sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

明けない夜はない?(エピソードその8)・・・R4.2.16②

          エピソードその8

 

 元気盛りの一般的な高校生にとっては勉強以外であれば大抵のことが面白い。いや、その勉強でさえも一緒に机に向かう気に入った誰かがいれば面白くなる。そんな一般的な高校生達が気の合う者同士大勢集まって日常から離れた場所に向かっていれば騒がしくて仕方が無くても当然のことであろう。

 と言うわけで、大阪府北河内高校女子バスケットボール部御一行35名様を乗せて思い切り賑やかになった大型観光バスが昭和61年の夏の或る日、一路合宿地である北陸の福井県大飯郡高浜町へと向かっていた。

 常勤講師として顧問を引き受け、その一員となっていた青木健吾は、自分から積極的に引き受けて手配した夏季合宿の緊張感を出発してから暫らくの間こそ保っていたが、次第に賑やかになって来たバス内を飛び交っている黄色い声(※1)にすっかり魅了され、癒されていた。そして運転手の直ぐ後ろと後ろから3分の1ぐらいと席が大分離れているにも関わらず、教師と生徒との淡い関係を超えた存在として少なからず気になっている中野昭江の少し低く、しっとりと落ち着いた声を確りと聴き分けていた。

 

 京都を過ぎた辺りであった。健吾が安心感もあってうとうとし掛けていると、横から胸の辺りにお菓子の袋がいきなりのように差し出され、声を掛けられた。

「青木先生、よろしかったらどうぞ・・・」

 健吾と同じく顧問を務めている英語教師の袴田久美子であった。

 久美子は教諭なので、常勤講師の健吾よりは立場的に格上であったが、普段の練習、練習試合等の付き添いは大抵健吾に任せ、公式戦、夏季合宿等、大きな責任を伴う場合には付き添うことにしている。元々体育会系ではない久美子であるが、女子のクラブであるから女性の顧問も一応は付けておくべきと言う学校側の配慮でもあった。

 それはまあともかく、お菓子であれば大抵好きな健吾は遠慮なく貰っておくことにする。

「あっ、すみません! もう、京都を過ぎましたよねぇ!? それにしても流石女子高生やぁ! 皆、ほんとうに賑やかですねぇ?」

「ウフフッ。ほんとうに・・・。期末試験の結果も出たし、今が一番好い頃かしらぁ~」

 そう言う久美子も学校に居る時よりはかなり華やいでいる。

《英文学が専門で、確か京都にあったまあまあ有名な私立の立志社女子大学を出ていて、今年28歳になるって昭江と加奈子が言ってたなあ? ほなら、俺より2つ上になるんかなあ・・・》

 急に身近に思えて来て、健吾は俄かに緊張を覚え出した。

 その時、2年生でお調子者のムードメーカー、葉山涼香から、

「青木先生、袴田先生、好い感じのところを申し訳ないんですけど、そろそろカラオケタイムと行きませんか!? 先ずはデュエットお願いしま~す!」

 大きな声が掛った。

 それに大勢からの拍手と歓声も続く。

 嫌がるのかと思ったら、久美子は満更でもなさそうであった。

 健吾は人見知りが強く、後ろに昭江がいるかと思ったら、マイクを握って人前で歌う等、とても自信がなかったが、この雰囲気になったら仕方が無い!? と何とか覚悟を決めて、

「しゃあないなあ。ほな袴田先生、銀座の恋の物語、でも行きますかぁ~!?」

 と言いながら久美子の方をちらっと見る。

「じゃあそれでぇ~」

 久美子も異存がなさそうで、バスガイドが手際よくマイクを2本回し、カラオケを掛けてくれた。

 

 ♪ここ~ろの~、そこ~まで~、しびれるよ~な~
   とい~きが~、せつ~ない~、ささやきだから~♪

 

 意外と上手く行ったようで、歌い終わると拍手と歓声が鳴り響いた。

「青木先生、すご~い!? 低音の魅力ぅ~!」

「アンコールお願いしま~す!」

「アンコール! アンコール!」

 勢いで思わずもう1曲行きそうになったが、そこはグッと抑えて、健吾はマイクを2本とも後ろの生徒に渡して決然と言う。

「もうええってぇ! 後は皆で楽しみぃ~!」

「はぁ~い!」

 それで誰も異存はないようであった。

 

