sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

癒しの泉!?(チヂモン奇譚第2弾)(3)・・・R2.4.9③

               その3

 

 一方、記憶を奪われた山野周作は明珍忠助と麒麟に教えられた通り、泉に来る前に道を尋ねた村まで戻って来て、件の農夫に再び会った。

 勿論、周作には農夫に会った記憶はない。ただ、小屋を出るときに麒麟から渡された写真を頼りに判断しただけである。

「あのぅ~、ここに戻って来たら、後はあなたに案内して貰うようにと明珍麒麟さんに言われましてぇ~」

「はい、はい。聞いていますよぉ~。どうぞ此方へぇ~」

 農夫に案内され、ある大きな農家に入ると、中は農家には似つかわしくないほど無機質で、何だか事務室のようであった。

「そこのソファーに掛けて待っていなされやぁ~」

「はい・・・」

 周作は言われるまま、病院の待合室にあるようなソファーに腰を下ろした。

 暫らくして出て来たのも農夫であったが、白衣に着替えており、腰がシャンと伸びていた。顔も白くなっているし、どうやら農夫は借りの姿であり、忠助同様、何か怪しげな研究でもしているらしい。

「お待たせしましたぁ! 今日からあなたの案内をさせて頂く川浪高志ですぅ。あなたのお名前はぁ~?」

「いやぁ~、それがさっぱり分からないのですぅ・・・」

 周作は本当に困った様子である。

 川浪は満足げに頷きながら、

「それでは仮に川浪35号とでもしておきましょう。長いから、普段は35号と呼びますよぉ。いいですねぇ!?」

 有無を言わさず決めてしまう。

「はい・・・」

 周作はそう答えるしかなかったし、それが不思議なことに、特に不満なこともなかった。

 それから川浪は、

「それでは先ずこれを飲んで下さい。落ち着くはずですぅ」

 そう言いながら、緑の錠剤とグラス1杯の水を渡す。

 言われるままに飲むと、周作は少し胸苦しさを覚え、胸の辺りを撫でている間に見る見る小さくなって行った。

 小さくなり切った周作を川浪は、壊れ物を扱うように優しく持ち上げ、隣の部屋に連れて行った。

 どうやらそこは川浪の研究室のようである。面白いのは、忠助の研究室にあったような大きな機器が少ないことで、実験台の上には更に小さな実験台と玩具のような機器が幾つか並んでいた。

 周作を実験台の上に静かに下ろした後、小さな実験台の内の一つを指して言った。

「さあ、そこに寝てぇ~」

 小さな実験台のそばには忠助のところにあったドーム型の装置のミニチュアのような装置もあった。

「はい・・・」

 そう言って周作が素直に横になった後、川浪は周作にミニチュアのドーム型装置を被せ、スイッチを入れた。

 すると、周作は何回かのたうち、泉を離れてからこの部屋に来るまでの間の記憶をまた全て忘れた。

 

 暫らくして起きた周作が連れて行かれた場所は不思議な空間であった。外からは一見里山のようで、近付くと実は作り物であることが分かる。中はドームになっており、外からの光は十分に差し込み、エアコンが適度に効いた快適な空間であった。床は張られておらず、土の上に小さな家が一杯立ち並び、それぞれに小さくされた人が住んでいた。そして、集落の周りにはミニチュアの田畑が広がり、小川が流れている。

 そう、そこは小人の村であった。

 川浪は、この国の人口が賄い切れないほど増えて生じて来た問題、直接的には土地問題、食糧問題、エネルギー問題、更に環境問題、心理的問題等を一挙に解決すべく、秘かに政府高官たちの支援を受けながら、一つの試みを行なっているのであった。

 それは悪魔的な試みとも言えた。自分が開発した、万人が認めたわけでもない怪しげな薬である生物縮小剤、チヂモンを使って、人間の大きさを政府にとって都合のいいようにコントロールしようとしていたのだ。

 初めの頃、実験は思っていたほど簡単には行かなかった。村全体を小さくすれば確かに先に挙げたような問題は簡単にクリアー出来るように思われたが、それでは蚊、蝿、ゴキブリ、ムカデ、ネズミ、ヘビ等、人間に害をなす動物への対策をどうすればよいのか!? 結構大変な問題であった。 

 しかし、これまでの色々な試行錯誤を通してそこも何とかクリアー出来て、周作が来た頃になると、村は今の形のように大分落ち着いた様相を示していた。

 

        科学者の勝手な思い集結し

        悪魔の所業加速するかも