その2 玩具情話
ここは間垣美奈ちゃんのお部屋。真夜中なので、聴こえるのは規則正しい寝息と、はっきり分かるような、今一分からないような寝言だけ。
そのはずが、何時もとどうも様子が違いました。寝る前にママの芳香さんに言われて綺麗に片付けたはずの玩具箱の辺りが微妙に乱れ、がさごそと何だか騒がしい。
耳を済ませてみると、何やら話し声が聞こえて来ました。
「大体やねえ、ここのご主人、えこひいきが過ぎるんだよなあ。お気に入りのぬいぐるみなんか、薄汚れていても、クララちゃん、可愛いでちゅ、とか何とか言っちゃって、頬ずりしながら寝ているくせに、俺達なんて1回か、精々2回も遊んでくれたら御の字。それならさっさとバザー(※)にでも出して欲しいよぅ~」
(※今ならメルカリとかジモティーとかでしょうか?)
「ぼやくな、ぼやくな。どうせ俺達なんてそんなものさ。袋から出して貰えただけでもましな方かも知れない・・・。それを誇りに生きればいいじゃないかぁ~」
「ちょいとお兄さん、えらく寂しいことを言うわねえ。子どもの気なんて変わり易いんだから、何か趣味でも持って、声を掛けてくれるまでのんびり待っていればいいのよ。ほら、待てば海路の日和あり、ってね。昔からよく言うでしょ!?」
騒がしくしているのは主に、マクドナルドとか玩具菓子とかに付いているおまけの玩具達でした。
そこに、渋い顔をしたレッサーパンダのぬいぐるみがおもむろに口を開きます。
「フフッ。甘いねっ。あんた達はまだ若い所為か、大甘のこんこんちきだよぉ~。あたしなんか彼是30年、いやもっとかも知れないなあ。先代のご主人さま(※1)に見向かれなくなって、それでも物を捨てるのが苦手な人なものだから、今のご主人さまの玩具箱の底に寝かされたままさ。新しい物好きの今のご主人さまがあたしなんかと遊んでくれるわけがない。遊んでくれたのはあの風太騒動(※2)の一時だけさ。希望? そんなものがなくったって生きて行ける。夢? 何のことだい、それ? そんな言葉、とっくの昔に忘れたねえ。フフフッ」
(※1ママのことです)
(※2、これを書いた当時、もう15年も前のこと、後ろ脚で立ち上がるレッサーパンダの風太が人気であった)
これはまたえらくひねくれたものです。よほど寂しさが募ったのでしょう。
それでもぼやいてみるものです。それを機会に、昼間美奈ちゃんに遊んで貰えない玩具達は夜毎集まってお互いを慰め合うようになり、言葉とは反対に表情が段々明るくなって来ました。
そしてある日、美奈ちゃんが学校に行った後、ママが掃除しようとすると、玩具箱の様子がいつもと違うことに気付きました。
「おや? 変ねえ。何だか乱れている・・・。大体、多過ぎるのよぅ~。一杯持っていても、直ぐに新しいのを欲しがるんだから・・・。そう言う時代なのね。美奈だけにきついことを言ってみても仕方ないか? あっ、そうだ!」
何か好いことを思い付いたようです。
しばらくしてママは、小さめのビニール袋を沢山持って来て、まだ遊べそうなおまけの玩具達を2個か3個ずつ、せっせと詰めて行きました。
そして玩具箱を掻き回している内に、底の方に横たわっているレッサーパンダのぬいぐるみが見えて来ました。
ママは手を止め、何とも言えない表情をしています。子どもの頃、パパ(だから、美奈ちゃんからすればお祖父ちゃん)が嬉しそうに買って来てくれたときのことを思い出しているのかも知れません。
それからママは、レッサーパンダのぬいぐるみを黙々と洗い始めました。
翌日のことです。ビニール袋に詰められたおまけの玩具達は、彼らの声が届いたのか、美奈ちゃんの通う小学校のバザーに一斉に出されました。
それぞれ新しい居場所はどこかな? 上手く見付かると好いけど、何れにしても暫らくは想像してみることで楽しめますね。
一方、乾かされたレッサーパンダのぬいぐるみは、ママが子どもの頃から愛用しているピアノの上に飾られました。変に騒がず、静かに待っていたお陰かな? 本来の居場所に戻れてよかったですね。
買った後放って置かれる玩具達
居場所求めて寂しいのかも