 ワイワイ言っている内にバスは福井県に入り、やがて海が見えて来た。

「わぁ~、凄い! 海やぁ、海ぃ~!」

「ほんま、海やぁ~!」

「青くてとっても綺麗・・・」

 生駒山系から北方に連なる山地では中心的なお椀山の麓に広がる北河内から大阪湾まではかなりあり、それに頑張って行ったとしても海らしい海なんか観られない。工場等からの排水に含まれていた油や富栄養化により発生した赤潮が浮いていることが多い。少しはましな海を観たければ神戸を超えて明石辺り、いやもっと岡山に寄った辺りか、和歌山辺りまで足を延ばす必要があるが、それでも日本海に比べると大分汚れている。

 生徒達にとっては久しぶりに旅行気分にさせてくれる、青々として透き通った、まともな海が目の前にあった。

 

 その海を観ながら暫らく走って、着いたのはまあまあ大きめの民宿であった。玄関に立て掛けてあった案内板には、北河内高校女子バスケットボール部御一行様以外に京都朝鮮高級学校(※2)水泳部御一行様ともあった。

 案内された部屋に荷物を置いた後、早速昼食であったが、その時50歳ぐらいで年の割にはスマートで長身の民宿の主人がにこにこしながら出て来た。

「こんにちはぁ~」

 それを聞いた部員達も声を揃えて、

「こんにちはぁ~!」

「流石元気だねえ。今日から4日間、後から案内する体育館でしっかり練習して、ここではゆっくり寛いでください。お腹が減ったでしょうから、挨拶は短い方がいいね。早速昼食にしましょうか?」

 合宿の団体を始終受け入れているのか? すっかり慣れた様子であった。昼食も特に高級な食材を使っているわけではないようであるが、ボリューム、栄養共にしっかり考えられているように思えるメニューであった。

 昼食後、海沿いの松林の中を通る道を腹ごなしにのんびり歩いて10分ほど行くと、私設のプレハブっぽい体育館が見えて来た。

 入ってみると、バスケットボールのコートが1面取れるようになっており、そこで柔道をする時もあるのか? 端の空いたところには薄緑色のビニールで覆った柔道用の畳が積み上げてあった。

 そんな様子を目にした皆の表情から察して、案内して来た民宿の主人は本当に申し訳なさそうに言う。

「狭くて申し訳ないね。町にはバスケットボールのコートが3面も取れる体育館が2つあって、本当は其方を使って欲しかったんだけど、生憎今年の夏は抽選に外れちゃってねえ・・・」

 確かに練習をするには其方が好さそうであるが、民宿がバスケットボール、柔道等を練習出来る体育館まで持っているのも凄いように思えて来て、単純で人の好い健吾は感心しながら、

「いえ、別にまあこの人数ですから・・・。でも、個人で体育館を持っているなんて、何だか凄いですねえ!?」

 そう言われた民宿の主人は満更でもなさそうにバスケットボールを手にして、

「若い頃、これでも僕はちょっとバスケットボールをやっていて、国体までは出たことがあるんですよぅ~!」

 そう言いながら段々自慢気な顔になり始め、ゴールの前に引いたフリースローラインすれすれに立ち、片手で軽やかにシュートを放ってみせた。

 そのままシュポっと入れば恰好が好かったのであるが、現実はそうも行かず、大分手前で落ちてしまった。

 ちょっと恥ずかしそうになった主人は意地が出て来たのか? 顔を引き締め、慎重に狙ってもう一度放ったが、少しは近付いたものの、やはり届かず、

「ちょっと前は届いたのになあ・・・。邪魔者はこれにて退散しますから、まあゆっくり練習して下さい・・・」

 そう言いながら、ちょっと照れ臭そうにそそくさと出て行った。

 部員達はそこで大声を出して笑うわけにも行かず、何もなかったかのように静かに練習を始めた。その辺りの遠慮はある、好く出来た子達であった。

 

