、一緒に居て安心感がある。尊敬が憧れ、更に浩太への思いが伝わるに連れ、恋に変りつつあった。

 弓道部の先輩、桂木彩乃。浩太より少し年上であるが、昌江よりも女の部分を感じさせる。矢張り凛として、伸びやかな肢体と、弾力性と反発力を感じさせる溌剌とした雰囲気を持っている。

 弓道部の同輩、里崎真由。幼く見えるが、弓道では一日の長がある。それを鼻にかけずに丁寧に教えてくれ、メイドのCGを思わせるほど可愛い。マシュマロのようなほんわかとした柔らかさが何とも言えず、一緒に居て心地好い癒し系である。

 私立西大寺学園高校の優等生(はちょっと怪しくなって来た?)、西木優真の妹、絵里華。育ちがよく、優しい。何時行っても嫌がらず、心から迎えて細めに面倒を看てくれる。勉強が全くと言っていいほどダメな浩太や尾沢俊介を蔑むようなところが少しもない。清楚で犯し難い高貴さを持つ、飛び切りの美女になりそうな、整った顔とスタイルを持っている。

 クラスメイトの柿本芳江。最初は虚無的な面が彼女を暗くしていたが、元々生へのエネルギーが強く、上手く引き出せずにいたようである。浩太と話すことがきっかけとなって、人生の楽しみを知り、生き生きとした面が前面に出始めた。これまでの殻が取れ、元々の素材の好さが目立ち始めた。AKBと言うより、K-popアイドルにも勝るとも劣らない、伸びやかで明るい美少女に戻りつつある。

(※アイドルについては書いた当時のイメージが強い。たとえばKーpоpアイドルはこの頃、米国の影響を強く受けて、可愛さよりもハードさ、セクシーさを売りにしている方が多いような気もする。なんてどうでもいいか? フフッ)

 気になる女性をちょっと考えて見ただけでも、すぐに5人が浮かんで来た。

 それぞれに温度差があるものの、誰の前に行っても好い顔をしてしまうし、それぞれの気持ちの中に自分が少なからず居ると気付き始めた浩太は、1人に決め兼ねている自分にも気付き始めた。要するに、できれば何人かと並行して付き合うこともありかと期待してしまうのである。

≪でも、やっぱりそれはあかんやろなあ~。フフッ。金の顔、銀の顔みたいに、黙ってたら全部くれました、なんてことにはならんやろし・・・。それに、もしそうなったらそうなったで、困るやろしなあ~。フフッ。好きなときに好きなひとと付き合えるんやったらそれでもええけど、誰かとええところまで行っているときに、他の誰かが急に現れたりして・・・。神様がそんな風に勝手に選ぶんやったら、絶対困るわぁ~≫

 他人が聞いたら噴飯ものの贅沢な悩みに、浩太は頭を痛めていた。

 しかし、そんなことは男なら誰にでもある、ごく普通のことであった。若くて可愛い女の子、綺麗な女性等がそばに居れば、その時その時に本気で真剣な恋をする。浮気でも何でもなくて、本能のなせる業であった。むしろ恋に馬鹿正直、生真面目という表現が合うかも知れない。

 それから、会う人によって違った顔を見せること、これは男に限らず、人間ならば当然のことである。大人に近づいた証拠と言うべきであろう。顔色を見る、人によって態度が変わる等のことは我が国において嫌われがちであるが、これは元々動物として強くない人間には当たり前に見られることだからこそ、行き過ぎに対しての反省の意味も込めて、昔から言われ続けて来たはずである。

≪まあいいかぁ~。なるようにしかならへんかぁ~。あんまり気にせんとこ・・・。気にしたら負けやぁ~≫

 面倒臭がり屋の浩太はある程度以上悩み続けるタイプではなく、また、まだまだ恋愛体質にはなっていなかったようで、現実はほとんど進んでいなかった。そして、彩乃の心は本命に出会った今、既に浩太から離れていたし、他の4人も恋はまだ心の中に描き出された幻想で十分なタイプであったから、余計に今のままで十分であった。

 それに比べて西木優真と彩乃の2人は行き付くところまで行き、浩太は、どうしたものか? と、此方については深刻に悩んでいたし、あまりにも典型的で盲目的な恋の成就に、周りの他人も笑うに笑えなかった。

≪あれはあれで羨ましいけど、優真の才能を考えたら、あのままやったら惜しい気がするなあ~。もし恋を知らなかったら、今言うのはちょっとオーバーかも知れんけど、国や企業を背負う奴になってたかも知れん。いや、模試では奈良県で一桁、全国レベルでも二桁には入ってる言うてたから、オーバーでもない。やっぱり惜しいわぁ~≫

 尾沢俊介も交えて、優真には何回か訥々と説得しようとしたが、優真は困ったような顔をして、ただ笑っていただけであった。

 俊介は勝手な父親に愛想を尽かして他の男性と出て行った母親の影響もあり、幼い時から男女の複雑な機微についてはそれなりの理解、と言うか経験値があったが、それでも目の前の急で激しい展開には面喰うものがあった。

 

        人は皆勝手なことを妄想し

        独り芝居を楽しむのかも

 

(※皆と言うのはオーバーに過ぎるかも知れないが、実際に恋を成就させるタイプ以外はそんな気がする。それに実際に恋をしているタイプでも、それに勝手な愛し方をしている場合が往々にしてあるような気が・・・。なんて恋を不得意科目とする私が言っても説得力が無いなあ。フフッ)