第9章
自分より下に居たはず高校時
大学時にはぐっと抜き去り
学区で2番手の進学校である北河内高校で2年生になってから成績が急激に上がった川端浩二は、他人から成績においては十分に意識される存在になっていた。同じクラスになった下山学は、定期テストの答案が返される度に浩二の得点を確かめに来た。
2学期の中間テストが終わった後のことであった。
「なあなあ、川端君。今のテスト、何点やったぁ~?」
浩二はその辺り鷹揚で、別に隠す気はない。
「世界史かぁ~? 97点やったでぇ~」
「わぁ~、ええなあ! また差を付けられた。僕は88点やったから、これで合計28点差かぁ~!? 後、残ってるのはリーダーだけやし、もう完全に負けやなあ・・・」
「そんなんまだ分からへんよぉ。僕、英語は何時も60点台やし、下山君は英語が得意そうやから、十分射程距離と違うかぁ~?」
「そうかなあ?」
下山は満更でもなさそうである。
浩二は下山に話を合わせながら、自分がそんな風に他人から意識される存在になったことに不思議な気持ちを抱いていた。
結局、リーダーで下山は92点、浩二は72点で、下山は合計点での差を20点詰めたが、浩二を抜くことが出来なかった。
それから後も浩二は下山より下になることはなく、下山はその旅に大袈裟に悔しがって見せた。
3年生になってからは違うクラスになったが、それでも下山は慎二をライバル視していたようで、定期テストが終わった後には何時も得点を確かめに来て、その都度た大仰に悔しがって見せた。
そして何時の間にか浩二は、すっかり自分が出来る方だと自負するようになった。
この2人の関係は互いに切磋琢磨したと言うのだろうか? 浩二と下山は同じ国立浪速大に入った。
ただ、下山の入った応用理学部は浩二の入った理学部に比べて比較的入り易い学科が多く、この時点では未だ、浩二は自分の方がちょっと上だと思っていた。
しかし、現実を知らされるときは意外と早くやって来た。浩二が大学での理系科目でアップアップ言い出した頃、学生食堂で見掛けた下山は、友だち相手に楽しそうに余裕で難し気な科学談義を弾ませていたのである。
その後下山が大学院に進むことを知り、浩二はちょっとしたショックを受け、卒業時、下山が学科の主席に贈られる本西賞を貰ったと知った時、浩二は言いようもない大きなショックを受けていた。
しかし、大分経ってから落ち着いて考えてみると、当然のことであった。勢いで一時的に自分が上に行っていたとしても、何時も着実に取り組んでいたのは下山であったし、勉強、そして学問へとスムーズに興味を繋げられたのは下山であるから、それでよかったのだろう。
そう思えた時、浩二は漸く試験の夢を見なくなっていた。それはそろそろ40歳に手が届こうという頃のことであった。
「久保先輩はもう試験の夢を見ることはないかぁ~?」
「俺もようあったよぉ~。流石にこの頃は見ぃ~へんようになたけどぉ、やっぱり40歳ぐらいまではよう見たわぁ~」
「そうかぁ~。そう言う意味でも40歳と言うのは節目なんかなあ・・・」
「そうやろなあ。ほら、40にして惑わず、なんて言うやろぉ~? あれ、ほんまやと思うわぁ~」
「うん、そうやなあ・・・」
「でもこの話、ライバルを認めるような振りして、ちゃっかり自慢入ってえへん!?」
「な、何言うんやぁ!」
「何や慌ててるでぇ~。フフッ」
「そりゃまあ多少は入ってるかも知れんけど、僕にはこの時の成績ぐらいしか自慢出来るところがないんやから、それぐらい別にええやろぉ~?」
「ええでぇ~、別にぃ~。俺もその気持ち、何となく分かるわぁ~」
「分かって欲しないわぁ~、そんなもん。謙遜で言うたのに、そんなん言うたら本当のようになってしまうやないかぁ~!?」
「でも、本当のこっちゃろぉ~?」
「そやからさっきも言うたようになあ。ブツブツ、・・・。でも、本当に自慢に思てることは他にあるんやぁ!」
「ふぅ~ん・・・。それで、それは一体何やぁ?」
「それはなあ、やっぱりぃ~、恋愛でも就職でもすんなりとは行かんでも、ゆったりとした青春時代を送れたことやろなあ。それが俺にとっての自慢と言うかぁ、宝物やと思うわぁ~」
「臭、臭、くっさぁ~」
ゆったりと過ごした時間持てたこと
青春の日の自慢なのかも