 2時間ほど練習した後、民宿に帰って夕食前に入浴しようと言うことになり、健吾がお風呂場に入って行った時のこと、民宿にしては意外と大きく、男女別に用意されていた。

 そこに朝鮮高級学校の先生達が先に入っていた。

 健吾が遠慮がちに湯船に浸かって落ち着いた頃、近くに居た年配の先生、朴夏俊(パク・ハジュン)がごく自然な感じで話し掛ける。

「こんにちはぁ~。私、朴と言います。よろしくぅ」

「あっ、こんにちはぁ~。私は青木と申します。こちらこそよろしくぅ」

 少し離れたところに居た少し若く、如何にも水泳をやっているような体格の好い、程々に引き締まった先生も黙礼をするので、比べて平板な体に多少の恥ずかしさを覚えながら健吾も黙礼を返した。

 それをにこやかに確認してから朴が続ける。

「私達は京都からですけど、貴方達は北河内だから、大阪からですねえ!?」

「そうなんですぅ。私達は大阪からですぅ」

 朴の人懐っこい雰囲気がそうさせたのか? それとも文字通り裸の付き合いであるからか? 恥ずかしがりの健吾でも意外と気楽に話せた。

 幾らか話している内に、どうしても言っておきたかったという感じで朴が悔しさを滲ませながら言う。

「貴方達のところは進学校のようだから多くの生徒が進学するのでしょうが、私達の学校からは勉強が出来ても中々大学までは進学出来ないんですよぉ~」

 健吾にすれば一体何のことか分からず、

「・・・・・」

 返事は無くともしっかりと受け止めていることを確認し、朴は続ける。

「この国では公式に高校と認められていないから、立命館とか、一部の認めてくれる大学にしか行けない(※3)んですよぉ・・・」

 それを聴いていて、素直な健吾は自分の国ながらちょっと恥ずかしくなって来た。

「そうなんですかぁ~!? そんなこと、ちっとも知らなかった。それにしても酷いですねえ・・・」

「そうでしょう!?」

 まさに裸の付き合いで、気を好くした朴はその後も色々と教えてくれ、健吾はそれまで大分遠い存在であった隣の国に一歩近付けた気がしていた。

 

 それはまあともかく、青木健吾、袴田久美子共に学生時代にバスケットボールをしていたわけではないので、合宿における練習の方は全く生徒任せであった。

 進学校である北河内高校の生徒等は世間的に見て家庭的に恵まれている割合が高く、勉強に関して中学校までは全員出来たはずの子等であるから、意志は強い。

 一般的に我が国の学業成績とは決められたことの録音再生能力、持続力、素直さ等を大きく反映するからそれは当然のことで、その結果、生徒に任せていても大きくは乱れることがない。

 とは言っても、人間は元々楽をしようと言う気持ちが大きく、それが文明の発達に大きく寄与して来たとも言える。それを少しでも引き締めるのがコーチの存在であるが、その点でも体育系の利点であるきびきびしたところが全く感じられない健吾と久美子に向いているとは言えなかった。

 どうやらその辺りは北河内高校の体育科でも分かっていたと見え、この合宿における練習メニューを作成したのはバレーボールが専門で女子バレーボール部の顧問を務める体育教師の中沢彰利であった。

 中沢はまだ独身で、身長が185cm、体重が80kgと体格に恵まれており、体育教師らしく引き締まっていた。それに何より甘いタイプのイケメンであったから、女子生徒、女性教員から絶大な人気を集めていた。

 その中沢がこの合宿の2日目から加わった。女子バレーボール部の練習でも忙しいところ、2泊3日の日程で看に来てくれたのである。

 と言うか、練習の成果の確認と引き締めの為に来てくれたのであった。

 それだけではなく中沢にはもうひとつ、久美子への思いもあった。

 中沢は久美子と同じく28歳で、健吾よりも2歳上であり、この3人、年の上では同世代であり、独身であるから、どのように関係していてもおかしくはない。ごく自然な感じであった。それ故中沢は、自分がいない間に久美子と健吾が近付きはしないかと心配でならなかったのである。

 ただ、人間関係そうは簡単に行かないから面白い。健吾は久美子とバスで隣り合わせになり、多少は好い雰囲気になり掛けたが、それだけのことであった。

 それに練習中、宿舎と体育館との間を行き来する途中、食事中と、健吾の近くには決まって中野昭江がおり、それがごく自然で、誰も何も言わなかった。

 

