sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

台風一過(エピソード14)・・・R4.4.21①

            エピソード14

 

 この頃、藤沢浩太の夢の中に、キューピッドが弓に矢を番え、中々放てないパターンが加わった。

 弓矢は大昔から多くの文明の中で用いられ、単に武器と言うだけではなく、心を操るアイテムとしても発達して来た。たとえば西欧における愛のキューピッド、我が国における破魔矢等として残っている。また、無心、止心、放心、残心、丹心、練心等として禅宗に宗教的な概念として残り、幸せと言う感情は、山の幸、海の幸からも推測されるように、狩りや漁りから生まれたようだ。

 思春期の、特に男子に話すと、当然上のようなことまでは思い至らず、短絡的にありきたりの性夢と受け取られ、笑われるのがオチだから、浩太は誰にも話さなかったが、弓道部の顧問、安曇昌江への届かない思いがかなりの部分を占めているのは確かな気がし、面映ゆくて話すのを躊躇ってもいたのである。

 それに、たとえ世間的に考えれば単なる性夢であったとしても、そうであればこそ余計に、性とは本来人生において至って真面目な部分でもある。気軽に、無責任に扱い過ぎたり、重苦しく、秘密めかし過ぎたりして、著しくバランスを欠くことなく、ごく普通のスタンスで付き合いたい。

 そんな思いから、浩太はこの夢をそっと胸に留めた。

 しかし、胸に秘し、隠そうとすればするほど、頭をもたげ、昌江への思慕は夢の中や視線に現れ、それでも解消し切れない強い思いは独り言等としてごく自然に滲み出すものである。

 浩太の場合、先ず夢に出て来たのは前述の通りであるが、その夢が更に詳細に、またバラエティーに富むようになった。

 ある日のこと、夢の中で浩太が矢を番え、放とうとすると、慌てたのか、思わず足が滑り、手が滑って、矢が足元に・・・。

 拾おうとして屈むと、足元にはサッと虹色に煌めく水面が広がり、

  ポチャン!

 水溜りは意外と深かったようで、透明度の高そうな水中に矢はスゥッーと沈んで行き、やがて見えなくなった。

「あれぇ~、一体どこに行ったんやろぉ!?」

 しばらくすると、水中から後光に包まれた、白髪、白髭の上品そうな老人が現れ、

「少年よ、お前の落としたのはこの金の矢か?」

 何だか何処かで聞いたような話のように思いながらも浩太は、眩しさに目を細めつつ正直に、

「いえ、そんな上等の矢ではありません、神様! あなたはきっと神様ですよね?」

 老人はにんまりして頷きながらも、その問いには答えず、今度は、

「それではこの銀の矢か?」

 鋭く飛びそうで欲しくなったが、やっぱり嘘はいけないなあ、と思い返して浩太は、

「それでもありません」

 その後も色々示され、その都度浩太は否定したが、最後に神様は、

「それではこのグラスファイバーで出来た、薄汚れて安そうな矢か?」

「そうです! それです・・・」

「少年よ、お前は正直者じゃな。それでは全部あげるから、持ってお帰り!」

 ここまでよくある展開に浩太は眉唾のように感じながらも、目覚めた後も、何かのお告げか、特別な意味がありそうに思えて来た。

 それと言うのも、父親の慎二がついこの前に趣味で書いた話に少しばかり似ているからである。慎二にはどうやら時々言霊が降りるらしく、書いた直後、その話と関連するようなことが割と起る(※1)らしい。

「これももしかしたら・・・。なんて、そんなわけはないかぁ~!? フフフッ。単に父ちゃんの怪しげなお話が頭に残っていただけのことやろなぁ~」

 安心の為に否定しておこうとしたが、心の中までは落ち着かせられなかったようである。しばらくの間はもやもやした。

 

 翌日のこと、弓道部の練習中、浩太が矢筒の中の矢を放ち尽くしたとき、タイミングよく昌江が何種類かの矢を持って現れた。

 浩太は思わず声を高くして、

「いいえ、それは私の矢ではありません!」

 昌江はちょっと目を丸くしながらも、微笑み、

「何もあなたの矢だなんて言ってないわ。ウフッ。変な夢でも見たの? あなたにはどのタイプの矢が合うのか、色々試して貰おうと思って、業者に試供品を頼んでいたの。それが今朝ようやく来たから、持ってきただけのことよ。ほら、放ってご覧なさい。感触をしっかり意識しながらね・・・」

「は、はいっ!」

 言われるままに浩太は放ち出したが、不思議な偶然に気持ちが集中せず、このときばかりは昌江のオーラも全く機能しなかった。

「あらっ? この頃安定していると思っていたのに、今日はえらく乱れてるわね。そんなに焦らなくてもいいから、もっとゆっくり放ってごらんなさい。私は他の子を看ているから、様子は後から教えて・・・」

 結局、浩太にはまだ道具を見分けるほどの技量が付いておらず、選び切れなかったので、次のときでもよいと言うことになって、何とかその日を終えた。

 

 帰りの電車の中で浩太は、まだ興奮が冷めやらず、
「不思議なことがあるもんやなあ。もしかして先生も・・・」

 

 一方昌江の方である。帰りの電車内で、浩太の慌てた反応を思い出し、彼女も不思議な偶然にちょっと驚いていた。

 実は数日前、ネットで矢のことを調べているとき、色々な材質があることから、金の斧、銀の斧のお話を思い浮かべ、面白がっていたのである。

 そして、浩太と自分との間に何らかの縁があるのかと、ちょっと浮き立つものもあった。

 

        其々に不思議なことを感じ出し

        縺れ合ったら恋になるかも

 

※1 ちょっと眉唾に思えるかも知れないが、筆者にとってこれは事実である。もう大分前のこと、確か20年以上前に書き物に集中し始めた頃、立て続けに不思議なことが起こった。書いていたことに関連して不思議な現象が起こったり、書いていたことに関連したことが映像、文章等に出て来たり。他人に話すと偶然、思い込み等で片付けられそうなので、ほんの僅かな人に話しただけであるが、今、落ち着いて考えてもみても否定し切れないことであった。なんて書いていたら、おかしな奴だと思われそうであるが、今、この宇宙が存在し、その片隅に地球が存在して、私達人間が存在していること自体不思議以外の何物でもない!?