sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

台風一過(エピソード6)・・・R2年1.30①

              エピソード6

 

 ここまでだけを読むと、奈良県立西王寺高等学校の弓道部の部員には女子なんかいないように思われるかも知れないが、そんなことはない。むしろ女子の方が多いぐらいであった。

 これは何も西王寺高校に限ったことではなく、奈良県内の高等学校全般に言えることであった。

 元々奈良県内の高等学校には弓道部が多い。全国的にはまちまちで、お隣の大阪府なんかでは10%ほどであったが、奈良県ではない方が少ないぐらいであった。そして弓道は近代でこそ競技的な要素がクローズアップされるようになった感があるが、それは薩摩武道の系統を引く日置流を中心とした流れであり、これとは別に、京都的な芸事の要素を強く持つ小笠原流の系統もある。たとえば正月に振袖を着てはんなりと弓を弾く、というような優雅な催しもあるのだ。その他、祭りの出店に見られる的中て(まとあて)のような遊びの面の方が庶民には強い。要するに、伝統がある分、色んな要素を持ち、それがごく自然に共存出来ている、奥深い世界なのである。

 ※この項、かなりいい加減。書いた当時(7、8年前)の情報を元に、適当に創造しているのでご容赦ください。

 

 浩太が入部したとき、顧問の安曇昌江だけではなく、もう1人、浩太を意識に強く留めた女子がいた。

 先輩の桂木彩乃である。

 彩乃は恋多き美少女と言われ、男子だけではなく、男性教員からも騒がれていた。そして、昌江のように初心でもなさそうで、立場を別にすれば、つまり女性としては昌江より大人の風情があった。

 恋多きが事実かどうかは別にして、彩乃を大人っぽくしていたのには理由があった。家が日舞の教室をしており、その道の玄人も始終出入りしていたのである。門前の小僧何とやらであった。それ故か、実は左近寺周平からの誘惑もなくはなかったようであるが、むしろ昌江よりうまく付き合えていたと言う。

 また、対外試合等で他校の男子生徒に出会うと、決まって何人かにしつこくメルアド(メールアドレス)を聞かれ、帰りに付いて来られることもしばしばであった。

 その彩乃が、である。先ず自分を見てドギマギしない浩太に逆にドギマギした。

 しばらくして、昌江に惹かれているらしい浩太に、浩太よりも素早く気付いて、浩太が気付く前に自分の方に惹き付けたくなった。

 女性として昌江に負けたくない。それが大きな理由であったが、浩太の原石の魅力に触れている内に、次第に本気になって行く自分に戸惑ってもいた。

《本当は自分だって恋多くなんかないけど、そう見られているのは嫌でもなかった。黒木メイサ(当時の売れっ子女優。顔だけリアルフジコ?)か何かのようで、ちょっと格好好い気がしていた。その自信もあいつの所為でずたずただわ・・・》

 悔しくてもどうしようもなかったし、そんな自分が嫌でもなかった。本来の素直でか弱い自分を見せられているようで、何だか嬉しかった。

 

 一方、此方は本当に素直であっても、大して器用でもない浩太が、他の男子部員よりも目に見えて上達した理由として、昌江の感化力が大きかったのは勿論であるが、実は彩乃が何かと世話を焼いたことも大きかった。

 浩太としては、幾ら鈍くても彩乃の気持ちに気付かないわけはなく、憎からず思っていた。幾ら初心でも、男とはそんな生き物である。一途、などと言うことは滅多になく、よく言われるように、その時その時は一途、と言う方が正直である。恋なんて縁のなさそうな輩が片手に余るぐらいの人に片思いしている、なんてことはざらに聞く話である。

 もう1人、この頃浩太のことを強く気にし出している女子部員として、1年生の里崎真由がいた。

 真由は浩太より少し遅れて入部した。西王寺高校には珍しく擦れた感じがなく、幼さを残した顔が一見いたいけであった。昌江や彩乃に比べて大人と子どもほどの身長差があり、横幅もないことが手伝っていたのかも知れない。

 どうやら真由は、中学時代に漫画、「暁の飛翔」(山田茜原作、馬籠求道作画)(なんて適当過ぎるなあ。フフッ)で読んだ弓道の世界に強く影響されたようである。伝統、華やかさ、その裏にある人間模様、出生の秘密、愛する家族を襲う病魔、密かに見守る白馬の王子的な存在、憧れの先輩、気の置けない同輩等々、少女漫画や韓国ドラマではありきたりのテーマであったが、伝統美、格式等に彩られた悠久の世界を舞台にしていることがおっとりとした真由に合ったのであろうか?

 初め真由は白馬の王子として昌江を想定し、ライバルとしては彩乃を意識した。

 中学時代から弓道を齧っていた真由にとって、高校に入ってから始めたと聞く彩乃は手に合いそうな気がしたのである。

 しばらく肩を並べて練習してみると、それが飛んでもない誤解であることが分かって来た。

 近距離ではまだよかった。それが60mもの遠距離となるともういけない。圧倒的な体力と持久力の差を見せ付けられ、それを僅か2年で埋められるものなのか? すっかり自信を失ってしまった。

 そのとき目に留まったのが浩太であった。

 考えて見れば、同じクラスであったが、初心者のようであったし、ヌーボーとして、初めは大して気になる存在ではなかった。

 と言うか、真由も現実の恋愛には疎く、昌江に淡い恋愛感情を持つことでも十分だったのである。

 それが、思い違いからにせよ一種の挫折感を味わい、揺らされたことから、自分と同種の波長を持つ浩太に共感を覚えるようになったようである。

 それに、技術的にはやはり一日の長がある。昌江との素人目にはそう大きくないように思えても、いざ始めてみれば無限に近い差を埋めようともがいている浩太を見ていると、ついアドバイスしたくなる。そんな母性本能を擽るところが浩太にはあった。

 近くで教えてみると、見上げるほど背が高く、体育教師とそう変わらない、かなり厚みのある体にときめいた。意外なほどまつ毛が長く、澄んだ瞳が眩しかった。

 そして、恥ずかしいほど浮き立つ自分の気持ちが嬉しかった。

 浩太はまだ自分の気持ちに気付いていないようであるが、真由はこの時間がずっと続いて欲しいと願うようになっていた。

 

        男とはその場その場で純情で

        場所が替われば品替わるかも