 そして中沢が練習に加わり、急に厳しくなった。如何にも体育系の雰囲気が漂い、昭江以外の部員の意識は余計に昭江、健吾から遠ざかった。中沢にしごかれ、引っ張られ、付いて行くことで精一杯になり、しかもそれに大いに満足していた。

 何もかも忘れて運動や勉強に打ち込む。それもまた青春の1ページであった。それは多くの人にとって青春時代にのみ可能なことでもあった。

 健吾はそんな世界を羨ましく思いつつも、のめり込めない自分に気付いていた。いわゆる集団の中において余計に感じる孤独で、寂しくはあったし、そんなことより、昭江が中沢に惹かれないかと心配でならなくなった。

《俺と昭江は10㎝しか違わへんから、もし昭江が高い靴履いたら、あんまり変わらんようになってしまう。でも、中沢やったらそれでも十分に違う。それに体格的に見ても、どう考えても中沢の方が合うやろなあ!? 嗚呼、心配やなあ・・・》

 それだけではなく、健吾は練習に付き添う必要がなくなり、中沢にも教員同士の打ち合わせでそう言われていた。

「青木先生、これからの練習は僕が看ていますから、後は最後の練習の時だけでも結構ですよ。女子のことでもあるし、袴田先生は引き続き付き添いお願いします!」

 それでも昭江のことが心配なので健吾は、

「いえ、大丈夫です! 僕がいたところで何も出来ませんけど、練習には最後まで付き合いますからぁ・・・」

「ハハハ。そうですかぁ・・・」

 それ以上中沢は何も言わなかった。

 

 それから、厳しくはあってもそこは流石現代っ子で、中沢は1日半の練習で十分引き締められたと納得出来たか? 3日目の午後は空き日とした。

《直ぐそばに見た目はまあまあ綺麗な海があるのに、ここで泳がない手は無い!?》

 そうとでも思ったようで、緊張と緩和を自分の為にも実践した。

 それに久美子と共にゆっくり過ごせる時間を取りたかったのであろう。久美子と何人かの部員を連れて、突堤の先まで釣りを楽しみに出掛けた。

 一方健吾は、海岸の近くで水遊びをする部員等の見張り役を引き受けることになった。

 部員が着替えて出て来るまでの間、健吾は遠くに目をやって、海の雄大さに気持ちを遊ばせていた。

 暫らくして水着に着替えた生徒等がぞろぞろと、ちょっと恥ずかし気に出て来た。その時は一様に大きめのTシャツを上に着ていたからよく分からなかったが、海に入る段になってTシャツを脱ぎ、池を前にしたカピバラの行列のように1列になって入って行く様子に健吾の目は思わず惹き付けられてしまった。

 そしてもう昭江以外は誰も目に入らなくなった。

 よく観れば昭江以外も確り鍛えられ、若くて引き締まった身体がそれだけでも十分に美しい。一様に地味な無地のワンピースの水着ではあったが、それで十分で、それ以上何も必要がなかった。

 それなのに健吾の目には昭江しか入らない。スタンダール的な恋愛の結晶作用も勿論あったのだろうが、それほど昭江は飛び抜けていた。

 ただエロティックでは全くなかった。形よく盛り上がった胸、引き締まったウエスト、飛び出てグッと上がった臀部、引き締まって長い美脚と、どう見てもアスリート系のモデル体型で、一般人の範疇には全く位置しないのであるが、あまりにも自然で、こんな自然の中ではかえってそれは目立たないもののようであった。

 もう誰にも奪われたくはなかった。健吾は自分以外の誰かに昭江が抱かれることなど金輪際想像したくなかった。

 実際にはほんの僅かな時間であっただろう。ちらっと健吾の方を見て、昭江は恥ずかしそうに海に入って行った。それから他の部員と戯れ、健吾の方を観ていたわけではなく、ごく自然に海に溶け込んでいた。

 それでも健吾の頭の中は何時までも昭江の水着姿が残像として強く残り、目の前の景色等は観ているようで、実は何も見えていなかった。

 

 その日の夜のこと、食事の時に隣り合わせになっても、昭江は何も言わない。それでも健吾に観られていたことを意識はしているのか? 幾分しっとりとした感じが増したようではあった。

