sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見た目が9割!?(最新版その30)・・・R3.12.23②

            その30

 

 令和2年5月28日、木曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、玄関ホールの受付前に設置してあるタイムレコーダーにICチップ入りの職員証をスリットした後、そばに置いてあるアルコール消毒液を掌に溢れそうになるほどたっぷりと取り、その中で手指を曲げたり、伸ばしたり、擦り合わせたり、爪の間にも入るように掌でトントンしたりしながら、丁寧に消毒する。

 この消毒液は大分前から置いてあり、来客も含めてそこを通る人の皆が日に数回ずつは使う所為か? この頃は何だか減りが早いように思われる。幾ら呑気で不精者の慎二でも気になって一旦使い始めると、そうしないことが結構大きな不安になって来るのであった。慎二はそれぐらい小心者で、同調圧力に弱いタイプでもあった。だからついでに洗面所に寄って、何度もうがいをしておく。

 そんな一定の安心感が得られる程の儀式的なことまで済ませ、ふぅーふぅー言いながら階段を3階まで上がり、割り当てられた執務室に入って来たら、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て居り、ちょっと古めのiPhoneの端に何本もひびが入った液晶画面を食い入るように見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、頻りにメモを取っていた。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 ごく習慣的な朝の挨拶を交わした後、我が国では急激に新型コロナウイルス感染症が収まっていること、しかし福岡県、神奈川県、北海道等、広範囲に亙ってまだ感染者が中々0にならず、時には増えたりもしていること、通勤電車や駅に学生が見られるようになり、程々に混んでいるときもあること、アベノマスクが中々届かないこと、ファンドさんの一番の関心事である株価には相変わらず世界的に大きな変動が起こっていること等、一頻り世間話をし、慎二は自前の中古ノートパソコン、「神の手」をおもむろに開いた。そして、上手く書けたと思う時は即座にブログにアップ出来るように、そばにはテザリング用に格安のSIMを挿したスマホまで用意しておく。

 他人に見せることを想定すると何か迷うところでもあったのか? その後は暫らく考え、それからおもむろにメインに使っているスマホを取り出し、通勤電車の中でメモしておいたものを見直しながら起こして行く。

 ファンドさんの関心は既に投資関係の記事に移っており、またiPhoneの液晶画面を見詰めてはぶつぶつ独り言ちながら、熱心にメモを取り始めた。

 

         朝のひと時雑詠

 昨日漸く私の住む奈良県生駒市でも特別定額給付金の申請書が届いた。

 掛かり付けの歯医者さんから5月末には届くはずと聴いていた通りである。

 とすると、給付されるのも聴いているように早くて6月末と言うことになるのであろうか!?

 何だかやけにのんびり動いている。

 アベノマスクの方はまだうんともすんとも言わない感じである。

 仕方が無いから、昨日は職場近くのドラッグストアで漸く売り出されていた使い捨ての不織布マスク7枚398円(税抜き)と言うのを買ったが、この後はどうしようかと迷っている。

 ミズノ、アシックス、AOKI等、服飾関係を扱う会社が見栄えの好い布製マスクを売り出したので、多少高くても、其方に惹かれるものもある。

 それから特別定額給付金に関してであるが、我が家では私も含めて既に皆が貰ったものと想定してそれぞれに楽しみ始めており、実際には緊急に必要なわけでもないから、多少遅くなっても好いとするか!? 

 とは言うものの、上の子どもが、

「父ちゃん、どうせその内に税金で回収されるんやってぇ!」

 なんて冷めたことを言っていた。

 然もありなん。

 でもまあ、目の前の人参、すなわち喜びも大事だからね。フフッ。

 

        目の前の人参を見て発奮し

 

        目の前の人参を見て走り出し

 

 とは言うものの、まだ見てはいないなあ。

 

        目の前の人参思い発奮し

 

        目の前に人参描き走り出し

 

 それはまあともかく、今日も出勤日である。

 今週は3日目になり、ちょっと疲れが溜まって来た。

 大したこともしていないのであるが、それでもこれである。

 それだけ年を食ったと言うことなんだろう。

 3年前は普通に週5日連続で出勤していたのであるから、改めて結構頑張っていたんだなあ、と我ながら感心させられる。

 そう言えば昨日、今も結構頑張っている元同僚が熱心に発信しているFacebookを目にした

 自分の老化は仕方が無いが、少なくとも今頑張っている人の邪魔をしてはいけないなあ。フフッ。

 なんて反省しつつ、まだ見ぬ特別定額給付金を貰ったものと思って小出しにして使い、それをエネルギーにしながら何とか出勤するとするか!?

 お天気の方は回復基調にあり、大阪市内に住む友達から、週末には遊びに行こうとお誘いを受けている。

 漸く遊び心も動き出したようである。

 

        少しずつ遊び心も動き出し

 

        先ず遊び仕事心を呼び覚まし

 

 近場で、人が集中せずに、涼しく癒されるところは何処だろう?

 今のところ想定しているのは奈良の南部、和歌山の北部、三重の西部と言ったところであるが、行く前にこんな風に色々考えるところからもう楽しみが始まっているのだろうなあ。フフッ。

 

        山や滝想定しつつ楽しみに

 

        清涼な自然を浮かべ楽しみに 

 

 ところで、車窓からの生駒山は天辺までしっかりと見え、好い感じである。

 海抜でも、東京のスカイツリーが634mだったか? それよりも僅かに高いだけの642mしか無いから、近鉄生駒線の東側座席に座って見る生駒山は車窓の枠内にすっぽりと収まって、それも好い感じに思える。

 晴れて来ると色々なことが好い感じに思えて来るから可笑しい。

 ところで、車内では相変わらず殆んどの人がマスクを着用している。

 この辺りの素直さが新型コロナウイルス感染症の急激な収束に繋がっているのは確かなように思われる。

 それでも北九州市、神奈川県、北海道と、飛び飛びに彼方此方で感染者が新たに発見されている。

 我が国の人口1億2千万人と言う母集団からすれば僅かで、統計的には誤差、雑音のようなものかも知れないが、自分がその僅かな側(※1)に入らないと言う保証は何処にもない!?

