第4章 小さな裏切り(その2)
くにこさんへ
今日、中川先生が言っていた、目の前のことを大切にしながら生きる、ということ、僕も大事なことだなあ、と思います。焦りからついつい先のことばかり考え、心配しがちですが、そうすると目の前のことがおろそかになり、かえって無駄になります。そうしたら今が駄目になり、当然先のことも駄目になってしまうでしょう。それならば、急がば回れ、と言うように、気持ちを落ち着けて目の前のことからじっくり取り組むのが好いのではないでしょうか?
なんて好い恰好を書いてみても、残念ながら実際には中々出来ません。
(中略)
それではまた。
しんじ
「何やねん、これぇ!? えらい道徳的やなあ。それに何が、しんじ、やぁ!? こっちが恥ずかしくなって来るわぁ~! 読んでられへんなあ。ほんで、・・・」
流石に友達の書いたものをまともには読めないらしい。半分ぐらい読んでさっと流し、邦子の書いた分に目を移した。
しんじさんへ
目の前のことを大切に、ということ、私もそう思います。今のことを無駄にしたら先が無駄になる、のもそうだし、それに先のことなんか本当はどうなるか分からないから、思いすぎても仕方がないような気がします。
でも、無駄とわかっていても気にしすぎるのが人間。私も含めて人間って本当に弱いものだとも思います。
だからこそ人間には友達が必要だし、仲間とつながれるのではないでしょうか? 私にもしんじさんというに友達ができて、本当によかったなあ、と喜んでいます。
ところで、もうすぐ中間試験が始まりますね。よかったら図書室で一緒に勉強しませんか?
と言うより、わからないところを教えてほしいのです。お願いします。
それではまた。
くにこ
「まあな。確かにそうやねんけどな・・・。確かに人は弱いものやぁ。分かっていても出来へんことがある。そんなことばっかりやぁ。だから友達が欲しくなる・・・。もっともやぁ。でも藤沢、お前はほんまに大谷と友達になれるんかぁ!?」
そう言いながら正一は、慎二をよく光る目で見つめる。
書いてあることには納得出来るところがあったのだろう。嘘の中にもある真実にくすぐったいものを感じながら、正一は交換日記を友也に回した。
友也は読みながら鼻で笑っただけで、紀夫に回した。
紀夫もさっと目を走らせただけで慎二に返す。
要するに友也と紀夫には大して興味や意見がなく、正一に付き合っているだけのことであった。