 

 最終日の午前中は、そんなこんなも忘れたように厳しい練習が行われた。

 最後は恒例になっているようで、全員が1人ずつ皆の前に出て、中沢が彼方此方に高く投げ上げるボールを取りに行く。

 フロアに落とすとその分が追加されて中々終われず、終わる頃には一様に泣き出すほどで、まさにリアルスポコンであった。

 そんな中でも昭江は中々泣き出さない。他の部員ならば泣き出し、必死にならなければ追い着けないようなボールにでも何とか追い着くことが多く、たとえ落としてもさばさばしているように見える。

 それが気に入らなかったようで、中沢は執拗に難しいボールを投げ続け、しまいには久美子が止めた。

「中沢先生、もうそれぐらいでいいんじゃないですかぁ~!? 中野はもう十分に取ったし、これ以上続けると倒れますよ!」

「ふぅーっ。そうですねぇ。それじゃあ交代っ!」

 久美子としては昭江が可哀そうに思えて来たのもあったかも知れないが、それよりも中沢が昭江にのめり込んで行くようで、それが怖くなったように見えた。

 久美子もどうやら中沢のことを憎からず思い始めたようである。

 中沢も止めてくれて嬉しかったようである。体育会系の常として、一旦火が付いたら自分では消せなくなってしまうようであった。

 そして健吾も勿論嬉しかった。昭江が倒れてしまわないかと心配で心配でならず、ただ見ているだけなのに、いや、それだからこそか、ともかく緊張が最高潮に達していたから、これ以上続けば自分がどうなってしまうのか分からなかった。

「ふぅーっ、好かったぁ~」

 そんな小さな呟きが昭江にだけは聞こえたようで、ちらっと健吾の方を見て、これも健吾にだけは分かるように目と口角だけを僅かに和ませた。

 

 帰りのバスの中は中沢の独壇場であった。流行りの歌をリズム感よく、よく通る甘くて低い声で歌い上げ、アンコールの連続で、隣に座った久美子とのデュエットも含め、暫らくはマイクを独占しているように見えた。その分、通路を挟んで窓際に席を移した健吾はゆっくりと食後の昼寝を楽しむことが出来た。

 それでも何かオーラでも伝わって来たのか? 珍しく昭江がマイクを握ったときには、突然のようにぱっちりと目を開け、耳をダンボのように大きくし、そばだてていた。

 

 ♪もしも願いが~叶うなら~、吐息を白い~バラに変えて~♪
  

 小林明子の「恋におちて」であった。前年の流行歌で、しっとりとした感じがちょっと大人っぽく見える昭江によく似あっていた。これも自然に馴染むのか? 十分に上手いのに、かえって目立っていないようであったが、健吾にだけは自分独りだけに向けられた歌であるかのように思えていた。

 

        マドンナの水着姿が眩しくて

        周りの景色見えないのかも

 

        マドンナの歌声胸に染み入って

        周りの声が聴こえないかも

 

※1 一般的に女性や子どもの甲高い声を指すが、ある資料によると江戸時代には音を青(緑)、白、赤、黒、黄と5色に分けることが流行っていたそうで、実はそのルーツは更に陰陽五行説(万物は木、火、土、金、水の5種類の元素に分けられると言う説)辺りまで遡るらしい。木=青、火=赤、土=黄、金=白、水=黒に相当し、仏教では高い音を黄色、低い音を赤色で表現したと言う。

※2 朝鮮学校自体は朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)を支持する在日朝鮮人の組織である朝鮮総連およびその傘下の団体によって運営されている各種学校で、全国各地に設置されており、我が国の補助を受けられない非一条校に当たるそうである。我が国の学校制度に合わせて幼稚班、初級学校、中級学校、高級学校、大学校に分けられていると言う。

※3 非一条校であるのは我が国の文部科学省の定める課程の全ては満たしていないからで、朝鮮高級学校を卒業しても高校卒とは認定されないが、進学に関しては大分緩和されているようである。次第に高校卒と同等の学力を持つ者には個別に認められるようになり、先ず私立大学から、そして公立大学へと広がったそうである。2003年8月に更に弾力化され、国立大学にまで広げられたと言う。中級学校から高校への進学も同様の動きがあるそうだ。