sanso114の日記

日々気になったことを気楽に書き留めています。

人は見かけが9割!?(1)・・・R2.4.5②

               その1

 

 藤沢慎二は今年65歳になる。もうすっかりオジンである。自分でも日々それを感じている。

 ある冬の朝、急いで急坂を駆け上がろうとして、ビクン!

 それだけで脹脛の筋肉が悲鳴を上げ、切れ掛かったことがある。

 それがもう2年前のことになるか?

 ある夏の朝、約束の時間が迫り、エアコンも入れないままに大急ぎでブログを書いていると、頭の中、そして目の前の景色が急に回り出して、止まらなくなった。

 それが昨年のことであった。

 そんなことがあってからは、公私関係なく急ぐことは止め、信号が点滅し出しても走らず、次の青を待つようになった。

 それでもまだ時折目が回ることがある。

 最近になっていよいよスローな生き方をするようになった。

 ただでさえ短くなった残り時間が更に少なくなった気分である。

 それでも慎二の子の内、1人はまだ学校に通っているので、少なくともあと1年は働く気でいる。

 今務めているのは以前と変わらず、公的機関である心霊科学研究所であり、新たに設けられた東部大阪第2分室に配属されている。それらしい名称であるが、窓際族が増えたこの機関の収容所のようなものであった。東大阪市にある高層マンションの1戸を借り切って研究員と称する職員が3人、それとコピー、掃除、事務作業等、何でもしてくれる雑用係の事務員、依田絵美里の4人所帯であった。

 研究員は慎二の他に、30代の正木省吾、40代の井口清隆がいた。

 正木は慎二と同じ国立浪花大学の工学部オーラ応用工学科を出ており、殆んど給料と変わらないぐらい投資で稼いでいるので、皆からはファンドさんと呼ばれていた。

 井口は地方の公立大学の文学部を出ており、心霊科学研究所では殆んど評価されない学科だったので、出身学科の話題に触れることはなかった。それでも研究所に入ることが出来たのは、学生時代から趣味で取り組んでいるネットでの発信に先進性が感じられたからであった。今は小遣い稼ぎにネットを生かしてメルカリで盛んに売り買いしていたので、皆からはメルカリさんと呼ばれていた。

 因みに慎二は自宅でも職場でも暇さえあれば日記風のブログを書いて発信し、日々機嫌よく過ごしていたので、皆からはブログさんと呼ばれていた。

 慎二には2つ違いの兄、浩一がいた。勉強はあまり出来なかったが、要領がよく、持てた。伝統のある中堅の公立高校、大阪府立守口工業高校を出て直ぐに近くにある大企業、杉上電器産業に入った。定年まで勤め上げ、幸い子どもが皆独立していたので、そのまま退職し、寝屋川市にある小振りな3階建て住宅に住んでいる。退職してからは年金生活であるが、多彩な趣味を楽しみ、退屈することが無い。現在独身ではあるが、寂しい思いは全くしていないようであった。

 

 少し前、2月中旬の或る日のこと、慎二は浩一を訪ねて寝屋川市まで来ていた。浩一が退職してからは1か月に1度ぐらいの割合で会いに来て、昼食を共にするようにしている。もう慎二のことを半分ぐらい忘れたような母親の祥子が近くの特養に入っており、その面会も兼ねている。

 祥子は相変わらず慎二を思い出すのに少し掛かるようであった。

 目を凝らしながら怪訝な顔をして、

「あれっ、誰っ!? 浩一かぁ~?」

 ちょっと戸惑った慎二は、祥子に自分から思い出して貰いたくて、

「違うでぇ~」
 その後暫らく黙り、直ぐに名前を出さないでいると、

「誰っ!? 誰やいなぁ~? もしかして俊太かぁ~?」

 甥の名前を言うので、焦れて来た慎二は声を大きくして殊更にゆっくり、

「慎二やでぇ~。し、ん、じ・・・」

 何とか聞こえたのか? 祥子はちょっと安心した顔になり、横にいる浩一と比べて笑いながら、

「何や、慎二かいなぁ~。浩一の方が若く見えるなあ・・・」

 祥子は、子どもの頃から浩一の方が好みで、実際に浩一は年齢より大分若く見えた。慎二にすれば余計なお世話だと思っているが、それだけ自分が頑張っている証拠だとも思っていた。ただ2人の年齢逆転現象は若い頃からずっとそうで、慎二は以前勤めていた受験関係の出版社、若草教育出版でも、入社して直ぐ女子社員達に35歳に見えると言われていた。

