エピソード7
「うわぁー!」
ぐっすり寝ているように見えた藤沢浩太はいきなり叫び、汗びっしょりになって飛び起きた。以前に比べると大分減ったが、それでも月に何回かはある。決まって嫌な思いが残り、起きてもしばらくは頭がはっきりしない。
「健太の奴、もし今度会ったら・・・」
しばらくして落ち着いたのか?
「でも、もういいかっ。この前に会ったら、もやしみたいにひょろひょろして、青白い顔をしていたし・・・」
健太とは栃本健太。小学校時代のクラスメイトであった。同じクラスの構成メンバーであったから慣習的にそう呼んでみたが、浩太にとっては絶対にメイトなどと呼びたくない相手である。
どう言うきっかけで始まったのかは分からない。気が付いたら浩太は苛めのターゲットになっており、先生達は誰もかまってくれなかった。
仲よさそうに見えたんやろか?
笑いながらチクチクと嫌みなことを言われ、嫌そうな顔をすると余計に言われるから、つい気弱な笑顔で誤魔化してしまった。
誰が他人(ひと)の重い鞄なんか持ちたいもんかぁ!
断り切れずに両手に余るほど持っていると、先生達は、「おい藤沢、嫌やったら断りやぁ~」と言って、笑いながら言ってしまった。
何も言わずに微笑んでいると、承認したことになってしまうらしい。浩太の表情が歪んでいることには気づかなかったようだ。
もしかして太って鈍重そうに見えたことが目障りやったんやろかぁ~!?
よくは分からない。でも、それが当たり前であるかのように苛められていた。トラウマになって、今でもちょっと運動不足になり、太り加減になると、怖いようにランニングやウエイトトレーニングに励む。筋肉質になろうと思い、プロテインも飲む。
結局、母親の晶子が言っていたように、中学受験のストレスが苛めっ子らの心を蝕んでいたのであろうか? それとも、苛めっ子らの家庭が共稼ぎで、まだ甘えたい時期にあまりかまってもらえなかったのがいけなかったのであろうか?
教師達は苛めっ子らの心理ばかり分析して同情する。苛められっ子にされてしまった浩太は、生きる力の弱さを指摘され、叱咤激励され続けた。
確かに、苛めっ子らが極悪非道の輩であることなんて滅多にないだろう。大概は親にとっては好い子なのである。
しかし、人間なんて弱いもの。ちょっとしたことで傷付くものである。これは苛めっ子らを見ても分かるはず。傷付いているからこそ、自分の傷を癒す為に、他人の痛みに気付かなくなってしまう。そして、苛めた方はすぐに忘れても、苛められた方は深く傷付き、中々忘れられるものではない。
思春期の入り口で戸惑い、迷いがちな、不器用で人間的に弱いところのある子は、苛められ、強くなるまで苛められ続けても仕方がないのか!?
今となってはどうしようもないだけに、浩太は遣る瀬無く、何度も同じ夢に苛まれ、叩き起こされた。
ただ、どうしようもないことに対して時間は大いなる薬となり、それよりも大きかったのが、半年近くの不登校を経て、再び学校に通い始めてから、浩太におずおずと話しかけてくれるようになり、やがて一緒に遊ぶようになった2人の友達、西木優真と尾沢俊介である。
それからは、苛めっ子らの方でも飽きたのか? それとも自分らの問題がある程度解決されたのか? それとも教師や友達の目が光り、独りではなくなった浩太を苛め難くなったのか? これもよく分からないながら、自然と遠ざかるようになり、ようやく浩太の気持ちが解放されて、少しずつ回復に向かった。
そして、その経験を通して得た友達は、中学校に入ってから更に親交が深まり、俊介の方は同じ西王寺高校に通う仲である。優真の方は浩太の勉強の面倒を根気よく看て、西王寺高校に押し込むのに大きな働きをしてくれた上に、自分は全国的に観ても超が付くほどの進学校、西大寺学園に余裕で入った。
その後も浩太の何処が気に入ったのか? 2人とも時間ができれば誘いかけ、3人一緒に遊びに出掛ける仲となっている。
ストレスが許容範囲を狭めたか
違和感あれば排除するかも