 そんな不安と同調圧力が国民全体に上手く浸透した結果なんだろうなあ。フフッ。

 ただ、これも歴史的、統計的には大したことがないと言いつつ、やっぱり3か月の自粛生活は中々きついものがあった。

 家族が寄り添えたところも多かったのかも知れないが、その逆もある。

 時には統計で片付けられない悲劇にもなって、警察、病院等の力を借りなければどうしようもないことにもなり得る。

 そんなことを減らして行く為にも、もう暫らくは我慢だなあ。

 あの特別定額給付金はその我慢料とでも思えば好いのではないか!?

 我が子が言うようにいずれは税金として回収されることを思えば、我慢料の先払いとでも思えば好いのだろうなあ。フフッ。

 

        給付金我慢宥めてまた我慢

 

        給付金少し緩めてまた我慢

 

 そろそろ職場の最寄り駅近付いて来た。

 座席はほぼ定員一杯座り、扉付近には数人立っている。

 座席の前に立つ人も見られるようになった。

 なんて好い気持ちになって書いていたら、うっかりとひと駅乗り越してしまいそうになった。

 嗚呼大変だ!?

 ここらで気を引き締めなくっちゃね。フフッ。

 

 自分なりにはまあまあ上手く書けたと思い、慎二がしみじみとしていても、この日は何時もならばこの辺りのところで執務室に入って来る井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来ない。

《あっそうかぁ~!? メルカリさんは今日、テレワークするって言うてたなあ・・・》

 慎二が何だか寂しく思っていたら、事務を担当している若い依田絵美里が熱いお茶を淹れた備前焼のぷっくりした湯飲みを持って来て慎二の机の上にそっと置き、ゆっくり立ち止まって、まだ開いている「神の手」の液晶画面にさっと目を走らせる。

 この頃、常に気になっている絵美里が少しばかり感心を持って読んでくれているらしいことを意識し始めた慎二は、それだけでもう緊張が高まって頬を真っ赤にし、福耳と言われる大きな耳たぶをひくひくさせていた。

 そんな様子を見て、絵美里はちょっと照れながらも、よく光る澄んで大きな目をキラキラさせながら、

「藤沢さんのところも漸く特別定額給付金の申請書、届いたんですねぇ!? 好かったですねぇ! ところで、どんな風に使われるんですかぁ~?」

 ともかく自分および自分が書くものに関心を持って貰えることが嬉しく、また恥ずかしく、慎二は目をおどおどさせながらも、自分に与えられた広い机の上に目を走らせ、何とか答えようとする。

「そうやなあ・・・。どうせ大した物は買わへんねんけど、ほら、そこら辺に置いてある安物のスピーカーとか、デジタルアンプとか、そんなもんをまたぼちぼち買い集めているぐらいなんやけど、依田さんは給付金をどないする気ぃ~?」

「そうですねえ・・・。私の場合、友達と遊びに行くか? それとも何か美味しいものでも食べに行くか? ともかく私も楽しみに使おうとは思ってます」

《ふぅ~ん。それで、どんな友達と行くんやぁ~!? もしかしてイケメンやったりしてぇ・・・。フフッ》

 なんてオヤジ臭く訊きたいところであったが、気になりながらも小心者の慎二はそれ以上訊けず、もごもごしていると、絵美里は続けて、
「また面白い物を買ったら見せてくださいねっ! ウフッ」
 そんなオヤジ心を微妙にくすぐるひと言を残して、微笑みながら遠ざかって行った。大きなマスク(と言うか小顔の所為でそう見えるだけのことか?)をしていて殆んど目だけしか見えていなくても(※2)、十分に初夏らしい爽やかな緑陰の風を感じさせる絵美里であった。そして特別定額給付金以上のやる気を与える笑顔も添えながら。

 

        給付金其々やる気引き起こし
        暫らく後に元取る気かも

        

        給付金よりもやる気を引き起こす
        職場の花の笑顔なのかも

 

※1 数字のマジックと言うか? 統計のマジックと言うか? 今も私たち国民はマスコミによって、したがって政府によって動かされている。新規感染者を中心に発表されがちであるが、大阪の様な大都市圏でさえ、検査数が漸く統計的な曲線に乗る数字と言われる2000を超えたばかりである。東京でもその倍で、1万なんてとても行かない。それに、何処の母集団から取った検査数かも関係してくるだろうから、たとえその数字が僅かであったとしても、本当に僅かとは限らない、なんてずっと言われていても、具体的な数字を示されると感情的に揺れ易いのが我々日本人のようである。

※2 ひと頃よく眼鏡美人などと言われ、漫画、映画、ドラマ等にもその変化を描いて目や想像力を楽しませたものであるが、今年はそこにマスクが加わっている。小顔の女性の場合、出ているのは殆んど目、額であるから、余計に想像力を掻き立てる。顔の形に添い、口の動く様子まで感じさせるマスクであれば余計にそうなる。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これで前編が終わりになる。

 

 途中から注を加えたの、バランスを考えたら、また、色々思い出すこともあるので、出来れば初めから加えた方が好い気もして来た。

 

 それはまあともかく、前編と言うことはこの後、後編が続くので、時間と気持ちの余裕がある場合、読んで頂ければ幸いである。