 それはまあともかく、一通り確認が終わって安心した後、祥子は家族、親戚の年、住所等を言って行き、記憶を確かめている。

 そんな遣り取りを30分ほどした後、慎二は浩一と2人、京阪の寝屋川市駅に向かった。駅の近くにある飲食店でゆっくり昼食を共にし、ぼちぼちとお互いの近況を確かめ合う為であった。

 この日は久し振りにお好み焼き屋を選び、慎二は豚玉のモダンとドリンクバー、それにデザートに抹茶パフェも頼んだ。普段の昼食、特に勤務日はそんなに食べる方でもないが、ゆっくり出来る時はあれもこれもと頼みたくなる。

 浩一は野菜炒めと生ビールであった。飲む方が好きなのと、あまり動かなくなっているので、食べる量は自然と減っていた。慎二が注文するものを観て何時も感心するように言う。

「ほんま、よう食べるなあ。ほんま、やっぱり働いてたら違うなあ・・・」

「まあなあ・・・。ところで兄貴はどう? 相変わらず煙草は吸うてるんかぁ~?」

 慎二が心配するように聴くと、

「いや、止めてるでぇ~。もう2週間になるかなあ。コロナにも悪い言うしなあ・・・」

 そう言って浩一はちょっと寂しそうな顔をする。

 そんな遣り取りを一通りした後、珍しく政治の話になった。

「どう? この頃吉村府知事の評判はぁ~?」

 慎二は生活費に関わる為に多少は気になる存在であった。

「ええでぇ~。若いのにようやってると思うわぁ~」

 浩一にしては珍しく褒める。

 以前、選挙を機に全国的な人気者になり始めた小泉進次郎の話が出たとき、浩一は迷うことなく、

「あれはあかん! 一見弁舌滑らかで爽やかそうな印象やけど、恰好ばっかりやぁ~。中身が何もあらへん・・・」

 けちょんけちょんであった。

 それを聴いていた慎二は、そこまでとは思わず、

《まあまあ見映えが好いし、当意即妙の弁舌が爽やかであるから、庶民に受けるだろうなあ》

 とは思っていた。大体において慎二は、見映え、押し出しと言ったものに弱く、いわゆるイケメンには直ぐに惹かれる傾向がある。

 それはまあともかく、暫らく経ち、国政の重要な役目について露出度が一気に高まった小泉進次郎の評判は必ずしも芳しくなく、浩一が言っていたほどではなくとも、それに近いようなことも言われ始めた。

 そんなこともあり、慎二は浩一の人を見る目を多少見直していた。

 そして今回は自分の印象と一致していることに慎二はちょっと安心するような、嬉しいような気がしていた。

 

 それから1か月半。新型コロナウイルス騒ぎは益々大きくなっている。そして国政、地方自治に限らず、益々代表者が前に出るようになり、顔が見えるようになって来た

 当然のように若くて見栄えが好く、分かり易い発言をする大阪府の吉村知事は人気を上げている。

 慎二は毎晩、韓国ドラマを観た後、ネット、テレビで首相、各都道府県知事の記者会見等をチェックするのが日課となっていた。

 

        人は先ず見た目に惹かれ其の次に

        視線言い方気になるのかも

 

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 

 これは午前中に買い物がてらの散歩をしている途中で浮かんで来たことをもとに、少し膨らませてみたものである。

 

 今の私に関係することを、勿論そのままではないが、かなりちりばめてある。

 

 これ以上膨らむかどうかは分からない。

 

 ともかく始めてみた感じだなあ。フフッ。

 

 小泉進次郎氏に吉村洋文大阪府知事のことについては庶民の印象で、本当かどうかは分からない。

 

 ただ、今は愛情、友情等、庶民同士の関係だけではなく、政治家の傾向、能力等についても炙り出される有事であるようだ。

 

 そんなことにも注目して行きたい。

 

 ただ、何時の場合も大事なことは、本物よりも、本物らしきものに人は惹かれる傾向にある、と言うことである。

 

        人はつい本物らしきもの選び

        本物逃しがちになるかも