sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

癒しの泉!?(チヂモン奇譚第2弾)(2)・・・R2.4.9①

               その2

 

 実は、明珍忠助と麒麟は人型ロボット、つまりアンドロイドの研究をしており、それは殆んど完成していたのだが、唯一魂を作り出すことだけは出来ないでいた。人工知能を発達させ、知識の集積、計算、応用等については容量、速さ、正確性、継続性等において人間の能力を圧倒的に超えられても、中々最初の一槌を与える意思までは持たせられない!? 乱数、ファジー等、既知の理論を導入し、巡り巡ってまるでそのように見えるところまでは持って行けても、あくまでもそれは偶然なのである。そしてたまたまでは面白くない。

 そこで忠助は手っ取り早い方法として、一旦魂については置き、実際に意思を持って生きている人間の記憶を出来る限り物理的な信号に変換して、それをすっかり移し変えればよいのではないか!? と考えた。この辺り、何故を置いて如何にから始めたことが科学の発達に大きく寄与したのに似ている。と言うか、そっくり同じで、人間は中々そこを超えることが出来ないでいる。

 それでは、本当に人間はそれぞれが自分の意思を持ち、自由な思考に従って生き得ているのか!? と考えてみると、簡単には答えられなくなって来るが、それはまた別の話である。 

 朝の勢いで話を広げ過ぎたようだ。話を戻すと、泉の水として山野周作が毎日幾度か渡されていた水は、確かに地元の湧き水ではあったが、その水自体にものを忘れさせるような不思議な力があるわけではない。そこにかなりの量の睡眠薬および脳から記憶を取り出し易くなるように活性化させる薬が入っていたのが怪しいだけであった。

 眠らされた周作は例の地下研究室の実験台に寝かされる。続いてドーム状の装置を頭部に被せられるのも新たな記憶を与えられたときと同じであったが、違うのは何日も掛けて少しずつ、これまで生きて来た記憶を抜き取られたことである。そうして奪った記憶を忠助が作ったアンドロイドに移すのであるが、助手として働いている娘の麒麟も実はアンドロイドで、その成功例第1号であった。作った忠助でも殆んど分からないほど精巧であるし、どんな命令にも逆らわず、疲れを知らず、献身的に働いてくれる。

 その成功に気を好くした忠助はそれからもより完全を目指し、そして成功例が増えて来ると面白くなって、どんどん記憶を移し変え、実際の人間と見紛うほど似せたアンドロイドを陸続と世の中に送り出しているのであった。

 問題は実験台となる人間をどこから如何にして調達して来るか!? と言うことである。

 その役目を担っているのが、周作が泉に来る前に立ち寄った村の老いた農夫であった。

 忙しい現代、普段の生活で失われた何かを探す為に、秘湯、隠れ里、幻の滝、名水等を求めて旅する人は相変わらず多い。彼らと巧妙に話を合わせ、着実に忠助のところに送り込む。ただの農夫に出来る仕事ではなかった。

 それはまあともかく、農夫から連絡を受けた忠助と麒麟は急遽セットを鄙びた掘っ立て小屋風に作り変え、手ぐすねを引いて旅人を待つのである。

 周作の立ち去った後、研究室の実験台には周作と見分けが付かないように作られたアンドロイド(以後、分かり易いように周作2としておく)が横たわっていた。そして、未だ頭からはケーブルが何本か出ており、スーパーコンピュータ、「ヌイータ」からの信号が送り込まれていた。

 暫らくしてケーブルを取り外され、実験台からゆっくりと立ち上がった周作2は、小屋にやって来た周作と見紛うような表情をしており、麒麟、そして忠助に言われるままに小屋を離れた。

 さて、そこの君。最近、身近な人が心なしか変わって来たように思ったことはないか!? 多少感情が失われたように感じられたり、前のように物を欲しがらなくなったり・・・。

 もしかしたらそれは、既に君の友だちから記憶を移し変えられたアンドロイドになっているのかも知れないなあ。フフッ。

 えっ、それでは忠助の娘、麒麟本人は一体何処に消えたのか、だって?

 それはまあこれからのお楽しみとでもしておこうか。フフフッ。

 

        其々の記憶抜かれた人間は

        アンドロイドに変えられるかも