第4章 小さな裏切り(その1)
中2なり、求められるままに大谷邦子との交換日記を始めてから数日後の帰り道、藤沢信二は脇坂正一、岸川友也、真崎紀夫に呼び止められた。
「おい、藤沢。お前、大谷邦子と交換日記しているらしいなあ?」
「どうや、面白いんかぁ?」
「そんなに毎日、何を書くことがあるんや?」
口々に言う。
3人共2小学生のときからの悪友であるが、今は皆クラスが違っている。
どうしてこいつらが知っているのだろう? どうやら、既に他クラスまで噂が広がっているらしい。
「別に面白いというほどやないけど・・・」
慎二としては正直な気持ちであった。
「何が、別に面白いというほどやない、やぁ! 面白くなかったら、何でやってんねん? お前、本当に大谷のことが好きなんかぁ!?」
正一にそう聞かれても、優柔不断な慎二には答えようがなく、ただ笑っているだけであった。
答えははっきり分かっている。望まれたからやっている。それだけのことであった。
それでも、断れなかっただけではなく、異性から迫られた喜びもある。そこから始まる付き合いもある。要するに持てたということだ。それで十分ではないか!? と慎二は自分に言い訳していた。
しかし、本当に邦子のことが好きなのか? これからでも好きになれるのか? と自分に問えば、否、であった。中1の頃からずっと矢野正代のことが忘れられないでいる。そんな自分に不正直な態度が恥ずかしく思われるから、慎二は正一の問いに答えられなかったのである。
「黙っているところを観ると、やっぱり好きやないんやぁ! お前はずっと矢野のことが好きやったもんなあ・・・。でも、お前も知っているかも知れんけど、矢野は1年のときから俺のことが好きやねんでぇ。フフッ。
ほんで、一体何をやりとりしてるねん? ちょっと見せろやぁ!」
残酷なことをずけずけと言う。そんな不正直な気持ちでしていることなど尊重する必要はない、不正直なことを平気でしている奴など傷付けてもいい、という、少年らしい残酷さであった。
「しゃあないなあ」
慎二もそれを否定出来ず、渋々出す振りをしながら、あっさりと見せてしまう。
どこか後ろめたいものを感じながらも、不純な気持ちを悪友たちと共有することで、気持ちが楽になるように思えたのである。
「ふぅ~ん。何が、くにこさんへ、やぁ! 背中が寒なるなあ。フフッ」
突っ込みながら、正一はさっと目を走らせる」