エピローグ
何処にでも春は訪れ、その陽光は優しくもあり、厳しくもある。ここ北河内にも春は訪れ、努力して来たそれぞれにそれぞれなりの陽光が降り注いだようである。
青木健吾の場合、愛知県の教員採用試験に合格し、正規教員、すなわち教諭への道の第一歩を踏み出すことになる。大阪府での常勤講師の経験があるから丸っきりの素人ではないが、同じ自治体内における学校間の異動でも戸惑うことが多いものであるから、違う自治体に移って果たして前途に何が待っているのか!? 不安ながらも楽しみではある。
中野昭江の場合、青木健吾を追って愛知県に行こうと思い、受験的には国立浪花大学と同レベルの国立愛知大学を受験したまでは好かったが、残念ながら惜しいところで落ちてしまった。
さて、この後である。まだ若い分、色々な道が開けていると言われがちであるが、その可能性があるだけで、道はこれから自分で切り拓いて行く必要がある。勿論コネも含めて。
色々考えて、結局住み慣れて家族も居る大阪で浪人生活を送ることになったが、そうなると健吾と付き合うにしても遠距離恋愛になる。真面目に受験生活を送ろうと思うと、そんなに頻繁には逢っていられない!?
このカップル未満のカップルにはこれからそんな不安と楽しみもありそうだ。
また丸山康介の場合、我が国最難関の国立東都大学を残念ながら落ちてしまった。そして後から問い合わせてみると、惜しいところまでも迫れなかったようで、実力の足りなさを実感させられる。それでひと先ず欧米の大学への入学を目指して浪人生活に入ることになった。受験勉強以外に語学の勉強をする必要もあり、結構大変そうであるが、遣り甲斐がありそうにも思われる。
ただ、まだまだのんびり恋愛を楽しんでいるわけにも行かないようだ。人生に対して本当の意味において生真面目で不器用なところがあるだけに、暫らくはお預けか!?
安藤清美の場合、無理をしないで国立浪花大学を受け、無事合格した。ひと先ず安心であるが、そうなると康介のことが気になって来る。
かと言って、暫らくは康介の時間をそんなに奪うわけには行かないから、待つことが多くなる。
それがまあ普通であろうが、そこは人間である。離れている時間が増えて来ると、揺れることも多いものである。
また新たな世界が開かれると、そこでの出会いもある。
このカップルにもそんな楽しみと不安が待っていそうである。
それから柿崎順二と橋本加奈子は市立浪花大学経済学部を受けて、2人共無事合格した。
葉山涼香は中野昭江の兄、陽介の親身な個人教授により目に見えて成績をアップさせ、甲南大学文学部を受けて無事合格した。
この2組のカップルはそれぞれ強い絆で結ばれており、人生にありがちな受難は別にして、カップルとしての不安はまあ無さそうに見える。
ただ、そう簡単に切り離せないところが人生の怖さであり、面白さでもある!?
不安ながらも、楽しみにしながら見守りたい。
春来たり
誰のところにも春来たり
冬の重さを振り払う
春の薫風吹いて来て
それぞれの前に道開け
誰もが次の一歩を踏み出せば
まだまだ見えぬその先に
不安覚えて立ち止まり
手を取り合って道拓き
また新たなる世界見えて来て
共に手を取り歩き出す
それが誰にでもある青き春
誰にでもある夜明けかな
どうやら書き始めた時に期待したようなところまでは行かなかったようである。結果、この後に大いなる含みを残したところで終わることになる。
そうすると、プロローグに書いたところまでの繋ぎの物語を紡ぎたくなるところであるが、それは焦らなくて好いのかも知れない。
いや、焦って紡いでもまた別の人生が展開し、繋がらないのかも知れない。
だから人生面白い!?
そんなところでこの物語を一先ず置くことにしよう。