その6 趣味って生きがい以上!?
「そうですよねえ? お仕事は勿論大切だけど、それだけでは何だか淋しい・・・。分かりますわぁ~。そこで大切になって来るのが趣味!? 秋山様はメルヘンを書かれるんだったら、立派なものですよぉ~。よかったら見せて頂けませんかぁ? うちでは出版の方もお世話出来ますよぉ~」
「藤沢君にどう聞いたのかは知らないけど、そんな風に持ち上げられると困っちゃうなあ。まだまだ素人の域を出ない独り善がりなものです。とても人様に見せられたものではありませんよ。フフッ」
「ウフッ。ご謙遜を・・・。そう言われると余計に見たくなりますわぁ~」
「いやいや、本当ですよぉ~」
「藤沢様は、秋山様が書かれるものを大変面白いし、光るものがある、と言ってらしたから、まあそんなに謙遜なさることはないと思いますがぁ、もし自信の点でもう一つと思われるのでしたら、どうでしょう? メルヘン創作講座というのもありますよぉ!」
「メルヘン創作講座?」
「ええ。と言っても、別に教室に通って頂く必要はなく、テキストと添削指導による通信講座ですぅ。お忙しい方でもご自宅に居ながら自由に学べ、発表の機会もありますし、結構好評なんですよぉ~」
「でもなあ、そんなに本格的に書いているわけじゃないし、これから書ける自信もないしぃ・・・」
「初めは誰でもそうですぅ。だから学ぶんじゃないですかぁ~!? 独り善がりにならない為にも仲間と共に学び、人に見て貰うんですぅ。それが本として形になり、何がしかの収入にでもなれば、生きがい以上のものになるとは思いませんかぁ!?」
「生きがい以上かぁ~。中々上手いこと言うねぇ・・・。それで幾らぐらいなんだい?」
「これなんですが・・・」
「どれどれ。えっ、講座と出版権を入れて100万!? そりゃあちょっと高過ぎるんじゃないかぁ~!?」
「確かに決してお安くはありません。でも、ボーナス併用ローンを使うと無理なく払えますし、これで輝かしい明日への飛躍が図れるのであれば、決して高過ぎるとは言えないのではないでしょうかぁ!? 逆に、変に安い方が胡散臭くありません?」
真摯に勧めているように見えるお多福出版のトップセールスレディー、大山佳代の目が深く、透き通って、思わず吸い込まれそうになる。それによく動く唇がしっとりと濡れており、秋山の好き心を微妙にくすぐって止まない。
「そうかぁ~!? それもそうだなあ・・・。よし、分かったっ!」
秋山本純は職場の後輩、藤沢慎二の紹介と言うのでまず安心し、好き心を上手くくすぐられて、すっかり買う気にさせられてしまったようだ。
「ありがとうございます! あっ、それからどなたかご紹介頂けましたら2割引の特典もございますから・・・」
好き心上手くくすぐり買わされて
まだ鼻の下伸びているかも
その7 温もりだけが本物?
「佳代さん。ご免! 家の方の事業が上手く行っていなくて、それに母親の病気も思わしくないから、もう少し待ってくれるぅ? 其方が片付いたら、約束通りきっと君と2人の店を持つから・・・」
「・・・・・・・・」
嘘と分かっていても、松田直太郎の澄んだ目で見詰められると、大山佳代は何も返せず、ただ頷くだけしか出来なかった。
そんなに困っているのならどうして外国製の高級なスポーツカーを乗り回し、外国製の生地を使ったオーダースーツしか着ないのだ、とは思っても、ついつい小遣いを渡してしまう。
仕事柄しみったれたことは出来ないのねっ!? きっとそう。仕方がないわぁ~。
日頃バーチャルな世界をもてあそんでいる付けで佳代は、現実の温もりが欲しかった。
しかし、ありきたりの現実では退屈してしまう。
その心の隙間に入り込み、十分以上に揺らせてくれるのが直太郎であった。
たとえ嘘でも構わない。騙し続けてくれるのならばそれで十分。物語に嘘があろうと、心が弾むのは本当だし、この肌の温もりは本当だわぁ・・・。
そう思いながら佳代は束の間の幸せに酔い痴れるのであった。
あっ、また指輪が増えている!? こんなに大きくて綺麗なダイヤ。一体誰がぁ? もしかしたら・・・。
「あっ、これ? また例の女社長がどうしてもしてくれと言って持って来るから、仕方なくしているんだぁ。でも佳代さんの前でまでしていることはなかったね。ご免・・・」
佳代の視線を感じて慌てて外し、ポケットに入れながら直太郎が言った。
「いえ、別にいいのよぉ。あの宝石屋さんをやっているとか言う女社長ねっ? 仕事だから仕方がないわぁ・・・。でも、今度私がもっといいのを買ってあげるぅ・・・」
「無理しなくていいよぉ! これまでも結構世話になっているし、こんな風に来てくれるだけで十分! 辛くても何だか頑張れる気がするんだぁ・・・」
「いえ、私が買いたいのぉ! あなたに何か買ってあげようと思うと、私も頑張れるのよぉ~」
「そうかぁ。悪いな。それなら・・・」
そう言いながら直太郎はおもむろにアクセサリーのカタログを取り出した。
他人のこと癒した後は温もりが
つい欲しくなり騙されるかも
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そう言えばこれを書いた頃より更に20年ぐらい前だったか? 近所の女子高生が作詞家に憧れ、秋元康の作詞講座みたいなものを機嫌好くやっていた。
そしてこれを書いた頃は自費出版が流行っていたような気がする。
今はそこまで手間暇を掛けなくても発表出来る場が増えて、庶民には恵まれた時代なのかも知れない。
ただ、他人のことは言えないが、アマチュアはやり過ぎる!?
ついつい、感心出来ない、笑えないほどしつこく繰り返しがちになり易い気がする。
快楽は求め過ぎると言うことだろうなあ。フフッ。
一定水準を保ちながら続けられること、十分にコントロールが効いていること、それがプロなんだろうが、金儲けは死に病、とは昔からよく言われるである。
それはプロの方が才能に恵まれていることも含めて、同じようなことを趣味にしている人からすれば羨ましい存在になるのかも知れないが、その分プロは、忙しく、日々追われているようなところがある。
一般の職業でも、出来る人には仕事が集中し、忙しいのが普通である。
何でもプロの道は険しく、趣味の方が楽しめる!?
それからこれを書いた頃、男に貢がせたホステスがホストに貢がされると言うこともく聞いた気がする。
そりゃあ他人を癒してばかりもいられないはなあ。
そんなことをすれば自分が他人の重荷を抱え込むことになる。
だから、今度は自分が癒されたくなっても当然かぁ~!?
でも、そうするとホスト達は誰に癒されるのだろう?
そこのところを上手く回さないと、ホスト達に悪い気が溜まりそうな気がする。
なんて、持てる才能に恵まれない私が持てる人達のことを心配しても仕方がないなあ。フフッ。
仕事より趣味に留めて楽しめば
人生少し色付くのかも