sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見かけが9割!?(5)・・・R2.4.13①

                その5

 

 令和2年4月8日水曜日の朝のこと、藤沢慎二は何時も通り今の職場である心霊科学研究所東部大阪第2分室に7時50分頃に着き、タイムカードをスリットして執務室に入って来たら、これも何時も通り、既に正木省吾、すなわちファンドさんが来て、スマホで株価の動きをチェックしては、メモを取っていた。

「おはよ~う」

「おはようございま~す」

 挨拶を交わした後、7都道府県に緊急事態宣言が出されたこと、通勤電車の混み具合等、ひと通り世間話をし、ファンドさんはスマホに視線を戻す。それから、

「ほんま、こんなに上がったり、下がったり、怖くて動かれへんなあ」

 ぶつぶつ独り言ちながら、中断していたメモを再び取り出した。

 慎二はファンドさんの趣味に立ち入ることは止め、自前のノートパソコン、「神の手」をおもむろに開き、テザリング用の格安SIMを挿したスマホを取り出した。今日は上手くブログが書けそうな気がしていたのである。

 続いてメインで使っているスマホを取り出し、通勤電車の中でメモしておいたものを見直しながら起こして行く。
 
        朝のひと時雑詠

 大阪府に緊急事態宣言が出てから初めての朝、最寄り駅の様子は何時もとそんなに変わらない。

 ホームでは、私を含めて何時ものメンバーがほぼ揃っている。

 揃っていられることに変な安心感があったりもする。

 電車の混み具合も、この頃はまあこんなもので、座ろうと思えば競争しなくても座れるが、間隔を少し開けられれば好い方である。

 隙間が10㎝も見えるかどうかかなあ?

 1mはおろか、2mなんてともとても。

 ただ、4月になっても学生服姿はあまり見ないから、宣言を出したことに一定の効果はありそうな気がする。

 これ以上乗客を減らすのは我々日本人には中々難しいことなんだろうなあ。フフッ。

 生駒駅で乗り換えた奈良線の尼崎行き普通電車も何時もと同じようなものであった。

 此方は生駒線よりはもう少し混んでおり、何とか座ろうとすると、どうしても近接から密接、下手すれば圧着するので、空いていても座らずに立っている人が数人いる。

 それはまあともかく、意外に難しいのは顔に手をやらないことである。

 無意識の内に、ついつい目や鼻を触ってしまう。

 今はマスクをしているから、やっぱり目が要注意のようだ。

 そう言う意味でも、ドクター中松考案のマスク、「スーパーMEN」は一定の効果があるように思われる。

 ナイキの厚底シューズ何かもドクター中松ジャンピングシューズを思い出させるし、流石ではないか!?

 

        中松のアイデア生きる緊急時

 

        中松のアイデア流石緊急時

 

 ところで生駒トンネルを大阪側に抜けた後も、席はまあまあ空いたままである。

 そう言う意味で、今は普通電車の方が好さそうだなあ。フフッ。

 

        速さより気になる隙間春の朝

 

        時間より気になる隙間春の朝

 

        速さより隙間嬉しい春の朝

 

        時間より隙間嬉しい春の朝

 

        コロナ禍や隙間嬉しい速さより

 

        コロナ禍や隙間嬉しい時間より

 

 さて、もうそろそろ職場の最寄り駅であるが、流石に乗客が増えて来た。

 車内放送でも新型コロナウイルス感染症のことを言い始めた。

 

 その日も自分なりにはまあまあ上手く書けたと思い、慎二がしみじみしていたら、

「おはようございま~す」

「おはようございま~す」

「おはよ~う」

 井口清隆、すなわちメルカリさんが執務室に入って来た。

 慎二はちょっと迷い、メルカリさんの方に「神の手」の液晶画面を向け、見せながら問いかける。

「どう、これぇ? 今日は通勤電車の中の様子をじっくり観察してて、まあまあ上手く書けたと思うんやけどなあ・・・」

 それだけのことで小心者の慎二は、緊張で耳をひくひくさせている。

「毎朝、よう精が出ますねえ・・・」

 半分呆れ、半分感心しながら、気の好いメルカリさんはさっと目を走らせて、

「ほんまですねえ。流石ブログさん、よう観てはりますねえ。僕は京阪奈新線の方ですけど、やっぱり緊張しましたわぁ~。ブログさんが前に書いてたように、マスクをしてなくて咳してる人もちらほら見かけるし、マスクをしてても真っ赤な顔をして、時折咳き込む人もいてる・・・。そやから緊張感が漂ってて、その分、少しは間を開けて座ろうとしているように思いますねえ」

 タイムリーで身近な話故か、メルカリさんはちょっと共感出来たようである。

 慎二は嬉しくなって来て続ける。

「そうやろぉ~!? ほんま行き帰りに電車乗るだけでも緊張するわぁ~。今朝も近くにマスクレス咳き込みマンが居て、そう言うてもさっと離れるのも気が引けて、早よ付けへんかとむずむずしてたわぁ~」

「そうですかぁ~。そりゃ心配ですねえ・・・」

 メルカリさんは朝からそんな気の重くなりそうな話を続けたくはないようで、ひと通り適当に聞き流した後、さっと話題を軽そうな方に転じる。

「ところでドクター中松ですか~。懐かしいですねえ・・・。それに流石やわぁ~。あのぴょんぴょんシューズ、騒がれてた頃、僕も欲しかったんですわぁ~」

 その辺りのカジュアルさは流石であった。

 慎二にしても緊張が解けて、実はその方が有り難かった。

「ふぅ~ん。あれぇ、確か今から30年ぐらい前やろぉ~? メルカリさん、幾つぐらいやったん?」

「僕、中学生でしたわぁ~」

「そうやなあ。それぐらいやったら面白いかも知れへんなあ・・・」

「ブログさんは幾つぐらいでしたん?」

「俺はもう35歳ぐらいやったし、それにセックス方程式がどうたらこうたら言うて、ラブジェットとか言う怪しい香水とか作ったり、ちょっと、いや大分かな? ともかく変なオヤジにしか見えへんかったわぁ~。フフッ」

「そうですかぁ~。フフッ」

 話が落ちて行きそうなところで、ちょうど入って来た事務の依田絵美里に視線をさっと走らせたメルカリさんは、話を早々に切り上げ、コーヒーを入れに席を立った。

 此方は急にぎこちなくなった慎二も、それでちょうど好かったようで、「神の手」に意識が戻り、ドクター中松についてもう一度検索し、何か面白い話のネタはないかと鼻をひくひくさせ始めた。

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 ドクター中松こと中松義郎氏のことは久しく忘れていたが、もう91歳になるそうな。

 

 ぴょんぴょんシューズについてはフライングシューズとなっていたが、1989年に特許を出願し、取得しているが、ラブジェットを含め、怪しいものも結構ある。

 

 それに、よく言われているフロッピーディスク等の特許についても、ウィキペディアを読んでいる限り、微妙な気もする。

 

 ともかくちょっと変、いや面白いおじさんである。